高田郁(かおる)著『今朝の春 みをつくし料理帖』ハルキ文庫、2010年9月、角川春樹事務所発行を読んだ。
「
みをつくし料理帳」シリーズの「八朔の雪」(2009年5月)「花散らしの雨」(2009年9月)「想い雲」(2010年3月)につづく第4弾で、全4話からなる。
この作品は時代小説文庫(ハルキ文庫)の書き下ろし。
話の流れは、お世話になった名料理屋の若旦那を見つけ再建するという義、幼馴染の吉原の太夫を助け出すという友情、そして身分の異なる侍への秘めた恋、そしてこれらいずれにもからむのが江戸の人をあっと驚かす創作料理だ。これらが、主人公澪(みお)を囲む個性的だが、こころ優しい人たちとともに、バランス良く、控えめの文でしっとりと語られる。
第一話「花嫁御寮」―ははきぎ飯
月に三度の「三方よしの日」、つる家では澪と助っ人の又次が作る料理が評判を呼び、繁盛する。ある日、伊勢屋の美緒(みお)に大奥奉公の話が持ち上がり、澪は包丁使いの指南役を任される。ふらりと現れる浪人風の小松原、澪憧れの人の正体がついに明らかになる。
(―の後は、澪の創作料理名)
第二話「友待つ雪」―里の白雪
戯作者清右衛門が吉原のあさひ太夫を題材に戯作を書くことになる。澪は決死の覚悟で阻止しようとする。皮肉屋で無礼な清右衛門の戯作者としての矜持、情け。少しずつ明らかになってゆくあさひ太夫こと野江の過去。
友待つ雪とは、「白雪の色わきがたき梅が枝に友待つ雪ぞ消え残りたる」から。
第三話「寒紅」―ひょっとこ温寿司
おりょうの旦那、真面目で無口な伊左三に浮気の疑惑が起こる。
今朝の春―寒鰆の昆布締め
登龍楼との料理の競い合いを行うこととなったつる家。迷いに迷った澪が直前で渾身の料理を生み出す。その結果は・・・。
巻末付録 澪の料理帖
4レシピ
高田郁(たかだ・かおる)は兵庫県宝塚市生れ。中央大学法学部卒。
1993年、川富士立夏の名前で漫画原作者としてデビュー。
2006年、短編「志乃の桜」で北区 内田康夫ミステリー文学賞区長賞受賞。
2007年、短編「出世花」で小説NON短編時代小説賞奨励賞受賞。
2009年、『
みをつくし料理帖』シリーズ第1弾の「八朔の雪」は、「歴史・時代小説ベスト10」、「最高に面白い本大賞!文庫・時代部門」、「R-40本屋さん大賞第一位」を獲得。
その他、2010年『
銀二貫』
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)
五つ星に近い四つ星だ。読み終わったまだ一日しか経っておらず、興奮が残っているので、あえて五つ星は避けた。
不幸な過去を持ちながらも健気に生きる女料理人澪。切ない恋にひたむきながら身分の違いに自分を抑え、料理に専念する澪。彼女を支え、彼女に励まされる周辺の暖かい人々。ありきたりな話の流れながら、それが安心感となり、落着いた筆致で切ない澪を応援する気持ちに引き込まれていく。
このシリーズは全部読んでいるが、この4作目が一番良いと思う。第3作までにつくられた話の流れ、登場人物に馴染んだこともあるだろう。TVの「水戸黄門」を見るような安心感と共に、あさひ太夫の秘密や、小松原 の正体が明かされることもこの巻の興味を深くする。第5巻が待ちどうしい。
現在、とても美味しいが、なんでこんな組合せ、料理法を考えたのかと思う料理がいくつかある。名前は伝わっていないが、どこかの誰かが、いつか創作したものに違いない。
澪が従来のシリーズでは天才料理人だったが、この本では、大人になってひたむきな努力の人になっている。
必死に戦う澪に小松原が呟く。
「勝つことのみに拘っていた者が敗れたなら、それまでの精進は当人にとっての無駄。ただ無心に精進を重ねて敗れたならば、その精進は己の糧となる。」
願掛けは神仏と己との約束事であって、ほかの誰にも知られてはならない。人知れず満願の日を迎えなければ、願いが叶えられることはない。
願掛けで思い出すことがある。おふくろが私の受験のときに大好きなお茶を絶っていたと最近になって女房から聞いた。女房も息子の受験のときに、寒がりなのに長袖の下着を着なかったという。当人の私や、息子はそんなこと思いもかけずのんびりしていた。まったく、母親というやつは!