都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankArt Studio NYK
BankArt Studio NYK
「柳幸典 ワンダリング・ポジション」
2016/10/14~2017/1/7
現代美術家の柳幸典が、新旧作を交え、BankArtの空間を最大限に活用した個展を行っています。
「Project Red White and Blue」
冒頭は旧作、「Red White and Blue」のプロジェクトでした。90年代初頭のドローイングが並んでいるほか、パフォーマンスなどが映像で示されています。
「Project Article 9」
川俣正のステージを舞台にした「Article 9」からして鮮烈です。LEDを使ったインスタレーション。床へたくさんのLEDが散乱しています。一体、何個あるのでしょうか。いずれも赤い光で文字を灯しています。
「Project Article 9」
article、すなわち条項ないし個条です。テーマは憲法第9条でした。「永久に」や「陸海空軍」、それに「国際紛争」などの9条の条文が記されています。「誠実に希求し」は文字が逆さになっていました。全ては乱雑に分断されています。憲法が解体されているということなのでしょうか。とは言え、必ずしも柳の意図は明らかではありません。
BankArtは3層構造です。次ぐ会場は2階です。そこでは柳の制作で最も知られる「Ant Farm」のシリーズが展開していました。
「Ant Farm Project」
一面にずらりと並ぶのは世界各国の国旗です。しかしながら素材は布ではありません。砂です。透明なプラスチックボックスに入っています。そして一部のボックスは互いに細いチューブで繋がっていました。
「Ant Farm Project」
国旗に近づいてみれば一目瞭然、所々が割れていることが分かります。原因は蟻です。つまり柳は砂で国旗をデザイン。その後に蟻を放ちます。すると蟻は自由自在、もちろん国旗の存在を意図する間もなく、歩きまわり、穴を掘っては、砂を崩していきます。その結果、国旗の形も変容するわけです。中にはズタズタに引きちぎられているものもありました。
「Ant Farm Project」
柳は蟻を移民に準えているのかもしれません。さらに紙幣にも這わせて引き裂いています。資本主義経済への警鐘の意味もあるのではないでしょうか。
ちなみに柳は一連の「Ant Farm」を1993年のヴェネチア・ビエンナーレに出品。アペルト部門を受賞します。世界で柳の名を一躍有名にしました。
「Hinomaru Project」
日の丸をモチーフとした「Hinomaru」も興味深い。やはり旗に蟻を放っています。また別の日の丸にも目がとまりました。無数の小さな粒が連なります。近づいて驚きました。何と印鑑です。たくさんの印鑑を押しては日の丸に象っています。さらに床では赤い戦車が円を描いていました。様々な形で日の丸を表現しています。
「INUJIMA Project」
3階では近年、柳が精力的に手がけている犬島プロジェクトについても紹介。パネルや模型などが展示されていました。
さて本展、この3階こそがハイライトです。驚くべき作品が待ち構えていました。
「ICARUS CELL」
まずは「ICARUS CELL」です。鉄製の大きな構造物。壁のように遮っているため、行き先が見通せません。開口部に「こちらからお入りください」との案内があります。恐る恐る、足を踏み入れました。
「ICARUS CELL」
入口付近は朱色に光る太陽が映されています。進む先は鏡の迷路です。曲がり角が幾つもあります。文字が刻まれていました。引用は三島由紀夫の随筆、「太陽と鉄」です。通路の先には終始、白い光が見えます。後ろは常に太陽。いくら曲がっても追いかけてきます。光に導かれ、陽に追われ、さらに先へと進みました。
「ICARUS CELL」
ラストの鏡は上に向き、外の光が取り込まれています。「私が飛び翔とうとした罪の懲罰に?」との一節がありました。実は本作、犬島プロジェクトのコンセプトモデルです。ICARUS、つまりギリシア神話のイカルスは、自在に飛ぶ力を得るも、太陽に近づきすぎ、羽を落として墜落してしまいます。科学や人間の傲慢さへの戒めです。そのエピソードを踏まえた作品なのかもしれません。
「ABSOLUTE DUO」
「ICARUS CELL」を過ぎると、何と爆弾が吊り下がっていました。モチーフはリトルボーイ。広島に落とされた原爆です。しかも実寸大です。イカルスの見た太陽を原爆の炸裂した光に置き換えていたとしたら恐ろしい。有無を言わせない存在感があります。
「Project God-Zilla」
さらに凄まじいのが「God-Zilla」です。つまりゴジラ。ただし身体は瓦礫です。無数の角材が積み上がり、中にはベットや布団、それにソファに椅子、はたまた自転車や車までがひっくり返っています。
「Project God-Zilla」
中には「遮」と記された黒い袋もありました。放射性廃棄物でしょうか。とすれば否応なしに3.11の大津波、はたまた福島の原子力災害を連想させます。振り返ればゴジラも放射能、ビキニ環礁の核実験で生まれました。
「Project God-Zilla」
ぎょろりと光るのがゴジラの目です。中は映像でした。よく見ると日本の戦後に起きた事件が映されています。中には三島由紀夫の演説もありました。
「Project God-Zilla」
それにしても目は凶暴。言い換えれば暴力的です。この暗がりに雌伏していたゴジラは、かの事故を踏まえ、また息を吹きかえそうとしているのでしょうか。思わず後ずさりしてしてしまいました。
「Pacific Project」
30年に及ぶ柳の表現の集大成とも呼べる展示ではないでしょうか。作品はもとより、黙示的とも受け止められるメッセージも強烈です。圧巻の一言でした。
柳幸典「ワンダリング・ポジション」会期延長のお知らせ
当初の会期が延長されました。2017年1月7日まで開催されています。おすすめします。
「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankArt Studio NYK
会期:2016年10月14日(金)~2017年1月7日(土)
休館:1月1日(日)。
時間:11:00~19:00
料金:一般1200円、大学・専門学校生・横浜市民/在住900円、高校生・65歳以上600円。
住所:横浜市中区海岸通3-9
交通:横浜みなとみらい線馬車道駅6出口(赤レンガ倉庫口)より徒歩5分。
「柳幸典 ワンダリング・ポジション」
2016/10/14~2017/1/7
現代美術家の柳幸典が、新旧作を交え、BankArtの空間を最大限に活用した個展を行っています。
「Project Red White and Blue」
冒頭は旧作、「Red White and Blue」のプロジェクトでした。90年代初頭のドローイングが並んでいるほか、パフォーマンスなどが映像で示されています。
「Project Article 9」
川俣正のステージを舞台にした「Article 9」からして鮮烈です。LEDを使ったインスタレーション。床へたくさんのLEDが散乱しています。一体、何個あるのでしょうか。いずれも赤い光で文字を灯しています。
「Project Article 9」
article、すなわち条項ないし個条です。テーマは憲法第9条でした。「永久に」や「陸海空軍」、それに「国際紛争」などの9条の条文が記されています。「誠実に希求し」は文字が逆さになっていました。全ては乱雑に分断されています。憲法が解体されているということなのでしょうか。とは言え、必ずしも柳の意図は明らかではありません。
BankArtは3層構造です。次ぐ会場は2階です。そこでは柳の制作で最も知られる「Ant Farm」のシリーズが展開していました。
「Ant Farm Project」
一面にずらりと並ぶのは世界各国の国旗です。しかしながら素材は布ではありません。砂です。透明なプラスチックボックスに入っています。そして一部のボックスは互いに細いチューブで繋がっていました。
「Ant Farm Project」
国旗に近づいてみれば一目瞭然、所々が割れていることが分かります。原因は蟻です。つまり柳は砂で国旗をデザイン。その後に蟻を放ちます。すると蟻は自由自在、もちろん国旗の存在を意図する間もなく、歩きまわり、穴を掘っては、砂を崩していきます。その結果、国旗の形も変容するわけです。中にはズタズタに引きちぎられているものもありました。
「Ant Farm Project」
柳は蟻を移民に準えているのかもしれません。さらに紙幣にも這わせて引き裂いています。資本主義経済への警鐘の意味もあるのではないでしょうか。
ちなみに柳は一連の「Ant Farm」を1993年のヴェネチア・ビエンナーレに出品。アペルト部門を受賞します。世界で柳の名を一躍有名にしました。
「Hinomaru Project」
日の丸をモチーフとした「Hinomaru」も興味深い。やはり旗に蟻を放っています。また別の日の丸にも目がとまりました。無数の小さな粒が連なります。近づいて驚きました。何と印鑑です。たくさんの印鑑を押しては日の丸に象っています。さらに床では赤い戦車が円を描いていました。様々な形で日の丸を表現しています。
「INUJIMA Project」
3階では近年、柳が精力的に手がけている犬島プロジェクトについても紹介。パネルや模型などが展示されていました。
さて本展、この3階こそがハイライトです。驚くべき作品が待ち構えていました。
「ICARUS CELL」
まずは「ICARUS CELL」です。鉄製の大きな構造物。壁のように遮っているため、行き先が見通せません。開口部に「こちらからお入りください」との案内があります。恐る恐る、足を踏み入れました。
「ICARUS CELL」
入口付近は朱色に光る太陽が映されています。進む先は鏡の迷路です。曲がり角が幾つもあります。文字が刻まれていました。引用は三島由紀夫の随筆、「太陽と鉄」です。通路の先には終始、白い光が見えます。後ろは常に太陽。いくら曲がっても追いかけてきます。光に導かれ、陽に追われ、さらに先へと進みました。
「ICARUS CELL」
ラストの鏡は上に向き、外の光が取り込まれています。「私が飛び翔とうとした罪の懲罰に?」との一節がありました。実は本作、犬島プロジェクトのコンセプトモデルです。ICARUS、つまりギリシア神話のイカルスは、自在に飛ぶ力を得るも、太陽に近づきすぎ、羽を落として墜落してしまいます。科学や人間の傲慢さへの戒めです。そのエピソードを踏まえた作品なのかもしれません。
「ABSOLUTE DUO」
「ICARUS CELL」を過ぎると、何と爆弾が吊り下がっていました。モチーフはリトルボーイ。広島に落とされた原爆です。しかも実寸大です。イカルスの見た太陽を原爆の炸裂した光に置き換えていたとしたら恐ろしい。有無を言わせない存在感があります。
「Project God-Zilla」
さらに凄まじいのが「God-Zilla」です。つまりゴジラ。ただし身体は瓦礫です。無数の角材が積み上がり、中にはベットや布団、それにソファに椅子、はたまた自転車や車までがひっくり返っています。
「Project God-Zilla」
中には「遮」と記された黒い袋もありました。放射性廃棄物でしょうか。とすれば否応なしに3.11の大津波、はたまた福島の原子力災害を連想させます。振り返ればゴジラも放射能、ビキニ環礁の核実験で生まれました。
「Project God-Zilla」
ぎょろりと光るのがゴジラの目です。中は映像でした。よく見ると日本の戦後に起きた事件が映されています。中には三島由紀夫の演説もありました。
「Project God-Zilla」
それにしても目は凶暴。言い換えれば暴力的です。この暗がりに雌伏していたゴジラは、かの事故を踏まえ、また息を吹きかえそうとしているのでしょうか。思わず後ずさりしてしてしまいました。
「Pacific Project」
30年に及ぶ柳の表現の集大成とも呼べる展示ではないでしょうか。作品はもとより、黙示的とも受け止められるメッセージも強烈です。圧巻の一言でした。
柳幸典「ワンダリング・ポジション」会期延長のお知らせ
当初の会期が延長されました。2017年1月7日まで開催されています。おすすめします。
「柳幸典 ワンダリング・ポジション」 BankArt Studio NYK
会期:2016年10月14日(金)~2017年1月7日(土)
休館:1月1日(日)。
時間:11:00~19:00
料金:一般1200円、大学・専門学校生・横浜市民/在住900円、高校生・65歳以上600円。
住所:横浜市中区海岸通3-9
交通:横浜みなとみらい線馬車道駅6出口(赤レンガ倉庫口)より徒歩5分。
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