hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」を読む

2010年04月30日 | 読書2


三浦しをん著「まほろ駅前多田便利軒」文春文庫、2009年1月、文藝春秋発行を読んだ。

家族をなくした中年の多田は、東京のはずれのまほろ市の駅前で便利屋を営んでいる。そこに高校時代の同級生で、感受性が失われたかのような行天がころがりこむ。犬の飼い主探し、小学生の塾の送迎などの仕事のはずが、どこか奇妙な依頼で、きな臭い状況に巻き込まれる。個性的な人達が,不器用に生きる6編の短編集。直木賞受賞作。

マンガが目に浮かぶ個性の強いクサイキャラクター設定とゆる~いストーリー展開で楽しく読める。いじけ過ぎだが、人のよい多田にはついていけるが、行天は謎が多く、思わぬ行動にでるので驚かされる。

物語の舞台となっている「まほろ市」は、神奈川へ張り出した東京都南西部最大の街で、東京に住む人なら町田市とすぐわかる。著者が在住しており、いくつも心当たりの場所がでてくる。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

確かに、そして文句なしに面白いのだが、これが直木賞?という感じはする。文章も抵抗なく読めるし、話の展開はうまく、次へ次へとつい読んでしまう。行天が多少極端すぎるが、登場人物のキャラも立っている。しかし、多田や行天の抱える傷、秘密が特に重いとは考えられず、軽るーい小説に感じられる。もちろん軽くてもけっこうなのだが、それならいっそうさわやかに、軽やかであって欲しい。

いくつか気に入ったところを2つだけ、つまみ出す。

「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはない」

「はる(娘)のおかげで、私たちははじめて知ることができました。愛情というものは与えるものではなく、愛したいと感じる気持ちを、相手からもらうことをいうのだと」


三浦しをんの略歴と既読本リスト





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「孫の力」を読む

2010年04月25日 | 読書2

島泰三著「孫の力-誰もしたことのない観察の記録」中公新書2039、2010年1月、中央公論新社発行を読んだ。

アイアイというマダガスカルにしかいないサルの研究者が書いた自分の孫娘、近くに住む娘の子、が生まれてから一年生になるまでの観察記録だ。ジジバカの心で、サル研究者の目で、観察した孫の記録は「誰もしたことのない」かどうかは別にして、貴重なものだ。生後まもない頃の赤ん坊のサルとの比較もあるが、言葉をしゃべるようになってからの孫との駆け引きが面白い。厳しい環境のなかで野生のサルを観察する鋭い目と、メロメロのジジバカの心での孫の観察は辛抱強く、その心の成長に深く食い入る。



以下、目についた点をいくつか。

孫バカは人間だけらしい。サルの祖母は孫と同時に自分の子供もいるので、孫を特別に扱わない。

赤ん坊を見れば見るほど、可愛さが増してくる(かわいいシナプスができる)。そして、孫から同じくらいの赤ん坊に目がいき、可愛く思う。
参照:「女性は母として生まれるが、男性は親になって始めて幼児の可愛さを知る


4歳過ぎると、克明に記録された孫娘とジイジのやりとりが面白い。
「ジイジきらい」「ジイジないちゃうぞ、そんなこと言うと。泣いてもいいの」「いい」。・・・「ジイジだけ嫌い」とやりとりがある。しかし、大好きなイチゴはジイジしか洗わない。そこで、「ジイジい、イ・チ・ゴ、おねがーい」 孫娘はすでの若い女性という声を出し、しなさえ作って言う。巷にあるという媚びをわが家の茶の間で聞いたジイジは驚く。

保育園に通う孫娘は「お店屋さんごっこ」が大好きだ。ジイジはなんと3時間半も付き合った。10ページ以上も詳細にやりとりが続く。劣悪な環境でのサル観察が専門のジイジにはなんということもない。わがままな孫娘になんとか抵抗するジイジの苦しくも、実際は楽しくてしかたない様子が浮かび上がる。両親や祖母とはおとなしく従順に遊んでいるようだから、孫娘にとって、抵抗し、しかもときどきからかうようなことをいうジイジは生意気な弟のようなものなのだろうか。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

子育てがこれからの人、孫のめんどうを見ることになりそうな人にはお勧めだ。とくに、初孫誕生2週間の私にとっては。そして、子どもの育児に参加しなかったジイジには必見だ。いや、私は違いますよ。私はジイジではなく、グランパーですから。

それにしても、1、2歳はしつこく同じ遊びをせがむから楽しいのは10分だし、3歳過ぎて反抗期になったらこちらがキレそうだ。いずれにしても、たまにくる孫は可愛くてたまらないだろう。



島 泰三
1946年、山口県下関市生まれ。下関西高等学校、東京大学理学部人類学科卒業。東京大学理学部大学院を経て、78年に(財)日本野生生物研究センターを設立し、ニホンザルをはじめ野生動物の研究をおこなう。その後、房総自然博物館館長、雑誌『にほんざる』編集長、天然記念物ニホンザルの生息地保護管理調査団(高宕山、臥牛山)主任調査員、国際協力事業団マダガスカル国派遣専門家(霊長類学指導)等を経て、現在、NGO日本アイアイファンド代表
日本アイアイ・ファンド」の「ごあいさつ」に島さんの髭面の写真がある。



以下、育児無知の私自身のための個人的記録なので、無視してけっこうだ。

生後3ヶ月
「生まれてすぐの時期に必要なのは、なにより皮膚接触だといわれている」 皮膚は神経系と同じ起源(外胚葉 がいはいよう)で、単に覆いではなく脳につながる神経系の末端だ。

「私が笑いかけると、はじめてはっきり笑った。それは衝撃だった」 その笑いは、大脳生理学によると、人の顔に特異的に向けられた「社会的な笑い」だというが、そんなこととは別に、心に刻まれる人生の灯りだ。

生後4ヶ月
声を長く出すようになった。

半年後
両親がわかり、親が出ていこうとすると泣きそうになり、祖父母を見ると両手をバタバタさせて喜ぶ。

7ヶ月
寝返りをうつことができるようになり、抱き上げると膝の上でピョンピョンと跳ね、支えると立ち始め、歯が生え始める。

10ヶ月
名前を呼ぶと手を挙げる。「バイバイ」も「あたまブンブン」もできる。ほめられて成長する。

11ヶ月
ジイジが空振りの拍手をする。孫は不思議な顔をする。何回かの後で、両手をぶつけて音を出す。孫は大笑し、笑いっぱなしになる。

1歳過ぎ
自分の表情をコントロールできるようになり、笑うだけの心から、人を笑わせるまでに進む。

1歳半
言葉が始まり、道具を使い、鏡を理解する。親しい人に序列がつく。母親、父親、保育士、祖母で、ずっと下がってジイジ。
言葉が始まったら、まもなく止まった。子どもの中で何か再編成されているようだ。思っているのに言葉がでなくてイライラして乱暴になる時期があるという。
両親は必死の言葉を教え込む。祖父母の孫教育は遅れをとる。なにしろ「かわいい」が先にたつ。

2歳
2歳を過ぎると簡単な文章を話すようになる。

2歳半
反抗が始まる。人は、反抗することで人格を形成するやっかいな動物なのだ。

3歳
3歳位の子に、「さあ、オモチャを片付けなさい」と言うと、こどもはとてもいやな気持ちになる。子どもにとって遊びは生きていることと同じことだ。
同じ遊びを繰り返すのでなく、新しい、何か複雑な遊びをしたい。役に立つほんとうのことをしたい。これまでの自分を超える行動をしたくなる。

4歳
お化け屋敷、天狗の面、地震など怖いものに負けたままにならず、なんとか克服しようとする。その現場で孫娘の心の動きの詳細を把握した。自分の心の内側を見る目を持つようになったのだ。子どもがくじけてもなんとか巻き返す様子は雄々しく感動的だ。




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下を向いて歩けば

2010年04月24日 | 散歩

今日は、ネタに困ったときのマンホールネタ。
新横浜の北口へとぼとぼと下を向いて歩いたときのこと。1キロ足らずの距離で幾つかのマンホールの写真を撮った。

まず、下水道のマンホールの鋳鉄ふた。

鋳鉄のふたの上に路面と同じ舗装を施す。デザイン上の他に滑りにくくする利点もある。中央の菱形は横浜市の市章。



鋳鉄のふたの表面も滑り止めの模様が美しい?



歩道上には、中心にカバのマークのふた。



以下は上水道のマンホール。

消火栓は、火事の時にマンホールを開けてホースに給水するためのもので、緊急のときに目立つように派手なものが多い。



仕切弁は水道の工事等でその区間の水を止めるためのバルブがある。中央には、横浜市の市章と水を表す3本線でなるマークがある。横浜市水道局には「はまピョン」というカエルのキャラクターがいるのだが、マンホールのふたでは見たことが無い。



中央下の黄色で目立つ数値は水道管の口径が150mmであることを表している。



SL仕切弁とは何か不明。



空気弁は、空気を出したり入れたりして、水の流れを調節する為のバルブらしい。中央上部に小さな青い噴水マークがある。



横浜開港150周年を記念して作られたベイブリッジマークのSE空気弁。



NTTのマンホールは長方形



新横浜駅前に着いたら、IKEAの送迎バスが止まっていた。バンクーバーでは昼食が安くて人気のようだ。当地ではアケアと発音する。



駅前広場のいかにも一服という場所には、禁煙マークが。





マンホールの管理元は、水道局(仕切弁、消火栓など)、東京ガス東京電力、NTT、CATVなどいろいろだ。

マンホール鉄蓋のメーカー団体に「日本グラウンド マンホール工業会」がある。
下水道マンホールの歴史、企画、デザイン、Q&Aに興味のある方は、そんな人がいればだが、「豆知識」を見ると面白い。



また、「日本マンホール蓋学会」というものがある。といっても、日本各地の物好き(失礼)からのマンホールの写真を載せているだけだが。


安いものは2000円くらいで売っていることもわかった。奥様に怒られなければ2,3購入するのだが。




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林真理子「私のこと、好きだった?」を読む

2010年04月22日 | 読書2

林真理子著「私のこと、好きだった?」2009年12月、光文社発行を読んだ。

光文社のHPにはこうある。

「幸せ」って何?
本当は傷つき、悩みながら、必死にもがいている……
かつて人気アナウンサーだった美季子は、現在、チーフという立場で若い女子アナたちの管理職として日々働いている。
42歳・独身という状況にテレビ局内をはじめとする周囲の反応はさまざまだ。ある日、大学時代の友人・兼一と再会したことで、彼女の心の中に何かしらの波紋が生じる……。
親友の美里と離婚後、再婚して幸せになったはずの兼一に起こるさまざまな問題。そして美里は昔煩った病気が再発して……。
若いころとそれほど変わらないと思っていても、明らかに違う40代。
それでも輝きを失わない40代の真摯な生き方を描く、
林真理子の恋愛文学の「真髄」!



憧れの女子アナの世界が少しだけ垣間見て、学生時代の仲間のその後をたどり、不倫から離婚、再婚の悲劇にさらっと触れて、40代に入って生き方が変わる時期を描いている。話題になりそうなことをなんでも盛り込んでともかくさらりと読ませてしまう林さんに力量。

本書は、「STORY」に2007年7月号から2009年4月号まで連載された作品を単行本化にあたり、修正・加筆したもの。



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

あっちにフラフラ、こっちにフラフラしていて、最後の方で、「本当は誰が好きだった」と言われても、「へえ、そうだったの」というしかない。雑誌連載物だから、3,4ヶ月ごとに盛り上がりをみせる必要があったのではと邪推してしまう。

私なぞは「40になったらもうひたむきな時代は終わった」と思ったものだが、登場人物はそうは考えていないように思える。40過ぎても、まだ真剣な色恋沙汰で大騒ぎ。TVや出版という派手な職場にいるせいなのだろうか。

林さんならもっとTV業界の裏の話が出てくるかと思ったが、ブラウン管(液晶?)を通して見ている世界以上のものは出てこない。林さんの本を最近、8冊も読んでいて、読む側もパターン化してしまっている。

林真理子の略歴と既読本リスト




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伊坂幸太郎「チルドレン」を読む

2010年04月20日 | 読書2

伊坂幸太郎著「チルドレン」2004年5月、講談社発行を読んだ。

作品ごとに語り手が異なるが、5編の短編すべてに主人公ともいうべき「陣内」が登場する連作短編集。「陣内」は、なんでもかんでも強引に決め付け、唯我独尊で無茶苦茶な論理を振りかざし、周囲にウンザリされるが、結局自分のペースに引き込む。騒々しく、思いも掛けない見当違いな行動をとるが、うわべにとらわれず本質をえぐることになる。


「バンク」:銀行強盗の現場に出くわし、鴨居、陣内、永瀬の3人が出会う。盲目の永瀬は冷静に分析し、陣内はハチャメチャぶりを発揮。

「チルドレン」:その後何年か経って、陣内は家庭裁判所の少年事件担当の調査官になる。後輩の武藤は陣内の助け、じゃま?を受けながら非行少年の審判、更生指導にあたるが。

「レトリーバー」:陣内が自信満々でプロポーズする。そして、彼は言う。

「そう。トルーマン・カポーティ。彼の小説にさ、こんなことが書いてある。『あらゆるものごとのなかで一番悲しいのは、個人のことなどおかまいなしに世界が動いていることだ。もし誰かが恋人と別れたら、世界は彼のために動くのをやめるべきだ』ってさ」
そして、今この場所の時間が止まっていると彼は主張する??



「チルドレンⅡ」:陣内が試験観察処置とした少年の父親は、職場でも家でもペコペコし、母親はしじゅう外泊する。陣内は「俺たちは奇跡を起こすんだ」と叫び、結局・・・。

「イン」:目の見えない永瀬が語り手となり、音や風など雰囲気から多くのことを感じ取る様子が描かれる。


初出は「小説現代」2002年4月から2004年3月にかけて。また、すでに講談社で文庫化されている。
なお、本作品は2006年5月にWOWOWでTVドラマ化され、劇場公開もされた。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

「バンク」「チルドレン」「チルドレンⅡ」などは、キャラは立っているのだが、ミステリーとしての筋立てはちょっと強引で無理が目立つ。舞城王太郎などヤングアダルト系?の最近のミステリー作家には共通の傾向と思える。

陣内は何でもかんでも断定し、それが誤っていても、間違いを認めない。(私も似たところあるので共感)
陣内は、「カラスは黒いだけなんだ。白いカラスなどいるわけない。絶対に」と断定した。その後、白いカラスの写真を突きつけられて、言った。「それは白じゃない。薄い黒だ」
かって私がよく行ったオーストラリアのパースには、街中に白黒まだらのマグパイ(カササギフエガラス)がいた。



伊坂幸太郎&既読本リスト




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浅田次郎「アイム・ファイン!」を読む

2010年04月17日 | 読書2

浅田次郎著「アイム・ファイン!」2010年2月、小学館発行を読んだ。

2002年から2009年までのJAL機内誌「SKYWARD」の旅エッセイ「つばさよつばさ」の単行本化第2弾。(第1弾は単行本や小学館文庫で『つばさよつばさ』として刊行)。
本作も引き続き旅をテーマにした40編の短編集。

なにより、浅田さんのトンデモナイ性格が面白い。半分以上が誇張だとは思うのだが。頼まれると断れない性格で、催しごとの世話役などなんでも引き受けてしまう。洗車の仕上げは綿棒を使う典型的A型気質。



書斎症候群:本に埋もれた6畳の書斎で体中が凝ってしまう浅田さんの悲惨な執筆生活。
アイム・ファイン!:長大なリムジンが空港に迎えに来て、豪華ホテルのスーパースイートの部屋代はタダ。カモとして高待遇を受ける浅田さんは何があっても「アイム・ファイン!」
はげみになる話:30歳前後からのハゲの歴史を語る。ハゲが最近サマになってきたという自虐ネタ。もっとも笑える話。
空飛ぶレタス:JALの機内誌にぴったりの話(冗談です)。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

ともかく笑える。「浅田次郎って、バカじゃん!」と優越感を持って笑える。ほんとうにこれほどおっちょこちょいなのかは疑問だが、旺盛な読者へのサービス精神にお応えして、素直に笑ってしまった。



浅田次郎の略歴と既読本リスト






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井の頭公園の桜

2010年04月14日 | 行楽

すっかりアップするのを忘れてしまった。今ごろ、4月6日の井の頭公園の桜情報のお届け。


平日の昼間だが、シートが一面に引き詰められて、桜吹雪きの中でお花見。


七井橋の西側にはほとんど桜はない。



東側はボートが一杯。ここでボートに乗った恋人は別れるという話もなんのその、どのボートもアベック(古語?)だらけ。



両岸の桜が池にせり出して覆いかぶさっている。





神田川の源流となるひょうたん橋からはすぐ近くの桜を楽しめる。







数日後、強風で散った桜の花びらが池一面に広がり桃色の絨毯となった、と新聞で読んだ。


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柴田元幸「バレンタイン」を読む

2010年04月13日 | 読書2

柴田元幸著「バレンタイン」2006年6月、新書館発行を読んだ。

版元の新書館のHPにはこうある。

話題の『翻訳教室』の著者として、また、オースター、ミルハウザー、ダイベック、パワーズ、ブラウンそのほか、アメリカ現代小説の紹介者、翻訳者として、さらには講談社エッセイ賞を受賞した名エッセイストとして知られる柴田元幸が、ついに小説家になってしまった! 本人は、エッセイがいつのまにか小説になってしまったなどと言っているけれど、そしてそんな流儀は、内田百間、吉田健一など、例がないわけではないけれど、ふうむ、これは、日本の小説にはちょいと例がないのではないかな、という短篇がぎっしり!


小説はこう始まる。
路地へ入っていくと、小学生の男の子が目の前を歩いているのが見えて、参ったな、と君は思う。参ったな、あれは僕じゃないか、と君は思う。・・・


昔の自分に会って、昔の街を歩く。そんなふうになにげなく過去の世界に入って行くという小説でありながら、エッセイ的な短篇集。

バレンタイン」:生まれた街を歩いていた彼が少年の頃の自分に出くわす。
期限切れ景品点数再生センター」:家を整理したら40年前のグリコの点数が出てきた。
妻を直す」:奥さんがついに壊れ、組み立て直す。
ケンブリッジ・サーカス」:現在の自分が、イギリス留学時代の自分を眺めながら、安食堂に入っていたら変っていた人生を夢想する。
その他、10編。

初出は、「大航海」の2001年から2005年にかけて掲載された8編、その他2編で、初活字化が4編。



私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読めば)

懐かしくて奇妙なくせに、やけに自然にも感じられる何か不思議な味のする小説だ。私は柴田さんのファンだから最後まで読んだが、多くの人は、少年の頃の自分など幻に出逢うという同じような話にあきるかもしれない。

父母や、奥さんについて同じ話が何回か出てくるが、いかにも事実らしく思える。どうも、エッセイの中に空想を持ち込んで小説にしたように見える。そのことで、柴田ファンにとっては興味半分でも楽しめるとは思う。

柴田元幸(しばた もとゆき)は、1954年東京生まれ。東京大学大学院教授、専攻現代アメリカ文学。翻訳者。訳書は、ポール・オースターの主要作品、レベッカ・ブラウン『体の贈り物』など多数。著書に『アメリカン・ナルシス』『それは私です』など。『生半可な学者』は講談社エッセイ賞を受賞。村上春樹さんと翻訳を通してお友達でもある。




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川上弘美「これでよろしくて?」を読む

2010年04月11日 | 読書2

川上弘美著「これでよろしくて?」2009年9月、中央公論新社発行を読んだ。

主人公の上原菜月(なつき)は、38歳の主婦。夫・光との結婚生活は7年になろうとし、子供はいない。ある日、元彼の母親に声をかけられ、一緒にお茶を飲むことになった。彼女が、「ねえ、菜月さん、わたしの入ってる会に、一緒に来てみない」と出したカードには、「これでよろしくて? 同好会」と書かれていた。
年代も様々な正体不明の4人の女たちとともに、日常生活上の問題について、大まじめに論じ合うことになる。

">「あらたにす」の「著者に聞く」で、川上弘美さんは言う。

「ガールズトーク」とは女同士の話は有益な情報の交換の場でもあるし、一種の動物の毛づくろい的な儀式でもあるんです。そんな意味があるような、ないような会話をかわすうちに、日々の仕事や家庭のあつれきでむすばれていた気持ちが柔らかくほどけてくる。それが「ガールズトーク」のよろしさなんだと思うんです。

この小説は、女の人たちの最も日常的なあれこれをすくい取るようなものにしたいなあと思いました。悩ましいこともあれば、愉快なこともある、そんな日常をいきいきと描ければいいなあと思ったんです。
 そのためには具体的なエピソードが欲しくて、編集者の女の子たちの協力を得て、ちょっと笑える話、へんな話、不思議なエピソードなどを集めてもらったりもしました。



議題例は以下。
「社会人の息子の部屋を訪れたら、彼の友人がいて見知らぬ女の子と寝ていた場合、どういう態度をとるべきでしょうか」
「何が終わったあとで、どのタイミングで、どうやって下着を再び身体につけるか」
「義理の母の独り暮らしの家に、夫と2人で帰省しました。お風呂に入る順番は、どうすればいいでしょう」

女性なら、「あるある!」と思うだろう、こんな話も出てくる。
「”女の子声”の使用期限はいつまでか?」、「どうしていつも、財布は太ってしまうのか?」、「”いざという時のカレー頼み”はどのくらいの頻度で許されるのか?」などなど、



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)



ようするに、まじめな井戸端会議の様子と、菜月の義母との関係、いや夫と義母との関係など家族の悩みに関する話ですべてが終わる。ただそれだけなのだが、男性たる私も300ページを超えるこの本を一気に読んでしまった。

冒頭、「スーパーマーケット丸鷹からほぼ毎回のぞく小店の並ぶ大きな楕円形の道筋」がいつも決まり切っているので、まるで主婦のけもの道のようだと、「買いもの道」と心の中でそう呼んでいると出てくる。それだけで、菜月のなにか物足りない日常がわかってしまう。

菜月が機嫌の悪い夫に対応する「おうむがえし法」が出てくる。夫が「傘をなくしちゃって」といえば、「なくしちゃったんだ」と話した語尾を繰り返して話す方法だ。これがいつもは効果あるのだが、頭に来ることを言われて、ついとんがった声で返してしまうのが、笑える

結婚して2年ほどたって勤めていた会社の先輩にあった。どちらかと言えば地味な人だったのに、思ったよりも垢抜けていた。菜月は気付く、「会社をやめて私はゆるんだのだ。私の方が遅れてしまったのだ」。
しかし、私に言わせれば、最近の、ということは30年ほど前からだが、奥さんは、娘さんと見分けがつかない。昔は結婚したら、奥さんとはっきりわかる様子になり、子どもができたら、いかにもお母さんという格好になったものだ。



川上弘美の略歴と既読本リスト



以下の「作家の読書道」には私の馴染みの店がポンポン出てくる。川上弘美さんは三鷹在住で、吉祥寺にも出没するらしい。そういえば、武蔵野中央図書館に川上さんのと思われる寄贈本があった。

―― 本屋さんへはどれくらいの頻度で行かれますか?
川上 : 街に出た時は必ず、よりますね。おかず買いにとか、買い物には毎日でますけど。三鷹とか、吉祥寺などには2日に一度ぐらい。三鷹なら駅ビルの中の本屋。吉祥寺なら、パルコブックセンター、弘栄堂、ルーエなど。ここらへんは1週間に一度は覗きます。
吉祥寺近辺には古本屋さんも多くて。三鷹にもマンガの古本屋さんがあるし、西荻にも不思議なお店もあるし。吉祥寺ではブックステーションって大きい中古本屋さんや、三角堂とか、サンロードの中の2軒とか、サンロード抜けた所の五日市道路沿いのお店と。前を通れば、本屋の前の台もチェックします。



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米澤穂信「犬はどこだ」を読む

2010年04月08日 | 読書2

エリート街道まっしぐらだった主人公・紺屋は、ストレスから皮膚病になり銀行員を辞めて故郷の八保市に戻る。犬探し専門の調査事務所〈紺屋S&R〉を始めるが、飛び込んできた依頼は失踪人捜しと古文書の解読だった。
高校の後輩で押しかけて助手になったヤル気満々のハンペーこと半田平吉とともに調査を開始した。
いやいや探偵する紺屋と、憧れの探偵になって気分はすっかりハードボイルドのハンペーとのギャップが笑える。ネット仲間のGENとのチャットも青春小説、新人作家を感じさせる。

意外な結果は、すっきりしないが、納得はできる。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

米澤穂信は一冊読んだだけだが、舞城王太郎のようなヤングアダルト出身の新時代作家を感じさせる。ただ、会話主体で話が進むこともあり、冗長。もっと全体をすっきりさせて、マンガチックなドタバタ感の連続を避け、さわやかなユーモアを感じさせないと、伊坂幸太郎にはなれない。



米澤穂信は、1978年岐阜県生れ。金沢大学文学部卒後、書店員をしながら執筆を続ける。2001年、『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞してデビュー。「このミスミステリーがすごい!』の2010年版では、作家別投票第1位にランクイン。主な著作は『さよなら妖精』『クドリャフカの順番』『春期限定いちごタルト事件』『犬はどこだ』『ボトルネック』『インシテミル』『儚い羊たちの祝宴』など。

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10年前の妄想-モバイルトイレ

2010年04月06日 | 個人的記録
部屋を整理していたら、2000年7月に書いた紙が出てきた。当時、私が開発に関わっていた公衆電話は、驚異的に普及しはじめた携帯電話に追いまくられていた。精一杯携帯電にケチをつけようと、負け惜しみで書いたのが、この妄想だ。



2010年、ますます病的に潔癖となった若者の間でモバイルトイレがはやっている。出先で使用する携帯トイレのことで、局部に当てて利用すると、粉末化して水分を蒸発させ残存物を微細化し、カセットに収める。最初は大きくて、いったいだれが使うのかと言われたが、学校でトイレに行けない生徒が自宅から持ち込み、陰でこそこそ利用していた。

しかし、あっという間に機器が小さくなり、ちょっとかがんでスカートやズボンに手を差し入れる格好が「いいじゃない」ということになり、からかっていたマスコミも煽るような記事を書くようになった。

一方、公衆トイレは汚い、古い、ダサイと敬遠され、利用者が減り、邪魔にされ撤去されるものも出てきた。そうなると、イメージはますます低下し、手入れもされず、汚くもなって利用し難くなった。

流行を引っ張っていると思い込んでいる若者の中には電車の中で、着替えて、化粧して、モバイルトイレを利用するしまつ。機器は驚異的に進歩したが、においと音が多少もれるのはいかんともし難く、さすがに大人たちから非難の声があがり、「お客さまの迷惑になりますので、車内でのご利用はお控えください」と車内放送するようになった。
車を運転中に利用したことが原因の事故が増えたことから、運転中のモバイルトイレの利用は減点となる施行令がだされ、流行に多少のブレーキをかける動きもでてきた。

また、高齢者から公衆トイレが汚くて利用できないとの声があがり、マスコミの論調も「公衆トイレは皆で使うので本来経済的で、エコロジーにかなう。個々人がモバイルトイレを購入し持ち運ぶより共同利用の公衆トイレに金をかけてきれいに保つべき」と変化してきた。

公的資金が公共性の高い駅の公衆トイレに導入され、壁面の環境スクリーン、音楽、さらにトイレに座れば、血圧から排泄物分析による健康診断結果が表示されるなどリラクゼーションセンターとして復活してきた。
そうなると皆で使うものだからきれいに気持ちよく使おうという動きがでてきた。ちょっとした汚れは紙を落として足でぬぐうなど、使う前よりわずかでもきれいにすると、どんどんきれいになってきた。

モバイルトイレは目立たぬところで相変わらず利用され、”なに”多少不安のあるお年寄りも利用するようになり、社会生活に定着した。そして、公衆電話、おっっと違った、公衆トイレとのすみわけがなされるようになった。
以上



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浅川マキ「幻の男たち」を読む

2010年04月04日 | 読書2
浅川マキ著「幻の男たち」1985年6月、講談社発行を読んだ。今年1月、突然講演先でなくなったマキさんを偲んで、古い本を読んでみた。

浅川マキがお付き合いのあった男性ミュージシャン、プロデューサー数人について語ったエッセイ8編からなる。
変人のミュージシャンについて、アンダーグラウンドの女王、こだわりの浅川マキが語るので、平凡極まりない私からすればとんでもない世界の翔んでいる話なので、よく分からないことが多い。おまけに、話があちこちに飛ぶし、男女のプライバシーへの配慮があるのだろう、何が何だか判然としないことも多い。

お酒とタバコと薬にまみれ、どうしようもない厚化粧して田舎のキャバレー回りの貧乏暮らしの中で、暗く、沈み込んで、しかし筋を曲げずに諦めきったマキさんの姿が浮かぶ。

歌手と演奏者の関係は、ときには、男と女のようなものかも知れない。優れた演奏者ほど、歌手をサポートするだけでは満足しない。故意にではなくて、歌手がはみ出してしまったり、どこか強くないとおもしろくはないらしい。


通常の場合は歌手の方が圧倒的に強いと思うのだが、男と女の関係と似ていると言われても??

ジャズ歌手の伴奏をしていたピアノ弾きが、そのまま寝てしまったり、ドアから出て行ってしまう。どうしようもないが、才能溢れる男たちが登場し、マキさんがまともに見える。



私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)

浅川マキのファンはすでの読んだか、読みたいだろうが、もともと浅川マキの名前を知っている人はそう多くないだろう。

ときどき誰のことを言っているのかわからなくなるところがある。プライバシーへの配慮もあるのだろうが、思考の自由さや、感覚的で思わせぶりな文章のためなのだが、それにしても、はっきり言って文章はヘタ。

新しくできた会社の歌手第一号としてマキさんを売り出す話がおかしくなったとき、中年の宣伝担当の男が言う。
「あんた、もう少し、顔さえよければねえ」
最初はまだそんな調子であったので、わたしも苦笑していた。


自分の声をはじめて録音で聞くとき、こんな声ではない筈だ、と感じる。・・・「他の人が自然に聞こえるのに、自分だけが違うように録音されている」・・・そして、ほんとうはわたし自身20年近く経ったいまでも、録音された自分の声に馴染めないでいるのだからと思う。


これは私も最初「自分の声はこんなではない」と思った。自分の声は外から耳に入る音波よりも骨伝導で頭の中を伝わって聞こえる方が強いから、外へ出て行った録音された声とは違うのだと訳は解っているのだが。それにしても、歌手であるマキさんも録音した自分の声に馴染めないとは。



浅川 マキは、1942年1月石川県現白山市生れ。 米軍キャンプやキャバレーなどで歌手として活動を始める。1968年、寺山修司に見出され新宿のアンダー・グラウンド・シアター「蠍座」で初のワンマン公演を三日間に渡り催行、口コミで徐々に知名度が上がる。
2010年1月17日、ライブ公演で愛知県名古屋市に滞在中、宿泊先ホテルで亡くなる。
独自の美意識を貫き「時代に合わせて呼吸をするつもりはない」と言っていたという。

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万華鏡を楽しむ

2010年04月01日 | 趣味
数年前から万華鏡に凝っている。いろいろな万華鏡を買ってきてはボーとのぞいて楽しんでいる。
今のところ一番のお気に入りをご覧あれ。デビット・コーリエ制作のマーベル・アイだ。なにしろ14,700円だ。

ただの筒で、先端に粘性の高い液体が封止してあり、中に鮮やかな色の小さな物体が幾つか入っている。
筒を回すと、液体の中を物体がゆっくり動き、鮮やかな模様がしだいに変化していく。



静止画だが、まずはごらんあれ。





















































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