都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「笑う芸術」 茨城県立近代美術館
茨城県立近代美術館
「笑う芸術」
2/21-4/19
茨城県立近代美術館で開催中の「笑う芸術」を見てきました。
振り返ってみれば笑わない日は殆どありませんが、これほど「笑い」が多様で複雑であったとは思いもよりません。
はじまりは「すたすた坊主」です。笹を手にして歩く坊主、裸でさも楽しそうに笑みを浮かべています。白隠の自画像とも言われていますが、思わずもらい笑いしてしまうような作品でもあります。そして若冲の伏見人形に北斎漫画と続く展開です。国芳の「寄せ絵」もありました。江戸絵画で笑いを掴もうとする導入。まずは気軽に楽しめます。
仙がい「鯛釣恵比寿画賛」 江戸時代 出光美術館 *半期展示:2/21~3/20
しかしながら「笑う芸術」展、何も江戸絵画のみに焦点を当てた展覧会というわけではありません。
というのも、以降は日本、西洋の近代美術、そして20世紀から現代美術までをピックアップしているのです。
小川芋銭「肉案」 1917年 茨城県立近代美術館
高らかに、そして底抜けに笑っています。小川芋銭の「肉案」です。何でも中国の故事に由来する一枚、和尚が両手を振り上げて大笑いしています。おそらくは「ワハハ」とでも言い放っていることでしょう。口は大きく開く。笑いに一点の曇りもありません。
小林古径「壺」 1950年 茨城県立近代美術館
一方で古径の「壺」はどうでしょうか。テーブルの上に置かれた大きな壺、鮮やかな彩色にて金魚が描かれています。それを見やるのが和装の女性です。壺に視線をあわせながら、やや口を横にひろげ、あくまでも控え目に笑っています。まさしく上品。何か音を発するわけでもありません。あえて言えば解説シートにもあった「おほほ」なのかもしれません。
さらに鏑木昌弥の「誰でもない私」の笑いも全然異なります。薄いグレー、あるいは黒を背景に浮かび上がるのは一人の人間の顔です。線は緻密ながらも、雰囲気はあくまでも朧げ、言い換えれば幻想的です。必ずしも人間そのものに強い存在感があるとは言えません。
口は確かに開いています。ただし息を深く吸い込むように開く。まさに息をのむとでも言えるかもしれません。何かに怯えているのでしょうか。笑いなのかもしれないし、笑いでないのかもしれない。判別は困難です。ただこれが笑いだとしたら、驚くほどに深みがある。悲しい時に何故か笑ってしまう。ひょっとするとそうした表情を描いているのかもしれません。
こうした笑い。初めにも触れましたが、何と多様で複雑なのでしょうか。豪快な笑いにニヒル、またブラックな笑い。そして何気ない笑いに、ほっこり、また和むような笑い。美術作品を通しても様々な笑いがあることに気がつきます。
ちなみに近代美術で目立つのはご当地の画家、小川芋銭でした。作品は20点ほどです。実際のところ芋銭のミニ特集展と呼んでも差し支えないほど充実しています。芋銭ファンにとっても嬉しい展示でした。
森村泰昌「たぶらかしE」 1987-90年 京都国立近代美術館
され後半はやや様変わりします。現代美術です。引用や見立て、言葉遊びなども笑いの一要素と見定め、さらには笑いの「ひねり」としてマンレイやデュシャンまでを網羅します。福田美蘭や森村泰昌らといった作家も登場しました。
右:山口晃「厩圖」 2004年 滋賀県立近代美術館
左:山口晃「百貨店圖(日本橋)」 1995年 作家蔵
山口晃が4点ほど出ています。作品は有名な「百貨店圖(日本橋)」に「厩圖2004」、そしてアクリルの連作の「絵はこんなに役に立つ」。うちやはり面白いのは「絵はこんなに役に立つ」です。
山口晃「絵はこんなに役に立つ」 2007年 作家蔵
一枚のキャンバスを日常生活に引き付けて使ってみましょう。キャンバスは分解され、例えば骨折の時の副え木と化します。はかなくも飯盒炊飯の薪となったキャンバス枠、さらには食卓でのお盆となり、日めくりカレンダーとなったキャンバスもありました。一瞬、河原温の作品が頭をよぎりました。思わずにやりとしてしまいます。
山口晃「リヒターシステム」 2013年 作家蔵
「リヒターシステム」も出ていました。モーターを動かしてはぶるぶると震える絵画、何か揶揄しているようで、また端的な面白さも持ち合わせています。含みをもった笑い。山口晃ならでの世界に引込まれました。
福田美蘭「大津絵ー雷公」 2014年 作家蔵
ほか靉嘔、フジイフランソワ、浜田知明なども目を引きます。ともすると普段、なかなか「笑い」というキーワードでは見る機会のアーティストも少なくありません。その意味では新鮮味もありました。
最後に木村太陽のインスタレーション、これが笑いというよりも、あっと驚かされるような作品です。ともに触れたり、参加することが可能です。是非、会場で試して下さい。
「笑い成分表」投票パネルコーナー
出口には「笑い成分表」なるパネルがありました。ずばり投票コーナーです。作品の笑い成分を「なるほ度」や「ピリリ度」などに分解、一枚ずつシールを貼って投票することが出来ます。
「伏見人形」立体パネル撮影コーナー
展覧会自体はかなり硬派ですが、ほか「笑いのツボ押し」ガイドシートなど、展覧会を気軽に楽しめる仕掛けも少なくありません。また一部の作品に限り、撮影も出来ました。
茨城県立近代美術館。梅はほぼ終わっていました。
水戸芸術館の山口晃展(5/17まで)とあわせて観覧すると面白いのではないでしょうか。
4月19日まで開催されています。
「笑う芸術」 茨城県立近代美術館
会期:2月21日(土)~4月19日(日)
休館:4月6日(月)、4月13日(月)。*梅祭り期間中(2/20~3/31)は無休。
時間:9:30~17:00 *入館は16:30まで。
料金:一般850(720)円、大学・高校生600(480)円、中学・小学生360(240)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*70歳以上、及び春休み期間を除く土曜日のみ高校生以下無料。
*入館料割引券。
住所:水戸市千波町東久保666-1
交通:JR線水戸駅南口より徒歩20分。水戸駅北口8番のりばから払沢方面、または本郷方面行きのバスに乗車し「文化センター入り口」。徒歩5分。
「笑う芸術」
2/21-4/19
茨城県立近代美術館で開催中の「笑う芸術」を見てきました。
振り返ってみれば笑わない日は殆どありませんが、これほど「笑い」が多様で複雑であったとは思いもよりません。
はじまりは「すたすた坊主」です。笹を手にして歩く坊主、裸でさも楽しそうに笑みを浮かべています。白隠の自画像とも言われていますが、思わずもらい笑いしてしまうような作品でもあります。そして若冲の伏見人形に北斎漫画と続く展開です。国芳の「寄せ絵」もありました。江戸絵画で笑いを掴もうとする導入。まずは気軽に楽しめます。
仙がい「鯛釣恵比寿画賛」 江戸時代 出光美術館 *半期展示:2/21~3/20
しかしながら「笑う芸術」展、何も江戸絵画のみに焦点を当てた展覧会というわけではありません。
というのも、以降は日本、西洋の近代美術、そして20世紀から現代美術までをピックアップしているのです。
小川芋銭「肉案」 1917年 茨城県立近代美術館
高らかに、そして底抜けに笑っています。小川芋銭の「肉案」です。何でも中国の故事に由来する一枚、和尚が両手を振り上げて大笑いしています。おそらくは「ワハハ」とでも言い放っていることでしょう。口は大きく開く。笑いに一点の曇りもありません。
小林古径「壺」 1950年 茨城県立近代美術館
一方で古径の「壺」はどうでしょうか。テーブルの上に置かれた大きな壺、鮮やかな彩色にて金魚が描かれています。それを見やるのが和装の女性です。壺に視線をあわせながら、やや口を横にひろげ、あくまでも控え目に笑っています。まさしく上品。何か音を発するわけでもありません。あえて言えば解説シートにもあった「おほほ」なのかもしれません。
さらに鏑木昌弥の「誰でもない私」の笑いも全然異なります。薄いグレー、あるいは黒を背景に浮かび上がるのは一人の人間の顔です。線は緻密ながらも、雰囲気はあくまでも朧げ、言い換えれば幻想的です。必ずしも人間そのものに強い存在感があるとは言えません。
口は確かに開いています。ただし息を深く吸い込むように開く。まさに息をのむとでも言えるかもしれません。何かに怯えているのでしょうか。笑いなのかもしれないし、笑いでないのかもしれない。判別は困難です。ただこれが笑いだとしたら、驚くほどに深みがある。悲しい時に何故か笑ってしまう。ひょっとするとそうした表情を描いているのかもしれません。
こうした笑い。初めにも触れましたが、何と多様で複雑なのでしょうか。豪快な笑いにニヒル、またブラックな笑い。そして何気ない笑いに、ほっこり、また和むような笑い。美術作品を通しても様々な笑いがあることに気がつきます。
ちなみに近代美術で目立つのはご当地の画家、小川芋銭でした。作品は20点ほどです。実際のところ芋銭のミニ特集展と呼んでも差し支えないほど充実しています。芋銭ファンにとっても嬉しい展示でした。
森村泰昌「たぶらかしE」 1987-90年 京都国立近代美術館
され後半はやや様変わりします。現代美術です。引用や見立て、言葉遊びなども笑いの一要素と見定め、さらには笑いの「ひねり」としてマンレイやデュシャンまでを網羅します。福田美蘭や森村泰昌らといった作家も登場しました。
右:山口晃「厩圖」 2004年 滋賀県立近代美術館
左:山口晃「百貨店圖(日本橋)」 1995年 作家蔵
山口晃が4点ほど出ています。作品は有名な「百貨店圖(日本橋)」に「厩圖2004」、そしてアクリルの連作の「絵はこんなに役に立つ」。うちやはり面白いのは「絵はこんなに役に立つ」です。
山口晃「絵はこんなに役に立つ」 2007年 作家蔵
一枚のキャンバスを日常生活に引き付けて使ってみましょう。キャンバスは分解され、例えば骨折の時の副え木と化します。はかなくも飯盒炊飯の薪となったキャンバス枠、さらには食卓でのお盆となり、日めくりカレンダーとなったキャンバスもありました。一瞬、河原温の作品が頭をよぎりました。思わずにやりとしてしまいます。
山口晃「リヒターシステム」 2013年 作家蔵
「リヒターシステム」も出ていました。モーターを動かしてはぶるぶると震える絵画、何か揶揄しているようで、また端的な面白さも持ち合わせています。含みをもった笑い。山口晃ならでの世界に引込まれました。
福田美蘭「大津絵ー雷公」 2014年 作家蔵
ほか靉嘔、フジイフランソワ、浜田知明なども目を引きます。ともすると普段、なかなか「笑い」というキーワードでは見る機会のアーティストも少なくありません。その意味では新鮮味もありました。
最後に木村太陽のインスタレーション、これが笑いというよりも、あっと驚かされるような作品です。ともに触れたり、参加することが可能です。是非、会場で試して下さい。
「笑い成分表」投票パネルコーナー
出口には「笑い成分表」なるパネルがありました。ずばり投票コーナーです。作品の笑い成分を「なるほ度」や「ピリリ度」などに分解、一枚ずつシールを貼って投票することが出来ます。
「伏見人形」立体パネル撮影コーナー
展覧会自体はかなり硬派ですが、ほか「笑いのツボ押し」ガイドシートなど、展覧会を気軽に楽しめる仕掛けも少なくありません。また一部の作品に限り、撮影も出来ました。
茨城県立近代美術館。梅はほぼ終わっていました。
水戸芸術館の山口晃展(5/17まで)とあわせて観覧すると面白いのではないでしょうか。
4月19日まで開催されています。
「笑う芸術」 茨城県立近代美術館
会期:2月21日(土)~4月19日(日)
休館:4月6日(月)、4月13日(月)。*梅祭り期間中(2/20~3/31)は無休。
時間:9:30~17:00 *入館は16:30まで。
料金:一般850(720)円、大学・高校生600(480)円、中学・小学生360(240)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
*70歳以上、及び春休み期間を除く土曜日のみ高校生以下無料。
*入館料割引券。
住所:水戸市千波町東久保666-1
交通:JR線水戸駅南口より徒歩20分。水戸駅北口8番のりばから払沢方面、または本郷方面行きのバスに乗車し「文化センター入り口」。徒歩5分。
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