「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」 山種美術館

山種美術館
「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」 
5/12~7/8



山種美術館で開催中の「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」を見てきました。

江戸時代、私淑により継承された琳派は、近現代の画家やアーティストにも多様な影響を与えました。

その1人が、昭和を代表するグラフィック・デザイナー、田中一光でした。一光は「琳派は日本のかたちの原型」(解説より)と述べ、琳派の要素を援用したポスターを次々と発表しました。

冒頭からして一光の「JAPAN」で、宗達が携わったとされる「平家納経 願文」の見返しの鹿図を用いて制作しました。その隣に、「平家納経」を大正期に写した田中親美の模本があり、見比べることも出来ました。確かに背を丸めた鹿の構図から同じで、一光は模様を円形にし、目をひし形にするなどのアレンジを加えていました。ともかく目立つ図像で、一目見て、頭に焼きつくような強いビジュアルと言えるかもしれません。


俵屋宗達(絵)、本阿弥光悦(書)「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」 17世紀(江戸時代) 山種美術館

続くのが、俵屋宗達、本阿弥光悦、尾形光琳、酒井抱一、鈴木其一、神坂雪佳へと至った、琳派の絵師の作品でした。鹿が軽やかにステップを踏む「鹿下絵新古今和歌集和歌巻断簡」(俵屋宗達絵、本阿弥光悦書)や、墨のぼかしを巧みに活かした宗達の「烏図」などは、特に魅惑的な作品ではないでしょうか。


伝俵屋宗達「槙楓図」 17世紀(江戸時代) 山種美術館

伝宗達による「槙楓図」が、近年に修復されたのち、初めて公開されました。湾曲する槙と、直立する槙を前後に配し、楓や秋草を表した屏風で、極端に屈曲したような樹木の表現は、どこかデザイン的とも呼べるかもしれません。


伝俵屋宗達「槙楓図」(部分) 17世紀(江戸時代) 山種美術館

しかし細部に目をこらすと、槙の葉や秋草は精緻に描かれていて、植物を丹念に観察したゆえの描写にも思えました。なお、既に知られるように、本作とほぼ同寸で、同じ構図をとる作品を、のちに光琳が描いていて、琳派の継承、ないし変奏を表す作品としても知られています。


酒井抱一「秋草鶉図」 19世紀(江戸時代) 山種美術館

酒井抱一の作品が充実していました。まず目を引くのが、目映いばかりの金地へ秋草を可憐に配した「秋草鶉図」で、草の合間には、中国絵画風の鶉が見え隠れしていました。黒い月は意図的に表されたとされていて、照明の効果か、少し屈んで、下から見上げるように鑑賞すると、金地がより際立っているように見えました。また、十二ヶ月花鳥図と呼ばれるシリーズのうちの「菊小禽図」と「飛雪白鷺図」も美しく、後者では上下に白鷺を配し、互いに視線をあわせるかのように向き合っていました。


鈴木其一「四季花鳥図」(部分) 19世紀(江戸時代) 山種美術館

其一の優品も見逃せません。やはり目立っていたのは、濃厚な色彩により四季の草花を描いた「四季花鳥図」で、下部には水も流れ、鳥の姿もありました。また「牡丹図」も色彩美に溢れた一枚で、赤やピンク、それに白い牡丹の花を、花弁の1枚1枚から丁寧に描いていました。葉も細かに色を塗り分けていて、写実性が高く、博物学的な視点も伺えるかもしれません。

神坂雪佳の「蓬莱山・竹梅図」も面白い作品でした。中央に蓬莱山を配し、左右に梅と竹を表した三幅対の軸画で、梅は下から幹を伸ばしては花をつけ、一方で竹は上の三分の一のみに描き、下から見上げるような構図を用いていました。ちょうど蓬莱山を中心に、梅と竹が対になっていると言えるかもしれません。ほかにも雪佳作で人気の高い「百々世草」も、一部分が開いていました。

後半が近代でした。荒木十畝、菱田春草、小林古径、奥村弩級、福田平八郎、速水御舟、加山又造ら、琳派に触発された日本画家の作品が並んでいました。作品数もはじめの琳派とほぼ同数でした。

ここで重要なのは、構図やモチーフ、またトリミングなどの琳派的な特質を、近代日本画に当てはめて検証していることでした。例えばぼんやりと月が写る中、鴨が右下へ飛ぶ古径の「夜鴨」における鴨の様態は、光琳の「飛鴨図」を参照していて、古径の本画と光琳の図版を見比べることも出来ました。さらに、安田靫彦の「うさぎ」の白うさぎも、宗達の「兎桔梗図」を参照していました。


速水御舟「翠苔緑芝」(右隻) 1928(昭和3)年 山種美術館

速水御舟の「翠苔緑芝」が目立っていました。琳派的な造形を意識した屏風で、枇杷の木や紫陽花などが茂る中、うさぎや黒い猫がくつろぐような姿を描いていました。余白の金を大胆に取り込んだ構成で、ひび割れした紫陽花の花や芝生などに、琳派云々を超えた御舟のオリジナルな表現を見ることが出来ました。

加山又造の「華扇屏風」も華やかな屏風で、多様に変化した銀箔の中、燕子花や紅白梅などの四季の花を描いた扇面を散らしていました。実に装飾的ながらも、さも大海原を扇面が流れるかのようで、躍動感も感じられました。

ラストが再び田中一光でした。「田中一光グラフィック植物園#1」では、光琳の得意とした燕子花のアヤメ科の花を単純化して表しました。また「Toru Takemitsu: Music Today 1973-92」では、光琳かるたの水流の模様を引用し、紅葉を音楽を表すような記号へと置き換えていました。

琳派の影響を現代にまで追う展覧会といえば、2015年、MOA美術館で「燕子花と紅白梅 光琳アート 光琳と現代美術」が開催されました。その際は、光琳を起点に、春草、雪佳、栖鳳、御舟、又造らの近代画家を参照しつつ、杉本博司や会田誠などの現代美術までを交え、琳派の諸相を幅広く検討していました。


今回の「琳派」展はMOAの時ほど時代を下りません。しかし近代日本画を引用しつつ、田中一光にフォーカスした切り口は実に明快でした。充実した内容ではないでしょうか。



初日に観覧して来ました。さすがに混雑こそしていなかったものの、館内はなかなかの盛況でした。



なおカフェ椿でお馴染みのオリジナル和菓子は、今回全てリニューアルされたものだそうです。いつもながらに美味しく頂戴しました。

伝俵屋宗達の「槙楓図」のみ撮影が出来ます。7月8日まで開催されています。

「特別展 琳派 俵屋宗達から田中一光へ」 山種美術館@yamatanemuseum
会期:5月12日(土)~7月8日(日)
休館:月曜日。
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生900(800)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *きもの割引:きもので来館すると団体割引料金を適用。
 *リピーター割:使用済み有料入場券を提示すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。渋谷駅東口より都バス学03番「日赤医療センター前」行きに乗車、「東4丁目」下車、徒歩2分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )