「ガブリエル・オロスコ展」 東京都現代美術館

東京都現代美術館
「ガブリエル・オロスコ展ー内なる複数のサイクル」
1/24-5/10



東京都現代美術館で開催中の「ガブリエル・オロスコ展ー内なる複数のサイクル」を見てきました。

この展覧会に関心を持つ切っ掛けは、今まさにアップしたチラシの図版、中でも上の車のイメージでした。

赤いクラシックカーでしょうか。左右のヘッドライトの間隔が随分と狭い。良く見るとハンドルが中央にあります。一人乗りなのかもしれません。とは言え、このように奇妙な車が世にあるのでしょうか。ひょっとするとミニチュアかもしれない。色々と漠然とした疑問が思い浮かびました。

ようは私自身、オロスコの名を知ったのも、作品を見たのも、この日が初めてだったわけです。

館内の撮影が出来ました。


「La DS カーネリアン」 2013年

結論から述べると実際の車でした。タイトルは「La DS」、車種はシトロエンです。しかしながら単純に車をそのまま展示しているわけではありません。オロスコの手が加わっています。つまり車を「三分割しては真ん中を取り除き、丁寧に貼り合わせた」(解説シートより)。言ってしまえば車の真ん中の部分が切り取られているのです。だからこそ幅が狭い。おそらく本来は4人乗りかもしれませんが、前後2人乗りの車に作り変えられています。


「La DS カーネリアン」 2013年

「オロスコは、路上に打ち捨てられた物や何気ない風景の中から魅力的なかたちを発見したり、それらにほんの少し介入してかたちを変えたりして作品に転換します。」 *オロスコ展WEBサイトより

1962年にメキシコで生まれたアーティスト、ガブリエル・オロスコ。近年ではMoMAやテートなどでも個展を開催。今回のMOTでの展示が日本で初めての個展だそうです。

「介入してかたちを変える」(*上サイト引用より)。それは丸石のシリーズも同様かもしれません。


丸石のシリーズ

木の台に置かれた丸石。一見、自然の石をそのまま重ねたようにも思えますが、実は石に一度、オロスコが幾何学的なパターンを描き、職人に彫らせる。それを再度行います。結果的にその作業を5回ほど繰り返したそうです。


丸石のシリーズ

自然の石へオロスコが介入し、そこに職人の手が加わる。元来の石へ生命が吹き込まれたかのようでもあります。その意味でも既成、あるいは自然のモノを「作品に転換」(*上サイト引用より)、再構築という言葉が相応しいのかもしれません。

卓球台を利用した作品がありました。ずばり「ピン=ポンド・テーブルーゲーム」です。


「ピン=ポンド・テーブルーゲーム」 1998年 金沢21世紀美術館

一面に広がる卓球台、しかしその姿はやはり普通ではありません。ご覧のように2台の卓球台が十字にクロスしています。言わば2ペアでも遊戯可能。そして中央には何と蓮池です。本物の水がはられていました。


「ピン=ポンド・テーブルーゲーム」 1998年 金沢21世紀美術館

参加型ということで、実際にラケットを手にして遊べますが、これがすこぶる難しい。すぐにピンポンが池に落ちてしまうか、遠くへ飛ばそうと意識し過ぎては、台を大きく超えてしまいます。通常の卓球の技術だけではうまくいきません。


「アトミスト(原子論者たち)」 1996年

卓球台の向こうに見えるのが「アトミスト」と題された平面のコラージュです。新聞のスポーツ欄の写真を元にしています。スポーツ選手と無数の円が重なります。またピンポンの球と呼応しているのでしょうか。アトミストというタイトルは古代ギリシャ哲学者の「原子」、すなわちアトムについての議論から取られているそうです。


「ベンチレーター」 1997年

ほかにはオロスコがインド旅行で触発されて制作した「ベンチレーター」や、「サムライツリー」なる円をモチーフとした絵画などもあります。先のシトロエンのイメージからするとまた異なった作品ばかりですが、それもオロスコの制作なり関心の在り処が多方面に渡るゆえのことかもしれません。


「猫とスイカ」 1992年

私としては最初の展示室の写真の旧作が一番魅惑的に思えました。というのもここにはまさしく「何気ない風景の中から魅力的なかたちを発見」(*上サイト引用より)が分かりやすい形であるからです。日常の風景の中に潜んだ意外性のある場面をオロスコが巧みに写真で切り取ります。赤瀬川原平の「路上観察活動」を彷彿させるような面白さがありました。


「島の中の島」 1993年

また一方で、オロスコが手を加えて何らかの事象を起こしているのも興味深いところです。また日常なのかトリックなのか。その辺の境界も曖昧になっています。

シトロエンの印象が強烈ではありますが、美術館では日本初となるオロスコの個展。なかなか全体像を掴むのは難しいのも事実でしたが、少なくともその多様な制作の一端を知ることが出来ました。

東京都現代美術館が3月18日に開館20周年を迎えます。

「3月18日(水)開館20周年記念特別企画のおしらせ」@東京都現代美術館

オロスコ展への提携企画はありませんが、当日は「MOTコレクション」(常設)が無料で見られるほか、20周年の記念ボールペンのプレゼントがあるそうです。

「過去の展覧会」@東京都現代美術館

記憶が定かではありませんが、私が最初にMOTへ行ったのは2002年のルイス・バラガン展のことだと思います。

以来、現在まで8割方の展覧会を見ているつもりですが、その中では横尾忠則、サムフランシス、田中一光、榎倉康二、イサム・ノグチ、大竹伸朗、川俣正、そしてデマンド展などが未だ強く印象に残っています。特にイザム・ノグチやデマンドは私の中でも一期一会となる素晴らしい展覧会でした。


東京都現代美術館内、菅木志雄作品

また近年のテーマ性を高めた常設の活動も目を引きます。さらなる次の10年、20年へ向けて現代美術館がどう展開するのか。これからも足繁く通いながら応援したいです。

「ガブリエル・オロスコ 内なる複数のサイクル/フィルムアート社」

5月10日まで開催されています。

「ガブリエル・オロスコ展ー内なる複数のサイクル」 東京都現代美術館@MOT_art_museum
会期:1月24日(土)~5月10日(日)
休館:月曜日。但し5/4は開館。5/7は休館。
時間:10:00~18:00。*入場は閉場の30分前まで。
料金:一般1100(880)円 、大学生・65歳以上800(640)円、中高生600(480)円、小学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *本展チケットで「MOTコレクション」も観覧可。「菅木志雄展」、「未見の星座展」との2、3展セット券あり。(観覧料一覧
住所:江東区三好4-1-1
交通:東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口より徒歩9分、都営地下鉄大江戸線清澄白河駅A3出口より徒歩13分。
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