「ランス美術館展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館

東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
「フランス絵画の宝庫 ランス美術館展」
4/22~6/25



東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の「フランス絵画の宝庫 ランス美術館展」を見てきました。

藤田嗣治がフランスに帰化し、レオナール・フジタとして洗礼を受けた地こそ、フランス北部の都市、ランスに位置するノートル=ダム大聖堂でした。

この街にフジタは自身の発案で平和の聖母礼拝堂(フジタ礼拝堂)を建築。内部を飾るためのステンドグラスやフレスコ画を制作しました。

フジタ自身はパリ郊外に埋葬されましたが、夫人は遺言により聖母礼拝堂に葬られます。さらに夫人の死後、ランス美術館にはフジタの作品が多数納められました。現在ではヨーロッパでも屈指のフジタコレクションを有しているそうです。

チラシの表紙もフジタ作品です。実のところ展覧会自体も後半はフジタ展と化していました。


レオナール・フジタ「聖ベアトリクス」 1965年

というのも、フジタの油彩やテンペラ画が約15点。さらに聖母礼拝堂のフレスコやステンドグラスのための下絵素描が10点ほどまとめて展示されているからです。加えて礼拝堂内部の様子を写真パネルで紹介しています。また油彩に関しては熊本県立美術館とひろしま美術館からも出展がありました。総出展数70点のうち25点がフジタの作品で占めています。


レオナール・フジタ「十字架のキリスト」 1965年

その下絵素描が思いがけないほどに迫力がありました。例えば「十字架のキリスト」です。磔刑にされたキリストの姿を、フェルトペンや、木炭のほか、擦筆を用いて描いています。線は極めて密で迷いがありません。ゴツゴツした両足や肋骨の浮き出た胸、さらには細い両手などが見事に表現されています。色はなくとも迫真的です。フジタも相当に力を入れて取り組んでいたのではないでしょうか。


レオナール・フジタ「猫」 1963年

壁画下絵でフレスコの「キリストの顔」なども凄みがあります。さらにステンドグラスの下絵の「聖ベアトリクス」も美しい。得意のモチーフである「猫」も目を引きます。漠然とフジタがあることは知っていましたが、まさかこれほど作品が揃っているとは思いませんでした。

さてフジタに先立つ前半部はランス美術館のコレクション展です。バロック、ないしロココに始まり、ロマン派から印象派の絵画がやって来ています。

冒頭の静物画、マールテン・ブーレマ・デ・ストンメの「レモンのある静物」が見事でした。テーブルの上で転がるのはレモンです。ナイフで皮が剥かれています。割れたくるみはヴァニタスを表しています。何よりも写実的なのはグラスでした。白ワインが注がれているのか、僅かに黄色を帯びています。よく見るとグラスの表面に光に輝く窓らしきものが写っていました。室内の景色が反射する姿を表したのかもしれません。グラスを通して絵画の空間が拡張しています。


リエ=ルイ・ペラン=サルブルー「ソフィー夫人(またの名を小さな王妃)の肖像」 1776年

リエ=ルイ・ペラン=サルブルーの「ソフィー夫人(またの名を小さな王妃)の肖像」も魅惑的な一枚でした。モデルはルイ15世の6女でアデライードの妹のリフィーです。水色のドレスを着飾っています。室内の装飾も豪華です。貴族の優美な生活を伝えています。

フジタ以外では最大の目玉と言えるかもしれません。ジャック=ルイ・ダヴィッド(および工房)の有名作、「マラーの死」が展示されていました。


テーマは革命家の暗殺です。右手をだらんと垂らして絶命したのがマラーでした。胸の上あたりを刺されたのでしょうか。生々しい傷跡も残っています。実際のマラーは重い皮膚病に罹っていたそうですが、絵画では白く美しい肌に置き換えられています。死に際しての英雄を讃えた作品です。背景の闇から浮かぶマラーの姿はドラマティックでもありました。

国立西洋美術館での回顧展の記憶も新しいシャセリオーが2点出ていました。うち「バンクォーの亡霊」はシェイクスピアのマクベスを題材にしています。食事の席に着くマクベスの前にバンクォーの亡霊が現れていました。マクベスは杯を取りながらも、驚いたような表情をしています。シャセリオーは劇作そのものではなく、ヴェルディのオペラから場面を引用したそうです。確かに舞台を前にしたような臨場感がありました。


アルフレッド・シスレー「カーディフの停泊地」 1897年

ファンには嬉しい一枚です。シスレーの「カーディフの停泊地」が見逃せません。没する2年前の作品です。ウェールズの首都を訪ねたシスレーは、カーディフの港を俯瞰して描きました。手前に立つのが一本の高木です。暖色を交えているのか、一部はオレンジや黄色に染まっています。木の近くでは海を眺める人影も見えました。眼下に広がるのが大海原です。船が何隻も浮かんでいます。空は一面の晴天です。海とともに白く、そして水色に輝いています。晩年とはいえ筆は素早く、躍動感もあります。光がともかく眩い。思わず深呼吸したくなるほどでした。


ポール・ゴーギャン「バラと彫像」 1889年

ゴーギャンの「バラと彫像」も優れた作品ではないでしょうか。花瓶に飾られたバラの色は様々です。ニュアンスは繊細で、水色や赤の絵具を薄く塗り重ねているようにも見えます。彫像はゴーギャンの自作です。テーブルの面と背後の壁の色の組み合わせも面白い。理知的な構成とも言えるかもしれません。

あまり聞き慣れない画家に興味深い絵画がありました。ヨーゼフ・シマの「ロジェ=ジルベール=ルコント」です。シマはヨゼフ・シーマなどとも表記されるチェコの画家です。パリへ出てシュルレアリストの芸術家と交流しました。一面の闇を背景に人物がシルエット状に表されています。明確に浮かぶのは白い顔のみで、表情はあまり伺えません。身体はほぼ影と呼んでも差し支えないかもしれません。一部は白く、まるで透き通っているようです。幽玄な雰囲気すら感じられました。


カミーユ・ピサロ「オペラ座通り、テアトル・フランセ広場」 1898年

派手さこそありませんが、フジタを中核に、フランス絵画の系譜を良質なコレクションで辿ることが出来ます。館内も比較的空いています。想像以上に楽しめました。

さて東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館は、2020年春の開業に向けて、新たな美術館の建設を進めています。



場所はほぼ現在地。現美術館の入居する損保ジャパン日本興亜本社ビルの敷地内です。ちょうどビルの新宿駅側にあたります。



既存の構造物の解体工事が始まりました。まだ大掛かりな重機は入っていないようでしたが、予定地は白いフェンスで覆われていました。



本格的な着工は今年の8月です。竣工は2019年の9月を予定しています。建物は地上6階、地下1階です。1、2階をカフェとミュージアムショップ、そしてエントランスホール、3〜5階を展示室、6階を事務室として使用するそうです。カフェは新設です。展示室も現美術館より拡張されます。

「新美術館の建設について」:SOMPOホールディングス株式会社

来年以降には建物の姿も見えてくるのではないでしょうか。オープン時には館名の変更も予定されています。今後の動向にも注目したいところです。



6月25日まで開催されています。

「フランス絵画の宝庫 ランス美術館展」 東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
会期:4月22日(土)~6月25日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
料金:一般1300(1100)円、大学・高校生800(650)円、中学生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階
交通:JR線新宿駅西口、東京メトロ丸ノ内線新宿駅・西新宿駅、都営大江戸線新宿西口駅より徒歩5分。
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