「奈良美智がつくる茂田井武」 ちひろ美術館・東京

ちひろ美術館・東京
「奈良美智がつくる茂田井武 夢の旅人」 
5/19~8/20



現代アーティストの奈良美智もまた、昨年、没後50年を迎えた童画家、茂田井武の絵に惹かれた人物の一人でした。

奈良の目を通して茂田井の魅力を紹介するのが「奈良美智がつくる茂田井武」展です。奈良が今も「新しいと感じる」(解説より引用)作品をピックップ。さらに自身のテキストを添えながら、茂田井の業績を顕彰しています。

茂田井が生まれたのは1908年です。「夢の旅人」とあるように、1930年、20代にして一大写生旅行を敢行します。目的地はヨーロッパです。シベリア鉄道でパリを目指しました。現地では食堂などで働きながら、日常の出来事などを写生に残したそうです。その画帳、「parisの破片」が出ています。時に詩情に満ちた幻想的な作品です。街路灯の光の滲むパリの夜景が藍色に染まっています。郷愁を誘うかのようでした。

ちなみに奈良も初めて海外に出たのが20歳の時だったそうです。ヨーロッパからパキスタンを旅行。茂田井の絵を見ると、その時のことを思い出すと語っています。

茂田井は3年後に帰国し、雑誌の挿絵画家としてデビューしました。この頃に描いたのが「退屈画帳」です。闇夜に包まれた都市の夜景からは何やら不穏な雰囲気も感じられます。のちの戦争を予兆させているのかもしれません。カラスと思しき黒い鳥が空で羽ばたいていました。

第二次世界大戦中は中国の広東へ渡り、兵役の任務に従事しました。そして終戦後に帰国し、子ども向けの雑誌に絵を描きはじめます。子ども時代の記憶を画帳に記したほか、子どもと過ごした時間を描いた「父と子のノート」などを制作しました。

「セロひきのゴーシュ宮沢賢治(著)、茂田井武(イラスト)/福音館書店」

40歳前後から個展も開催し、絵本をいくつか手がけ、童画家として評価されます。しかし徐々に持病が悪化し、闘病生活に入りました。それでも童画の制作はやめなかったそうです。宮沢賢治の童話の「セロひきのゴーシュ」に絵をつけたのは最晩年のことでした。今も茂田井の代表作として人気を集めています。


奈良のガイドによる茂田井の童話世界。独学で自らを切り開いた画家です。そして時に可愛らしく、またはかなくも映る絵本には、確かに「ことばだけでは言い表せないもの」(奈良美智の解説より。)が示されています。心の琴線に触れるとはこのことかもしれません。しばし時間を忘れて見入りました。



同時開催中の「高畑勲がつくるちひろ展」へと続きます。

「高畑勲がつくるちひろ展」 ちひろ美術館・東京

8月20日まで開催されています。

「奈良美智がつくる茂田井武 夢の旅人 / 高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」 ちひろ美術館・東京
会期:5月19日(金)~8月20日(日)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。
時間:10:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(520)円、高校生以下無料。
 *10名以上の団体、65歳以上、および学生証を提示すると700円。
 *ぐるっとパスで無料。
住所:練馬区下石神井4-7-2
交通:西武新宿線上井草駅下車徒歩7分。
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