玉村豊男著『旅の流儀』(中公新書2326、2015年6月25日中央公論新社発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
旅立ちにはしばしば憂鬱さが付きまとう。遭遇するトラブルを思うと尻込みしたくなる。だが、どんなに辛い旅であれ、得られる収穫は計り知れない。ひとつの出会いがかけがえのない人生の財産にもなる。若き日の海外放浪以来、数え切れない旅を経験してきた著者が、独自のノウハウやためになる失敗談を惜しげもなく披露。「自分の鞄は自分で持つ」「旅先で本を読む」「なんでもない風景」ほか39章で綴る、大人の旅への招待。
どんな旅行のときも、まずはパンクツ(パンツ+靴下)から始まるという旅支度の話、唯一の自慢というヒッチハイクの極意、旅先でテニス・水泳といったトレーニングなどの旅の楽しみ、注意点などを語る。
一方で、加齢に伴い、目が疲れるので読書も、機内での映画も見なくなったが、一方ではただぼんやりとして時を過ごせるようになったと述べる。
1テーマごと4ページの文章と1枚の写真。全部で39。
自分の鞄は自分で持つ
いくら裕福になっても自分の荷物を他人に運ばせるような人間にはなりたくない・・・と、青年らしい潔癖さで考えたことを覚えている。
散髪の楽しみ
行きつけの店は、東京駅構内の「QBハウス」。十分で千円のクイックバーバーだ。髭剃りも洗髪もしてくれないが、とにかく早く済むので重宝している。
・・・
言葉の通じない国で散髪をするのは実害の少ない旅の楽しみである。
(千円床屋、私も愛用しています。早くて安い。良いことずくめです。50年以上前、新宿南口を出たところに100円床屋がありました。客はホームレスが多く、使用済みの湿ったタオルを襟元に巻くので閉口しました。始まったなと思ったら、背中を叩かれてもう終わりでした。頭からボタボタ水を垂らしながら新宿を歩きながら、いくらなんでも、ここまでは落ちたくない、もう二度と行くまいと思いました。
オーストラリアに2か月滞在したときには、さすがに途中で床屋へ行かざるを得ず、不安いっぱいでしたが、えいやと、たまたま見かけた床屋に飛び込みました。耳にかからないくらいに切ってくれと言ったつもりでしたが、バリカンにはめるプラスティックのカバーみたいなものを持ち出してきて、自信満々な様子で「AとBがあるが、あなたにはBが最適だ」らしきことを言う。純粋日本男児の私は、OK、OKと曖昧に微笑するしかありませんでした。鏡は見ないようにして店をでました)
モバイルマニアだった頃
(これにも共感しました。私もモデム通信しかできなかった頃から外国でのインターネット接続に苦労したことを思い出しました。ホテルで、机をずらしてカバーを外し、電話線の差込口(FCCタイプ?)を取り出して、持ち込んだモデムをつないで、電話局への接続をあれこれトライし、時間・料金を気にしながらメールや情報収集したものでした)
雪の東北温泉旅行
(酸ヶ湯の千人風呂が出てきて、これも懐かしかったです。「山スキーと温泉」に書きました)
金魚鉢の水
著者が新米のツアーコンダクターだったとき、ベテランの一言。
団体旅行を成功させるということは、金魚鉢の水をこぼさず運ぶことである
能登半島を歩いて考えたこと
寒天で有名な茅野市で聞いた。2月16日は「寒天の日」。NHKの『ためしてガッテン』で寒天が取り上げられ、全国のスーパーから寒天が姿を消した日だから。
部屋にいながら世界一周
長くクルーズ船に乗っていると、船に帰ることは家に帰るとこと同じという感覚になる。朝起きるとそこに違う国の違う町がある。
世界遺産が向こうからやってくる、海外クルーズは究極の贅沢旅行
「旅行読売」に毎月連載されていたもの+若干の書き下ろし。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
一見たわいもない話だが、気取らず、気楽な語り口で、楽しめる。世代的に共感できる話も多い。ただ、強力に推薦したいという本ではなく、「いいね」程度なので、三つ星。
玉村さんの本は久しぶりだが、大変なことをやっているのにご本人はまったく自慢しない。ご本人の人柄が出ていて、好ましい本になっている。
ワイナリーの話もでてくるが、開設から3年目に洞爺湖サミットで提供されるワインを作り、5年目で国内コンクール金賞を受賞したのに、それをうかがわせる自慢話はまったく出てこない。
玉村さんの絵も、箱根にあった美術館を見に行ったことがあったが、なかなか美しい花や植物の絵が並んでいた。素人芸ではなかった。もっとも、お父さんが日本画家だったからその影響もあるのだろう。
玉村豊男(たまむら・とよお)
1945年東京都杉並区西荻窪生まれ。東京大学文学部仏文学科卒。在学中パリ大学言語学研究所留学。
通訳、翻訳業などを経て文筆業へ。
1991年より長野県小県郡東部町(現東御市)在住。
絵画制作のほか、西洋野菜やワイン用ブドウを栽培し、ワインの醸造を営む。
『パリ・旅の雑学ノート』『料理の四面体』『食客旅行』『晴耕雨読ときどきワイン』他多数
作家であり、長野でワインづくり