都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」 神奈川県立歴史博物館
神奈川県立歴史博物館
「神奈川県博開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」
4/28~7/1

2016年6月より空調設備更新のため、長らく休館していた神奈川県立歴史博物館が、おおよそ2年に及ぶ更新工事を終え、再開館しました。
それを記念して開催されているのが、「つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」と題した展覧会で、「つなぐ」をテーマに、神奈川歴博のコレクションが約100点超ほど公開されていました。(一部に展示替えあり。)

開館当初からの所蔵資料 阿弥陀如来坐像
時代やジャンルにとらわれず、いわば横断的な視野でコレクションを紹介しているのも、大きな特徴と言えるかもしれません。冒頭の「ようこそ、51周年の神奈川歴博へ」に出展された文化財からして同様で、古墳時代の「家形埴輪」から、明治時代に津久井の芝居で用いられた「芝居衣装 内掛 鯉の滝登り」、さらには手書きの絵図としては貴重な「相州鎌倉之図」などが一堂に並んでいました。
また明治時代の横浜を銅版画で捉えた「横浜所会社諸商店之図」も興味深く、同じく横浜の誇る真葛焼の製造所を写した作品もありました。さらに意表を突くのが、4組のスキー板で、古いものでは昭和初期の木製もありました。何でも親子三代に渡って使用された板で、平成29年にコレクションとして受け入れられたそうです。まさか博物館でスキー板を見るとは思いませんでした。同館の幅広いコレクションの表れと言えるかもしれません。

開館時の県立博物館
最初のテーマは「ドームをつなぐ」で、神奈川歴博の建物を特徴付ける屋上のドームに関する資料を展示していました。言うまでもなく、神奈川歴博の旧館部分は、1904年に当時の横浜正金銀行本店として建てられました。その後、大正の関東大震災によるドームが焼失するものの、戦後も横浜正金銀行を受け継いだ東京銀行が、横浜支店として利用しました。そして1964年に神奈川県が買い取り、ドームの復元を行った上で、1967年に神奈川県立博物館として開館しました。現在は国の重要文化財の指定を受けています。
「横浜正金銀行本支店アルバム 竣工時の横浜正金銀行本店」からは、竣工時の銀行の姿を見ることが出来ました。また関東大震災での焼失の状況も写真で残されていて、開館時のパンフレット類を集めた「神奈川県立博物館開館記念アルバム」も重要な資料と言えるかもしれません。
また2004年には、当時の三菱東京銀行から12000点もの貨幣コレクションの寄贈を受けたそうです。その一部の小判なども展示されていました。
「ひとをつなぐ」で特に目立っていたのが、神奈川歴博の浮世絵コレクションの中核をなす丹波恒夫氏でした。横浜で貿易商を営んでいた同氏は、おおよそ70年に渡って浮世絵を収集し、約6000点にも及ぶ作品を残しました。とりわけ広重のコレクションで知られています。
その丹波氏のコレクションが一定数出ていました。うち目を引いたのは、横浜の異人を描いた「横浜渡来異商住家之図」で、5枚揃いであったものの、当初は4枚しかありませんでした。追加の1枚は、近年、博物館が入手したそうです。つまり丹波氏と博物館の双方の手を経て、全ての作品が揃ったわけでした。
「東海道分間絵図」も見どころの1つではないでしょうか。東海道を1万2千分の1に縮尺した街道絵図で、遠近道印が作成した分間図に、菱川師宣が風景を描いて完成させました。全部で5帖あり、長さは36メートルにも及び、そのうちの神奈川の部分が開いていました。
関東大震災の復興を期し、1935年に山下公園で開催された「復興記念横浜大博覧会絵葉書」も目を引きました。横浜の産業貿易を紹介した博覧会で、近代科学館や復興館、それに陸軍館などが作られました。延べ200万名を超える入場者を記録したそうです。大変な盛況だったに違いありません。
「相州だるま」も異彩を放っていました。だるまで有名な高崎から平塚へ伝わったもので、長いひげや眉毛を特徴としています。ほかにも開港後の横浜を描いた「ご開港横濱之全圖」や、現在の京浜急行電鉄の前身の1つでもある湘南電鐡の「沿線案内図」なども興味深いかもしれません。当然ながら、横浜、神奈川に因む資料が目白押しでした。

当館の発掘で出土し、東北地方とのつながりを示唆した縄文土器 (横浜市梶山遺跡)
博物館の研究活動についても着目していました。考古資料の出土品をはじめ、調査目録、担当者メモ、遺物整理票、さらに未整理資料の入った木箱のほか、発掘のためのスコップ、聞き取り用の音声レコーダーまでが並んでいて、普段、一般にはおおよそ表に出ない資料も少なくありませんでした。
ラストは「未来をつなぐ」として、まさに今年収蔵されたばかりの「如来坐像」などが展示されていました。ともかく切り口が多様で、学芸員によるコメントも大変に力が入っていて、見せるだけでなく、読ませる展覧会と言えるかもしれません。作品同士の思わぬ邂逅も興味深く、時に刺激的でもあり、チラシ表紙の「名品展を超えてゆけ 館蔵品と若手学芸員の挑戦」もあながち誇張とは思えませんでした。

基本的に空調の工事のため、最初の展示室の天井部が変わった以外は、特に変更は見られませんでした。エントランスがLED化されたものの、展示室内の照明、ケースともに、以前と同一だそうです。

一方で、常設展は、新たにテーマ別にカラーでゾーニングされました。神奈川歴博の魅力は充実した常設にもあります。お見逃しなきようにおすすめします。

ちょうど開館日に出向いたゆえか、館内もなかなか盛況でした。

7月1日まで開催されています。
「神奈川県博開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」 神奈川県立歴史博物館(@kanagawa_museum)
会期:4月28日(土)~7月1日(日)
休館:毎週月曜日。但し4月30日は開館。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般600(550)円、20歳未満・学生400(350)円、65歳以上200(150)円、高校生100円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:横浜市中区南仲通5-60
交通:みなとみらい線馬車道駅3・5番出口徒歩1分。横浜市営地下鉄関内駅9番出口より徒歩5分。JR線桜木町駅、関内駅より徒歩10分。
「神奈川県博開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」
4/28~7/1

2016年6月より空調設備更新のため、長らく休館していた神奈川県立歴史博物館が、おおよそ2年に及ぶ更新工事を終え、再開館しました。
それを記念して開催されているのが、「つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」と題した展覧会で、「つなぐ」をテーマに、神奈川歴博のコレクションが約100点超ほど公開されていました。(一部に展示替えあり。)

開館当初からの所蔵資料 阿弥陀如来坐像
時代やジャンルにとらわれず、いわば横断的な視野でコレクションを紹介しているのも、大きな特徴と言えるかもしれません。冒頭の「ようこそ、51周年の神奈川歴博へ」に出展された文化財からして同様で、古墳時代の「家形埴輪」から、明治時代に津久井の芝居で用いられた「芝居衣装 内掛 鯉の滝登り」、さらには手書きの絵図としては貴重な「相州鎌倉之図」などが一堂に並んでいました。
また明治時代の横浜を銅版画で捉えた「横浜所会社諸商店之図」も興味深く、同じく横浜の誇る真葛焼の製造所を写した作品もありました。さらに意表を突くのが、4組のスキー板で、古いものでは昭和初期の木製もありました。何でも親子三代に渡って使用された板で、平成29年にコレクションとして受け入れられたそうです。まさか博物館でスキー板を見るとは思いませんでした。同館の幅広いコレクションの表れと言えるかもしれません。

開館時の県立博物館
最初のテーマは「ドームをつなぐ」で、神奈川歴博の建物を特徴付ける屋上のドームに関する資料を展示していました。言うまでもなく、神奈川歴博の旧館部分は、1904年に当時の横浜正金銀行本店として建てられました。その後、大正の関東大震災によるドームが焼失するものの、戦後も横浜正金銀行を受け継いだ東京銀行が、横浜支店として利用しました。そして1964年に神奈川県が買い取り、ドームの復元を行った上で、1967年に神奈川県立博物館として開館しました。現在は国の重要文化財の指定を受けています。
「横浜正金銀行本支店アルバム 竣工時の横浜正金銀行本店」からは、竣工時の銀行の姿を見ることが出来ました。また関東大震災での焼失の状況も写真で残されていて、開館時のパンフレット類を集めた「神奈川県立博物館開館記念アルバム」も重要な資料と言えるかもしれません。
また2004年には、当時の三菱東京銀行から12000点もの貨幣コレクションの寄贈を受けたそうです。その一部の小判なども展示されていました。
「ひとをつなぐ」で特に目立っていたのが、神奈川歴博の浮世絵コレクションの中核をなす丹波恒夫氏でした。横浜で貿易商を営んでいた同氏は、おおよそ70年に渡って浮世絵を収集し、約6000点にも及ぶ作品を残しました。とりわけ広重のコレクションで知られています。
その丹波氏のコレクションが一定数出ていました。うち目を引いたのは、横浜の異人を描いた「横浜渡来異商住家之図」で、5枚揃いであったものの、当初は4枚しかありませんでした。追加の1枚は、近年、博物館が入手したそうです。つまり丹波氏と博物館の双方の手を経て、全ての作品が揃ったわけでした。
「東海道分間絵図」も見どころの1つではないでしょうか。東海道を1万2千分の1に縮尺した街道絵図で、遠近道印が作成した分間図に、菱川師宣が風景を描いて完成させました。全部で5帖あり、長さは36メートルにも及び、そのうちの神奈川の部分が開いていました。
関東大震災の復興を期し、1935年に山下公園で開催された「復興記念横浜大博覧会絵葉書」も目を引きました。横浜の産業貿易を紹介した博覧会で、近代科学館や復興館、それに陸軍館などが作られました。延べ200万名を超える入場者を記録したそうです。大変な盛況だったに違いありません。
愛嬌があるのぉ。これは相州だるまといって、明治時代初期に群馬県高崎市や東京鍮の板が装着され、ヒゲを生やしているため、<金目だるま>や<ひげだるま>などと呼ばれ、全国的にも珍しいタイプのだるまなのじゃ。 pic.twitter.com/G3dLYQ2dZy
— 神奈川県立歴史博物館 (@kanagawa_museum) 2018年5月1日
「相州だるま」も異彩を放っていました。だるまで有名な高崎から平塚へ伝わったもので、長いひげや眉毛を特徴としています。ほかにも開港後の横浜を描いた「ご開港横濱之全圖」や、現在の京浜急行電鉄の前身の1つでもある湘南電鐡の「沿線案内図」なども興味深いかもしれません。当然ながら、横浜、神奈川に因む資料が目白押しでした。

当館の発掘で出土し、東北地方とのつながりを示唆した縄文土器 (横浜市梶山遺跡)
博物館の研究活動についても着目していました。考古資料の出土品をはじめ、調査目録、担当者メモ、遺物整理票、さらに未整理資料の入った木箱のほか、発掘のためのスコップ、聞き取り用の音声レコーダーまでが並んでいて、普段、一般にはおおよそ表に出ない資料も少なくありませんでした。
ラストは「未来をつなぐ」として、まさに今年収蔵されたばかりの「如来坐像」などが展示されていました。ともかく切り口が多様で、学芸員によるコメントも大変に力が入っていて、見せるだけでなく、読ませる展覧会と言えるかもしれません。作品同士の思わぬ邂逅も興味深く、時に刺激的でもあり、チラシ表紙の「名品展を超えてゆけ 館蔵品と若手学芸員の挑戦」もあながち誇張とは思えませんでした。

基本的に空調の工事のため、最初の展示室の天井部が変わった以外は、特に変更は見られませんでした。エントランスがLED化されたものの、展示室内の照明、ケースともに、以前と同一だそうです。

一方で、常設展は、新たにテーマ別にカラーでゾーニングされました。神奈川歴博の魅力は充実した常設にもあります。お見逃しなきようにおすすめします。

ちょうど開館日に出向いたゆえか、館内もなかなか盛況でした。

7月1日まで開催されています。
「神奈川県博開館51周年記念 つなぐ、神奈川県博―Collection to Connection」 神奈川県立歴史博物館(@kanagawa_museum)
会期:4月28日(土)~7月1日(日)
休館:毎週月曜日。但し4月30日は開館。
時間:9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般600(550)円、20歳未満・学生400(350)円、65歳以上200(150)円、高校生100円。中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:横浜市中区南仲通5-60
交通:みなとみらい線馬車道駅3・5番出口徒歩1分。横浜市営地下鉄関内駅9番出口より徒歩5分。JR線桜木町駅、関内駅より徒歩10分。
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