「名作誕生ーつながる日本美術」(後期展示) 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館
「特別展 名作誕生ーつながる日本美術」(後期展示)
4/13~5/27



東京国立博物館で開催中の「名作誕生ーつながる日本美術」も、残すところあと1週間を切りました。

会期は全部で6期あり、特に3期から4期にかけての前後半で、相当の作品が入れ替わりました。

さて、一般的に展示替えといえば、作品同士が単純に替わることを意味するかもしれませが、「名作誕生」については、必ずしも全てが当てはまりません。


「扇面散貼付図屏風」 俵屋宗達筆 江戸時代・17世紀 出光美術館 *展示期間:5月15日(火)~5月27日(日)

とするのも、12つのテーマこそ同一ながらも、その中の「つながり」が異なっている場合があるからです。つまり構成自体が同じではありませんでした。

一例が「雪舟と中国」(テーマ4)で、前期の「和と漢をつなぐ」から「風景をつなぐ」に替わり、「本場の水墨をつなぐ」においても、出展作品が増え、より内容が充実しました。


国宝「天橋立図」(部分) 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀 京都国立博物館 *後期展示

その「風景をつなぐ」では、雪舟の特に知られた「天橋立図」が登場しました。日本三景の1つである天橋立を上空から鳥瞰した作品で、雪舟が最晩年に当地を訪ねて描いたとされています。海岸線や山々の光景は緻密に表され、リアルな描写にも映りますが、実際には土地の物語を取り込んだ、架空の風景でもあるそうです。中国の西湖のイメージを重ねたとも指摘されています。

雪舟が北京と寧波の間を往復し、先の西湖などにも遊んで表したのが、「唐土勝景図巻」でした。長大な画巻には山々、そして楼閣、さらには広い水辺に浮かぶ舟などを、「天橋立図」よりも柔らかな筆触で表していました。大変に俯瞰的で、実景をスケッチしているものの、絵図も参照していて、雪舟の視覚体験を「投影した」(解説より)作品と呼べるかもしれません。


「倣夏珪山水図」 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀 山口県立美術館(寄託) *後期展示

84年ぶりに発見された「倣夏珪山水図」も後期からの出展でした。力強い描線を特徴としていて、特に岩肌を象った鋭く太い線が目を引きました。隣には伝夏珪の「山水図」があり、目の前で見比べることが出来ましたが、墨を散らすような表現は瑞々しくもあり、作風は似ていませんでした。雪舟は夏珪に倣いながらも、あくまでも独自の画風を確立していたようです。

「本場の水墨をつなぐ」では、雪舟の「四季山水図」が2点加わりました。1つはブリヂストン美術館所蔵の4幅で、もう1つは東京国立博物館の2幅、春と夏の場面でした。さらにここで目を引いたのが、明時代の画家、李在による「山水図」の1幅で、前景の樹木から霞を越えて、空へと大きく迫り出す岩山の光景を表していました。川の橋には人の姿も見えるものの、ともかく切り立つ山に迫力がありました。自然の険しさ、もしくは厳しさも感じられるかもしれません。


重要文化財「蔦細道図屏風」(左隻) 伝俵屋宗達筆・烏丸光広賛 江戸時代・17世紀 京都・相国寺 *後期展示

「伊勢物語」(テーマ7)もいくつかの作品が入れ替わりました。うち後期の目玉ともいえるのが、伝宗達の「蔦細道図屏風」で、烏丸光広が賛を記し、物語の宇都山の主題を、あえて人物を排して、場面を表す留守模様の発想で描きました。緑青の土面と金地、さらにまた異なる金による細道の色彩感覚はもとより、右と左が連続しては、無限の空間をつなぐような構図からして極めて斬新で、絵師の類まれなる才能を思わせてなりません。

この同じ宇都山を表した、深江芦舟の同名の「蔦細道図屏風」もあわせて展示されていました。いわゆる留守模様ではないもののの、たらしこみなどの表現を宗達に倣っていて、丸みを帯びた山々の描写も目を引きました。


「山水をつなぐ」(テーマ9)も大きな変化がありました。前期の松林に変わり、三保松原を描いた、伝雪舟、山雪、蕭白の3作品をあわせ見ていました。

その中でも特に目立っていたのが、蕭白の「富士三保松原図屏風」で、左隻に山頂が4つに割れた富士山を、右隻に三保の松原の広がる海の景色を表していました。筆の動きは極めて自由で、富士山にたらしこみを用いていたと思えば、松原の木々は墨を素早く動かし、また一部には散らしては、巧みに濃淡を表現していました。また細かなさざ波の広がる海面には僅かに青みもあり、松原の向こうには七色に染まる虹もかかっていました。その雄大な姿は実景を超えていて、もはや幻想的とも呼べるかもしれません。

「人物をつなぐ」(テーマ11)もかなり作品が入れ替わりました。つながりも「戸をたたく男」から、「軒先の美人」へと替わり、「交わされる視線、注がれる視線」においても、彦根屏風の名で知られる「風俗図屏風」が登場しました。前期と雰囲気は大きく変わりました。


国宝「風俗図屛風(彦根屛風)」 江戸時代・17世紀 滋賀・彦根城博物館 *展示期間:5月15日(火)~5月27日(日)

ここではやはり「風俗図屏風」が見逃せません。金地の六曲一双の画面には、15人の男女と屏風、それに盤といった少数の器物のみが描かれていて、右から花を持つ少女、刀に寄りかかって談笑するかのような男、そして犬を連れた女から、何かを紙に記したり、双六や三味線の演奏をする者などを見ることが出来ました。各々の目線は、互いに交差しているようでもあり、時にずれているようでもあり、一定ではなく、そもそも皆の関係も明らかではありません。全ての仕草が意味深長に映りました。

また刀の鐔やほつれた髪の毛をはじめ、衣服の紋様しかり、ともかく細部の描写が際立っていて、「偏執狂」(解説より)と指摘されるのも、誇張とは思えません。楽しげな風でありながらも、なんとも言い難い緊張感も張り詰めていて、不思議な魅力をたたえた作品でもありました。後期のハイライトの1つと呼んでも差し支えないかもしれません。

「名作誕生ーつながる日本美術」(前期展示) 東京国立博物館

5月19日の土曜日の夜間開館を利用して見てきました。場内は極めてスムーズで、どの作品も思う存分にがぶりつきで楽しむことが出来ました。


間もなく会期末です。さすがに最終の土日は、多少、混み合うかもしれませんが、今のところ入場待ちの列も発生していません。最後まで特に待つことなく観覧することが出来そうです。



5月27日まで開催されています。

「特別展「名作誕生ーつながる日本美術」@meisaku2018) 東京国立博物館・平成館(@TNM_PR
会期:4月13日(金) ~5月27日(日)
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜は21時まで開館。
 *日曜および4月30日(月・休)、5月3日(木・祝)は18時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し4月30日(月・休)は開館。
料金:一般1600(1300)円、大学生1200(900)円、高校生900(600)円。中学生以下無料
 *( )は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )