『WHAT IS LIFE? ホワット・イズ・ライフ?)生命とはなにか』(2021年3月9日ダイヤモンド社発行)を読んだ。
ダイヤモンド社の内容紹介は以下。
生きているっていったいどういうことだろう?ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースが「生命とは何か?」という大いなる謎に迫る。「細胞」「遺伝子」「自然淘汰による進化」「化学としての生命」「情報としての生命」の生物学の5つの重要な考え方をとりあげながら、生命の仕組みをやさしく解き明かす。
細胞ひいては生体構造は驚くほど複雑だが、突き詰めていくと、理解可能な化学的かつ物理的な機械だ。…
多くの生物学者がデータの洪水におぼれているが、大切なのは「生物がどのように情報を処理しているか」を理解することだ。
生命の定義
「進化する能力を有するもの」ハーマン・マラーの定義
著者が生命の定義に使う原理
・自然淘汰を通じて進化する能力(生殖、変動する遺伝システム)
・生命体が「境界」を持つ
・生き物は化学的、物理的、情報的な機械である
著者は、cdc2と名付けた遺伝子情報がタンパク質キナーゼという酵素を作り、この酵素がサイクリンというたんぱく質と一緒になって細胞周期を進行させることを発見した。さらに、この制御の分子メカニズムを解明するには10人で15年かかった。そして、ノーベル賞を受賞した。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの? 最大は五つ星)
生命とは何かという命題から予想される自然科学をベースとした哲学的な話はほとんどなく、細胞内の遺伝子などの分子レベルでの化学的変化などの詳細な話が展開される。そして結局、生命とは何かにはほとんど答えていない。
分子レベルでの生物学に興味のある人には良いかもしれない。
生物の成長、進化の分子レベルでの構造はおそろしく複雑であることは理解できる。しかし、その解説が続く前半以降にはとてもついていけなかった。とくに著者発見のcdc2なるものが細胞周期を進行させる化学的変化を含むメカニズムのくわしい説明は私には複雑で、イメージがわかなかった。
ポール・ナース(Paul Nurse)
1949年英国生まれ。遺伝学者、細胞生物学者。
細胞周期研究での業績が評価され、2001年にノーベル生理学・医学賞を受賞。
1970年バーミンガム大学を卒業後、1973年イースト・アングリア大学で博士課程修了。エジンバラ大学、サセックス大学、王立がん研究所(ICRF)主任研究員、オックスフォード大学教授、王立協会研究教授を経て、1993〜1996年王立がん研究所所長、2003〜2011年米ロックフェラー大学学長、2010〜2015年王立協会会長、2010年より現職、フランシス・クリック研究所所長。
2002年に仏レジオン・ドヌール勲章、2013年にアルベルト・アインシュタイン世界科学賞を受賞。世界中の大学から70以上の名誉学位や名誉フェローシップを受賞。首相科学技術顧問。本書が初の著書となる。
著者は54歳の時、米ロックフェラー大学学長に就任するためにグリーンカードを申請したが、出生証明書に両親の名前が記載されていないと却下された。完全版を手に入れて驚いた。実の両親は祖父母で、母親は17歳で私を産んだ姉だったのだ。父親はいまだに不明だ。
竹内薫(たけうち・かおる)
1960年東京生まれ。理学博士、サイエンス作家。東京大学教養学部、理学部卒業、カナダ・マギル大学大学院博士課程修了。小説、エッセイ、翻訳など幅広い分野で活躍している。
主な訳書に『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』(ロジャー・ペンローズ著、新潮社)、『奇跡の脳』(ジル・ボルト・テイラー著、新潮文庫)などがある。
膀胱に感染する寄生虫細菌の細胞なんか、1ミリメートルの隙間に3000個も横に並べることができてしまう。巨大な細胞もある。…卵の黄身全体がたった1つの細胞だなんて驚きだ。(p19)
熱力学の第二法則にしたがい、生き物は秩序あるものを食べて無秩序なものを排泄することで、体内の秩序を保っている。(p31)
われわれの小さな細胞一つに含まれる46本の染色体を合わせると、DNAが2メートル以上になるという。…(このDNAは)直径が数千分の1ミリメートルほどの細胞に見事に収まっている。
こうしたさまざまなたんぱく質はすべて、細胞内で特定の機能を発揮するように、何千年もの進化によって磨かれてきた。…小さな酵母細胞ひとつにも、全部で4000万個以上のタンパク質分子がある。
酵素は、個々の原子を操作して、特定の分子結合を作ったり壊したりする。これは、途方もなく正確な原子の外科手術なんだ。
あなたが食べるものの大部分は、最終的にあなたの細胞のミトコンドリアで処理される。ミトコンドリアは、食べ物に含まれる化学的エネルギーを利用し、おびただしい量のATPを作る。あなたの身体の何兆個もの細胞を支えるために必要な、すべての化学反応に燃料を送るため、あなたのミトコンドリアは、なんと、あなたの全体重に匹敵する量のATPを毎日作り出している!(訳注:ATPはリサイクルされるので、体重が激減することもなく、体重分の食べ物をとる必要もない)
目次
ステップ1 細胞 細胞は生物学の「原子」だ
ステップ2 遺伝子 時の試練をへて
ステップ3 自然淘汰による進化 偶然と必然
ステップ4 化学としての生命 カオスからの秩序
ステップ5 情報としての生命 全体として機能するということ
世界を変える
生命とは何か?