「FEEL THE Mucha HEART~ミュシャ展」 伊藤忠青山アートスクエア

伊藤忠青山アートスクエア
「FEEL THE Mucha HEART~民衆のための芸術(デザイン)とチェコへの愛~」 
6/2~7/2



アルフォンス・ミュシャのポスター芸術を紹介する展覧会が、外苑前の伊藤忠青山アートスクエアで開催されています。

出展は国内の個人のコレクションです。連作の「四季」にはじまり、図案集の「装飾資料集」、各種商業ポスターのほか、チェコ時代に手がけたポストカードや証書、さらに独立を祝福した「国の目覚め」など、多様な作品を網羅していました。

場内の撮影が出来ました。


アルフォンス・ミュシャ「四季」 1886年

「四季」はミュシャが初めて手がけた装飾パネルです。女性たちをモデルに春夏秋冬の情景を描きました。夏はいかにも涼し気です。水面に素足をつけては淡いピンク色の肌を露出しています。実りの秋は葡萄や菊が空間を飾ります。冬の雪の枝は日本の美術を取り入れたのでしょうか。総じて華やかながらも、どこか哀愁を感じさせるのは、ミュシャならではの表現かもしれません。パステルカラーに染まる色彩感覚も絶妙です。透明感がありました。


アルフォンス・ミュシャ「4つの時の流れ」 1899年

同じく4つの連作の「4つの時の流れ」は1日の時間をテーマにした作品です。ゴシック調のフレームの中で女性たちが時を表しています。朝から夕、夜にかけて暗くなっていました。それに伴う花も変化します。夜はシャクナゲです。女性が肘をついて眠りこけています。足元を衣服で隠した作品が多い中、この連作は全ての素足を見せています。実に艶やかでした。


アルフォンス・ミュシャ「レスリー・カーター」 1908年

一際目立つのは「レスリー・カーター」でした。モデルはアメリカの女優です。大きな花の髪飾りを身につけ、ほぼ正面を見据えて立っています。背景を彩るのは白い百合です。色遣いが独特でした。というのも、全体を青緑色で表しているからです。幾分、「不気味」(解説より)、言い換えれば不健康にも見えます。何故にミュシャは使ったのでしょうか。


アルフォンス・ミュシャ「装飾資料集」 1902年

「装飾資料集」は当時、「装飾デザインの総合辞典」(解説より)と称されたそうです。植物、人物、文字、動物、食器や装飾品などの多様なモチーフを図案化しています。色も様々です。美術を学ぶ人々に重宝されました。


アルフォンス・ミュシャ「ジョブ」 1896年

商品の魅力を伝える商業ポスターもミュシャの得意とするところでした。例えば「ジョブ」は巻きタバコの宣伝用です。また「ルフェーヴル=ユティル」っはビスケット会社のカレンダーとして制作されました。いわゆるミュシャ・スタイルの女性が左手でビスケットを盛った皿を差し出しています。


アルフォンス・ミュシャ「リュション」 1895年

モデルが男性であることから、一時はミュシャ作ではないとされていたそうです。それが「リュション」です。馬に乗った男性がにこやかにポーズをとっています。ピレネー山脈のリゾート地のリュションを宣伝するためのポスターでした。馬の下に描かれた建物は同地の風景を示しているのかもしれません。


アルフォンス・ミュシャ「ツリナーズ・ビターワイン」(部分) 1907年

カルフォルニア・ワインを宣伝する「ツリナーズ・ビターワイン」はアメリカ滞在時代の作品です。白いドレスを着た女性が笑顔を浮かべながら葡萄を絞っていました。ちなみにこのワインはミュシャの友人の科学者が制作し、「胃に良く効く」として知られていたそうです。どのような味がしたのでしょうか。


アルフォンス・ミュシャ「有価証券 パリ フランス」 1920年

さらにフランス企業の有価証券もデザイン。やはりミュシャの友人の社が縁で制作されたそうです。テーマは産業です。農業や化学、商業などを擬人化した女性を描いています。


アルフォンス・ミュシャ「ホイットマン社のチョコレート缶容器」 1900年

ポスター以外ではチョコレート缶の容器や香水瓶も興味深いのではないでしょうか。よほど引き手数多だったのでしょう。ほかにもビスケット缶のラベルなどもデザイン。デザイナーとして旺盛に活動していることがよく分かります。

ラストはチェコでの活動です。ミュシャは1910年、例の「スラヴ叙事詩」の構想実現のためチェコへと戻ります。同地にてポスターを制作したほか、独立を果たした新生チェコスロバキア政府から切手や紙幣のデザインを引き受けました。


アルフォンス・ミュシャ「国の目覚め」 1918年

「国の目覚め」が力作です。手前の少年が足かせが外れているのは、ハプスブルク家からの解放を表しているそうです。後ろには伝説のチェコの最初の女王、リブジェが両手を伸ばして鎮座しています。祝典のための準備をするのか、周辺にもたくさんの人物がいました。小品ではありますが、やはり「スラブ叙事詩」の世界観を思わせてなりません。


アルフォンス・ミュシャ「チェコ音楽の殿堂」 1928年

チェコの音楽家を描いたのが「チェコ音楽の殿堂」でした。チェコは数多くの音楽家を輩出した国です。ヴァイオリンを弾く少女の下に、スメタナやドボルザークなどの名だたる作曲家が座っています。演奏に耳を傾けているのでしょうか。原画は油彩だそうです。かつてのパリ時代の装飾的な雰囲気も感じられます。

さて、ミュシャといって記憶に新しいのは、国立新美術館の「ミュシャ展」です。門外不出の超大作、「スラブ叙事詩」をチェコ国外で初めて一括して展示。驚くべきスケールでした。チェコの歴史を追いつつ、その一大スペクタクルに圧倒されたものでした。


会期中頃から人気も沸騰し、特に終盤にかけては最大で2時間にも及ぶ待ち時間が発生しました。最終的な入場者は60万名を超えました。少なくとも現時点において、今年一番、観客を集めた展覧会でした。


アルフォンス・ミュシャ「パリスの審判」(部分) 1894年

伊藤忠もミュシャ展に協賛していたそうです。その縁もあってか、今回の展示を行っています。



ミュシャ人気も継続中なのかもしれません。いつもはひっそりとしたアートスクエアの会場も、混雑こそしていなかったものの、思いの外に人で賑わっていました。なお会場内にはグッズ販売ブースもありました。ポストカードなども購入出来ます。

「ミュシャのすべて/角川新書」

この内容で観覧は無料です。7月2日まで開催されています。

「FEEL THE Mucha HEART~民衆のための芸術(デザイン)とチェコへの愛~」 伊藤忠青山アートスクエア
会期:6月2日(金)~7月2日(日)
休館:会期中無休。
時間:11:00~19:00
料金:無料。
住所:港区北青山2-3-1 シーアイプラザB1F
交通:東京メトロ銀座線外苑前駅4a出口より徒歩2分。東京メトロ銀座線・半蔵門線・都営大江戸線青山一丁目駅1出口より徒歩5分。
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