都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「早春の川越を歩く」 後編:山崎美術館・旧山崎家別邸
「早春の川越を歩く 前編:川越城本丸御殿・一番街」に続きます。川越の街を散策してきました。
「早春の川越を歩く」 前編:川越城本丸御殿・一番街(はろるど)
蔵の街の大変な賑わいの中、右へ左へと店を渡り歩いていると、殆ど偶然に「美術館」と記された古びた看板を見つけました。間口は、蔵造りの建物を囲む塀の間にぽっかり開いていて、まるで人気がありません。あまりにもひっそりとしていたため、思わず通り過ぎてしまいそうになるほどでした。
それが山崎美術館で、川越の老舗和菓子店の亀屋の4代目であり、明治以降は第八十五国立銀行を設立するなど、経済界でも幅広く活動した、山崎豊の日本画コレクションを公開する施設でした。美術館自体は、山崎豊の生誕150年を記念し、昭和57年に開館しました。
門を潜ると、薄暗く、ひんやりとして、右手には蔵の扉が開いていました。受付は無人でしたが、ベルを鳴らすと、係の方が出て来て下さいました。中は静まり返っていて、実際にほかの観覧客は一人もいませんでした。
展示は基本的に二本立てで、1つは菓子を作る際の型であり、もう1つは近代日本画でした。一部は、土蔵自体が展示室と化していて、内部を見学することも出来ました。一方で日本画は、ガラスケース越しでの鑑賞でした。スペースは一室で、正面に橋本雅邦の大作屏風が広がり、ほかは10点ほどの掛け軸の作品が並んでいました。さほど量の多い展示ではありません。
この橋本雅邦と関わりがあるのが山崎豊でした。というのも、そもそも雅邦は川越藩のお抱え絵師として生まれた郷里の画家で、実際に若い頃は川越に住み、多くの作品を描いていました。その後、雅邦は東京美術学校の日本画の主任教授となり、日本美術院の創立に参加しては、後進の指導に当たるなど、日本画の発展に尽力しました。
こうした雅邦の活動に対し、川越では、川越画宝会なる組織が結成され、愛好家らが参集しては、雅邦作品の頒布を請けました。のちに会は東京へと場を移し、さらに拡大していきますが、山口豊も同会の幹事として積極的に参加しました。結果的に山口豊は、雅邦から譲り受けた作品を大切に保管し、子孫へと伝承させました。そののち、コレクションは美術館へと移管され、一般に公開されるに至りました。
一通り、作品を鑑賞すると、係の方が和菓子を勧めて下さいました。実は山崎美術館では入館者に和菓子のサービスがあり、お茶とともにいただくことが出来ます。追加の料金は一切ありません。半屋外のスペースのため、一番街の喧騒が、時折、耳に飛び込んで来ましたが、一転して静まり返った館内で味わう和菓子は、また格別のものがありました。川越の隠れた休憩スポットと言えるかもしれません。
美術館を出たのちは、同じく山崎家の5代目に当たる、山崎嘉七が隠居所として建てた旧山崎家別邸へと向かいました。美術館からも歩いて数分と、さほど距離はありません。
旧山崎家別邸は、和洋折衷の住宅で、大正14年、建築家の保岡勝也によって建てられました。管理棟を抜けると、車待ち、母屋、庭園、茶室があり、うち母屋の一階を見学することが出来ました。また庭園も中に入ることは叶いませんが、外周路から望むことが可能でした。敷地面積は2270平方メートルと広大です。洋館と和館で構成された母屋の木造は2階建てで、川越を訪れた皇族も宿泊するなど、同地の迎賓館的施設としても利用されてきました。
玄関は洋館に位置していましたが、通常は閉ざされているため、和館の内玄関より中へと入りました。
純和風の数寄屋造りで、廊下の正面に客間と居間が並び、その向こうに広縁があり、庭を望めました。客間の柱は吉野杉で、床の間の床柱に北山杉を用いるなど、建材にもこだわりが感じられました。壁紙は、当時のものがそのまま残されていました。
客間へは障子越しに、明るい日差しが降り注いでいました。窓の外が主庭で、左手に茶室を望めました。
和館で特に印象に深いのは、建物東南にあるサンルームでした。格子のガラス張りのため、戸外の景色が際立って見えました。この日はかなり冷えていましたが、日差しの効果なのか、心なしか暖かく感じました。
洋館には玄関と客室、食堂、それに蔵があり、蔵以外は見学出来ました。また2階には寝室や書斎があるそうですが、非公開のため、見ることは叶いません。
玄関横には2階へ続く階段があり、踊り場付近に、大きなステンドグラスがはめ込まれていました。これは小川三知の「泰山木とブルージェ」なる作品で、鳥や草花を、アール・ヌーヴォー風にデザインしていました。
ソファの並ぶ洋館の客室は、建物内部で最も重厚感があり、窓には階段と同じく、ステンドグラスの装飾が施されていました。窓は上下窓で、天井は格子を組んだ形となっていて、和風的なデザインも盛り込まれていました。実際にも洋館の中で特に重要な部屋で、当時は応接室として使われていたと考えられています。
客室に続くのが食堂で、6人がけのダイニングテーブルが置かれていました。テーブルの大きさからすると、やや手狭なスペースにも思えますが、ここで食事を楽しんだのかもしれません。
庭園は枯山水の方式で、築山もあり、灯篭や手水鉢、そして茶室も備えていました。建物と庭を設計した保岡勝也は、自ら「茶室と茶庭」を出版するほど、茶の湯に深い造詣がありました。また当初の庭は、芝生や温室、また児童遊戯場もあり、家族本位の実用性も兼ね備えていました。現在は、国の登録記念物名勝地に指定されています。
旧山崎家別邸を見終えたのちは、再び一番街から、大正浪漫通りを歩き、川越熊野神社へとお詣りしました。石畳の通りの脇に小石を敷き詰めた「足踏み健康ロード」でも知られていて、開運や縁結びの神さまとして信仰を集めています。そして本川越駅より西武線に乗り、自宅へと帰りました。
話は前後しますが、散策の途中、急な雨に見舞われたため、たまたま居合わせた札の辻の近くの「Banon」で、雨宿りをしました。古い民家を改装したカフェで、アンティーク家具や雑貨、玩具類が所狭しと並ぶ空間は、妙に居心地も良く、一番街付近の賑わいとも無縁で、静かな時間を過ごせました。写真を取り損ねましたが、コーヒーや手作りのケーキも美味でした。
半日弱の行程のため、廻りきれない部分はありましたが、小村雪岱を切っ掛けにした、早春の川越を楽しむことが出来ました。
「山崎美術館」
休館:木曜日(但し祝祭日の場合は開館)。年末年始(12月27日~1月2日)。展示替期間。
時間:9:00~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般500(400)円、大学・高校生350(250)円、中学・小学生200(150)円。
*( )内は10名以上の団体料金。
住所:埼玉県川越市仲町4-13
交通:JR線・東武東上線川越駅下車徒歩20分。または市内バス仲町下車。
「旧山崎家別邸」
休館:第1、3水曜日(但し休日の場合、翌日が休館。)。年末年始(12月29日から1月1日)。臨時休館日。
時間:9:30~18:30(4月~9月)、9:30~17:30(10月~3月
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般100(80)円、大学・高校生50(40)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:埼玉県川越市仲町4-13
交通:西武新宿線本川越駅より徒歩15分。JR線・東武東上線川越駅より徒歩25分。本川越駅、川越駅から東武バス「蔵のまち経由」に乗車し「仲町」下車。徒歩5分。
「早春の川越を歩く」 前編:川越城本丸御殿・一番街(はろるど)
蔵の街の大変な賑わいの中、右へ左へと店を渡り歩いていると、殆ど偶然に「美術館」と記された古びた看板を見つけました。間口は、蔵造りの建物を囲む塀の間にぽっかり開いていて、まるで人気がありません。あまりにもひっそりとしていたため、思わず通り過ぎてしまいそうになるほどでした。
それが山崎美術館で、川越の老舗和菓子店の亀屋の4代目であり、明治以降は第八十五国立銀行を設立するなど、経済界でも幅広く活動した、山崎豊の日本画コレクションを公開する施設でした。美術館自体は、山崎豊の生誕150年を記念し、昭和57年に開館しました。
門を潜ると、薄暗く、ひんやりとして、右手には蔵の扉が開いていました。受付は無人でしたが、ベルを鳴らすと、係の方が出て来て下さいました。中は静まり返っていて、実際にほかの観覧客は一人もいませんでした。
展示は基本的に二本立てで、1つは菓子を作る際の型であり、もう1つは近代日本画でした。一部は、土蔵自体が展示室と化していて、内部を見学することも出来ました。一方で日本画は、ガラスケース越しでの鑑賞でした。スペースは一室で、正面に橋本雅邦の大作屏風が広がり、ほかは10点ほどの掛け軸の作品が並んでいました。さほど量の多い展示ではありません。
この橋本雅邦と関わりがあるのが山崎豊でした。というのも、そもそも雅邦は川越藩のお抱え絵師として生まれた郷里の画家で、実際に若い頃は川越に住み、多くの作品を描いていました。その後、雅邦は東京美術学校の日本画の主任教授となり、日本美術院の創立に参加しては、後進の指導に当たるなど、日本画の発展に尽力しました。
こうした雅邦の活動に対し、川越では、川越画宝会なる組織が結成され、愛好家らが参集しては、雅邦作品の頒布を請けました。のちに会は東京へと場を移し、さらに拡大していきますが、山口豊も同会の幹事として積極的に参加しました。結果的に山口豊は、雅邦から譲り受けた作品を大切に保管し、子孫へと伝承させました。そののち、コレクションは美術館へと移管され、一般に公開されるに至りました。
一通り、作品を鑑賞すると、係の方が和菓子を勧めて下さいました。実は山崎美術館では入館者に和菓子のサービスがあり、お茶とともにいただくことが出来ます。追加の料金は一切ありません。半屋外のスペースのため、一番街の喧騒が、時折、耳に飛び込んで来ましたが、一転して静まり返った館内で味わう和菓子は、また格別のものがありました。川越の隠れた休憩スポットと言えるかもしれません。
美術館を出たのちは、同じく山崎家の5代目に当たる、山崎嘉七が隠居所として建てた旧山崎家別邸へと向かいました。美術館からも歩いて数分と、さほど距離はありません。
旧山崎家別邸は、和洋折衷の住宅で、大正14年、建築家の保岡勝也によって建てられました。管理棟を抜けると、車待ち、母屋、庭園、茶室があり、うち母屋の一階を見学することが出来ました。また庭園も中に入ることは叶いませんが、外周路から望むことが可能でした。敷地面積は2270平方メートルと広大です。洋館と和館で構成された母屋の木造は2階建てで、川越を訪れた皇族も宿泊するなど、同地の迎賓館的施設としても利用されてきました。
玄関は洋館に位置していましたが、通常は閉ざされているため、和館の内玄関より中へと入りました。
純和風の数寄屋造りで、廊下の正面に客間と居間が並び、その向こうに広縁があり、庭を望めました。客間の柱は吉野杉で、床の間の床柱に北山杉を用いるなど、建材にもこだわりが感じられました。壁紙は、当時のものがそのまま残されていました。
客間へは障子越しに、明るい日差しが降り注いでいました。窓の外が主庭で、左手に茶室を望めました。
和館で特に印象に深いのは、建物東南にあるサンルームでした。格子のガラス張りのため、戸外の景色が際立って見えました。この日はかなり冷えていましたが、日差しの効果なのか、心なしか暖かく感じました。
洋館には玄関と客室、食堂、それに蔵があり、蔵以外は見学出来ました。また2階には寝室や書斎があるそうですが、非公開のため、見ることは叶いません。
玄関横には2階へ続く階段があり、踊り場付近に、大きなステンドグラスがはめ込まれていました。これは小川三知の「泰山木とブルージェ」なる作品で、鳥や草花を、アール・ヌーヴォー風にデザインしていました。
ソファの並ぶ洋館の客室は、建物内部で最も重厚感があり、窓には階段と同じく、ステンドグラスの装飾が施されていました。窓は上下窓で、天井は格子を組んだ形となっていて、和風的なデザインも盛り込まれていました。実際にも洋館の中で特に重要な部屋で、当時は応接室として使われていたと考えられています。
客室に続くのが食堂で、6人がけのダイニングテーブルが置かれていました。テーブルの大きさからすると、やや手狭なスペースにも思えますが、ここで食事を楽しんだのかもしれません。
庭園は枯山水の方式で、築山もあり、灯篭や手水鉢、そして茶室も備えていました。建物と庭を設計した保岡勝也は、自ら「茶室と茶庭」を出版するほど、茶の湯に深い造詣がありました。また当初の庭は、芝生や温室、また児童遊戯場もあり、家族本位の実用性も兼ね備えていました。現在は、国の登録記念物名勝地に指定されています。
旧山崎家別邸を見終えたのちは、再び一番街から、大正浪漫通りを歩き、川越熊野神社へとお詣りしました。石畳の通りの脇に小石を敷き詰めた「足踏み健康ロード」でも知られていて、開運や縁結びの神さまとして信仰を集めています。そして本川越駅より西武線に乗り、自宅へと帰りました。
話は前後しますが、散策の途中、急な雨に見舞われたため、たまたま居合わせた札の辻の近くの「Banon」で、雨宿りをしました。古い民家を改装したカフェで、アンティーク家具や雑貨、玩具類が所狭しと並ぶ空間は、妙に居心地も良く、一番街付近の賑わいとも無縁で、静かな時間を過ごせました。写真を取り損ねましたが、コーヒーや手作りのケーキも美味でした。
半日弱の行程のため、廻りきれない部分はありましたが、小村雪岱を切っ掛けにした、早春の川越を楽しむことが出来ました。
「山崎美術館」
休館:木曜日(但し祝祭日の場合は開館)。年末年始(12月27日~1月2日)。展示替期間。
時間:9:00~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般500(400)円、大学・高校生350(250)円、中学・小学生200(150)円。
*( )内は10名以上の団体料金。
住所:埼玉県川越市仲町4-13
交通:JR線・東武東上線川越駅下車徒歩20分。または市内バス仲町下車。
「旧山崎家別邸」
休館:第1、3水曜日(但し休日の場合、翌日が休館。)。年末年始(12月29日から1月1日)。臨時休館日。
時間:9:30~18:30(4月~9月)、9:30~17:30(10月~3月
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般100(80)円、大学・高校生50(40)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:埼玉県川越市仲町4-13
交通:西武新宿線本川越駅より徒歩15分。JR線・東武東上線川越駅より徒歩25分。本川越駅、川越駅から東武バス「蔵のまち経由」に乗車し「仲町」下車。徒歩5分。
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