「寛永の雅」 サントリー美術館

サントリー美術館
「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」 
2/14~4/8



サントリー美術館で開催中の「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」を見てきました。

江戸幕府が確立し、戦乱の世が終わった寛永年間(1624〜44)には、茶人、小堀遠州の茶の湯に代表される、「きれい寂び」と称された文化が花開きました。

そうした寛永文化に着目したが、「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」展で、「みやび」を担った宮廷文化と、新たな美意識を持ち込んだ、遠州、仁清、探幽に関する文物を紹介していました。


仁清の驚くべきモダンな器が待ち構えていました。それが「白釉円孔透鉢」で、一面のミルク色の小ぶりの鉢の表面には、丸い穴がいくつも空いていました。鉢は円というよりも、僅かに角が立っていて、多面体にも思えなくはありません。また効果的なライティングもあってか、穴の生み出す影も極めて美しく、まさに「現代作品に引けを取らない」(解説より)造形を見て取れました。仁清の見事なセンスが発揮されているのではないでしょうか。


「桐鳳凰図屏風」 狩野探幽 江戸時代・17世紀 サントリー美術館
*全期間展示。「おもしろびじゅつワンダーランド2017」開催時撮影。今回の展覧会では撮影は出来ません。


その向こうに開けたのが、サントリー美術館のコレクションで良く知られた、狩野探幽の「桐鳳凰図屏風」でした。鳳凰が左右に2羽ずつ、互いに視線を合わせるかのように配された作品で、その様子から、夫婦を表していると言われています。鳳凰の姿は軽やかで、水辺に広い空間をとった構図にも、余裕が感じられました。一言で表せば、瀟洒と呼べるかもしれません。


「朝儀図屏風」(部分) 土佐光起 江戸時代・17世紀 茶道資料館
*展示期間:2/14〜3/12


寛永文化の中心は京都にありました。特に文化に造詣の深かった後水尾天皇が、絶えていた儀礼や古典の復興に尽力しました。一方で幕府も、秀忠の娘の東福門院の入内などの政策で、朝廷への関与を深め、経済的な援助を与えました。それが結果的に寛永文化をさらに盛んにさせ、いわゆる文化人たちもサロンを結成し、時に身分を超えた交流をしました。

「東福門院入内図屏風」も見どころの1つかもしれません。右下の二条城から左上の御所へと至る行列の様子を描いていて、人物や調度品の細かな描写のほか、群衆らの生き生きした表現など、どの場面を切り取っても弛緩がありませんでした。一体、何名の人物が描かれているのでしょうか。


「源氏物語絵巻」(部分) 住吉具慶 江戸時代・17世紀 MIHO MUSEUM
*展示期間:3/14~4/8


宮廷で特に重要視されたのは和歌で、後水尾天皇も、積極的に和歌をはじめとした古典文学の研究を進めました。当時の歌壇は平明な趣向が求められ、和歌そのものだけでなく、歌仙絵や物語絵にも反映されました。その穏和な作風は、住吉派による伊勢や源氏物語絵巻に見られるかもしれません。

遠州関連にも見逃せない作品が少なくありません。ここで印象に深いのは、光悦の「膳所光悦茶碗」や「ひずみ高麗茶碗」、それに「小井戸茶碗 銘 六地蔵」などで、特にやや小振りで、枇杷色に染まる「小井戸茶碗」は、実に渋みがあり、まさに寛永を象徴し得るような「侘び」を感じることが出来ました。


「色絵花輪違文茶碗」 野々村仁清 江戸時代・17世紀 サントリー美術館
*全期間展示


仁清も右へ左へと優品揃いでした。中でも代表的なのが、「色絵花輪違文茶碗」で、花輪の文様を金彩で包み込み、まさに色絵の仁清ともいうべき優美な意匠を見せていました。

一方で初期の仁清は、かなり落ち着いた作風を見せていて、遠州的な「きれい寂び」を思わせる茶碗も少なくありません。その理由に挙げられるのが、飛騨に生まれ、京都に活動した茶人、金森宗和の存在でした。宗和は仁清が御室窯を開いた際、指導的な立場にあり、おそらく寛文期の京都で好まれた作風を仁清に教えたと考えられています。それゆえの「きれい寂び」なのでしょうか。実のところ、仁清で知られる煌びやかな色絵は、宗和の指導を離れ、江戸や地方の大名の好みによって制作されたものが多いそうです。仁清の作風の変化を知ることも出来ました。


重要文化財「名古屋城上洛殿上段之間襖絵 帝鑑図『高士渡橋』」 狩野探幽 寛永11(1634)年 名古屋城総合事務所
*展示期間:2/14〜3/12


ラストは探幽でした。「三十六詩仙額」(部分)や「瀟湘八景絵巻」、そして「若衆観楓図」のほか、「富士山図」、「源氏物語 賢木・澪標図屏風」など、一定数、まとまって作品が展示されていました。端的に「余白と淡彩を特徴」(解説より)される探幽ですが、特に中国絵画や大和絵風の描法を取り入れるなど、必ずしも一言で作風を括れません。注文主の要請にも応じたのか、幅広い作品を生み出した、探幽の器用な技に見入るものがありました。



「きれい」、「みやび」とも呼ばれる寛永文化に、もう1つ言葉を付け加えるとしたら、「しぶい」かもしれません。一見、目立たない作品であっても、しばらく眺めていると、まさに滋味のある深い味わいが滲み出してきました。お気に入りの作品を見つけるのに、さほど時間はかかりませんでした。

「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」(展示替リスト)

桃山文化と元禄文化の間に挟まれた寛永文化の魅力を、いくつかの視点を交えながら、丹念に掘り起こした展覧会ではなかったでしょうか。計3度の展示替えこそあるものの、作品も粒ぞろいで、見応えも十分でした。



4月8日まで開催されています。おすすめします。

「寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2月14日(水)~4月8日(日)
休館:火曜日。
 *4月13日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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