高田郁著『美雪晴れ みをつくし料理帖』(ハルキ(時代小説)文庫 た19-11、2014年2月角川春樹事務所発行)を読んだ。
名料理屋「一柳」の主・柳吾から求婚された芳。悲しい出来事が続いた「つる家」にとってそれは、漸く訪れた幸せの兆しだった。しかし芳は、なかなか承諾の返事を出来ずにいた。どうやら一人息子の佐兵衛の許しを得てからと、気持ちを固めているらしい―。一方で澪も、幼馴染みのあさひ太夫こと野江の身請けについて、また料理人としての自らの行く末について、懊悩する日々を送っていた…。いよいよ佳境を迎える「みをつくし料理帖」シリーズ。幸せの種を蒔く、第九弾。
助っ人料理人の又次が死ぬなど悲しみで終わった第7弾から、芳の息子の佐兵衛が姿を見せ、その芳にも幸いが姿をみせ希望の芽が大きく育つ第8弾、そして大きな動きがありそうな、今回の「みをつくし料理帖」シリーズの第9弾だ。
今回特に、料理法の話が多く出てくる。最初だけでも、こんなぐわいだ。
「秋刀魚よりも早く秋を告げ、霜が降りるころに最も味わいが増す魚、それがカマスだ」、「鼈甲珠作るのに用いて、残った白身をどうするか」、「にうめんとは入麺、即ち熱くした素麺(そうめん)・・・具は刻んだ油揚げと蒲鉾、吸い口に柚子を使おう・・・彩りに野蒜(のびる)を使う」、「(蒲鉾は)「大阪では板に塗り付けたものを炙って仕上げる『焼き通し』と呼ばれるものが主流だったが」
澪の目指す料理人の道は? 悩みは尽きない。?「どうみても決まってるじゃん」と私は思うのだが?
一柳や天満一兆庵の料理は、「吟味され尽くした食材を用い、その最も美味しい部分のみを使う。手間を惜しまず、工夫を重ねて仕上げたものを、それに相応しい器に盛り付けて供する。」
一方で、つる家で澪のやってきたことは、「お客の懐具合を考えて、少しでも美味しいものを無駄なく充分に、との心構えで料理してきた澪にとって、その辿ってきた道の違いに言葉もない。」
「女といえども、あなたなら料理人として後世に名を残せるに違いない。・・・どうあってもこの天賦の才の料理人を傍に置き、我が手で育て上げたい。」(一柳の主の柳吾)
「料理に身を尽くす、という生き方を貫かれている。その姿に、私は時折り、無性に励まされるのです」「『食は、人の天なり』という言葉を体現できる稀有な料理人なのです。」(医者の源斎)
?この巻では源斎の株が上がりっぱなし?
料理のレシピ集である巻末付録「澪の料理帖」は、「味わい焼き蒲鉾」、「立春大吉もち」、「宝尽くし」、「昔ながら」と各章のタイトルとなる4品だ。
特別収録「みをつくし瓦版」では、次巻が最終巻となることが、あっさりと宣言される。
そして、瓦版へ寄せられた便りの大半が「小松原さまの登場はもうないのでしょうか」だったという。「最終話までのお話はすでに決まっていますが、・・・」と、(小松原の再登場は否定したうえで、)これに応えるのが、特別収録の『富士日和』で、久しぶりに御膳奉行小松原数馬が登場し、人を介して“澪の料理を味わい、澪の成長を知る。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)
シリーズ最終巻の前で「五つ星:是非読みたい」と言われても今まで読んでいなかった人は困るだろうが、とくに、今まで読んできた人は、最終巻の最後の展開の布石となるこの第9弾を読まざるを得ないだろう。
料理の作り方がいろいろ出てくるが、読者もなんだか食べた気になって、美味しそうで、読むだけで幸せな雰囲気を味わってしまう。
完結巻は、2014年8月に『みをつくし料理帖 天の梯』のタイトルで刊行予定とのこと。どんな決着に落ち着くのか、最初から最後の決着点は決めてありますという高田さん、そして「ハッピーエンドはお約束します」と言ってるので、あれこれ考えながら、ただただ待ちましょう。
高田郁(たかだ・かおる)は兵庫県宝塚市生れ。中央大学法学部卒。
1993年、川富士立夏の名前で漫画原作者としてデビュー。
2006年、短編「志乃の桜」
2007年、短編「出世花」
『みをつくし料理帖』シリーズ
2009年~2010年、『
第1弾「八朔の雪」第2弾「花散らしの雨」第3弾「想い雲」』
2010年『
第4弾「今朝の春」』
2011年『
第5弾「小夜しぐれ」』
『
第6弾「心星ひとつ」』
2012年『
第7弾「夏天の虹」』
『
みをつくし献立帖』
2013年『
第8弾「残月」』
その他、『
銀二貫』『
あい』