8編の短編集で、発表された1970年代にはまさに衝撃的な近親相姦、小児性愛、服装倒錯、幼児退行者などが扱われている。
表紙の裏には、
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・・・少年と少女のひと夏の恋を、エロティシズムと恐怖と交えて綴った表題作をはじめ、大人の仲間入りを果たすために10歳の妹を誘惑する14歳の兄の姿を描いた出世作「自家調達」など、英国文壇の旗手が、時には残酷に、時には優雅に紡ぎだした八編を収録。・・・
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とある。
束縛するものが明確でない現代は、タブーに挑戦とばかり、この種の禁断のテーマを扱う小説が多い。その多くはあざとさが目立ち、私の好むところではない。しかし、この小説の文体は冷静でいやらしさはなく、本格的で完成度が高い。
8編のうち、6編が一人称で書かれていて、中でも子どもの視点で書かれているものが面白い。感受性の鋭い子どもの感性が見事に描かれている一方、いかにも子どもらしい幼い考え方がそのまま出ていたりして、主人公の子どもの視点の後ろに、第三者の作者の上からの視点が感じられて重層的な厚みのある構成になっている。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
いやらしさはあまり感じないとはいえ、延々と続く異常でゆがんだ世界をなぜ描かなくてはいけないのか、平凡人の私にはついていけないところがある。それでも、一気に読ませる筆力はさすが、ブッカー賞受賞者だ。
「訳者あとがき」にあるイースト・アングリア大学(UEA)の創作コース創立経緯が面白い。
文学部教授に迎えられたブラッドベリは、アメリカにある創作コースを是非ともイギリスにも作りたいと努力する。ようやく設立にこぎつけたが、募集した学生が一人も集まらず、時間切れになりかけたときに、入学希望者からの電話があった。それが、イアン・マキューアン(Ian McEwan、1948年生まれ)だった。
彼をただ一人の1回生とする創作コースはその後、カズオ・シシグロなどUEAマフィアと呼ばれる数々の新進作家を生み出すことになる。
この修士コースは、論文の代わりに小説を提出しても良いのだが、彼の修士論文として書かれた短篇がこの短篇集「最初の恋、最後の儀式」First Love, Last Rites (1975)に収録され、サマセット・モーム賞を受賞した。
その後、長編「アムステルダム」Amsterdam (1998)は、98年度のブッカー賞を受賞。