「国宝の解剖図鑑」 エクスナレッジ

エクスナレッジの「国宝の解剖図鑑」を読んでみました。

昨年、京都国立博物館の特別展として過去最多の入場者を記録した「国宝展」は、国宝に対しての関心を集めただけでなく、国宝が多様な出版物やメディアに取り上げられる契機ともなりました。



その1つが、私も毎号追っている、「週間ニッポンの国宝100」(小学館)で、全50号のうち、既に39号に達し、いよいよ完結を迎えようとしています。

「国宝の解剖図鑑/佐藤晃子/エクスナレッジ」

新たな国宝本が登場しました。それがエクスナレッジの「国宝の解剖図鑑」で、日本、西洋の美術に関する数々の書籍を刊行されている、美術ライターの佐藤晃子さんが執筆されました。



現在、国宝として指定されている文化財は、全1110件あり、うち「国宝の解剖図鑑」では、考古・工芸、絵画、彫刻、建造物・歴史資料の4つのジャンルより、93件の国宝をピックアップしていました。

「国宝の解剖図鑑」の最大の特徴は、全ての国宝をイラストで紹介していることでした。そしてこのイラストが、国宝を理解するのに大いに重要で、ほかに多くある国宝本の中でも、殆ど唯一の「完全イラスト版」と言っても差し支えないかもしれません。



例えば、先だっての「名作誕生」(東京国立博物館)でも出品された「彦根屏風」では、登場人物をイラストで表すだけでなく、一体、それぞれがどういう人物で、何をしているのかについても、細かに触れていました。また、人物の配置、つまり構図にも言及していて、画題や描写など、「彦根屏風」の見方を、専門的な見地を交えて紹介していました。



三佛寺奥院の「投入堂」も、イラストによって、お堂の位置関係が分かるように工夫されていました。また、参拝に際しては、2人以上で行く決まりがあることや、実際に辿り着ける場所、さらには往復の所要時間(90〜120分)についても触れていて、観覧に際して便利な情報も多く記載されていました。さらに、法隆寺の「救世観音」や浄土寺の「阿弥陀三尊像」などでも、公開日時や、おすすめの拝観時間を記していて、豆知識的な要素も盛り込まれていました。

千利休作とされる現存唯一の茶室、「待庵」では、人を交えたイラストにより、建物のスケール感を一目で理解することが出来ました。また「厳島神社」の見取り図も、社殿の配置関係が良く分かるかもしれません。干潮時のおすすめ写真スポットも記されていました。



絵師などの制作者も登場します。例えば雪舟の「慧可断臂図」では、達磨と神光の描写自体をイラストで細かく見ている一方、長谷川等伯の「楓図襖」では、襖絵と合わせて、当時の等伯と狩野派の動向や関係を、年表形式で比較していました。このように、国宝を取り巻く人や歴史も踏まえていて、単なる国宝を紹介するだけに留まっていませんでした。

国宝に因む焼き物や絵画、それに仏像の見方などのコラムも読み応えがあるのではないでしょうか。特に、国宝に関する数字を集めた「数で読む国宝」は、国宝の基礎的知識を得るのに、大いに参考になりました。

【Column】
国宝の基礎知識:選定基準、全国分布、日本にあったら即国宝?!etc.
ジャンル別国宝の見かた:絵、やきもの、仏像、寺と神社etc.
数で読む国宝:件数、サイズ、歴史・保存編etc.


全160頁とボリュームがありながらも、持ち運びにも便利なA5サイズのため、実際の国宝鑑賞の際に持ち歩くのも楽しいのではないでしょうか。佐藤晃子さんによる「国宝の解剖図鑑」。好評のために2刷となったそうです。まずは書店でご覧になることをおすすめします。

「国宝の解剖図鑑/佐藤晃子/エクスナレッジ」

「国宝の解剖図鑑」
内容:「国宝の、どこがすごい?」がマルわかり。一度は見たことのある仏像、建築、日本画も、見かたがわかると100倍楽しい!国宝約100件の、すごさ・見どころ・知られざる人間模様まで大解剖
著者:佐藤晃子。美術ライター。日本、西洋の絵画をやさしく紹介する書籍を多数執筆する。明治学院大学文学部芸術学科卒業。学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了(美術史専攻)。
価格:1728円
単行本(ソフトカバー)160ページ
出版社:エクスナレッジ
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