「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」 森美術館

森美術館
「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」
4/25~9/17



日本の建築を9つの特質から読み解く展覧会が、六本木の森美術館で開催されています。

それが「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」で、約400件を超える建築資料、模型を提示し、古代から現代までに至る日本の建築の「遺伝子を考察」(解説より)していました。


「ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ」

最初のテーマは「可能性としての木造」で、日本の建築を特徴付ける、木材、木造文化について紹介していました。いきなり目の前に現れたのが、「ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ」で、同博覧会のために北川原温が作り上げた、立体木格子を再現していました。


「ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ」

木組は大変な量感で、隙間から奥を覗くことこそ出来るものの、天井まで連なり、もはや行方を阻むかのようでした。なお同博で日本館は、展示デザイン部門における金賞を受賞しました。日本の食文化を紹介する展示も話題を集め、現地では長蛇の列も生まれたそうです。



木造のセクションで目立つのは、神社や寺院の木組みの模型でした。中でも古代の出雲大社本殿や平等院鳳凰堂の組物、さらに東大寺南大門が目を引くのではないでしょうか。また現代でも必ずしも実現した建築のみが紹介されているわけではなく、メタボリズムの思想から生まれた理想都市、磯崎新の「空中都市 渋谷計画」などの模型も展示されていました。上空に住居を連ねた構造は実にダイナミックで、まるで大きな鳥が羽を広げているようにも見えました。

体感的な展示があるのも特徴の1つです。例えば谷口吉生の「鈴木大拙館」で、単に模型を展示するだけでなく、ゲートの間口を鈴木大拙館と同様に切り込み、建築を擬似的に体験出来るように工夫されていました。

さすがに有名建築を集めただけあり、私自身も実際に見学して、印象に残った建物も登場していました。それがブルーノ・タウトによる熱海の「旧日向家熱海別邸地下室」で、数年前に隣接する隈研吾の「水/ガラス」と合わせて見に行きました。海を望む崖地の上にあり、傾斜を利用した地下室は、洋室や床に天井、さらには電球を用いた照明など、随所が個性的で、竹細工をはじめとした細部の凝った意匠も興味深いものがありました。

ブルーノ・タウト「熱海の家」、隈研吾「水/ガラス」(はろるど)

さてハイライトとも言えるのが、千利休の作と伝えられ、現存する国内最古の茶室である「待庵」の実寸大再現展示ではないでしょうか。


「待庵」再現展示

再現を手がけたのは、埼玉県行田市にあるものつくり大学で、建築学科を中心とした学生と教職員により、今年2月から手作業で制作されました。限りなく本物に近づけるためか、自然の素材を利用し、400年以上前の工法も取り入れられ、300本使われた和釘も全て1から作られました。


「待庵」再現展示

にじり口より「待庵」の入ることも可能でした。内部の質感、特に古色を帯びた壁などが、実に見事に再現されていて、外部から見るよりも臨場感がありました。なお茶室は2畳ほどのため、一度に入ることの出来る人数に限りがあり、混雑時は待機列が発生します。ご注意下さい。


「住居(丹下健三自邸)」

丹下健三の「自邸」の模型もスケール感がありました。殆ど住宅建築を残さなかった丹下の初期の作品で、既に失われたものの、小田原の宮大工が中心となり、 3分の1スケールで再現されました。


「住居(丹下健三自邸)」

その木組み模型も実に精巧で、内部の様子も細かに見ることが出来ました。和風建築ながらも、ピロティに支えられた箱のような構造は、やはりコルビュジエのサヴォワ邸を連想させる面があるかもしれません。この「自邸」に見られるような、内と外を仕切らない「連なる空間」も、日本建築の特質の1つに挙げられていました。


「ブックラウンジ」

また丹下健三や剣持勇らの設計した家具を並べた「ブックラウンジ」では、実際の家具に座ったり、本を閲覧することも可能でした。思い思いに腰掛けては、座り心地などを確認している方の姿なども見受けられました。

「建築の日本展」には美術館や博物館建築も少なくありません。樂吉左衞門の創案による「佐川美術館 樂吉左衞門館」をはじめ、あまりにも有名な谷口吉生の「東京国立博物館 法隆寺宝物館」、そして現在の京都市美術館に当たる前田健二郎の「大礼記念京都美術館」、さらには西沢立衛の「豊島美術館」や、 近年建築されて話題を呼んだ杉本博司+榊田倫之の「小田原文化財団 江之浦測候所」なども目を引きました。

ラストは建築から日本の自然観を見る「共生する自然」でした。ここでは安藤忠雄の「水の教会」などの現代の建築とともに、古くから自然と半ば一体化した「投入堂」や、世界遺産としても知られる広島の「嚴島神社」の例が挙げられていました。


齋藤誠一+ライゾマティクス・アーキテクチャ「パワー・オブ・スケール」

ほかにも、齋藤誠一+ライゾマティクス・アーキテクチャによるメディア・インスタレーション、「パワー・オブ・スケール」も見どころかもしれません。スピード感のある3D映像にて、国内の建築が次々と映され、そのスケールを体感的に味わうことが出来ました。


齋藤誠一+ライゾマティクス・アーキテクチャ「パワー・オブ・スケール」

ともかくテーマも多岐にわたり、模型、資料とも膨大です。ここで紹介した内容はごく一部に過ぎません。観覧に際しては時間に余裕をもってお出かけ下さい。

会場内、特に若い方で予想以上に賑わっていました。約5ヶ月間にも及ぶロングランの展覧会ですが、ひょっとすると後半はかなり混み合うかもしれません。


本展は5つの箇所のみ撮影が出来ます。*「パワー・オブ・スケール」は1分以内の動画撮影も可。



会期中のお休みはありません。9月17日まで開催されています。

「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」 森美術館@mori_art_museum
会期:4月25日(水)~9月17日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~22:00
 *但し火曜日は17時で閉館。
 *「六本木アートナイト2018」開催に伴い、5月26日(土)は翌朝6時まで開館延長。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1800円、学生(高校・大学生)1200円、子供(4歳~中校生)600円、65歳以上1500円。
住所:港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
交通:東京メトロ日比谷線六本木駅より地下コンコースにて直結。都営大江戸線六本木駅より徒歩10分。都営地下鉄大江戸線麻布十番駅より徒歩10分。

注)写真はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。
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