ジョン・ウィリアムズ著、東江一紀訳『ストーナー』(2014年9月30日作品社発行)を読んだ。
これはただ、ひとりの男が大学に進んで教師になる物語にすぎない。しかし、これほど魅力にあふれた作品は誰も読んだことがないだろう。――トム・ハンクス
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美しい小説……文学を愛する者にとっては得がたい発見となるだろう。――イアン・マキューアン
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『ストーナー』は完璧な小説だ。巧みな語り口、美しい文体、心を深く揺さぶる物語。息を呑むほどの感動が読む人の胸に満ちてくる。――「ニューヨーク・タイムズ」
本書は1965年米国で出版されたが、一部愛好家に支持されただけで著者の死とともにほぼ忘れさられた。
2011年フランスの人気作家アンナ・ガヴァルダが感動し、彼女による訳書が刊行されフランスでベストセラーとなり、近隣諸国に火がついて、アメリカでも人気となった。
主人公があまりにも忍耐強く受動的で、華やかな成功物語を好むアメリカ人には受けなかったのだろう。
(以上布施由紀子(訳者の弟子)による「訳者あとがきに代えて」より抜粋)
なお、訳者・東江一紀は、2014年6月21日、意識の混濁と闘いつつ本書の最後の1ページの翻訳を残して逝去。
主人公のウィリアム・ストーナーは1891年にミズリー州の貧しい農家に生まれ、下宿先の農家の仕事を手伝いながらミズリー大学農学部に進む。英文学の講義でその魅力に取りつかれ、文学に専攻を変え、母校の教師となる。
一途で頑固な性格から出世に取り残され、意中の女性との結婚も悲惨な状況となる。やがて熱意ある授業が学生の人気となるが、……。数々の苦難が降りかかるなか、彼は運命を静かに受け入れ、その中で懸命に働き、最善を尽くす。……やがて、思いもかけない喜びが訪れ、ひと時をいつくしむが、……。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
地味だが、確かにしみじみとした哀しみに満ちた小説だ。人付き合いに難があり、傷つけあうことも多い。しかしともかく真面目に、真面目過ぎるほどに愚直に、懸命に働く割には恵まれることがないストーナーには同情し、哀しみを共有する。しかし一方では、要領の要の字もない彼の生き方には、同調できないし、心からの同情にはためらいがある。
派手な展開もなく地味な内容でp327、長すぎる。
例えば、口だけの生意気な大学院生に対する予備口頭試問において、ストーナーの英文学に関する専門的な数々の厳しい、意地悪な質問が続く箇所など、英文学上の記述が続く箇所は、読み飛ばしたことを告白しておく。
ジョン・ウィリアムズ(John Edward Williams)
1922年8月29日、テキサス州クラークスヴィル生まれ。
1942年に米国陸軍航空軍(のちの空軍)に入隊し、1945年まで中国、ビルマ、インドで任務につく。デンヴァー大学で文修士号、ミズーリ大学で博士号を取り。1954年から30年間デンヴァー大学で教えた。
1948年初の小説、Nothing But the Nightが、1949年には初の詩集、The Broken Landscapeが刊行。
1960年2作目の小説、Butcher's Crossingが出版。
1972年最後の小説、Augustusが出版。翌年に全米図書賞を受賞。
1994年3月4日、アーカンソー州フェイエットヴィルで逝去。
東江一紀(あがりえ・かずき)
1951年生まれ。翻訳家。北海道大学文学部英文科卒業。英米の娯楽小説やノンフィクションを主として翻訳。
訳書に、マイケル・ルイス『世紀の空売り』(文春文庫)、ドン・ウィンズロウ『犬の力』(角川文庫)、リチャード・ノース・パタースン『最後の審判(上・下)』(新潮文庫)、ネルソン・マンデラ『自由への長い道(上・下)』(NHK出版、第33回日本翻訳文化賞受賞)など。また「楡井浩一」名義で、エリック・シュローサー『ファストフードが世界を食いつくす』など。総計訳書200冊以上。2014年62歳で死去。