「炎の人 式場隆三郎」 市川市文学ミュージアム

市川市文学ミュージアム
「炎の人 式場隆三郎ー医学と芸術のはざまで」
3/14-5/31



市川市文学ミュージアムで開催中の「炎の人 式場隆三郎ー医学と芸術のはざまで」を見てきました。

師に柳宗悦を仰ぎ、自邸の設計を濱田庄司らに依頼。白樺派の文人と関わりながら民芸にも参加します。そして文筆に精を出し、とりわけゴッホを愛してやまなかったという一人の男、式場隆三郎。

本業は精神科医です。明治3年に新潟に生まれ、後に千葉の市川に式場医院を開院。医業の傍ら、芸術とも携わった文化人でもあります。

その式場の主に芸術に関する活動を紹介する展覧会です。

10代の頃から文学に強い関心を持っていたそうです。大正6年、新潟の医学専門学校を卒業した式場は、「医学の中で文学や心理学に関わるのは精神科のほかにない。」として、精神科医としての道を歩み出します。

雑誌「白樺」に触れ、エスペラント語も学んだ式場、著作活動は実に旺盛です。結果的に医学、小説、そして芸術書など、訳書を含めて250冊もの本を残しています。

中でも熱心に取り組んだのがゴッホ研究です。そもそも日本におけるゴッホ受容は「白樺」が大いに果たしていた。同誌では明治43年から大正13年にかけて、ゴッホに関する60点以上の文献や挿絵を紹介したそうです。

それに式場も触発されたのでしょう。ゴッホへの関心は年々高まっていきます。昭和4年にはオランダ、ドイツ、フランスを旅行。ゴッホにまつわる資料を収集しました。

そこで著したのが「ゴッホの生涯と精神病」です。上下巻あわせて1500頁以上もの大著、装丁をかの芹沢けい介が担当しています。また「炎の自画像ゴッホ」や、いわゆる耳切り事件に関する「ヴァン・ゴッホの耳切事件」のほか、ゴッホの手紙の翻訳なども手がけました。「ゴッホのように燃えて燃えて仕事をしていきたい。」とは式場の言葉です。いかに彼がゴッホに魅せられていたかを伺え知れる一文と言えるかもしれません。

式場によるゴッホ顕彰の最たるイベントです。昭和48年には「ゴッホ百年祭」を執り行います。会場は日本橋の丸善。150点の複製画を含む、計750点の資料でゴッホの画業を紹介した展覧会です。会期中には8000名もの人が訪れました。そもそも当時、国内でゴッホの絵画を見る機会はほぼ皆無と言って差し支えありません。ゆえに複製画でも意義があったことでしょう。大変な評判となり、後に展覧会は全国へ巡回することになりました。

民芸との関わりも重要です。式場は柳宗悦の木喰研究のための旅行に同行。芹沢の装丁による「民芸と生活」のほか、柳、式場編の「琉球の文化」などの著作を残します。また柳だけでなく、リーチらを自邸に招いては交流したことでも知られているそうです。展示ではリーチによる「式場隆三郎肖像」画のほか、濱田庄司の「掛分指描花瓶」などの陶芸も紹介されていました。

式場は市川ともゆかりの深い人物でもあります。昭和11年、市内の北西部、国府台の地に精神科の式場医院を設立。さらに戦後、式場は病院の敷地内にバラ園を整備します。いわゆる患者の行動療法のためのものですが、市内でも大いに話題となりました。

実は現在、市川市の花はバラですが、それは元々式場がバラ園を作ったことに由来しているそうです。園内ではローズフェスティバルなるイベントも催されます。さぞ賑わったのでしょう。地元の名士らも集う社交の場でもあったそうです。

昭和32年、式場医院で行われたローズカーニバルの様子を捉えた半ドキュメンタリー映像が展示されていました。タイトルは「バラ娘は馬車に乗って」。市川映像協会による約15分ほどの映像です。

バラ娘、今でいうところのミス・バラのような存在なのでしょうか。白いドレスに身を纏ったバラ娘たちが市役所から馬車に乗って市内をパレード。バラの咲き誇る式場医院内でパーティーを華やかに行います。

また式場は同じく市川の八幡学園に通っていた山下清の才能を見抜き、いわゆる後援者になったことでも知られていますが、今回、山下に関する展示は殆どありません。

と言うのも次回展が山下清展なのです。おそらくはそこで式場と山下清との関係についても触れられるのではないでしょうか。なお式場展のチケットを持参すると、次回山下展で割引が受けられます。

「山下清と、その仲間たちの作品展」@市川市文学ミュージアム 6月13日(土)~8月30日(日)

図録が一部1000円で販売されていました。また会期中、各月一回ずつ、学芸員による展示解説があります。そちらにあわせて出かけても良いかもしれません。

[担当学芸員による展示解説]
3月28日(土)、4月26日(日)、5月24日(日) 各13時30分~(申込不要)


市川市生涯学習センター「メディアパーク市川」

市川市文学ミュージアムは中央図書館のある「メディアパーク市川」の2階、総武線の本八幡駅から徒歩15~20分弱ほどの場所にあります。駅からは少し離れています。

市川に関する文学者らを紹介するとともに、年に数度、本展を含めた企画展示を行う施設です。ただし常設はほぼパネルのみの展示、企画展示室も実のところかなり手狭です。


「市川市文学ミュージアム」受付より常設展示部分

駅からのアクセスは徒歩がメインですが、本八幡駅北口ロータリーから文学ミュージアム横の商業施設、ニッケコルトンプラザ行きのシャトルバスへが往復無料で運行されています。交通事情にもよりますが、バスを利用すると概ねコルトンプラザまで5分ほどです。(そこから文学ミュージアムまでは歩いて5分ほど。)あわせてご利用下さい。

「コルトンバスのご案内」(ニッケコルトンプラザ)


「メディアパーク市川」入口

民芸展などで度々耳にする式場隆三郎、単独で取り上げられることは極めて珍しいのではないでしょうか。狭い展示室とはいえ、資料は200点超。著作のみならず、葉書や写真など盛りだくさん。先にも触れたように民芸に関する品もあります。その意味でも見ごたえのある展示でした。

5月31日まで開催されています。

「炎の人 式場隆三郎ー医学と芸術のはざまで」 市川市文学ミュージアム
会期:3月14日(土)~5月31日(日)
休館:月曜日。但し5月4日は開館。3月31日、4月30日、5月7日、5月29日。
料金:一般300(240)円、65歳以上240円、高校・大学生150(120)円、中学生以下無料。
 *( )内は25名以上の団体料金。
時間:10:00~19:30(平日)、10:00~18:00(土日祝)。最終入場は閉館の30分前まで
住所:千葉県市川市鬼高1-1-4 市川市生涯学習センター2階
交通:JR線・都営新宿線本八幡駅より徒歩15分。京成線鬼越駅より徒歩10分。
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