「鏑木清方と江戸の風情」 千葉市美術館

千葉市美術館
「鏑木清方と江戸の風情」
9/9~10/19



千葉市美術館で開催中の「鏑木清方と江戸の風情」を見て来ました。

いわゆる美人画の三巨匠の一人としても挙げられる鏑木清方。深い叙情性を帯びた作品は美人画ならぬとも人物の心持ちを巧く表している。好きな方も多いかもしれません。

その清方が理想郷としていたのは江戸の風情です。実際に彼が幼児期を過ごしたのは江戸の名残のある明治の東京でした。ようは清方が制作に際して江戸をどう捉え、何を見て、何を描こうとしていたのか。それを丹念にひも解いていく展示となっています。


「西鶴 五人女のおまん」明治44(1911)年 名都美術館

さて清方と江戸との関係。まずは浮世絵です。13歳で芳年の弟子の水野年方に入門した清方。冒頭には芳年や年方をはじめとした浮世絵が展示されています。

また面白いのは清方が敬愛していたという画人、尾形月耕の「美人花競 菖蒲」です。文字通り菖蒲に美人を取り合わせた作品ですが、少し振り返る姿が情緒的でもある。そう捉えると清方の主に挿絵を中心とした劇的な作風、芳年あたりの系譜を受け継いでいるような気もします。

挿絵画家として独立した後は、明和、天明期の浮世絵に出会い、特に春信に傾倒しました。

木場の川岸を舞台にした「寒月」は展覧会の初出品作。小さな女の子に手を引かれて歩く瞽女の姿。庶民の暮らしを有り体に見つめてもいます。


「三枚続(泉鏡花著)口絵」 明治35(1902)年 鎌倉市鏑木清方記念美術館

「新小説」や「文藝倶楽部」の口絵もまとめて紹介。鮮やかな色遣いによる挿絵群、細部の意匠も凝っています。「文藝倶楽部」14巻の口絵「伽羅」では着物の一部でしょうか。エンボスを利用していました。

ただ清方自身、浮世絵の消化の仕方に関しては絵師によって差があり、例えば北斎、広重、歌麿に関しては、その複製を知る程度に過ぎなかったそうです。(一方で豊春画は自ら所有していました。)また清方による歌麿や春章の模写も出ています。その辺も見どころかもしれません。

中盤がハイライトです。ずらりと並ぶ掛け軸画に屏風絵。清方の取り組んだいわゆる本画です。中でも印象深いのは「露の干ぬ間」。六曲一双の屏風絵、朝顔や秋草の絡む木立の間に立つ和装の女性を描いた作品です。


「露の干ぬ間」(部分) 大正5(1916)年 喜寿会

口に団扇を加えて右手で髪を触る女性。実に香しい。春信の美人画を思わせます。そして背景の植物の描写、空間を意識した木立の配置はもとより、リズミカルな草の曲線美など、どこか琳派的とも言えはしないでしょうか。ちなみに会場では本作とあわせて春信の「三十六歌仙 藤原仲文」も展示。両者を見比べることも出来ます。

本展では浮世絵が50点近く展示されているのもポイントです。清方画と浮世絵との関係。それを追っていく内容でもありました。


「花見幕」 昭和13(1938)年頃 島根県立石見美術館

後半はより具体的に清方の江戸への視点を考えていきます。キーワードは「物語」と「理想郷としての江戸」、そして「理想郷としての明治」の3つ。特に面白いのがラスト、晩年の清方が江戸風情の残る明治を回顧して描いた作品です。

まさにノスタルジアと言っても良いのではないでしょうか。幼少期を明治時代の下町に生きた清方、それを一つ一つ懐かしむかのように描いているのです。

最後にもう一点、清方画における男性の描写。これがまた色っぽい。もちろん美人画の巨匠でありますが、男女の情愛を描くとさらに魅惑的に映る。これほど人の恋心を汲み取って描いた日本画家はほかにいないかもしれません。


「春雪」昭和21(1946)年 サントリー美術館

いわゆる名品展とすると趣きが異なるかもしれません。(鎌倉市鏑木清方記念美術館のコレクションが目立ちます。)また構成が入り組んでいるせいか、ハイライトが中盤に来ているのと、動線が複雑なのが気になりました。ただ清方をまとめて見られるのは事実。彼の愛した江戸の情緒を楽しめる展覧会でもありました。


「朝夕安居」昭和23(1948)年 鎌倉市鏑木清方記念美術館

一部の作品が途中で入れ替わります。

「鏑木清方と江戸の風情」出品リスト(PDF)
前期:9月9日~9月28日
後期:9月29日~10月19日

なお本展は所蔵作品展「七つ星ー近年の収蔵作家たち」と同時開催中です。会場は7階が清方展、そして8階が七つ星展となっています。

七つ星展では近年の新収蔵品を紹介。タイトルのごとく七名の作家の作品を展示しています。

こちらはともかく時代もジャンルもまちまちですが、うち印象深かったのは江戸時代の絵師の岡本秋暉と、銚子に生まれて千葉の景色を版画に表した金子周次でした。特に金子の作品、例えば犬吠埼の灯台を舞台にした海景画などは何とも素朴な味わいがあります。

参考作品を含めれば清方展が150点ほど、それに七つ星展の140点が加わります。いつもながらに「量」でもしっかりと見せる千葉市美術館。観覧にはかなり時間がかかりました。

人気の清方ではありますが、館内には余裕がありました。ゆっくり楽しめます。

「鏑木清方ー逝きし明治のおもかげ/別冊太陽/平凡社」

会期は一ヶ月強と短めです。10月19日まで開催されています。

「鏑木清方と江戸の風情」 千葉市美術館
会期:9月9日(火)~10月19日(日)
休館:10月6日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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