「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」 サントリー美術館

サントリー美術館
「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」
4/25~7/1



サントリー美術館で開催中の「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」を見てきました。

清王朝の時代、中国ではガラス工芸が飛躍的に発展し、多くのガラス器が製作されては、のちにガレなどの西洋の芸術家にも影響を与えました。

その特徴として、「透明と不透明の狭間で、重厚で卓越した彫琢が際立つ」(解説より)とされています。それでは一体、どのようなガラスの作品が作られたのでしょうか。

一部の展示室の撮影が出来ました。


「紅色宝相華唐草文鉢」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) サントリー美術館

まず透明感があるのが、「紅色宝相華唐草文鉢」で、紅色に染まったガラスの側面に唐草文を浮き彫りし、胴の下部には蓮華文を象っていました。ともかく色味が美しく、光沢感もあり、まるで器自体が赤い光を放っているかのようでした。デコラティブな側面の彫刻も魅力と言えるかもしれません。


「黄色鳳凰文瓶」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) サントリー美術館

一方で、不透明であるのが、「黄色鳳凰文瓶」でした。濃い黄色を帯びた、首の長い一対の瓶で、表面には皇后を象徴するという鳳凰が尾を垂れる様子を表していました。浮き上がる彫刻は、玉細工の技法を応用していて、描線が切り立ち、ラインも明確に際立っていました。実に鮮やかではないでしょうか。


「乳白地多色貼獅子浮文扁壺」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) 東京国立博物館

さらに彫刻が際立つのが、「乳白地多色貼獅子浮文扁壺」で、乳白色ガラスと色の違うガラスを溶着させ、側面に赤や緑色の獅子のモチーフを彫っていました。おそらくは子宝祈願の意味が込められていて、背面には「大清乾隆年製」の銘が刻まれています。この乾隆帝の時代こそ、清朝ガラスが最も栄華を極めた時代でもありました。

そもそも清朝ガラスは、時の皇帝によって生み出されたものでした。1696年、康熙帝は紫禁城内に玻璃廠、すなわちガラス工房を築きました。ガラスの製造の技術はヨーロッパの宣教師が担当し、中国各地より職人が集められました。続く雍正帝の時代には、6箇所に窯が拡大し、多くのガラス器が作られました。

しかしこの時代のガラスには問題がありました。というのも、クリズリングとされるガラスの病気で劣化し、最後は崩壊してしまうからです。よって現在、康熙、雍正帝のガラス器は多く残っていません。「藍色大盤」に目が留まりました。確かにかなり病気が進行しているようで、元にあった藍色の部分は僅かに過ぎず、殆どが石のようにグレーに変化していました。


「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」会場風景

1740年、2人のフランス人宣教師が中国にやって来ると、乾隆帝はガラス製造の任務に当たらせました。彼らは約20年間も北京に滞在し、多様な技術をもたらした上、中国の職人らも競うかのようにガラス器を作りました。マーブル・グラスやエナメル彩なども発展しました。


「雪片地紅被騎馬人物文瓶」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) サントリー美術館

「雪片地紅被騎馬人物文瓶」も精緻な意匠を特徴としていて、細かい気泡のある雪片グラスの素地に、銅赤グラスを被せ、戦う2人の武人を彫り出しました。上部には山水の光景も広がり、下の武人から空間に奥行きを伴って表現されているかのようでした。


「青緑色長頸瓶」 中国・清時代 乾隆年間(1736〜95年) 東京国立博物館

シンプルな「青緑色長頸瓶」も美しいのではないでしょうか。不透明なエメラルドグリーンが素地で、やや乳白色を帯びているようにも思えました。瓶はかなり肉厚で、重厚感もあり、玉のような感触を見せていました。一般的にガラスといえば、繊細な工芸のイメージがあるかもしれませんが、清朝ガラスは造形として力強さがあるのも、特徴の1つと言えるかもしれません。

後半がガレでした。日本や中国のみならず、イスラムなどの美術の様式に関心のあったガレは、清朝ガラスにも興味を覚え、現在のヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で研究したほか、1885年にはベルリンの工芸美術館で300点もの調査を行いました。

ガレ作品と清朝ガラスを比較する展示も興味深いのではないでしょうか。例えばガレのお馴染みの「花器 蜻蛉」の蜻蛉が落ちる姿は、清の「蝶吉祥文鼻煙壺」と共通すると指摘しています。また「花器 蓮」における蓮の彫り方は、清朝ガラスの研究を踏まえているとも言われているそうです。

また清朝ガラスのほかにも、プロローグとして、戦国時代から前漢、後漢時代へと至る、古代中国のガラス類も紹介されていました。中国におけるガラスの起源は極めて古く、おおよそ紀元前5世紀から紀元前3世紀頃にはじまったとされています。同心円状の模様が広がる小さなトンボ珠のほか、精緻な細工のなされた「玉琉璃象嵌帯鉤」などに惹かれました。

ラストは「清朝ガラスの小宇宙」と題し、嗅ぎタバコを入れる鼻煙壺が並んでいました。いずれも手のひらに収まるほどに小さく、色も様々で、壺の表面には花鳥などの細かな装飾が施されていました。


「鼻煙壺」各種 中国・清時代

アメリカからヨーロッパを経て中国へ伝来したたばこは、清朝内でも流行し、宮廷内のガラス工房で数多くの鼻煙壺が作られました。実用品でありながら、コレクションとしての対象でもあり、贅を凝らしたものも少なくありません。その可憐な造形美にも魅せられました。


「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」会場風景

定評のあるサントリー美術館の立体展示です。いつもながらに照明も効果的で、ガラス器もより一層映えているように見えました。


7月1日まで開催されています。おすすめします。

「ガレも愛した-清朝皇帝のガラス」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:4月25日(水)~7月1日(日)
休館:火曜日。
 *5月1日、6月26日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
 *金・土および4月29日(日・祝)、5月2日(水)、3日(木・祝)は20時まで開館。
 *5月26日(土)は六本木アートナイトのため24時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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