hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

保坂和志『猫の散歩道』を読む

2011年04月28日 | 読書2
保坂和志著『猫の散歩道』2011年2月中央公論社発行、を読んだ。

保坂さんが異常なほど愛する猫に関する話、大学を出るまで住んでいた鎌倉の思い出、カフカや小島信夫など小説に関して率直に語る。
私などは、保坂さんといえばめんどくさいことをいう作家との印象があったが、あとがきでこう語っている。
私は小説を書けば事件が何も起きず退屈だと言われ、エッセイを書けばまわりくどくて難しくてわからないと言われる。そんなわけで、先日、高校の同窓会で、「今度はじめて、短くて読みやすいエッセイをまとめた本を出すよ。」と言ったら、同級生たちの表情が緩み、「いつ出るんだ」「どこから出るんだ」と訊いて来た。


猫嫌いの(実は犬もちょっと怖い)私には、保坂さんの猫好きは異常に思える。保坂家にいた4匹の猫の話、野良猫に餌を与えたり、雨が降っているからと子猫を生んだ近所の野良猫を心配して探し、一喜一憂する。
(私に言わせれば迷惑行為そのもので、あきれはてる)
「無灯自転車は特に猫に危険で致命傷になる。ついでにいうと、人間の死亡事故も毎年けっこうな数になるらしい。」と、人間は“ついで”らしい。

「今は東京に住んでいるけれど、幼稚園から大学まで住んでいた「鎌倉」が「自分」だという気持ちに変わりはない。」という保坂さん。
川端康成が、近所の本屋で雑誌などを立ち読みするついでに店番の人の目を盗んで自分の本を目立つところに置き換えていたという。つまり目を盗めていなかったのだ。
(人の芯まで見通すようなあのぎょろっとした目で、そんなことしていたと考えるとおかしい)

保坂さんお勧めの作家は、かねて私淑する小島信夫で、池部良や中井久夫の書く物も絶賛している。また、カフカは難解ではなく、軽快で明るく読むべきと主張する。

初出は、日経新聞夕刊「プロムナード」、朝日新聞夕刊「猫の散歩道」など。後者は460字足らずの分量なので、ただ一つのことを述べるだけで、波がなくエッセイとしては物足りない。起承転結とは言わないが、やはりエッセイには、800字程度は必要なのではないだろうか。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)


保坂和志(ほさか かずし)

1956年、山梨県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。
1990年『プレーンソング』でデビュー。
1993年、『草の上の朝食』で野間文芸新人賞
1995年、『この人の閾』で芥川賞
1997年、『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞と平林たい子賞を受賞。
他に『猫に時間の流れる』『残響』『もうひとつの季節』『生きる歓び』『明け方の猫』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』『小説、世界の奏でる音楽』『途方に暮れて、人生論』『「三十歳までなんか生きるな」と思っていた』、小島信夫との共著『小説修業』など。


目次
猫にお正月はあるのか?/茫漠たるものの重要性/風景の力/小さな悲劇のための提案/片づける能力/"反戦"のうそ/春先の風/カフカの読み方/この世界の果てしなさ/中井久夫の文章/荒々しく濃厚な昭和の臭い/物事の基準/「死なないこと」とはどういうことか /読書しない子ども/ただ黙ってそこにいる/母の中の山梨/近所の川端先生/人生の岐路/新入社員の困惑/住む人去った家の中には/風切るライダー犬/雨上がりの世界/海辺育ちの怖い夢/猫に車を止めてもらって/「魂」に触れたとき/季節に触れる驚きが原点/ノスタルジーでない過去/夏はいつも従兄姉がいた【目次より】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

須賀敦子『コルシア書店の仲間たち』を読む

2011年04月25日 | 読書2
須賀敦子著『コルシア書店の仲間たち』白水uブック、2001年10月、白水社発行、を読んだ。

1958年イタリアへ留学した著者は、カトリック左派の思想をベースに共同体の形成をめざすコミュニティの場、ミラノのコルシア書店に仲間として加わる。理想の共同体を夢みた30代の友人たち、設立者のパルチザン上がりの詩人のダヴィデ神父、貧しさから這い上がったインテリ達、裕福な貴族、盗むことがなぜいけないか分からない孤児育ち、ドイツ人と結婚したユダヤ系女性など、書店をめぐる群像と情景を、冷静に、絶妙の距離感をもって、暖かく、しっとりと描いている。

須賀敦子は最後に書く。
コルシア・デイ・セルヴィ書店をめぐって、私たちは、ともするとそれを自分たちが求めている世界そのものであるかのように、あれこれと理想を思い描いた。・・・それぞれの心のなかにある書店が微妙に違っているのを、若い私たちは無視して、いちずに前進しようとした。・・・
若い日に思い描いたコルシア・デイ・セルヴィ書店を徐々に失うことによって、私たちは少しずつ、孤独が、かつて私たちを恐れさせたような荒野でないことを知ったように思う。


構成も斬新だ。30年前のことなのに、昨日のことのように始まる。そして、コルシア書店が何なのか、くわしい説明なしに、書店のパトロンの話から、仲間一人ひとりのエピソードを語り、徐々に全体像が見えてくる。

著者の須賀敦子は、簡潔でテンポ良く、しかも柔らかで気品ある文章で知られる。長年の文学作品の翻訳で鍛えあげられたのだろう。しかし、私には、冷静な観察眼で、距離感を持って、その人の外観、仕草と本質を見抜く力に感心する。そして、もちろんその力は優しさと情熱に裏打ちされたものなのだ。

この作品は1992年文藝春秋より刊行された。文庫本がいくつかの出版社から発行されているようだ。



須賀敦子は1929年(昭和4年)兵庫県に生まれ。
1951年に聖心女子大学文学部を卒業。慶応の大学院を中退し、フランス留学。
1958年にイタリア留学し、1961年、コルシア書店の中心者の一人であるペッピーノ・リッカと結婚する。
1967年に夫は急逝し、1971年日本に帰国。
大学の非常勤講師をしながらイタリア語の翻訳者。
上智大学の助教授、教授となる。
1990年『ミラノ 霧の風景 』を刊行、翌年女流文学賞、講談社エッセイ賞受賞。
本書を含め全部で5冊の単行本を出版。翻訳は6冊ほど。
1998年癌により死去。享年69歳。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

須賀敦子が『ミラノ 霧の風景』を書いたとき、61歳になっていた。関川夏央は「須賀敦子はほとんど登場した瞬間から大家であった」と評している。長年ある分野ですばらしい仕事を続けながら、広く世に知られることがない女性はいろいろなところにいるのだろう。私たちは、わずか5冊でも彼女の本を読むことができ、そして彼女を知ることができて幸運なのだ。

情熱の結末を知ってしまって、しかも思い出に変わった30年前のことを書いているからだろうか、過ぎ去った熱き青春が透明感を持って、そして全体に哀切がただよって語られている。



読みながら、半世紀前、私が加わっていたボランティア団体を思い出していた。小さな名もない団体ながら、10年以上に渡る活動の中で、極めて優秀な幾人か集まり理想と情熱に燃えて興隆していく前期、社会の動きに刺激されて過激化の中期、活動の停滞化とメンバーが各自の道を進んでいく後期、そして年一回の同窓会的行動のみの事実上の終焉。今、あの時を思い出すことは、いらだち多かった若き私への鎮魂歌なのだ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

尾崎左永子『王朝文学の楽しみ』を読む

2011年04月23日 | 読書2
尾崎左永子著『王朝文学の楽しみ』岩波新書1294、2011年2月、岩波書店発行、を読んだ。

著者のいう「王朝文学」とは、古今和歌集から新古今和歌集まで約300年間に宮廷の貴族たちが作り出した歌集、歌物語、女流日記などのことだ。『源氏物語』『枕草子』『伊勢物語』などの本当の面白さは教科書に採用されぬ部分にある、と著者は言う。

第1章 王朝文学、二つの柱
「かな」が発達して女たちも文字を手にして女流文学隆盛となった。また、四季に関わる美意識が万葉集から受け継がれている。

第2章 『古今和歌集』の出現
醍醐天皇の撰定の勅令には「漢詩(からうた)」から「和歌(やまとうた)」への意図がある。
漢字は「真名(まな)」、「男文字」で正式の字。「仮名(かりな、かな)」は「女文字」で仮の字。

第3章 日記文学の面白さ
蜻蛉日記:美貌と才気あり、嫉妬深く情の強い道綱母の私小説的自叙伝
和泉式部日記:帥宮(そちのみや)敦道親王たちとの恋歌のやりとり

第4章 歌から物語へ
染織、工芸、薫香、かな書法など王朝文化が最も上り坂のときに、犀利な観察、比較、緻密な価値判断を持つ紫式部が出会い、源氏物語が生まれた。
紫式部は歌人として巧いとはいえない。ある種巧みではあるが、創作者としての勢いに欠ける。

第5章 暮らしの背景―王朝文学理解のために
当時は尼さんになるといっても頭を剃るわけではなく、黒髪をばっさり切るだけ。現代の女性は当時の尼さんと同じ。
「よばい」とは「夜這い」つまり「夜、男が女のもとへこっそり忍んで行くこと」と思っていた。著者によれが、もともとの意味は「呼ばひ」すなわち「呼び続けること」から「言い寄ること」「求婚すること」になったらしい。

第6章 紫式部と清少納言
第7章 『新古今和歌集』―王朝文学の終焉
後鳥羽院は生命をかけても守るべき王朝文化、新古今集に命をかけた。
時代の流れが戦乱と共に激しくなればなるほど、歌の上ではつよい意思やたのもしい生き方などは片鱗もみえなくなる・・・武力が世を席巻していけばいくほど、王朝貴族の誇りは、幻想のなかに人の心を生き延びさせようとする。それは現実回避の後ろ向きの姿勢というよりも、武力を頼む奴等には決してこの楼閣を侵させない、という意思に満ちているようにみえる。




尾崎左永子(おざき・さえこ)
歌人、エッセイスト。1927年、東京に生まれ。東京女子大学文学部国語科卒。
1957年、歌集『さるびあ街』。歌集多数。
著書は、『源氏の恋文』、『源氏の薫り』、『新訳源氏物語(全4巻)』、『尾崎左永子の語る 百人一首の世界』など。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

歌人である著者は、王朝文学の楽しみ方を、さまざまな面から語っている。学者でないからこそ、わかりやすいし、著者自身の感動が伝わってくる。正岡子規は「貫之は下手な歌よみにて、『古今集』はくだらぬ集にこれありそうろう」といい、一般にも『新古今集』は技巧におぼれ、定型化で自然さが失われていると言われていると思う。しかし、著者は、これに反対している。著者は、雅の心、歌の技、古今の歌の知識を楽しんでいるように見える。私はやはり、天皇から庶民まで幅広い万葉集が、おおらかさ、生活や地面の匂いのする点でより好きだ。



コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

遠くまで散歩

2011年04月21日 | 日記
神田川沿いを歩いた。
久我山あたりで、川べりに立つ里(程?)標を見つけた。「みなもと12.0キロ、すみだがわ122.5キロ」とある。





しばらく歩き、石屋さんの前に「さざれ石」が展示されていた。



石灰岩の小石が固まってできたのがさざれ石のようだ。あのかったるい国歌には、「さざれ石が巌となりて」とあった。


別の日の散歩中に塀からやたら大きいレモン?がぶら下がっていた。




紅白混じり合うツバキはときどき見かける。



紅白密着した桜は珍しい。



と思ったら、一本の木だった。




生垣に「保存生垣、 樹種 サワラ、 延長 16m」との看板があった。



保存樹はときどき見かけるが、生垣は珍しい。魚のサワラは知っているが、木にもサワラがあり、ヒノキに似ているものらしい。しかし、この生垣、どうみても16mはない。




帰りがけ、2台の白バイを見た。



昔、交差点をもう黄色から赤になっていたのに突っ込んで行って、横から発進して来た白バイを跳ねそうになったことを思い出した。スピード違反などで捕まると、さんざんああだこうだと文句を言ってからサインするのに、あの時は、あっさり非をみとめてサインした。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

西村賢太『瘡瘢旅行』を読む

2011年04月17日 | 読書2
西村賢太著『瘡瘢旅行』2009年8月、講談社発行、を読んだ。

著者の今年の芥川賞受賞作『苦役列車』を図書館で予約したが、待ち行列があまりにも長い。現代の破滅型作家という著者に興味があったので、この本を読んでみることにした。

中卒、フリーターで前科者、友達ゼロという著者が、短気、小心、乱暴、好色、酒乱で猜疑心が強い主人公の破滅的生活を私小説として描く。

「疾病かかえて」は、ようやく出来た人の良い彼女、秋恵を貫多は大切に思ってはいるのだが、学生時代の女友達にたびたび金を貸しているのを知り、短気、嫉妬、乱暴心が湧き出す話。

「瘡瘢旅行」は、岐阜の古本屋に彼女と古書を求める旅に行く話。主人公は、そして著者自身も、藤澤清造というあまり有名でない私小説作家に入れ込んでいて、その全集を出版することを夢見ている。今まで知られていなかった彼の作品が載った雑誌がオークションに出品されるのを知り、何とか確実に手に入れようと、あの手この手を労する話で、これに妙にやさしい彼女がからむ。

「膿汁の流れ」は、秋恵の祖母が入院し、見舞いに行きたい彼女に貫多はまったく思いやりをみせない。結局、実家に帰ることになるが、彼はその間に好き勝手する話。

初出:「群像」2008年11月号、2009年4月号、6月号



西村賢太
1967年7月、東京都江戸川区生まれ。町田市立中学卒。
2006年『どうせ死ぬ身の一踊り』で芥川賞候補、三島由紀夫書候補、『一夜』で川端康成文学賞候補
2007年『暗渠の宿』で野間文芸新人賞
2008年『小銭をかぞえる』で芥川賞候補
2011年『苦役列車』で芥川賞受賞
その他、、『二度はゆけぬ町の地図』、

著者の父親が強盗強姦事件を起こしたことも事実だし、自堕落な生活ぶりや、逮捕されたこともある。一方では、藤澤清造の没後弟子を自称し、藤澤清造全集(全5巻、別巻2)の個人編集を手掛けてもいて、石川県七尾市の清造の菩提寺に祥月命日に墓参を欠かさない。このあたりも作品にそのまま登場する。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

近年では珍しい破滅型の私小説で、面白く読んだ。いずれの話でも、主人公は身勝手な理由で彼女に理不尽な行いをするのだが、彼女に去られては困るので、なんのかのと、人の良さにつけ込んで、彼女を脅したり、なだめたりする。この駆け引きが面白い。DV男の乱暴行為の後のやさしさにひかれて別れられないという女性を思い出す。

多くの女性にはもっとも毛嫌いされる、むさくるしく乱暴な男性の話なので、一般受けはしないだろう。

この著者はやたらと難しい漢字と硬い文章を繰り出す。
題名の「瘡瘢」とは、「そうはん」と読み、「きずのあと」のことと辞書をひいて解った。冒頭から、「穢悪」(えあく)など私には意味の分からない言葉や、
それが昂じた末には威迫めいたことも口走り、すでに手を上げる仕儀に及んだことも幾度かあった。

など生硬、古典的?な文章が続出する。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パトリック・ジュースキント『香水』を読む

2011年04月15日 | 読書2
パトリック・ジュースキント著、池内紀訳『香水 ある人殺しの物語』文春文庫、2003年6月、文藝春秋発行、を読んだ。

全世界1500万部という桁外れのの大ベストセラー。

18世紀のフランス・パリは汚物にまみれ、至るところに悪臭が立ちこめていた。とくにフェール街とフェロヌリー街とのあいだの一角には数百年にわたって死体が送りこまれていた。そこに、まったく体臭のない男グルヌイエが生まれた。彼は図抜けて鋭い嗅覚を持っていて、木々や草花や食品をくんくん嗅いで、匂いのボキャブラリーを増加させていき、何でも匂いを嗅げば、その匂いの基になっているものとその量を分析してしまうことが出来た。

恐ろしくグロテスクな人々が多く登場し、中でも奇人の主人公は、どんな苦労も物ともせず、お金や地位には目もくれず、至高の芳香を放つ美少女を求めて殺人を繰り返す。ありとあらゆる汚泥、疫病、犯罪、そして悪臭に満ち溢れるパリと登場人物。一方では彼が作り出す人を陶然とさせる香水。
彼は、香水調合師のもとで徒弟として短期間働いただけで、香水を嗅げば直ちにその成分、分量を簡単に知ることができるようになる。そして、究極の香水を作り出すために少女を求めて行くのだ。彼によれば、顔や身体が美しいという美女は、実はその魅力の秘密は外形の美しさにあるのではなく、唯一そのたぐいまれな匂いのせいだということをみんな知らないのだ。

「パフューム ある人殺しの話Perfume THE STORY OF A MURDER 」ドイツ・フランス・スペイン合作で2006年に映画化された。



パトリック・ジュースキント Patrick Süskind
1949年ドイツ・アムバッハ生まれ。
新聞や雑誌の編集者をしながら書いた戯曲『コントラバス』で注目される。
1985年発表の本作品は、1987年世界幻想文学大賞受賞。全世界1500万部の大ベストセラー。ほかの作品は、『鳩』と『ゾマーさんのこと』だけが発表されているだけ。
一躍有名になったジュースキントは南仏に引きこもってかたくなにプライヴァシーを守っている。

池内紀(いけうち・おさむ)
1940年、姫路市生れ。ドイツ文学者、エッセイスト。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

途中少々飽きが来るが、たしかに変わった小説で、面白い。
美しくしっとりした風景描写、踊るような、あるいは夢見心地な音楽を思わせる小説はあるが、悪臭や得も言われぬ匂いを描いた小説は珍しい。
劣悪な環境で愛情を知らずに育った主人公は、心をもたない残忍な人殺しなのだが、お金や名誉を求めることなく、ただ、理想の匂いを得るために求道的努力を重ねる。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夏川章介『神様のカルテ2』を読む

2011年04月13日 | 読書2

ベストセラーとなった『神様のカルテ』の続編。

舞台は同じく信州にある「24時間・365日対応」の本庄病院。 漱石かぶれで古めかしい言葉遣いの内科医栗原が主人公。激務が続く、医療の最前線に前回も登場の大学同期の豪傑外科医に、今回さらにこれも大学同期の血液内科医が加わる。これに部長の大狸先生、副部長の古狐先生、しっかりものの東海看護師などお馴染みのメンバーと、山岳写真家で心優し栗原の妻のハルなどがからみ、助け合い、励まし合い厳しい医療現場の現実に立ち向かう。

患者の家族からは主治医なら当然と無限の貢献を求められる。しかし、「いつでも病院にいるということはいつでお家族のそばにいないということです」

ケネディ大統領のスピーチ原稿を多く手掛けた特別補佐官セオドア・ソレンソンの言葉「良心に恥じぬということだけが、我々の確かな報酬である」が困難な状況でつぶやかれる。

「内科医には武器がない。外科医や婦人科医のように、いざとなったらメスが出てきて滞った現状を打破してくれることはない。あるのは、ただ病室を訪れる二本の足だけである。」

「医師の話ではない。人間の話をしているのだ。」

大狸先生が言う。「世の中には常識というものがある。その常識を突き崩して理想にばかり走ろうとする青臭い人間が、私は嫌いだ」「しかし、理想すら持たない若者はもっと嫌いだよ」

現実の著者自身も、「あらたにす」の「著者に聞く」でのインタビューを読むと、「TVも新聞も読まないし、最近の小説は読まないので一番 style="margin-left: 40px;">さらに、「午前7時には病院に行き、帰宅は午後11時頃になる。それから食事をしながら酒を飲むのが楽しみ。本を読むのは午前1時頃からですね」
めちゃくちゃな激務のようだ。

神様のカルテ』で小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

作者の初めての小説の前作は、困難な状況のもので、自分を犠牲にして戦う医師の姿をストレートに描いた感動物だった。今回はさらに信州の落ち着いた情景描写、登場する人々の心情なども静かに描かれていて、進歩が見られる。
しかし、出てくる人は皆考えられないほど良い人ばかりで、寝るまもなく、家族を犠牲にして働くあまりにも完全な医師の姿が、私にはちょっとばかり空々しく感じられる。


夏川草介(なつかわ・そうすけ)の略歴と既読本リスト




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

香山リカ『人生の法則』を読む

2011年04月10日 | インポート
香山リカ著『人生の法則-知るだけでココロがラクになる10章』ベスト新書278、KKベストセラーズ2010年5月発行、を読んだ。

表紙の裏にはこうある。
あれほどうらやましく見えたバラ色の物も生活も、手に入れてみれば、とたんに色褪せて見えてくるのは、なぜだろう。
いやいや結婚したはずがないのに、妻がパソコン検索で「夫」の次に入れる言葉で最も多いのが「死んでほしい」だというのは、なぜだろう。
・・・


今までいろいろな本に香山さんが書いてきた、力を抜いて生きようということを、物理法則の形でまとめ直した本だ。
例えば、
<恋愛>自由落下の法則
恋愛の初期値に関係なく、いったん「この人は違うかな」と思ったら、そこからどん底まで落ちる際のスピードというのは、どうあらあまり変わらないようだ。

落下が始まる前に手を打つのは良いが、落ちきったあとでは、「キモチ悪い」と言われるだけだと、多くの男性には絶望的なことを言ってくれる。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

<お仕事>慣性の法則
運動の始まりのところで言えば、とにかくなんとかスタートして軌道に乗せるところが大切で、そのときにムリをして人とは違うスタートを切る必要はまったくない、ということだ。
仕事という次元で考えれば、結局、その職業を選ぶ際の動機とか志とか、あるいは目標というものは大してじゅうようではない、ということではないだろうか。

「自分のやりたいことが見つからない」「やりたい仕事につけない」という若い人の声を聞くことがあるが、やりたい事がはじめから存在する場合はむしろ少ない。ともかく何か仕事をやっていく中で、本当にやりたい事がはっきりしてくることも、その仕事の面白さに目覚めることも多い。また、同じ会社、同じ仕事でもやり方はさまざまあり、自分のやりたい方法でチャレンジできる場合もある。環境も、自分自身もともに変化していく、あるいは変化させていくものだと思う。まあ、大上段に振りかぶらず、取り敢えず一歩だけでも前に進むことが必要だと思う。



映画の試写会で香山が語った

最近つくづく『人生には勝ちも負けもなくて、その人の人生があるだけだな』と思うようになりました。こういう人生がカッコいいとか、勝ち組だとか“成功のモデル”が特定されてしまっているんですけど、社会的に成功している人が病を抱えて診療所にやってきたりするんですね。だから、成功のモデルに合わなくても自分らしい生き方や満ち足りた人生をおくることは可能だと思います。


《目次》
プロローグ――気持ちをラクにしてくれる「人生の法則」
第1章 〈幸福量〉保存の法則
第2章 〈恋愛〉自由落下の法則
第3章 〈不安〉速度不変の法則
第4章 〈健康オタクと不健康〉定比例の法則
第5章 〈お仕事〉慣性の法則
第6章 〈気分〉熱伝導の法則
第7章 〈コミュニケーション〉作用反作用の法則
第8章 〈ネット〉「悪事千里を走る」の法則
第9章 佳人薄命の法則
第10章 盛者必衰の法則

エピローグ――十一番目の法則・「全か無かの法則」にご用心



香山リカは、1960年北海道生まれ。東京医科大学卒。精神科医。立教大学現代心理学部映像身体学科教授。学生時代から雑誌などに寄稿。その後も、臨床経験を生かして、新聞、雑誌などの各メディアで、社会批評、文化批評、書評など幅広く活躍。



私が読んで、感想を書いた著書は、以下8冊だ。もう飽きた。
おとなの男の心理学』 
<雅子さま>はあなたと一緒に泣いている
雅子さまと新型うつ
女はみんな『うつ』になる
精神科医ですがわりと人間が苦手です
親子という病
弱い自分を好きになる本
いまどきの常識
しがみつかない生き方
だましだまし生きるのも悪くない







コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

井の頭公園で花見

2011年04月08日 | 行楽
4月7日(木)に井の頭公園へ花見に行った。










ほぼ満開と言ってよいが、一部の木ではツボミも見える。



昨年は4月6日、一昨年は4月5日に来てほぼ満開だったから、例年通りなのだろう。

池の向こう側の桜の花びらが点々と見える。日本画だと、一片一片描くのだろう。



スケッチしている人もいるが、



カメラを構える人がそこかしこに多い。かく言う私めも。




ちょっと盛を過ぎたかなと思ったが、楽しみにしていた枝垂れ桜がない。




切ってしまったようだ。



なぜ??

七井橋の上では桜より、池の鯉に人気があるようだ。



水鳥と巨大な鯉がエサを争って激しい水音を立てている。






橋から見ると両側の桜が池に張りだして美しいのだが、迫り来る津波にも見えてくるのが哀しい。



平日の午前中ということで、盛大に煙を出す「いせや」も開店していない(自粛?)。



一昨年の4月5日は日曜日だったので、このあたりは渋滞でほとんど前に進めなかった。

東急の地下のアンデルセンへ行って、コーナーのテーブルでパンのお昼とする。”吉祥寺”と焼印が入ったアンパンを頬張る。



金曜日は風が強かったから土日が花見の最後のチャンスだろう。









コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高田郁『小夜しぐれ』を読む

2011年04月06日 | 読書2
高田郁(かおる)著『小夜しぐれ みをつくし料理帖』ハルキ文庫、2011年3月、角川春樹事務所発行を読んだ。
「みをつくし料理帳」シリーズの『八朔の雪』(2009年5月)、『花散らしの雨』(2009年9月)、『想い雲』(2010年3月)、『今朝の春』(2010年9月)につづく第5弾で、ハルキ文庫の書下ろし。

お世話になった大阪の名料理屋の若旦那を見つけ再建するという義、幼馴染の吉原の太夫を助け出すという友情、そして身分の異なる侍への秘めた恋、そしてこれらにからむ江戸の人をあっと驚かす創作料理。主人公のさがり眉の澪(みお)を囲むこころ優しい人たちの出来事がしっとりと控えめに語られる。

第5弾ともなると謎も少しずつ姿を現し始める。若旦那らしき人影も江戸で見かけるし、吉原の謎の大夫も澪の前に一瞬だが姿を現す。恋する侍もその正体が明らかとなり、澪を憎からず思っていることも解る。しかし、なんといっても、庶民が食べられる値段の範囲で、驚きと食べる喜びにあふれた料理を生み出すための天才料理人澪のひたむきな努力の過程が大きな話の流れになっている。巻末付録に、「アサリのお神酒蒸し」、「菜の花飯」、「ニシンの昆布巻き」、「ひとくち宝珠」の具体的レシピが付いている。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

シリーズ累計100万部突破というのだから、面白くないわけがない。さがり眉と呼ばれ、けして美人でない澪がただひたむきに食べてくれる人を思い、贅沢でないが驚きがある料理をつくり続ける。身分の差もあってなかなか成就しない恋、料理メニューも女性読者の気持ちを捉えているのだろう。
この巻だけ読んでも面白いだろうが、5弾読み続けると登場人物に馴染み、親しみがわき、冒頭から楽しめる。ああ、第6弾が待ちどうしい。



高田郁(たかだ・かおる)は兵庫県宝塚市生れ。中央大学法学部卒。
1993年、川富士立夏の名前で漫画原作者としてデビュー。
2006年、短編「志乃の桜」で北区 内田康夫ミステリー文学賞区長賞受賞。
2007年、短編「出世花」で小説NON短編時代小説賞奨励賞受賞。
2009年、『みをつくし料理帖』シリーズ第1弾の「八朔の雪」は、「歴史・時代小説ベスト10」、「最高に面白い本大賞!文庫・時代部門」、「R-40本屋さん大賞第一位」を獲得。

その他、2010年『銀二貫』『みをつくし料理帖シリーズ第4弾の「今朝の春」






取材で知り合って以来友人だという毎日放送アナウンサーの水野晶子が『銀二貫』に書いている解説を再び引用する。

高田郁は非効率の人である。(中略)
まず、彼女は作品に登場する料理を全部、自分で作ってみる。それも一度や二度ではなく何週間も作り続け、納得のいく一品ができたからでないと執筆しない。
(中略)
「銀二貫」のときは、いつ電話しても「今、寒天をふやかしてるねん」とか「小豆を炊いてるねん」とか嬉しそうに話していた。
(中略)
料理だけではない。メールで「今、どこ?」と尋ねると、多くは図書館にいる。歴史資料を探るために大阪の図書館は勿論のこと、東京の国会図書館に籠っている時間が長いようだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『さくら色 オカンの嫁入り』を読む

2011年04月04日 | 読書2
咲乃月音著『さくら色 オカンの嫁入り』宝島社文庫457、2009年9月宝島社発行、を読んだ。

本書は2008年6月宝島社より刊行した単行本『オカンの嫁入り』を改訂したもの。
第3回『日本ラブストーリー大賞』ニフティ/ココログ賞受賞作。宮崎あおいと大竹しのぶで映画化し2010年9月4日公開。舞台化も。映画公開にあわせ続編『ゆうやけ色 オカンの嫁入り・その後』も発行。

女手ひとつで娘を育て上げた看護師・陽子と、その娘・月子。ある晩、酔っ払った陽子が家にリーゼント姿の男・研二を拾ってくる。ひと回り以上も年下の彼と結婚するつもりらしい。月子はとまどいながらも、捨て男の気さくな人柄と陽子への真摯な思いに母の再婚を受け入れていくが・・・。



咲乃 月音 (さくの つきね)
大阪生まれ。京都外国語大学英米語学科卒業。
1994年より香港在住。外資系金融会社勤務のかたわら、2005年から執筆活動を開始。
2007年、『オカンの嫁入り』で「第3回日本ラブストーリー大賞」のニフティ/ココログ賞を受賞しデビュー。
他『さくら色 オカンの嫁入り』、『ぼくのかみさん』。
家族はアメリカ人の夫とウサギ。
ブログ「お月さんを探して



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

携帯小説並の感動物。どこで感動させるかを考えていくと、途中で結末が読めてしまう。やはり泣かせるには不治の病になるしかないでしょうと。閉じこもりになった彼女は最後には・・・と。

登場する人は全員底知れぬ善人。愛犬が愛嬌者で可愛い。関西弁で全体にテンポがいいし、軽い文章なので、読み易く、通勤の行き帰りで読みきれる。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北欧料理レストランへ

2011年04月02日 | 食べ物
吉祥寺の大正通りにある北欧料理レストラン「ALLT GOTT アルト・ゴット」へ行った。

基本的に夜は出歩かないことにしているので、ランチ目当てだ。今まで予約なしで行って3回ほど休みだったり、満席だったりして断られている。今回も11時に行ったが、11時半からということで、閉まっていた。
付近をブラブラし、たまたま入って若者向けの派手な靴が並ぶ「Dr. Martens」で少しだけある普通の靴を買ってもどるとちょうど開店したところだった。



ランチメニューはA,B,Cとあり、当然一番安いAを注文。





まず、タラコのパテ。



まずまず。
パンは、自家製ライ麦パンと、煎餅のようなクネッケ。



ライ麦パンは最初ちょっと癖があるかなと思ったが、食べだすとおいしくて癖になる。おかわりをいただく。
私は、北欧風ニシンのディルマリネ、自家製マスタードソース。ニシンもソースも上品な味でごきげん。




奥様は、ノルウェー産スモークサーモン。私に回ってこなかったところを見ると美味。



メインには魚を選択し、ドーバー海峡の舌平目のムニエル。



縁がカリカリの舌平目も、ちょっとすっぱいトマトとクリーミーなソーズが絶品で、マイウー。
デザートのプリンと、変わったスウェーデン製カップのコーヒーをゆっくり味わう。





ナイフとフォーク置きもスウェーデン風。



夜もコース3,800円からとそれほど高い店ではないが、しつこくなく、量も少なく我々には最適な店だ。




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする