「第11回 shiseido art egg 吉田志穂展」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー
「第11回 shiseido art egg 吉田志穂展」
6/2~6/25



資生堂ギャラリーで開催中の「第11回 shiseido art egg 吉田志穂展」を見てきました。

新進アーティストの活動を公募の形で紹介する資生堂アートエッグも、今年で第11回を数えるに至りました。

今回の応募総数は全279件でした。うち専門家による審査により、3名のアーティストが入選しました。

各アーティストは、それぞれ約1ヶ月間、個展形式で作品を発表します。その第一弾です。写真の吉田志穂の展示がはじまりました。



地下の展示室に一歩踏み入れて驚きました。さも行く手を遮るかのように大きなスライドが広がっています。写し出されたのは風景、木々に覆われた山の姿でした。そしてその先には写真が床面に半ば散乱しています。一部はフレームにも入っていません。



壁際の写真も支持台から少しずれて設置されています。整然と並ぶ姿はどこにも見られません。否応なしに視点が、上下、時に左右に揺さぶられました。写真はホワイトキューブの中に偏在し、各々が緩やかに関係しているようにも見えます。確かに全体が「ギャラリーの中に溶け」(解説より)合っているようでした。



手法が独特です。と言うのも撮影前にネット上で画像検索。Googleマップを利用しているのかもしれません。まず地図や航空写真で撮影地を探し出します。次いで吉田が検索結果の場所へ自ら足を運びます。もちろんネット上で見た光景とは違う場合もあるのでしょう。そして現地で風景を撮影。結果生まれた「オリジナルのイメージとWEB上のイメージを取り混ぜ」(公式サイト)て展示しているわけです。



吉田は撮影に際してフィルムカメラを使用しています。また撮影、現像、プリントのプロセスに「実験」(解説より)的なアプローチを加えているそうです。それゆえでしょうか。いわゆるコラージュのようにも見えました。写真のイメージがオリジナルなのか、そうでないのかを、俄かに判断することは出来ません。

面白いのが「砂の下の鯨」と題した作品でした。砂とは海岸線の浜です。吉田自身が生まれ育ち、何度か撮影したという地点でもあります。では「砂の下の鯨」とは一体、何を意味するのでしょうか。



それは鯨の座礁でした。ある日、砂浜に打ち上げられた鯨は、骨格標本にするため地中に埋められます。地下3メートルほどの地点でした。その出来事を知った吉田は現地へ出向きます。ネット検索で得た航空写真の地点、すなわち鯨の埋められた場所には、砂紋が出来ていたそうです。「皮膚のように見えた」(解説より)とも語っています。そして光景をフィルムに収めました。



会場では展示台に砂を敷いて鯨の姿を写し出しています。確かに鯨が浮かび上がっているようにも見えなくありません。と同時に、細かな砂紋が散る姿は、モノクロームの効果もあってか、まるで宇宙で輝く銀河を捉えたかのようでもあります。煌めき、また美しい。様々なイメージが浮かび上がってきました。



空間を効果的に活かし、インスタレーションとしても魅せる展覧会です。会場を行き来しては見入りました。

[第11回 shiseido art egg 展示スケジュール]
吉田志穂展 6月2日(金)~6月25日(日)
沖潤子展 6月30日(金) ~7月23日(日)
菅亮平展 7月28日(金) ~8月20日(日)


6月25日まで開催されています。

「第11回 shiseido art egg 吉田志穂展」 資生堂ギャラリー@ShiseidoGallery
会期:6月2日(金)~6月25日(日)
休廊:月曜日。
料金:無料
時間:11:00~19:00(平日)、11:00~18:00(日・祝)
住所:中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅A2出口から徒歩4分。東京メトロ銀座線新橋駅3番出口から徒歩4分。
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「ロマン・チェシレヴィチ 鏡像への狂気」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー

ギンザ・グラフィック・ギャラリー
「ロマン・チェシレヴィチ 鏡像への狂気」 
5/15~6/24



ポーランドのグラフィックデザイナー、ロマン・チェシレヴィチの個展が、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催されています。



チラシの表紙からして鮮烈でした。ともにモチーフは人物の顔です。しかし画面の左右から押し込み、中央部が溶けて消えるようなイメージは、不気味な印象を喚起させてなりません。実は表紙の右の作品のモデルは「モナリザ」でした。それを鏡像として変容させています。このいわゆるシンメトリカルのシリーズで、チェシレヴィチはポスター作家としての地位を確立しました。


左:「パリーパリ 1937-1957年」 Centre Pompidou Exhibition Poster 1981年

グラフィカルなイメージもシンメトリーの世界へ巧みに落とし込んでいます。例えばポンピドゥーのためのポスターです。鮮やかなイエローを背景にエッフェル塔が上下に反転しています。本展を監修したデザイナーの矢萩喜從郎は、シンメトリカルに見られるような、「三次元を吸収し、二次元に押し込む」(解説より)チェシレヴィチのスタイルを、「狂気のバキューム真空」と評しました。確かに消失点が空間の全てをのみこむかのようでもあります。



チェシレヴィチが学んだのはロシア構成主義とバウハウスでした。クラクフ美術アカデミーを卒業後、1950年代にはポスター作家として活動します。1960年代の初期にフランスへ渡り、フォト・モンタージュの作家、ジョン・ハートフィールドにインスピレーションを得ました。さらに雑誌「エル」や「ヴォーグ」のアートディレクターにも就任。以降、モンタージュの手法などを用い、幻想的でかつ、時に風刺や批判を交えたポスターを制作しました。


左:「審判」 The Trial by Franz Kafka Theater Play Poster 1964年

ともかく目立つのは顔を引用した作品でした。例えばカフカの「審判」です。ワルシャワで上演された演劇のポスターでした。大きく前を見据える男性がモノクロームで示されています。しかしそれだけではありません。顔の下にはもう1つ、いや2つないし3つの小さな顔が連続して描かれています。まるで無限増殖です。顎から顔が生成されています。


右:「第14回 ドゥシニキ国際ショパン音楽祭」 Duszniki International Chopin Piano Festival Event Poster 1958年

演劇と並んで目に付いたのは、音楽祭、オペラのポスターでした。ショパン音楽祭では黒い地平の上に、青、朱色ないし茶色、そして赤の色彩を雲のように描いています。音楽の即興的な動きを表したのでしょうか。躍動感も感じられました。


「ドン・ジョバンニ」 Don Giovanni W.A.Mozart Opera Performance Poster 1961年

モーツァルトの「ドン・ジョバンニ」にも魅せられました。タイトル・ロール、ドン・ジョバンニが剣を持って立っています。情熱的な彼の内面を表現するためか、顔がハート型であるのも特徴です。足元の赤い炎は地獄落ちを予感させているのかもしれません。題字の「DON JUAN」も効果的です。宙に舞うリボンのように軽やかでした。



おどろおどろしくも、妖しく艶やかで、なおかつ時に洗練されたチェシレヴィチのポスター。思いがけないほどに魅惑的でした。



作品はポスター112点に加え、コラージュ29点、雑誌ほか38点。かなりボリュームがあります。所狭しと並べられていて、不足はありません。いずれもポーランドのポズナン国立美術館のコレクションです。日本で初めての本格的なチェシレヴィチの展覧会でもあります。


6月24日まで開催されています。

「ロマン・チェシレヴィチ 鏡像への狂気」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
会期:5月15日(月)~6月24日(土)
休廊:日曜・祝日
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1F
交通:東京メトロ銀座線・日比谷線・丸ノ内線銀座駅から徒歩5分。JR線有楽町駅、新橋駅から徒歩10分。
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「茶の湯の名品ー破格の美・即翁の眼」 畠山記念館

畠山記念館
「茶の湯の名品ー破格の美・即翁の眼」 
4/8~6/18



畠山記念館で開催中の「茶の湯の名品ー破格の美・即翁の眼」を見てきました。

荏原製作所の創立者で、数寄者として知られる畠山即翁は、自身の収集品を一般に公開すべく、畠山記念館を開設しました。

その畠山の茶の湯コレクションが揃いました。さらに特別展示として雪村の「竹林七賢図屏風」も展示。ほか抱一の「十二ヶ月花鳥図」や国宝の「林檎花図」などを交え、絵画や茶陶の魅力を紹介しています。


国宝「林檎花図」 伝趙昌筆 南宋時代(13世紀)

「林檎花図」が絶品でした。中国は南宋時代、趙昌の筆と伝えられる作品です。団扇の画面に花をつけた林檎の枝を描いています。花はうっすら赤色を帯びていました。大きく咲くものと蕾、さらにはややしおれているものもあります。極めて写実的です。ぼかしや細い線を用いて花弁や葉脈を表しています。馨しい香りが伝わってくるかのようでした。


「粉引茶碗 銘 松平」 朝鮮時代(16世紀)

うつわでは「粉引茶碗 銘 松平」に惹かれました。松平不昧の伝来品です。白いうつわの形は端正です。揺らぎがなく、薄手ゆえか軽やかさも感じられます。前面の切り込みが景色を一変させていました。もちろん実際の切り込みではありません。釉薬のかからない部分の下地が露出しているわけです。まるで笹の葉のように見えました。


「赤楽茶碗 銘 早船」 長次郎作 桃山時代(16世紀)

長次郎の「赤楽茶碗 銘 早船」も優品でした。全体は薄い柿色です。高台の部分が黒く陰っています。山に粉雪が散る姿を思い浮かびました。ちなみに銘の由来は、利休が茶会のために早船で取り寄せたと語ったからだそうです。渋く枯れた味わいこそ利休の目に適ったのかもしれません。

一風変わっているのが「割高台茶碗」でした。織部の所持です。形はやや歪み、口は楕円形をしています。高台は四方に鋭く裂けて、まるで古い土器のような雰囲気もあります。面白いのが高台の裏面でした。というのも十文字の形の窪みがあり、それが十字架のようにも見えるからです。一説ではキリシタンとの関係も指摘されているそうです。驚きました。真相は如何なるものなのでしょうか。


重要文化財「伊賀花入 銘 からたち」 桃山時代(16〜17世紀)

前衛的と呼んでも差し支えないかもしれません。「伊賀花入 銘 からたち」が圧巻でした。ひしゃげたような形をした花入には重量感があります。質感はまるで岩石の表面です。胴の部分が六角に面取りされています。欠けた口縁の一部が胴に付着しています。それをミカン科の植物、からたちの棘に見立てて名付けられました。

この伊賀花入はかつて金沢にあり、いわば門外不出の名品として知られていたそうです。ゆえに即翁が入手すると、からたちの別れを惜しむ人々が紋付袴を着て金沢駅で見送りました。それを知った即翁も人を集め、同じように紋付袴で上野駅で迎えたそうです。作品に礼を尽くし、心を尽くすとは、このことを指すのかもしれません。

最後に是非とも挙げたいのが書です。筆で「波和遊」とあります。揮毫したのはもちろん即翁でした。

それにしても波和遊とは一体どのような意味があるのでしょうか。答えはHow are you?でした。即翁は晩年、ロックフェラー・ジュニアを茶会に招いた際、「波を越えてやってきた人と和をもって遊びましょう。」を意味する「波和遊」を書き記しました。何という遊び心にも満ちた機知ではないでしょうか。

即翁が生前に記念館で披露した茶の湯の取り合わせなども再現。コレクションとともに、まさに即翁の審美眼を随所で感じることが出来ました。

さて今年は茶の湯のいわば当たり年でした。春から都内各地の美術館や博物館で関連の展覧会が行われてきました。

「茶の湯のうつわー和漢の世界」 出光美術館
「茶の湯」 東京国立博物館
「茶碗の中の宇宙」 東京国立近代美術館

スケールの面で上記の3展に及びません。畠山記念館には近代美術館や国立博物館のような凝った照明も仕掛けもありません。しかしながら茶室や茶庭を有し、即翁自らが発案した、まさに茶の湯のための空間で見るうつわは、また他にはない独特の趣きがあるのではないでしょうか。



なお次回の夏季展も茶の湯です。「茶の湯ことはじめ2」が開催されます。昨年の「ことはじめ展」の第2弾として、茶道具の鑑賞ポイントを分かりやすく紹介するそうです。茶の湯ファン云々を問わずに楽しめる内容になるかもしれません。

「茶の湯:時代とともに生きた美/別冊太陽/平凡社」

6月18日まで開催されています。

「茶の湯の名品ー破格の美・即翁の眼」 畠山記念館
会期:4月8日(土)~6月18日(日)
休館:月曜日、 5月12日(金)。
時間:10:00~17:00(入館は16時半まで)
料金:一般700(600)円、学生500(300)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:港区白金台2-20-12
交通:都営浅草線高輪台駅A2出口より徒歩5分。東京メトロ南北線・都営三田線白金台駅1番出口より徒歩10分。
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「高畑勲がつくるちひろ展」 ちひろ美術館・東京

ちひろ美術館・東京
「高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」 
5/19~8/20



「奈良美智がつくる茂田井武」に続きます。ちひろ美術館・東京で開催中の「高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」を見てきました。

「奈良美智がつくる茂田井武」 ちひろ美術館・東京

現在のちひろ美術館の展示は二本立てです。茂田井展に加え、「高畑勲がつくるちひろ展」が行われています。

ここで作品をセレクトしたのは映画監督の高畑勲です。自身の制作にインスピレーションを与えたという、いわさきちひろの絵本を展示しています。

展示室4のみ撮影が可能でした。(作品はピエゾグラフです。)



例えば「あめのひのおるすばん」です。いわさきちひろは、いわゆる物語絵本ではなく、絵で展開する絵本を制作。色の滲みなども物語に取り込んで表現しています。ここに高畑は「心理的なものをこれほど深く表現し得た絵本はない」(解説より引用)と評価しました。



また高畑は映画「火垂るの墓」の制作に際し、いわさきちひろの「戦火のなかの子どもたち」を重ねて読んでいます。ちひろは同作において、自身の体験した東京の空襲の記憶を元に、ベトナム戦争の子どもたちの様子を描きました。高畑は若いスタッフに絵本で戦争の追体験をしてもらったそうです。



一風変わった演出がありました。それが「絵を拡大する」です。何と高畑はちひろの絵を拡大。最大で6.6倍に引き伸ばしています。



これが意外なほど大きいのに驚きました。通常、手元で愛でる絵本の形態とはまるで異なります。もはや壁画です。色や筆触がより際立っているように見えます。その豊かな情景に全身が包みこまれるかのようでした。

さて練馬のちひろ美術館、実は初めて行きました。



西武新宿線の上井草駅から小さな商店街を抜けて10分弱。下石神井の閑静な住宅街の中にあります。建物は2階建です。いわさきちひろが晩年の22年を過ごした自宅兼アトリエの跡に建てられました。さらに2002年には公開スペースを拡張し、全面バリアフリーに改装されました。



入口から右手がショップ、左手がカフェスペースです。カフェには絵本もあり、キッズドリンクも用意されるなど、子どもにも楽しめるように工夫されています。授乳室もあります。実際にもベビーカーで来られている親子連れを何組か見かけました。



カフェにはテラスもあり、手入れの行き届いた中庭を望みながら、ゆっくりと寛ぐことも可能です。



展示室は全部で4室です。ちひろ愛用のソファなども置かれています。ほかアトリエの復元展示も見どころではないでしょうか。随所から生前のいわさきちひろの息吹を感じ取れるような空間です。とてもこじんまりとした美術館ですが、心地良く過ごすことが出来ました。


8月20日まで開催されています。

「奈良美智がつくる茂田井武 夢の旅人 / 高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」 ちひろ美術館・東京
会期:5月19日(金)~8月20日(日)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。
時間:10:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(520)円、高校生以下無料。
 *10名以上の団体、65歳以上、および学生証を提示すると700円。
 *ぐるっとパスで無料。
住所:練馬区下石神井4-7-2
交通:西武新宿線上井草駅下車徒歩7分
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「奈良美智がつくる茂田井武」 ちひろ美術館・東京

ちひろ美術館・東京
「奈良美智がつくる茂田井武 夢の旅人」 
5/19~8/20



現代アーティストの奈良美智もまた、昨年、没後50年を迎えた童画家、茂田井武の絵に惹かれた人物の一人でした。

奈良の目を通して茂田井の魅力を紹介するのが「奈良美智がつくる茂田井武」展です。奈良が今も「新しいと感じる」(解説より引用)作品をピックップ。さらに自身のテキストを添えながら、茂田井の業績を顕彰しています。

茂田井が生まれたのは1908年です。「夢の旅人」とあるように、1930年、20代にして一大写生旅行を敢行します。目的地はヨーロッパです。シベリア鉄道でパリを目指しました。現地では食堂などで働きながら、日常の出来事などを写生に残したそうです。その画帳、「parisの破片」が出ています。時に詩情に満ちた幻想的な作品です。街路灯の光の滲むパリの夜景が藍色に染まっています。郷愁を誘うかのようでした。

ちなみに奈良も初めて海外に出たのが20歳の時だったそうです。ヨーロッパからパキスタンを旅行。茂田井の絵を見ると、その時のことを思い出すと語っています。

茂田井は3年後に帰国し、雑誌の挿絵画家としてデビューしました。この頃に描いたのが「退屈画帳」です。闇夜に包まれた都市の夜景からは何やら不穏な雰囲気も感じられます。のちの戦争を予兆させているのかもしれません。カラスと思しき黒い鳥が空で羽ばたいていました。

第二次世界大戦中は中国の広東へ渡り、兵役の任務に従事しました。そして終戦後に帰国し、子ども向けの雑誌に絵を描きはじめます。子ども時代の記憶を画帳に記したほか、子どもと過ごした時間を描いた「父と子のノート」などを制作しました。

「セロひきのゴーシュ宮沢賢治(著)、茂田井武(イラスト)/福音館書店」

40歳前後から個展も開催し、絵本をいくつか手がけ、童画家として評価されます。しかし徐々に持病が悪化し、闘病生活に入りました。それでも童画の制作はやめなかったそうです。宮沢賢治の童話の「セロひきのゴーシュ」に絵をつけたのは最晩年のことでした。今も茂田井の代表作として人気を集めています。


奈良のガイドによる茂田井の童話世界。独学で自らを切り開いた画家です。そして時に可愛らしく、またはかなくも映る絵本には、確かに「ことばだけでは言い表せないもの」(奈良美智の解説より。)が示されています。心の琴線に触れるとはこのことかもしれません。しばし時間を忘れて見入りました。



同時開催中の「高畑勲がつくるちひろ展」へと続きます。

「高畑勲がつくるちひろ展」 ちひろ美術館・東京

8月20日まで開催されています。

「奈良美智がつくる茂田井武 夢の旅人 / 高畑勲がつくるちひろ展 ようこそ!ちひろの絵のなかへ」 ちひろ美術館・東京
会期:5月19日(金)~8月20日(日)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。
時間:10:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:大人800(520)円、高校生以下無料。
 *10名以上の団体、65歳以上、および学生証を提示すると700円。
 *ぐるっとパスで無料。
住所:練馬区下石神井4-7-2
交通:西武新宿線上井草駅下車徒歩7分。
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「TARO賞20年 20人の鬼子たち」 岡本太郎記念館

岡本太郎記念館
「TARO賞20年 20人の鬼子たち」 
3/12~6/18



岡本太郎記念館で開催中の「TARO賞20年 20人の鬼子たち」を見てきました。

現代美術家を公募の形式で紹介する「TARO賞(岡本太郎現代芸術賞)」も、今年で20年目を迎えるに至りました。

入選者は延べ410名(組)に及びます。20周年に因んでの企画です。うち選ばれた20名の受賞作家を紹介しています。

館内は全て撮影が可能でした。


関口光太郎「手の子」 2017年

入口正面で立ちはだかるのが関口光太郎の「手の子」でした。少年、もしくは少女でしょうか。メガホンを構えています。体の部分にはハサミやメガネが貼り付けられていました。まるでサイボーグです。そして色は一面の茶色です。遠目では絵具を塗ったように見えるかもしれません。

実はガムテープでした。関口は新聞紙などを丸めてはガムテープを貼付。そこから形を組み合わせて彫刻を作っています。


東北画は可能か?「ゆくもの」 2017年

台車に厨子のようなオブジェがのっていました。東北画は可能か?による「ゆくもの」です。総勢20名超のグループによる作品でした。内部には絵画や刺繍などがいわば散乱。時に供えもののように恭しく置かれています。厨子には南京錠で鍵がかけられていました。一体、何が納められているのでしょうか。


村井祐希「プリズムのためノ服」 2017年

村井祐希は絵具を素材に着られる絵画を制作しています。その名も「プリズムのためノ服」です。てんこ盛りの絵具がテーブルからはみ出しています。これが刺繍ならぬ成形段階なのでしょうか。さらに横には「衣服」も展示。絵具にシリコンなどを混ぜて固めているそうです。とすればゴムのような感触なのかもしれません。


吉田晋之介「plant」 2017年

絵画で面白いのが吉田晋之介の「plant」です。タイトルが示すように植木などの植物を描いています。とはいえ、背後は宇宙のような空間が広がり、上部にはビニールシートを開いたような水色がせり出していました。さらによく見ると米大統領の顔やラーメンの画像なども描かれています。かなりカオスです。コラージュのようでした。

その空間を侵食するのがfacebookのいいねのアイコンでした。これが相当の数です。上下左右、のたうち回るように連なっています。

チュンチョメの「空で消していく」も面白いのではないでしょうか。作品は映像です。一般の人にインタビューを敢行。それぞれの受け手の「嫌いなもの」を、空で消していくというインスタレーションを行っています。


チュンチョメ「空で消していく」 2017年

どのようにして消すのでしょうか。使う素材はただ2つ、iPhoneと鏡です。条件は青空であることのみ。一方で嫌いなものは人それぞれです。中には釣りが好きながらも、魚のにおいが嫌いと語る人もいます。また輸入家具店や高級化粧品店、さらに人混みが苦手として、渋谷のスクランブル交差点を消そうと試みる人もいました。

詳細は実際の映像を見ていただくほかありませんが、至極簡単な仕掛けで、いとも「嫌いなもの」を消す様子はなかなか痛快です。30分ほどの映像でしたが、思わず見入ってしまいました。


加藤智大「Clinging shadow」 2017年

ほか彫刻では西尾康之の「Space wall」と加藤智大の「Clinging shadow」の迫力も十分です。暗がりのスペースを効果的に用い、異様なまでの存在感を見せています。


大岩オスカール「太郎さんの犬とシャドウ・キャットの出会い」 2016年

大岩オスカールや風間サチコ、山口晃なども出展。著名なアーティストも少なくありません。受賞後は、「めざましい活躍を見せてくれている」(公式サイトより)というのもあながち誇張には思えませんでした。

なお嬉しいのはいずれも受賞した時点の旧作ではなく、近年、ないし今年制作の新作ばかりということでした。作家の今の表現を知ることが出来ます。

なお会場は毎年TARO賞を行う川崎・生田の美術館ではなく、東京・南青山の記念館です。最寄は表参道駅です。歩いて7〜8分ほどです。近くには根津美術館やスパイラルなどが位置します。



岡本太郎はかつてこの地に暮らし、戦後は坂倉準三の設計でアトリエを建設します。つまりゆかりの地でもあります。



思いの外にこじんまりとした建物でしたが、館内には太郎の残した彫刻や絵画が所狭しと展示されています。残されたキャンバスや絵筆も膨大です。岡本太郎の旺盛な制作の一端も伺うことが出来るのではないでしょうか。



それにしても庭に出ても太郎一色です。何やら熱帯にでも紛れてしまったかのような活気を帯びていました。



私もここ数年は岡本太郎現代芸術賞の展示を追いかけています。(以下、感想へリンク)

「第20回 岡本太郎現代芸術賞展」/「第19回 岡本太郎現代芸術賞展」/「第18回 岡本太郎現代芸術賞展」/「第17回 岡本太郎現代芸術賞展」

時に社会を鋭く批判するような作品も少なくなく、毎回、何らかの形で刺激を受けるの展覧会です。一つの節目である20年を過ぎました。今後の展開にもまた注目したいです。




6月18日まで開催されています。

「TARO賞20年 20人の鬼子たち」 岡本太郎記念館@taro_kinenkan
会期:3月12日(日)~6月18日(日)
休館:火曜日。但し祝日の場合は開館。
時間:10:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで
料金:一般620(520)円、小学生320(210)円。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:港区南青山6-1-19
交通:東京メトロ銀座線・千代田線・半蔵門線表参道駅A5、B1出口より徒歩8分。
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2017年6月に見たい展覧会

6月中に見たい展覧会をリストアップしてみました。

展覧会

・「京都のみやびとモダン」 群馬県立館林美術館(~6/25)
・「エリック・カール展」 世田谷美術館(~7/2)
・「はじめての古美術鑑賞ー紙の装飾」 根津美術館(~7/2)
・「開館記念展 未来への狼火」 太田市美術館(~7/17)
・「ダヤニータ・シンーインドの大きな家の美術館」 東京都写真美術館(~7/17)
・「神の宝の玉手箱」 サントリー美術館(~7/17)
・「水墨の風ー長谷川等伯と雪舟」 出光美術館(6/10~7/17)
・「クエイ兄弟ーファントム・ミュージアム」 渋谷区立松濤美術館(6/6~7/23)
・「歿後60年 椿貞雄 師・劉生、そして家族とともに」 千葉市美術館(6/7~7/30)
・「リアル(写実)のゆくえー高橋由一・岸田劉生、そして現代につなぐもの」 足利市立美術館(6/17~7/30)
・「名刀礼賛 もののふ達の美学」 泉屋博古館分館(~8/4)
・「世界報道写真展2017」 東京都写真美術館(6/10~8/6)
・「川端龍子ー超ド級の日本画」 山種美術館(6/24〜8/20)
・「アート・スコープ2015ー2017 漂泊する想像力」 原美術館(~8/27)
・「ジャコメッティ展」 国立新美術館(6/14~9/4)
・「レオナルド×ミケランジェロ展」 三菱一号館美術館(6/17~9/24)
・「アルチンボルド展」 国立西洋美術館(6/20~9/24)
・「そこまでやるか 壮大なプロジェクト展」 21_21 DESIGN SIGHT(6/23~10/1)

ギャラリー

・「菅木志雄ー分けられた指空性」 小山登美夫ギャラリー(~6/10)
・「ロマン・チェシレヴィチ 鏡像への狂気」 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(~6/24)
・「大庭大介個展」 SCAI THE BATHHOUSE(~6/24)
・「ルイジ・ギッリ Works from the 1970s」 タカ・イシイギャラリー 東京(~6/24)
・「第11回 shiseido art egg 吉田志穂展」 資生堂ギャラリー(6/2~6/25)
・「鏡と穴ー彫刻と写真の界面 vol.2 澤田育久」 ギャラリーαM(~7/1)
・「ShugoArts Show」 シュウゴアーツ(6/3~7/8)
・「田原桂一 Les Sens」 POLA MUSEUM ANNEX(6/9~7/9)
・「マーリア・ヴィルッカラ個展」 アートフロントギャラリー(6/9~7/9)
・「東京墓情 荒木経惟×ギメ東洋美術館」 シャネル・ネクサス・ホール(6/22~7/23)
・「武田五一の建築標本」 LIXILギャラリー(6/8~8/26)

さて今月も上野や六本木などで大型の展覧会が控えていますが、まず期待しているのが国立西洋美術館です。ハプスブルグの宮廷画家として活動したアルチンボルドの回顧展が開催されます。



「アルチンボルド展」@国立西洋美術館(6/20~9/24)

私がアルチンボルドを初めて知ったのは文化村のだまし絵展でした。植物や魚などを組み合わせた寓意的な肖像画は見るも鮮烈。強い印象を与えられたものでした。



今回はアルチンボルドだけで10点。中でも連作「四季」の4点が日本で初めて公開されます。さらに素描のほか、先行したレオナルド派、ないしハプスブルク家が蒐集した美術工芸品などを交え、計100点の作品でアルチンボルド芸術を俯瞰する内容となります。

約12年ぶりの本格的な回顧展です。今年で没後50年を迎えた日本画家、川端龍子展が山種美術館ではじまります。



「川端龍子ー超ド級の日本画」@山種美術館(6/24〜8/20)


出展は全60点です。初期作から「鳴門」などの代表作を網羅して画業を辿ります。中でも注目は「香炉峰」です。全長7メートルの大画面に中国上空を飛ぶ戦闘機を何故か透明に描いています。自身の搭乗経験を基にした、いわゆる戦争記録画の一種ですが、ともかく奇抜です。これぞ「超ド級」ということでしょうか。

力強い「自画像」に心奪われました。近代の洋画家、椿貞雄の展覧会が千葉市美術館で開催されます。



「歿後60年 椿貞雄 師・劉生、そして家族とともに」@千葉市美術館(6/7~7/30)


山形の米沢に生まれた椿は、上京後、岸田劉生に師事し、白樺派の影響も受けながら、画家として活動しました。また30歳の時に船橋市の小学校の教員となり、以降、遊学や疎開を除いて、船橋の地に住み続けました。いわば千葉ゆかりの画家でもあります。

今年4月、群馬県太田市に太田市美術館がオープンしました。



「開館記念展 未来への狼火」@太田市美術館(~7/17)

現在は開館を記念した「未来への狼火」が開催中です。また太田市の近隣では、足利市立美術館の「リアルのゆくえ」や、群馬県館林美術館で「京都のみやびとモダン」も行われています。開館からは少し経ってしまいましたが、タイミングを見計らって回ってくる予定です。

「京都のみやびとモダン」@群馬県立館林美術館(~6/25)
「リアル(写実)のゆくえー高橋由一・岸田劉生、そして現代につなぐもの」@足利市立美術館(6/17~7/30)


【レポート】群馬の新名所「太田市美術館・図書館」がオープン:T-SITE

それでは今月もよろしくお願いします。
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