川上未映子著『世界クッキー』2009年11月、文藝春秋発行を読んだ。
才気にあふれ、今をときめく新進作家のエッセイ集だ。
川上未映子さんのブログ「未映子の純粋悲性批判」の2009年11月9日にはこうある。
この二年間は尋常じゃない数のエッセイを寄稿してきた記憶がありますが、こうしてひとつになると「あ、ひさしぶり!」みたいな感じで、
でもいまのムードとも合わないものもあることはあるので、選りすぐって、チームに分けて、編集しました。
名前を「世界クッキー」といいます。11月13日発売です。
全般にわたって東ちなつさんのおきゃんな絵を拝借して(もともとあった絵だから知ってる方もいるのでは。わたしもはがきで拝見して一目惚れしました)、
中身にもとってもかわいらしいドローイングがちりばめられていてうきうきします。
そして装丁は「乳と卵」でもお世話になった大久保明子さんが担当してくれました。
「ヘヴン」が非常にクールなぱきっとした顔であるので好対照で、いいねいいね。
とても明るくかわいらしくてすこぶるに気に入っています。
また、あとがきで著者は言う。
いろいろな媒体に書かれたエッセイを集め、以下の8つのグループにまとめている。
からだのひみつ/ことばのふしぎ/ありがとうございました/きせつもめぐる/たび、けものたち/ほんよみあれこれ/まいにちいきてる/ときがみえます
「境目が気になって」
「母とクリスマス」
未映子風でなくごく普通のエッセイだが、しみじみとした話だ。
貧しい家庭に育ち、未映子さんはそのことを良くわかっていた。母がスーパーの食品売場に行ったとき、未映子さんはワゴンの上の小さなフリルがいっぱいの服に夢中になる。ずーと握りしめたまま手を放せずにいたが、母がこんな私をみたら買ってあげられないことをつらく思うだろうと、母の姿が見えたとき手を放す。母は疲れた顔をして、はよ行くでとひとこと言ってその場をあとにした。
それから数日後、枕元にそのトレーナーがあった。お母さんが無理をしたのではと思い泣けてきたが、うれしくて、それから毎日そのトレーナーを着た。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
才気ばしり、感性豊かな女性が、日常のどんなことが気になっているかがわかる。そう言われてみればそうかもしれないけどと、ちょっと変わった未映子さんにおじいさんはオタオタしてしまう。
詩人でもあり、女性である川上さんの感性、興味対象には、私はなかなかついていけない。しかし、大阪弁まじりの巧みな文章でついつい引き込まれてしまう。
それにしても、私には、詩は意味不明物以外の何者でもない。たとえば、この本の最後の方にある以下の詩を読んで、「解釈はやめよう。イメージを」と思っても、私には何の感慨もわかない。個人的な好き嫌いだけでなく、なんらかのある程度公認の評価基準があるからこそ、詩にも賞があって、川上さんは中原中也賞を受賞したのだろうが。
この詩にあなたは感じるものありますか?
1 薄す闇の、あの日における署名です
特定の、その特有の感情は、直立不動って小うそつき
マフラーのこと
2分で渡った橋のこと
ぜんぶ覚えているんだったのに
文章と音について、以下のように書いている。
そして、文章(文字)と朗読(音)との関係は、楽譜と音楽の関係に似ていると書いている。確かに、人は単なる記号の文字の羅列である文書を読んで、心の中で自分流に音読したり、自分自身のイメージを作り上げたりする。人に音読させたり、イメージを膨らませたりするのが優れた文章なのかもしれない。
川上未映子の略歴と既読本リスト