都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「第21回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」 川崎市岡本太郎美術館
川崎市岡本太郎美術館
「第21回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」
2/16~4/15
毎年恒例、公募の形式で現代美術家の活動を紹介する「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」も、今年で第21回目を迎えるに至りました。
応募総数は全558点で、昨年よりも約60点も増えました。うち26組の作家が入選を果たし、その作品が、川崎市岡本太郎美術館にて公開されています。
市川ヂュン「白い鐘」 特別賞
突然、ゴーンといった音が聞こえてきました。一体、何事かと思い、中を見回すと、目の前に現れたが、まさに鐘でした。その名は市川ヂュンの「白い鐘」で、一般的な寺院などにも見られるように、木製の櫓の中には、おそらく金属製と思しき鐘が吊り下がっていました。さらに実際に撞木にて、鐘を突くことも出来ました。つまり先ほど聞こえた金属音は、観客が鐘を打ち鳴らす音であったわけでした。
市川ヂュン「白い鐘」 特別賞
軽く突くと、思いの外に重厚な音が鳴り響きました。しかし素材に特徴があり、おおよそ鐘に一般的に用いられないアルミ製でした。市川は、何と15000個にも及ぶアルミの空き缶を集めては、溶かし、200キロものアルミを経て、鐘に鋳造しました。そのプロセスは、映像でも紹介されていました。
橋本悠希「拓」
何やら黒々とした、巨大な曼荼羅のような作品が目に飛び込んできました。橋本悠希による「拓」で、おおよそ縦と横で4メートルほどありました。長方形に分割された面を背景に、大きな円が描かれ、手を広げた人の影が見られました。それにしても、モザイク状の支持体しかり、何で作られているのでしょうか。
橋本悠希「拓」
近づいて驚きました。何とモザイクの一枚一枚は、スマートフォンにインクを刷ってつけた和紙でした。さらによく見ると、曼荼羅の隣には、おそらく制作に際して用いられたスマートフォンの原型が並んでいました。その多くは廃棄物で偶然なのか、バリバリに割れていて、損傷していましたが、中には文字や模様を象ったものもありました。何でも両面を彫っては組み合わせ、曼荼羅的なイメージを築き上げたのだそうです。まさかスマホで出来ていたとは想像もつきませんでした。
ichiko Funai「Bande a la plage!」
同じく素材に関して、意外性のある作品と出会いました。それがichiko Funaiの「Bande a la plage!」で、ビキニ姿の女性のいる海辺を捉えたスクリーンの前には、黒々とした衣服のようなものを纏った人形が起立していました。足元にはカラフルなビーチボールや浮き輪、それに時にノイズを放つモニターが置かれていました。それにしても、四方へと広がる黒い物体は、何であるのでしょうか。
ichiko Funai「Bande a la plage!」
これまた目を凝らして驚きました。その正体は、もはや今や懐かしいビデオテープで、モニターの側にはたくさんのVHSテープも積まれていました。作家は、「日常的な浜辺が、違和感という名のビデオテープのゴミに汚染され、認識が当たり前のように変容する。」(解説冊子より)と語っています。まるで浜辺に打ち上げられた海藻のようなビデオテープは、ひたすら絡み合っては、どこか無残な姿を見せていました。
大野修平「planted-15」
床に一本の植物が生えていました。それが大野修平の「planted-15」と題した作品で、高さは約1メートル30センチほどでした。植物は僅かに葉をつけているもの、とても細く、また目立たないためか、うっかりすると見逃してしまうかもしれません。そして何よりも特徴的なのは植物の形状で、ほぼ垂直に曲がり、とても現実では考えにくい角度で屈曲していました。素材には植物とありましたが、何度見ても、どのように制作したのかは分かりませんでした。
細沼凌史「キー・ボルドウォール」 *細沼さんに登っていただきました
細沼凌史は「キー・ボルドウォール」において、ボルダリングのスペースを美術館の中に作り出しました。目の前で展開するのはまさにボルダリングそのもので、会期中の土日を中心に、実際に体験することも可能でした。「誰かが登ってくれることで、作品の意味は成り立ちます」(解説より)としています。
細沼凌史「キー・ボルドウォール」
もちろん単なる一般的なボルダリングではありません。壁に打ち付けられたのは、パソコンのキーボードやマウスで、それを頼りに、頂上を目指す必要がありました。何とも意外な素材ではないでしょうか。
冨安由真「In-between」 特別賞
一枚のドアの向こうに広がるのが、冨安由真の「In-between」でした。中へ入ると狭い部屋があり、いささか古びた椅子や机、それに照明などが置かれていました。椅子の上には布もかかり、籠からは布も散乱し、ライトは書類を照らしていました。まるでつい先程まで人がいたような気配も感じられるかもしれません。さらに奥にはもう1つのドアが半開きになっていましたが、その先に進むことは叶いませんでした。
冨安由真「In-between」 特別賞
中の家具などに触れること出来ませんが、しばらく部屋の中を歩き回りまっていると、とあるアクションが起きました。審査評に「お化け屋敷」(解説より)とありましたが、確かに不気味な雰囲気が漂っていて、閉塞感もあり、そのまま部屋へ閉じ込められるかのようでした。
さいあくななちゃん「芸術はロックンロールだ」 岡本太郎賞
岡本太郎賞を受賞したさいあくななちゃんの「芸術はロックンロールだ」と、岡本敏子賞の弓指寛治の「Oの怨霊」が、ともに凄まじい密度、ないし情報量でした。その空間を埋めつくさんとばかりに広がる絵画、ないし立体作品を前にすると、思わず仰け反ってしまうほどでした。
ユゥキユキ「ユキテラス大御神☆天岩戸伝説」特別賞
古代神話やアニメのキャラクターを取り込んだインスタレーションを展開した、ユゥキユキの「ユキテラス大御神☆天岩戸伝説」も、独自の世界を構築していたのではないでしょうか。全般的に今年のTARO賞は、細かに造り込んでは、スケール感のある作品が多かったかもしれません。
既に受付は終了しましたが、会期途中(3月25日)までは「お気に入り作品を選ぼう」とし、来館者による人気投票も行われました。先日、その結果がWEBサイトで発表され、冨安由真の「In-between」が1位に選ばれました。上位の作家には記念品も贈呈されるそうです。
弓指寛治「Oの怨霊」 岡本敏子賞
館内の撮影も可能です。SNS、ブログなどに自由にアップ出来ます。なおボルダリングについては、動きやすい服装で参加されることをおすすめします。(以降の体験日:3月30、31日、4月6、7、13、14日。13:00~15:00。4月7日のみ12:00~14:00。)
「第21回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」会場風景
4月15日まで開催されています。
「第21回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」 川崎市岡本太郎美術館
会期:2月16日(金)~4月15日(日)
休館:月曜日。3月22日(木)、3月23日(金)。
時間:9:30~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(560)円、大・高生・65歳以上500(400)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*常設展も観覧可。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
「第21回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」
2/16~4/15
毎年恒例、公募の形式で現代美術家の活動を紹介する「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」も、今年で第21回目を迎えるに至りました。
応募総数は全558点で、昨年よりも約60点も増えました。うち26組の作家が入選を果たし、その作品が、川崎市岡本太郎美術館にて公開されています。
市川ヂュン「白い鐘」 特別賞
突然、ゴーンといった音が聞こえてきました。一体、何事かと思い、中を見回すと、目の前に現れたが、まさに鐘でした。その名は市川ヂュンの「白い鐘」で、一般的な寺院などにも見られるように、木製の櫓の中には、おそらく金属製と思しき鐘が吊り下がっていました。さらに実際に撞木にて、鐘を突くことも出来ました。つまり先ほど聞こえた金属音は、観客が鐘を打ち鳴らす音であったわけでした。
市川ヂュン「白い鐘」 特別賞
軽く突くと、思いの外に重厚な音が鳴り響きました。しかし素材に特徴があり、おおよそ鐘に一般的に用いられないアルミ製でした。市川は、何と15000個にも及ぶアルミの空き缶を集めては、溶かし、200キロものアルミを経て、鐘に鋳造しました。そのプロセスは、映像でも紹介されていました。
橋本悠希「拓」
何やら黒々とした、巨大な曼荼羅のような作品が目に飛び込んできました。橋本悠希による「拓」で、おおよそ縦と横で4メートルほどありました。長方形に分割された面を背景に、大きな円が描かれ、手を広げた人の影が見られました。それにしても、モザイク状の支持体しかり、何で作られているのでしょうか。
橋本悠希「拓」
近づいて驚きました。何とモザイクの一枚一枚は、スマートフォンにインクを刷ってつけた和紙でした。さらによく見ると、曼荼羅の隣には、おそらく制作に際して用いられたスマートフォンの原型が並んでいました。その多くは廃棄物で偶然なのか、バリバリに割れていて、損傷していましたが、中には文字や模様を象ったものもありました。何でも両面を彫っては組み合わせ、曼荼羅的なイメージを築き上げたのだそうです。まさかスマホで出来ていたとは想像もつきませんでした。
ichiko Funai「Bande a la plage!」
同じく素材に関して、意外性のある作品と出会いました。それがichiko Funaiの「Bande a la plage!」で、ビキニ姿の女性のいる海辺を捉えたスクリーンの前には、黒々とした衣服のようなものを纏った人形が起立していました。足元にはカラフルなビーチボールや浮き輪、それに時にノイズを放つモニターが置かれていました。それにしても、四方へと広がる黒い物体は、何であるのでしょうか。
ichiko Funai「Bande a la plage!」
これまた目を凝らして驚きました。その正体は、もはや今や懐かしいビデオテープで、モニターの側にはたくさんのVHSテープも積まれていました。作家は、「日常的な浜辺が、違和感という名のビデオテープのゴミに汚染され、認識が当たり前のように変容する。」(解説冊子より)と語っています。まるで浜辺に打ち上げられた海藻のようなビデオテープは、ひたすら絡み合っては、どこか無残な姿を見せていました。
大野修平「planted-15」
床に一本の植物が生えていました。それが大野修平の「planted-15」と題した作品で、高さは約1メートル30センチほどでした。植物は僅かに葉をつけているもの、とても細く、また目立たないためか、うっかりすると見逃してしまうかもしれません。そして何よりも特徴的なのは植物の形状で、ほぼ垂直に曲がり、とても現実では考えにくい角度で屈曲していました。素材には植物とありましたが、何度見ても、どのように制作したのかは分かりませんでした。
細沼凌史「キー・ボルドウォール」 *細沼さんに登っていただきました
細沼凌史は「キー・ボルドウォール」において、ボルダリングのスペースを美術館の中に作り出しました。目の前で展開するのはまさにボルダリングそのもので、会期中の土日を中心に、実際に体験することも可能でした。「誰かが登ってくれることで、作品の意味は成り立ちます」(解説より)としています。
細沼凌史「キー・ボルドウォール」
もちろん単なる一般的なボルダリングではありません。壁に打ち付けられたのは、パソコンのキーボードやマウスで、それを頼りに、頂上を目指す必要がありました。何とも意外な素材ではないでしょうか。
冨安由真「In-between」 特別賞
一枚のドアの向こうに広がるのが、冨安由真の「In-between」でした。中へ入ると狭い部屋があり、いささか古びた椅子や机、それに照明などが置かれていました。椅子の上には布もかかり、籠からは布も散乱し、ライトは書類を照らしていました。まるでつい先程まで人がいたような気配も感じられるかもしれません。さらに奥にはもう1つのドアが半開きになっていましたが、その先に進むことは叶いませんでした。
冨安由真「In-between」 特別賞
中の家具などに触れること出来ませんが、しばらく部屋の中を歩き回りまっていると、とあるアクションが起きました。審査評に「お化け屋敷」(解説より)とありましたが、確かに不気味な雰囲気が漂っていて、閉塞感もあり、そのまま部屋へ閉じ込められるかのようでした。
さいあくななちゃん「芸術はロックンロールだ」 岡本太郎賞
岡本太郎賞を受賞したさいあくななちゃんの「芸術はロックンロールだ」と、岡本敏子賞の弓指寛治の「Oの怨霊」が、ともに凄まじい密度、ないし情報量でした。その空間を埋めつくさんとばかりに広がる絵画、ないし立体作品を前にすると、思わず仰け反ってしまうほどでした。
ユゥキユキ「ユキテラス大御神☆天岩戸伝説」特別賞
古代神話やアニメのキャラクターを取り込んだインスタレーションを展開した、ユゥキユキの「ユキテラス大御神☆天岩戸伝説」も、独自の世界を構築していたのではないでしょうか。全般的に今年のTARO賞は、細かに造り込んでは、スケール感のある作品が多かったかもしれません。
既に受付は終了しましたが、会期途中(3月25日)までは「お気に入り作品を選ぼう」とし、来館者による人気投票も行われました。先日、その結果がWEBサイトで発表され、冨安由真の「In-between」が1位に選ばれました。上位の作家には記念品も贈呈されるそうです。
弓指寛治「Oの怨霊」 岡本敏子賞
館内の撮影も可能です。SNS、ブログなどに自由にアップ出来ます。なおボルダリングについては、動きやすい服装で参加されることをおすすめします。(以降の体験日:3月30、31日、4月6、7、13、14日。13:00~15:00。4月7日のみ12:00~14:00。)
「第21回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」会場風景
4月15日まで開催されています。
「第21回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」 川崎市岡本太郎美術館
会期:2月16日(金)~4月15日(日)
休館:月曜日。3月22日(木)、3月23日(金)。
時間:9:30~17:00
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(560)円、大・高生・65歳以上500(400)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*常設展も観覧可。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )