「マリー・アントワネット展」 森アーツセンターギャラリー

森アーツセンターギャラリー
「ヴェルサイユ宮殿《監修》 マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」
2016/10/25~2017/2/26



「マリー・アントワネット展の集大成」とのコピーに誇張はありません。森アーツセンターギャラリーで開催中の「マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」を見てきました。

ヴェルサイユ宮殿の監修だからでしょうか。考証、構成ともに綿密です。出展も多数。全200件です。絵画、工芸、装身具ほか、彫像、さらに手紙など、マリー・アントワネットに因んだ、ありとあらゆる資料がフランスからやって来ています。

絵画の大半は肖像画です。マルティン・ファン・マイテンス(子) の「1755年の皇帝一家の肖像」にいたのは、まだ赤ん坊のマリー・アントワネットでした。中央の揺りかごにいるのがアントワネット。たくさんの子どもたちが集っています。アントワネットは神聖ローマ皇帝フランツ1世とマリア=テレジアの11番目の子として生まれました。


フランツ・クサーヴァー・ヴァーゲンシェーン「チェンバロを弾くオーストリア皇女マリー・アントワネット」 1770年以前
ウィーン美術史美術館


幼い頃から音楽の才能を発揮します。師はオペラ改革で知られる古典派の音楽家、グルックでした。フランツ・クサーヴァー・ヴァーゲンシェーンは「チェンバロを弾くオーストリア皇女マリー・アントワネット」にてチェンバロへ向き合うアントワネットを描きました。場所は宮殿の一室です。たくさんの絵画が飾られています。アントワネットは明るい水色のドレスを着ています。譜面に手を添えていました。実に優雅です。どこか得意気にポーズを取っているようにも見えました。

アントワネットは14歳でルイ15世の孫の王太子、後のルイ16世と結婚しました。「王太子の結婚祝いのテーブル飾り」は文字通り、結婚の祝いのための飾りです。王立セーヴル磁器製作所が制作しました。長さは3メートルです。祝宴の夜に行われたヴェルサイユ宮のオペラ劇場の落成式で披露されました。白い素焼きの陶器です。トルコブルーの大理石がはめ込まれています。まさしく豪華の一言です。後に商人に売却。一度、分解されましたが、19世紀末に幾つかのパーツを用いて作り直されました。


王立セーヴル磁器製作所「ルイ=シモン・ボワゾに基づく『王家の祭壇』」 1775年頃
ヴェルサイユ宮殿美術館


夫のルイ16世が即位したのは1775年。時にルイ16世は20歳、アントワネットは19歳でした。その年に作られたのが「ルイ=シモン・ボワゾに基づく王家の祭壇」です。国王夫妻はともに王冠をかぶっています。衣装はフランク風。古いフランスを称揚するためです。表情は朗らかで屈託がありません。自信に満ち溢れています。

肖像で目立つのはエリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブランの作品でした。言わずと知れたアントワネットのお抱えの画家です。王室の信頼は厚く、アントワネットだけでなく王族や家族の肖像画を数多く描きました。


エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン「フランス王妃 マリー・アントワネット」 1785年
ヴェルサイユ宮殿美術館


うち最大級なのが「フランス王妃マリー・アントワネット」でした。高さは2メートル70センチ超。アントワネットがサテンのドレスをこれ見よがしに広げています。堂々たる姿です。手には花を持っていました。なお本作はル・ブラン作とされるものの、王室の模写画家が共同で制作に参加したと考えられています。それでも大変な力作です。出来栄えにはアントワネット自身も満足したのではないでしょうか。


エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ・ル・ブラン「ゴール・ドレスを着たマリー・アントワネット」 1783年頃
ワシントン・ナショナル・ギャラリー


同じくルブランの「ゴール・ドレスを着たマリー・アントワネット」も美しい。ドレスは一転してシンプル。装身具もありません。「女羊飼い風」と呼ばれたそうです。しかしながら当時、下着姿を描かせたとの悪評が広がります。そのためにサロンから運び出されてしまいます。結果的に同じポーズによる新たな肖像画が描かれました。


ルイ・オーギュスト・ブラン、通称ブラン・ド・ヴェルソワ「狩猟をするマリー・アントワネット」 1783年頃
ヴェルサイユ宮殿美術館


アントワネットは乗馬も得意としていました。その様子を表しているのがルイ・オーギュスト・ブランの「狩猟をするマリー・アントワネット」です。舞台は野山。狩猟の一場面です。猟犬を従えながら馬に横乗りしています。軽やかで颯爽と駆けています。アントワネットの側にいる人物は小姓です。王妃の日傘を手にしています。後景には一人の騎士の姿も垣間見えます。ルイ16世と考えられているようです。

王妃に関する装飾品の展示も充実しています。そもそもアントワネット自身、宮殿の装飾に強い関心を持っていました。よって数多くの高級家具などを注文。かなりの金額を注ぎ込みます。それも結果的に国家財政を危機に陥らせる一つの要因となりました。

流行を踏まえて趣味も変化していきます。当初はトルコ趣味と中国趣味、つまりシノワズリーに染まります。ついで新古典趣味にも惹かれていきました。花と真珠のモチーフを特に好んだそうです。

日本の漆器も収集しています。全70点、うち一部が会場で紹介されていました。元は母のマリア=テレジアの死に際し、50点の漆器が遺贈されたことに由来します。その飾り棚の制作をお気に入りの職人、ジャン=アンリ・リズネーに依頼します。愛でて楽しんだのでしょうか。私室で大切に保管していたそうです。


王立セーヴル磁器製作所「豪華な色彩と金彩の」食器セット 1784年
ヴェルサイユ宮殿美術館


ほか工芸ではアントワネットのセーヴル磁器の食器セットも華麗でした。さらに細かな金の装飾の付いた置時計なども艶やかです。アントワネットのゴージャスな生活の一端が伺えました。


「プチ・アルトマン再現展示」(居室)

ハイライトは「プチ・アパルトマン」の再現展示です。場所はベルサイユ宮殿の中央棟の1階です。ルイ16世の叔母、マダム・ソフィーの没後、空室となっていたスペースに、浴室、図書室、居室の3室からなるプライベートなアパルトマンを構えました。もちろん家具も同時に発注。一度、納品されるも、気にいらなかったため、再び新たな家具を注文します。相当に熱が入っています。


「プチ・アルトマン再現展示」(居室)

「王妃の肘掛け椅子」は当時、実際に使われた椅子です。装飾はエトルリア風。流行していた古代趣味を踏まえています。ほかシャンデリア、整理ダンス、寝台も全てアントワネットが作らせたオリジナルでした。(居室のみ撮影が可能です。)

白を基調としたのが浴室です。室内装飾も精巧に再現しています。かの時代の空気を感じられるのではないでしょうか。なお図書室のみ、映像制作やプロジェクションマッピングで知られるNAKEDによるバーチャルリアリティでした。

後半は革命へのプロセスです。アントワネットに浪費家というイメージを定着させた首飾り事件にはじまり、1789年のバスティーユ襲撃やヴェルサイユ行進へと至ります。ルイ16世一家はヴェルサイユを離れ、チュイルリー宮殿へと移住。パリ市民の管理下に置かれました。その後の1791年、ルイ16世一家は逃亡を企てます。しかし失敗。タンプル塔に投獄され、囚われの身と化します。さらに翌年にはチュイルリー宮も襲撃されます。君主政は終わりを告げました。


ウィリアム・ハミルトン「1793年10月16日、死刑に処されるマリー・アントワネット」 1794年
ヴィジル、フランス革命美術館


ラストは処刑、すなわちギロチンです。死刑台へ向かうアントワネットを捉えたのがウィリアム・ハミルトンです。題して「1793年10月16日、死刑に処されるマリー・アントワネット」。白い部屋着を着たアントワネットが後ろ手を縛られています。全てを諦めたのか天を仰いでいました。殺気立つのは群集です。兵士たちが何とか制止しています。まさに最後の瞬間を捉えた一枚です。劇的ではないでしょうか。


アレクサンドル・クシャルスキ「タンプル塔のマリー・アントワネット」
ヴェルサイユ宮殿美術館


アントワネット死後についても言及があります。例えばアレクサンドル・クシャルスキの「タンプル塔のマリー・アントワネット」です。白いヴェールの喪服姿。ルイ16世の死を悼んでいます。温和な表情をしていました。元は未完のパステル画に着想を得ているそうです。その後、一時制作が中断するも、習作を元に再開。クシャルスキの手によって描かれました。この肖像は数多くの模写が残っているそうです。というのも、歴史の揺れ戻し、つまり王政復古後は、アントワネットが君主制の殉教者として崇拝の対象となったからです。イコンのように扱われたのかもしれません。

全12章。森アーツのスペースを細かに区切っています。そのためか全般的に流れが良くなく、人が滞留せざるをえない箇所もありました。作品数を鑑みると、会場が狭かったかもしれません。

場内は大変に盛況でした。ひょっとすると会期後半は入場規制がかかるかもしれません。

会期中のお休みはありません。2017年2月26日まで開催されています。

「ヴェルサイユ宮殿《監修》 マリー・アントワネット展ー美術品が語るフランス王妃の真実」@marie_ntv) 森アーツセンターギャラリー
会期:2016年10月25日(火)~2017年2月26日(日)
休館:会期中無休
時間:10:00~20:00
 *但し火曜日および10月27日(木)は17時まで。
 *入館は閉館時間の30分前まで。
料金:一般1800(1600)円、高校・大学生1200(1000)円、小学・中学生600(400)円。未就学児は無料。
 *( )内は15名以上の団体料金
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅1C出口徒歩5分(コンコースにて直結)。都営地下鉄大江戸線六本木駅3出口徒歩7分。
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