「ルーヴル美術館展 日常を描く」 国立新美術館

国立新美術館
「ルーヴル美術館展 日常を描くー風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」
2/21~6/1



国立新美術館で開催中の「ルーヴル美術館展 日常を描くー風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」のプレスプレビューに参加してきました。

フランスの誇る世界最大級の美術館ことルーブル美術館。いわゆる絵画をメインとした展覧会が東京で行われるのは、2009年の国立西洋美術館(17世紀ヨーロッパ絵画)以来のことです。

ずばり今回のテーマはタイトルの如く風俗画。17世紀中葉から19世紀中葉の西洋において、「写実的で、逸話的で、見慣れた光景を描く作品」(リリースより)、すなわち風俗画がどのように展開したのか。それを以下の6つのテーマから整理する内容となっています。

プロローグ1:「すでに、古代において…」風俗画の起源
プロローグ2:絵画のジャンル
第1章:「労働と日々」ー商人、働く人々、農民
第2章:日常生活の寓意ー風俗描写を超えて
第3章:雅なる情景ー日常生活における恋愛遊戯
第4章:日常生活における自然ー田園的・牧歌的風景と風俗的情景
第5章:室内の女性ー日常生活における女性
第6章:アトリエの芸術家

さてチラシも公式サイトも相当のフェルメール推し、確かに初来日となる「天文学者」は大きな見どころですが、何もフェルメールの言わば一点豪華主義の展覧会というわけではありません。


クエンティン・マセイス「両替商とその妻」 1514年 油彩/板 ルーブル美術館 絵画部門

まずはクエンティン・マセイスです。作品は「両替商とその妻」。必ずしも画家は有名とは言えないかもしれませんが、絵は実に面白いもの。両替商の夫妻、夫は机上へ無造作に積まれた金貨を手にしてながら天秤で量っています。少し身を乗り出しながら見やるのが妻です。手元の本は祈祷書。にも関わらず、心は既にそこにありません。いわゆる高利貸しへの告発、ないしは人間の虚栄心への寓意を描いたとも言われています。

注目すべきは画中に夫妻以外の人物が描かれていることです。一目では見つからないかもしれません。まず分かりやすいのは手前の鏡、部屋の別の方にあるであろう窓の傍に一人の男がいることを確認出来ます。さらには後方です。書類や本、果物などの並ぶ棚の右手にはドアがある。そこにも何やら忙しげに話す二人の人物が描かれているのです。

いわゆる客でしょうか。私は図版でしか知りませんが、ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻像」を思い出しました。(実際にマセイスは手本にしたそうです。)鏡面やドアによって拡張する絵画空間、まるで謎解きのようでもありました。


マリヌス・ファン・レイメルスウァーレに基づく「徴税吏たち」 16世紀 油彩/板 ルーブル美術館 絵画部門

また同じく硬貨をモチーフに取り込んだレイメルスウァーレ(に基づく)の「徴税吏」しかり、オスターデの「書斎で仕事をする商人」に「魚売りの舞台」、それに一号館での回顧展も懐かしいシャルダンの「買い物帰りの召使い」なども目を引きました。風俗画にはありとあらゆる職業が描かれている。そう捉えても差し支えないかもしれません。


右:ジャンドメニコ・ティエポロ「大道商人」、または「抜歯屋」 1754-1755年頃 油彩、カンヴァス ルーブル美術館 絵画部門
左:ヘリット・ファン・ホントホルスト「抜歯屋」 1627年 油彩、カンヴァス ルーブル美術館 絵画部門


しかしながらその職業は現代と役割が必ずしも同じというわけではありません。ホントホルストの「抜歯屋」、当然ながら歯医者を想像してしまいますが、ここに描かれているのは何とえせ師です。何でも当時は医療行為と見なされず、街角ででたらめに抜歯する者がいたそうです。しかも痛みに耐える患者を見物する観客からスリを働こうとする人物の姿まで描かれています。端的に歯を抜くという行為が示された一枚に、何と不穏なドラマが隠されているのでしょうか。


ル・ナン兄弟「農民の食事」 1642年 油彩/カンヴァス ルーブル美術館 絵画部門

さて日常を描く風俗画、何も主題は労働に限りません。

上の構成にも示されるように、男女の恋愛から女性たちのプライベート、そして芸術家自身の創作活動なども描かれています。また一見、歴史画のようでも、風俗描写の際立つ作品や、先のマセイスの作品と同様、そこに寓意、象徴的な意味を託したものなど、実に多岐に渡ります。

うち私が印象深かったのは女性、第5章における「室内の女性」です。


右:フランソワ・ブーシェ「オダリスク」 1745年 油彩/カンヴァス ルーブル美術館 絵画部門

例えばブーシェの「オダリスク」です。イスラムの後宮の女性を描いたもの、いわゆる東方趣味に基づく作品ですが、ともかくは否応無しに大きく描かれた臀部を見ざるを得ません。ちょうど画面の真ん中です。顔よりも、そして裸体よりも、全てはまず臀部に集中しています。もはや甘い官能性云々を超えたフェティシズムすら感じさせる一枚、女性にも全く恥じらいがありません。一説ではブーシェの妻をモデルとしたとも考えられているそうです。


ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「鏡の前の女」 1515年頃 油彩/カンヴァス ルーブル美術館 絵画部門

ティツィアーノの「鏡の前の女」も充実していました。ブロンドの長い髪を手で束ねては男の方を見やる女性。肩を露にした姿、左手を香水の瓶にのばしています。何やら女性に語りかけようとする男とは如何なる関係なのでしょうか。良く見ると両手で前後に鏡を持っています。前髪と後ろ髪、それを彼女に見せようとしているのかもしれません。

画家が本作を描いた頃、ヴェネツィアでは麗しき女性を描いた美人画が流行していたそうです。もちろんこの女性も美しい。肌は真っ白に輝いています。ただどこか力強くも見えないでしょうか。迫力ある作品でした。

フェルメールの「天文学者」は会場順路半ば、第2章の「日常生活の寓意」のセクションにありました。


ヨハネス・フェルメール「天文学者」 1668年 油彩/カンヴァス ルーブル美術館 絵画部門

いわゆるキャリアの後期、円熟期に制作された一枚、キャンバスに記されたサインの様子から、同じく男性を主役とする「地理学者」と一対を成す作品として描かれたとも言われています。

既に語り尽くされた感もある名作です。改めて一瞬の出来事を人物や事物のみならず、光や空気感までを切り取って描いた画家一流の表現力には大いに感心させられますが、やはり気になるのは、天球儀をはじめとした絵画上の言わば小道具です。

例えば背景にある絵画、何やら薄暗くてよく分かりませんが、これはモーゼの物語が描かれているそうです。そして手前の本は天文学の書、また白い物体は天体の角度を測る器械だとか。書に関しては既にオランダの学者の著作であることが分かっていて、何ページ目を開いているのかまで特定されているそうです。驚きました。

分厚いガウンは日本の上着とも言われています。手前の布地には画家特有の仄かな白いハイライトが書き込まれていますが、その数はかなり少ない。後期の様式を思わせるものがあります。


左:ピーテル・デ・ホーホ「酒を飲む女」 1658年 油彩/カンヴァス ルーブル美術館 絵画部門

なおフェルメールと同時代、デルフトやアムステルダムで活動したホーホの「酒を飲む女」など、17世紀オランダ風俗画がある程度展示されているのも嬉しいところです。


レンブラント・ハンメンスゾーン・ファン・レイン「聖家族、または指物師の家族」 1640年 油彩/板 ルーブル美術館 絵画部門

構成はあくまでもテーマ別ということで、年代や地域毎の変遷を追いにくい面はありますが、ルーブルのコレクションで見る風俗画の面白さ。そもそもこれほどまとめて風俗画を見られる機会は滅多にありません。さすがに充足感はあります。出品は約80点です。(工芸7点含む)予想以上に粒ぞろいという印象を受けました。

さて知名度の高いルーブル美術館展、しかもフェルメールとあらば、人気が出ないはずもありません。

初日から盛況と聞きましたが、以降、かなり早い段階で混雑してくるのではないでしょうか。毎週金曜の夜間開館なども狙い目となりそうです。


「ルーヴル美術館展 日常を描く」会場風景

なお今回の主催の日本テレビとルーブル美術館は、2018年より4年に1度、全5回のルーブル美術館展を開催することで合意したそうです。(本展はそれに先立つ展覧会でもあります。)半ばシリーズ化するルーブル展。今後の展開にも期待出来るのではないでしょうか。

[ルーヴル美術館展 日常を描くー風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄 巡回予定]
京都市美術館:2015年6月16日(火)~9月27日(日)



「ジュニアガイド」が名探偵コナンでした。何故にコナンという気がしないではありませんが、国立新美術館のミニパンフレットなりジュニアガイドはいつもさり気なく出来が良いもの。今回も面白い切り口で案外楽しめます。一度、手にとってみては如何でしょうか。


「ルーヴル美術館展 日常を描く」会場入口

6月1日まで開催されています。

「ルーヴル美術館展 日常を描くー風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄」 国立新美術館@NACT_PR
会期:2月21日(土)~6月1日(月)
休館:火曜日。但し5/5(火)、26(火)は開館。
時間:10:00~18:00
 *毎週金曜日、及び5/23(土)、24(日)、30(土)、31(日)は20時まで開館。
 *4/25(土)は22時まで開館。
料金:一般1600(1400)円、大学生1200(1000)円。高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *3/18(水)~4/6(月)は高校生無料観覧日(要学生証)。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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