「イングリッシュ・ガーデン」 パナソニック汐留ミュージアム

パナソニック汐留ミュージアム
「世界遺産キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々」 
1/16~3/21



パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々」のプレスプレビューに参加してきました。

イギリスはロンドン南西部に位置するキュー王立植物園。18世紀半ばに宮殿併設の庭園として開設されました。以降、拡張に拡張を重ねて、現在の敷地面積は120ヘクタール。新宿御苑の約2倍もの面積を誇ります。2003年にはユネスコの世界遺産にも登録されました。今では多くの人で賑わう世界有数の植物園として知られています。

そのキュー王立植物園は植物学の研究機関でもあるそうです。ゆえに植物画ことボタニカル・アートを22万点も収集。何せキャプテン・クックの太平洋航海に同行したジョゼフ・バンクスが非公式で園長を務めたこともある植物園です。いわゆる黎明期の古い貴重な植物画も多く収められています。


バシリウス・ベスラーの委託による 「オオカンユリ(ユリ科)『アイヒシュテット庭園植物誌』より」 1613年 キュー王立植物園

黎明期の植物画、ではその起源は一体何時にあるのでしょうか。答えはルネサンスの時代。「自然に関する系統立った研究」(キャプションより)が行われます。さらに発展を遂げたのが17~18世紀です。いわゆる科学的な植物画として最古の出版物であるのがバシリウス・ベスラーの「アイヒシュテット庭園植物誌」でした。時は17世紀の初頭。ベスラーは南ドイツの司教邸の植物を観察。詳しく記録します。後に多くの画家が植物誌の制作に参加し、約16年の歳月を経て完成しました。


左:ピーター・ヘンダーソン「ニワシロユリ (R.J.ソーントン編『フローラの神殿』より」 1800年 個人蔵

コレクターの間で「史上最美の一冊」と称されるのがロバート・ジョン・ソーントンの「フローラの神殿」です。最初の出版は1797年。約10年ほどかけて分冊で刊行されました。当時の一流の植物画家を起用しての植物図譜、確かに極めて美しいもの。また背景にも注目です。当時のロマン主義の風潮を受けてか、壮大でダイナミックな風景が広がっています。

「フローラの神殿」の先立つことおおよそ30年前、バンクスがクックとともに太平洋に向けての航海に出発しました。友人の植物学者らとともに植物を収集します。帰国後に直ちに植物画集の出版が計画されますが、資金の欠乏などの理由により中断。結果的に生前発行されることはありませんでした。


右:アレクト社ヒストリカル・エディションズ「オオハマボウ亜種ハスタトゥス(アオイ科) 『バンクス植物図譜』より」 1985年頃 キュー王立植物園

今、我々が目にするバンクス花譜集は1980年代のものです。大英博物館にあったというオリジナルの銅版を用いて出版。100部限定で世に出回ることになりました。


右:ウィリアム・ジャクソン・フッカー「フロックス・ロゼア(ハナシノブ科)」19世紀初頭 キュー王立植物園

キュー王立植物園の正式な初代園長はウィリアム・ジャクソン・フッカー。次期園長となる息子のジョゼフ・ダルトン・フッカーとともに植物園の発展に尽力します。

フッカーは園の拡張。大温室の「パーム・ハウス」を建設します。その長さは100メートル超、幅は30メートルで高さも20メートルに及びます。建設当時は世界最大の鉄とガラスの建造物でした。さらには大英帝国内の園芸植物を展示する博物館などを設けます。「園を教育と娯楽の両方を提供できる施設」(キャプションより)に生まれ変わらせたそうです。


右上:ウォルター・フッド・フィッチ 「トウツバキ(ツバキ科)」 1857年 キュー王立植物園 

またウォルター・フッド・フィッチという植物画家を育てることとにも成功。彼は主要な画家の中でも特に多作で知られる人物です。会場内でも多くの作品が紹介されていました。


左中央下:マリアン・ノース「知恩院の鐘」 1875年頃 キュー王立植物園

思いがけず日本を描いた作品に出会いました。画家の名はマリアン・ノース。旅行家です。北米から南米、南アフリカやインド、ジャワ、そして日本を旅しては植物を写生。とともに旅先の風景を油彩で描きました。このノースが日本にやって来たのは1875年、約1年間ほど滞在したそうです。山門から眺める京都市中や知恩院の鐘などを捉えた作品を残しています。


中央:ウィリアム・モリス「サマードレス イチゴ泥棒柄のテキスタイルによる」 1883年(デザイン) 1920年代(制作) マイケル&マリコ・ホワイトウェイ

さてイングリッシュ・ガーデン展、端的なボタニカル・アート展ではないのもポイントです。と言うのも植物画のほかにも産業デザイナーのクリストファー・ドレッサーやアーツ・アンド・クラフツのウィリアム・モリスの仕事も参照。タイルや磁器に壁紙、さらには家具調度品やテキスタイルなどの展示もあるのです。


左下:小林路子「アミガサタケ(アミガサタケ科)」 2008年頃 キュー王立植物園

さらにラストには20世紀以降の植物画家を紹介。何もキュー王立植物園は過去作だけを収集しているわけではありません。中には21世紀、つい数年前に描かれた作品もあります。


右:ウエッジウッド社、トマス・アレン「審美様式のオイルランプ」 1880年頃 マイケル&マリコ・ホワイトウェイ

草花を描いた美しい絵の数々。端的に見るだけでも楽しめますが、実はイギリスのボタニカル・アートの歴史を体系的に追っています。思いの外に読ませる展示でした。


「イングリッシュ・ガーデン」会場風景

場内はご覧の通り植物園を模した造り。デザインは各地のT-SITEの設計でも知られる「クライン ダイサム アーキテクツ」が手がけたそうです。一部には花の香りに包まれるコーナーもあります。いつもながらの手狭なスペースではありますが、ムードは上々でした。

「イングリッシュ・ガーデンー英国に集う花々/求龍堂」

3月21日まで開催されています。

「世界遺産キュー王立植物園所蔵 イングリッシュ・ガーデン 英国に集う花々」 パナソニック汐留ミュージアム
会期:1月16日(土)~3月21日(月・祝)
休館:毎週水曜日。
時間:10:00~18:00 *入場は17時半まで。
料金:一般1000円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。
 *65歳以上900円、20名以上の団体は各100円引。
 *ホームページ割引あり
住所:港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階
交通:JR線新橋駅銀座口より徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅2番出口より徒歩3分、都営浅草線新橋駅改札より徒歩3分、都営大江戸線汐留駅3・4番出口より徒歩1分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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