米澤穂信著『本と鍵の季節』(2018年12月20日集英社発行)を読んだ。
集英社の宣伝サイトの内容紹介は以下。
堀川次郎は高校二年の図書委員。利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(しもん)と当番を務めている。背が高く顔もいい松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。
そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。
放課後の図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
爽やかでほんのりビターな米澤穂信の図書室ミステリ、開幕!
このサイトの「著者からのメッセージ」には米澤さんの(達筆でもなく、味のある字でもない)色紙がある。
「913」
高校2年の堀川次郎と同級生の松倉詩門が、3年生女子の元図書委員・浦上に頼まれて自宅のダイヤル式金庫の解錠番号を推理してほしいと頼まれる。おじいさんの遺した開かずの金庫だという。ヒントはおじいさんは彼女に「大人になったらわかる」と言ったことだけ。金庫のある部屋には本棚があった。
「ロックオンロッカー」
堀川と松倉は割引券につられて、美容室で連れ理髪する。ビニールバッグが渡され、店長は、「お荷物はロッカーにお預けください」、「貴重品は、必ず、お手元にお持ちください」と言った。なぜ、わざわざ?
「金曜日に彼は何をしたのか」
1年生の図書委員・植田登に頼まれて、既に何度か停学処分を受けている兄の昇(しょう)のアリバイ証明に挑戦する。学校の窓ガラスが割れていて、テスト問題を盗もうとしたに違いないと疑われているのだ。話そうとしない兄はその時間、どこに行っていたのか。
「ない本」
3年生の香田が自殺した。同じ3年生の長谷川が香田が最後に読んでいた本を探しに図書室に来た。香田は死ぬ何日か前に図書館の本を読んでいて、便箋みたいなものがそばにあったのを長谷川は見たという。
「昔話を聞かせておくれよ」
ある男の残した物の隠し場所を推理する。たどりたどって図書館の除籍本(リサイクル本)を見つける。
宝物が見つからないなら、それは楽しい昔話に興じたに過ぎない、‥‥しかしもし、万が一、本当にそれが見つかってしまったら? もう昔話では済まされない。
「友よ知るなかれ」
駐車場のほこりをかぶったバンは誰が駐車料を払い続けていたのか? ある男とは誰か? 解決編。
初出:「小説すばる」2012年1月号、~、2018年9,10月号。「友よ知るなかれ」は書き下ろし。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
ちょっと甘めの四つ星。
語り手(の堀川)が読者代表で、相方(の松倉)の名推理に感心しきりというホームズ物のような一般的な構成でなく、共に優れた探偵役という珍しい形。書きにくいのではと余計なことを考えてしまう。素直に人の言うことを受け止める堀川と、常に裏を考える松倉の考え方の違いで、それぞれの推理の違いを作っていく構成が珍しいが、多少差が少なく苦しい。
小説の主人公としては素直過ぎて面白味のない堀川に比べ、松倉は多少ひねくれたところがあり、アウトロー的で、面白味を醸し出している。というか、なんとか醸し出そうとしている。
この本のタイトル「本と鍵の季節」は、「本」と「鍵」が色々な所でキーになっているのだが、「季節」というのはぴんと来ない。ちなみに、表紙などにある英語でのタイトルは“The Book and The Key”。
米澤 穂信(よねざわ ほのぶ)
1978年岐阜県生まれ。金沢大学文学部卒業。
大学卒業後、2年間だけという約束で書店員をしながら執筆を続ける。
2001年、『氷菓』で第5回角川学園小説大賞奨励賞受賞しデビュー。
2011年、『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)受賞
2014年、『満願』で山本周五郎賞受賞
その他、『遠まわりする雛』、『さよなら妖精』、『春期限定いちごタルト事件』、『愚者のエンドロール』、『儚い羊たちの祝宴』、『王とサーカス』、『犬はどこだ』、『ボトルネック』、『インシミテル 』、『遠まわりする雛』、『ふたりの距離の概算』、など
振り仮名付きの難しい漢字
「雪冤」:せつえん。罪の無実を明らかにして、身の潔白を示すこと。