「にっぽんの『奇想建築』を歩く」 サライ2017年7月号

サライ最新7月号、「にっぽんの『奇想建築』を歩く」を読んでみました。

「サライ2017年7月号/にっぽんの奇想建築を歩く/小学館」

奇想といってまず思い出すのが、若冲や蕭白、それに蘆雪らの江戸絵画ですが、何も奇想は美術だけに当てはまる概念ではありません。



建築から奇想を見出そうとするのが、サライ7月号、その名も「日本の奇想建築を歩く」でした。建築史家の藤森照信は、奇想建築を「文明の衝突時に誕生する」と述べています。



「国宝救世観音菩薩立像 特別公開」 法隆寺夢殿(はろるど) *この春の特別公開を見てきました。

いくつか実例を見ていきましょう。最も古い形として挙げられるのが法隆寺でした。現存する最古の木造建築でもある金堂の高欄は、それまでの日本建築になかった様式であり、おそらく当時の人々は不可思議に感じたものであろうと指摘しています。

近代の日本で最も激しく文明が衝突したのが幕末明治の時代でした。西洋化のプロセスは、時に日本古来の建築様式と融合し、「擬洋風建築」と呼ばれる奇想建築が生み出されました。

表紙を飾る「旧開智学校」も典型的な擬洋風建築です。ともかく青い塔が青空に映えます。バルコニーには白い雲が浮かんでいました。さらに屋根はエンジェルがのっています。なお建物表面は石張りのように見えますが、実は漆喰でした。そこにも擬洋風の形を見出すことが出来ます。



ほかには山形市郷土館や伊豆の岩科学校なども紹介。写真、記事とも充実しています。ちなみに岩科学校はバルコニーや柱や手すりの装飾が西洋的である一方、玄関上の瓦屋根やなまこ壁に日本の伝統的な様式が見られるそうです。内部には当地の左官の名工、入江長八も腕を振り、鏝絵などを残しました。

「伊豆の長八ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師」 武蔵野市立吉祥寺美術館(はろるど)

この入江長八は、かつて武蔵野市立吉祥寺美術館での回顧展でも紹介されました。岩科学校の位置する松崎には、伊豆の長八美術館もあります。一度、現地を見学したいものです。



奇想建築特集の主役というべきなのが伊東忠太でした。まずすぐに思い浮かぶのが、現在、改装中の大倉集古館です。初めて見た時は、私も独特な佇まいに驚いたものでした。



忠太の建築でも特に知られるのが築地本願寺です。明治9年の竣工。伝統的な寺院建築とインドの仏教建築を合わせた建物は、一目見るだけで脳裏に焼きつくかのような強い印象を与えます。私も初めて立ち入った際は外国にでも来たかのような錯覚に陥りました。



なお現在、築地本願寺は境内整備、インフォメーションセンターなどの建設のため、一部が工事中です。白いフェンスで覆われていました。完成予定は今秋の10月だそうです。

地元の千葉にも忠太の建築があることを初めて知りました。それが市川市の中山法華経寺の聖教殿です。私も早速、見学に行ってきました。



最寄駅は京成線の中山駅です。駅前の参道を北へ進むと大きな門が見えてきます。法華経寺は日蓮宗の大本山です。広い境内を有しています。



日蓮聖人像の安置された祖師堂をはじめ、五重塔や法華堂などは国の重要文化財に指定されています。聖教殿は境内の最奥部でした。祖師堂を抜け、宝殿門を過ぎると、樹木の鬱蒼とした森が現れました。何やらひんやりとしています。その中で忽然と姿を見せるのが聖教殿でした。



一見して感じたのは異様な迫力があるということです。地盤から最上部までは約22メートル。事前に見ていた写真よりもはるかに大きく感じられました。



構造は鉄筋コンクリートです。外装に花崗岩を採用しているそうです。外観は確かにインド風ながらも、正面柱頭の霊獣などは西洋の古典主義の意匠も採られています。鉄扉を堂々と飾るのは法輪でした。

竣工は昭和6年です。国宝「立正安国論」や「観心本尊抄」をはじめとした貴重な寺宝が収められています。それゆえに内部の見学は叶いません。



ここで嬉しいのがサライの誌面です。特別に撮影した内部の写真が掲載されていました。内部は外観とは一変、何と純和風でした。厨子や簞笥も忠太自らが設計しています。ドーム型の格天井も珍しいのではないでしょうか。外も中も確かに奇想でした。

また通常、非公開の本願寺伝道院の内部も撮影を行っています。さらに京都の祇園閣や伊賀の俳聖殿などもピックアップ。かつての阪急梅田駅のコンコースをシャンデリアとともに飾ったレリーフも忠太の設計でした。

奇想建築以外にも見どころがあります。まずは巻頭の藤原新也による「沖ノ島」の特集です。ともかく写真が美しい。自然の姿が神々しくも感じられました。また美術関連では7月5日より上野の森美術館で開催される「石川九楊展」のほか、奈良国立博物館で「源信 地獄・極楽への扉」についての案内もありました。

「サライ2017年7月号/にっぽんの奇想建築を歩く/小学館」

見て、読んで楽しめるサライ7月号の「にっぽんの『奇想建築』を歩く」特集。雑誌片手に奇想建築を見て回るのも面白いのではないでしょうか。



ちなみに来月の8月号は「くらべる日本美術」です。建築、美術ファンにとって嬉しい企画が続きます。こちらも期待したいです。

「にっぽんの『奇想建築』を歩く」 サライ2017年7月号
内容:唐破風にエンジェル、築地に珍獣。こんな建物に誰がした?にっぽんの「奇想建築」を歩く。法隆寺から安土城、日光東照宮そして「伊東忠太」へ。旧開智学校、山形市郷土館、岩科学校ほか。
出版社:小学館
価格:700円(税込)
刊行:2017年6月9日
仕様:156頁
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