都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
ヨハネス・フェルメール(帰属)「聖プラクセディス」 国立西洋美術館
2014年7月、ロンドンのクリスティーズで競売にかけられたヨハネス・フェルメール(帰属)の「聖プラクセディス」。

「フェルメールの油彩画に11億円 ロンドンで競売」(日本経済新聞)
現存するフェルメールの絵画はおおよそ37作品。うち本作を含め2点のみが民間、個人の所蔵です。よってそもそも競売にかけられること自体が極めて稀。オークションも大いに話題となりました。結果的に作品は日本円で約11億円(約624万ポンド)で落札されました。
「フェルメール作?『聖プラクセディス』西洋美術館に常設展示」(産経ニュース)
どうやら落札者は日本人のコレクターだったようです。昨秋に国立西洋美術館が寄託の依頼を受けます。そしてこの春、3月17日より常設展示室での公開が始まりました。
さて本作、美術館が「帰属」と表明しているように、そもそもフェルメールの真筆かどうか議論が分かれています。

フェリーチェ・フィケレッリ「聖プラクセディス」 1640年代 フェルニャーニ・コレクション
元になるのはイタリア人画家のフェリーチェ・フィケレッリ。本作に先立つこと約15年前に描かれた「聖プラクセディス」をフェルメールが模写したと考えられています。
競売時の科学調査では、顔料の成分が、初期のフェルメール作と極めて類似していることが確認されたそうです。それはフランドル絵画に特徴的な顔料のため、オランダで描かれたことはほぼ確実。また署名と年記の解釈から、フェルメールの23歳の時の作品とも言われています。

ヨハネス・フェルメールに帰属「聖プラクセディス」 1655年 国立西洋美術館(寄託)
2点の作品を比較すれば明らかなように、両作は単純なコピーではなく、一部に改変が加えられています。一番分かりやすいのは聖人の手です。フェルメールと考えられる作品には元の絵にはない十字架が握られています。
そもそも本作をフェルメールの真筆と唱えたのは、フェルメール研究の権威の一人であるアーサー・ウィーロックです。ただしウィーロックの説に対しては反論も多く、現在では彼を除いた「多くの美術史研究者」が「フェルメールへの帰属を疑問視」しているそうです。(カッコ内は解説シートより。)
ちなみに本作が日本国内で公開されるのは2000年に大阪で行われた「フェルメールとその時代」展以来のこと。ちなみに私自身はまだ美術に関心を持つ以前のことであり、展覧会そのものを見ていません。
率直なところ素人の私には真筆云々の件は全く分かりません。しかしながら実際に見ると絵自体はすこぶる美しいもの。初期作ということでやはり思い浮かぶのは「ディアナとニンフたち」です。2008年の東京都美術館でのフェルメール展で出品がありました。先の顔料成分の類似も「ディアナとニンフたち」と比較されたそうです。ラピスラズリを用いたという空の深い青と、やや明るいワイン色の衣服のコントラストが際立ちます。また下を向いたプラクセディスの甘美な表情も魅惑的です。
なお3月から国立西洋美術館の常設展示に加わったのは、「聖プラクセディス」を含め、以下の3点の作品です。
「常設展新規展示作品のお知らせ」(国立西洋美術館)
・ヨハネス・フェルメールに帰属「聖プラクセディス」 1655年 油彩/カンヴァス 101.6x82cm(寄託作品)
・フアン・バン・デル・アメン「果物籠と猟鳥のある静物」 1621年頃 油彩/カンヴァス 75.4x144.5cm(2014年度購入)
・ドメニコ・プリーゴ「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」 1520年代 油彩/板 76.8x55.2cm(2014年度寄贈)
「聖プラクセディス」の撮影は寄託作品のために出来ませんが、他2点は撮影が可能でした。

ドメニコ・プリーゴ「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」 1520年代 国立西洋美術館
うち特に惹かれたのはドメニコ・プリーゴの「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」です。16世紀初頭のフィレンツェで活動した画家の一枚、カタリナと推測される女性の肖像画ですが、胸元で透けた水色の衣服がこれまた美しいもの。白い肌にやや赤らんだ頬の質感も富んでいます。

フアン・バン・デル・アメン「果物籠と猟鳥のある静物」 1621年頃 国立西洋美術館
フェルメールといえば全作品を見るために世界各地を「巡礼」するファンも少なくありません。それを考えると、確かに議論あるとはいえ、一部ではフェルメールと考えられる作品を常に上野で気軽に見られるのも、なかなか贅沢、また興味深いことではあります。

国立西洋美術館常設展示室。一番右はカルロ・ドルチの「悲しみの聖母」。「聖プラクセディス」はこのすぐ右の壁に展示されています。
なお西洋美術館では現在、企画展としてグエルチーノ展を開催中です。もちろんグエルチーノ展のチケットでも「聖プラクセディス」を観覧することが出来ます。
「グエルチーノ展」 国立西洋美術館(はろるど)
ヨハネス・フェルメールに帰属する「聖プラクセディス」は国立西洋美術館の常設展示で公開されています。
「グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家」(@guercino2015) 国立西洋美術館
会期:3月3日(火)~5月31日(日)
休館:月曜日。但し3月30日、5月4日、5月18日は開館。
時間:9:30~17:30 (毎週金曜日は20時まで開館)
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。

「フェルメールの油彩画に11億円 ロンドンで競売」(日本経済新聞)
現存するフェルメールの絵画はおおよそ37作品。うち本作を含め2点のみが民間、個人の所蔵です。よってそもそも競売にかけられること自体が極めて稀。オークションも大いに話題となりました。結果的に作品は日本円で約11億円(約624万ポンド)で落札されました。
「フェルメール作?『聖プラクセディス』西洋美術館に常設展示」(産経ニュース)
どうやら落札者は日本人のコレクターだったようです。昨秋に国立西洋美術館が寄託の依頼を受けます。そしてこの春、3月17日より常設展示室での公開が始まりました。
さて本作、美術館が「帰属」と表明しているように、そもそもフェルメールの真筆かどうか議論が分かれています。

フェリーチェ・フィケレッリ「聖プラクセディス」 1640年代 フェルニャーニ・コレクション
元になるのはイタリア人画家のフェリーチェ・フィケレッリ。本作に先立つこと約15年前に描かれた「聖プラクセディス」をフェルメールが模写したと考えられています。
競売時の科学調査では、顔料の成分が、初期のフェルメール作と極めて類似していることが確認されたそうです。それはフランドル絵画に特徴的な顔料のため、オランダで描かれたことはほぼ確実。また署名と年記の解釈から、フェルメールの23歳の時の作品とも言われています。

ヨハネス・フェルメールに帰属「聖プラクセディス」 1655年 国立西洋美術館(寄託)
2点の作品を比較すれば明らかなように、両作は単純なコピーではなく、一部に改変が加えられています。一番分かりやすいのは聖人の手です。フェルメールと考えられる作品には元の絵にはない十字架が握られています。
そもそも本作をフェルメールの真筆と唱えたのは、フェルメール研究の権威の一人であるアーサー・ウィーロックです。ただしウィーロックの説に対しては反論も多く、現在では彼を除いた「多くの美術史研究者」が「フェルメールへの帰属を疑問視」しているそうです。(カッコ内は解説シートより。)
ちなみに本作が日本国内で公開されるのは2000年に大阪で行われた「フェルメールとその時代」展以来のこと。ちなみに私自身はまだ美術に関心を持つ以前のことであり、展覧会そのものを見ていません。
率直なところ素人の私には真筆云々の件は全く分かりません。しかしながら実際に見ると絵自体はすこぶる美しいもの。初期作ということでやはり思い浮かぶのは「ディアナとニンフたち」です。2008年の東京都美術館でのフェルメール展で出品がありました。先の顔料成分の類似も「ディアナとニンフたち」と比較されたそうです。ラピスラズリを用いたという空の深い青と、やや明るいワイン色の衣服のコントラストが際立ちます。また下を向いたプラクセディスの甘美な表情も魅惑的です。
なお3月から国立西洋美術館の常設展示に加わったのは、「聖プラクセディス」を含め、以下の3点の作品です。
「常設展新規展示作品のお知らせ」(国立西洋美術館)
・ヨハネス・フェルメールに帰属「聖プラクセディス」 1655年 油彩/カンヴァス 101.6x82cm(寄託作品)
・フアン・バン・デル・アメン「果物籠と猟鳥のある静物」 1621年頃 油彩/カンヴァス 75.4x144.5cm(2014年度購入)
・ドメニコ・プリーゴ「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」 1520年代 油彩/板 76.8x55.2cm(2014年度寄贈)
「聖プラクセディス」の撮影は寄託作品のために出来ませんが、他2点は撮影が可能でした。

ドメニコ・プリーゴ「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」 1520年代 国立西洋美術館
うち特に惹かれたのはドメニコ・プリーゴの「アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像」です。16世紀初頭のフィレンツェで活動した画家の一枚、カタリナと推測される女性の肖像画ですが、胸元で透けた水色の衣服がこれまた美しいもの。白い肌にやや赤らんだ頬の質感も富んでいます。

フアン・バン・デル・アメン「果物籠と猟鳥のある静物」 1621年頃 国立西洋美術館
フェルメールといえば全作品を見るために世界各地を「巡礼」するファンも少なくありません。それを考えると、確かに議論あるとはいえ、一部ではフェルメールと考えられる作品を常に上野で気軽に見られるのも、なかなか贅沢、また興味深いことではあります。

国立西洋美術館常設展示室。一番右はカルロ・ドルチの「悲しみの聖母」。「聖プラクセディス」はこのすぐ右の壁に展示されています。
なお西洋美術館では現在、企画展としてグエルチーノ展を開催中です。もちろんグエルチーノ展のチケットでも「聖プラクセディス」を観覧することが出来ます。
「グエルチーノ展」 国立西洋美術館(はろるど)
ヨハネス・フェルメールに帰属する「聖プラクセディス」は国立西洋美術館の常設展示で公開されています。
「グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家」(@guercino2015) 国立西洋美術館
会期:3月3日(火)~5月31日(日)
休館:月曜日。但し3月30日、5月4日、5月18日は開館。
時間:9:30~17:30 (毎週金曜日は20時まで開館)
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園7-7
交通:JR線上野駅公園口より徒歩1分。京成線京成上野駅下車徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分。
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