吉祥寺駅北口から新宿方面に線路際を歩きながら、昼飯所を探していて
約5分ほど。
「フランス懐石 懐鮮食堂」の看板を見つけた。モトハシビルの2Fだ。
テーブルには、ナイフとフォークもきちんと添えられているが、箸もあってご機嫌。
ランチは、
おすすめコースA 2800円
おすすめコースB 4200円
オードブル
上:中にフォアグラのあるつぼ焼き
左:ナス、イクラ
右下:金目鯛のマリネ
カボチャとサツマイモのスープ
メインは、
エビ、ホタテ、アサリ、タイ+ジャガイモ、トマト
デザートは、
ラフランス、紅茶のジュレ、チーズケーキ、カシスのシャーベット、クッキー
シェフのこだわりの料理を、限られたお客に提供するという、ご機嫌なレストランだった。
鶴川健吉著『すなまわり』(2013年8月文藝春秋発行)を読んだ。
相撲記事はすべて切り抜き、相撲中継に熱中する少年は、体格が貧弱で行司になる道を選ぶ。角界の裏方にも厳しい稽古、生活があり、入門前の強いあこがれとのギャップの中で送る青春。珍しい題材とリアルな描写が評価された芥川賞候補作「すなまわり」。
不快なアパート暮らし、ブラック状態の会社との往復、つつましく惨めな若者の生活を丹念に、おかしみを匂わせて描く、文学界新人賞受賞作「乾燥腕」。
初出:「文學界」すなまわり2013年6月号、乾燥腕2012年6月号
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
相撲部屋の厳しい稽古の様子が細かく描写され、相撲好きとしては興味深く読んだ。どうしても太れずに負け続け、風呂場で一人泣く序二段の若者が悲しい。多くの者がボロボロとこぼれるようにやめていく世界。
芥川賞選考会で、山田詠美とともに二重丸を付けた小川洋子さんの選評は、「主人公は、挫折も成長も拒否する。傷ついた自分を哀れんだり、希望を見出そうとしてもがいたり、理不尽な他者を攻撃したりしない。自分の居場所をただありのままに描写するだけだ。にもかかわらず、彼の抱える空虚さがひっそりと浮かび上がって見えてくる。」。
他の選考委員は、「行司という特殊な経験」「適格な描写」は評価するが、もっと深味が欲しいと語った。
鶴川健吉(つるかわ・けんきち)
1981年東京生まれ。都立高校中退後、相撲部屋に行司として入門。2002年引退し、入学。
2007年大阪芸術大学芸術計画学科卒後、
2010年、『乾燥腕」で第110回文學界新人賞を受賞。
2013年7月、『すなまわり』で第149回芥川賞候補。
場所は、以前ご紹介した「プティット・メルヴィーユ」。
それほど多くの店を知っているわけではないが、吉祥寺では one of best なレストランだと思う。
(これは3月3日の写真)
5名で予約。
前菜は、前回と同じで、女性陣から「まあ、きれい」とのお声をいただく。
カボチャのスープ
パンは例によって、食べる前の写真忘れ。
魚は金目鯛で、周りのキノコも美味しい。
肉は牛の頬肉で、崩れるよう。ほっぺも。
デザートは、少しずつ多く並ぶのが女性陣にご好評。
お代わりつきのコーヒーと共に美味しくご馳走様。
ぶどうジュース付きで一人4千円ほどで、たまには「いいね!」。
岸本佐知子著『ねにもつタイプ』(ちくま文庫2010年1月筑摩書房発行)を読んだ。
講談社エッセイ賞を受賞した48編のエッセイ。岸本さんは翻訳家だが、翻訳の仕事に関するエッセイは書きたくないらしい。反骨心を核として、創作短編じみたものから妄想爆発ものを、ユーモアでくるんで、摩訶不思議な世界を作り出している
「星人」
ものごとの隠された意味が読めない人が、なんとなく人生というものにしっくりこない感じを抱いているとすれば、その人は「気がつかない星人」だという(もちろん岸本さんも)。
そこはきっと、緑したたる美しい星に違いない。
「脳の小部屋」
道ですれ違ったおしゃれな自転車の嫌な男。脳の奥で小部屋の扉が開く音がする。鋼鉄をも断つ斬鉄剣が一閃。内臓は捨て、黄色の自転車は料理する。そして、道具は十分な手入れをして小部屋へしまう。
「かわいいベイビー」
よく考えると不気味な言葉を拾い出す。
「赤ん坊」:全身が真っ赤で凶暴? 「刺身」:全身をめった刺しにされて血まみれ? 「美人局」:地球防衛軍の制服の美人が働く? 「腕っ節」:腕に節ができる奇病?
初出:雑誌「筑摩」に同名で連載し、2007年1月刊行の単行本に4編を追加。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
ひねくれ者の私には共感できる点も多く、面白かったが、一般的には突飛過ぎてどうだろうか。妄想を読み流して笑える人には四つ星のお勧めだ。
「ねにもつタイプ」の岸本さんは、粘着質で気になったことをとことん突き詰めていき、特異な世界を描き出している。ちょっとこの人、おかしいんじゃないと思うほど変態的な視点で、思わず笑ってしまう。
岸本佐知子
1960年横浜市生まれ。女子学院高等学校から上智大学文学部英文科卒。アメリカ文学専攻。
サントリー宣伝部勤務を経て翻訳者。
訳書は、N・ベイカー『中二階』『フェルマータ』、L・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』、S・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』、J・アーヴィング『サーカスの息子』、T・ジョーンズ『拳闘士の休息』、J・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』など。
編訳「恋愛小説集」
エッセイは、2000年『気になる部分』に続く2冊目の本書『ねにもつタイプ』で講談社エッセイ賞を受賞。
東京図書のHPにはこうある。
以下、いくつか取り出す。
((数学が嫌いになった女性は純真さを失っているから?))
(小説は)読者の方を小説の形に引き寄せるのではなく、どんな形の心にも、しなやかに寄り添えるのが、本当の小説です。ある意味、あいまいでなければいけない。(小川)
私は、母親のような気持ちでいつもタイガースを見ていますので、全員けがなくシーズンを過ごせたら、もうそれで十分という、ものすごく謙虚な気持ちで応援しています。(小川)
本当ですか。いつも試合は正座して真剣に見ているという話を聞いていますが。(宇野)
ラマヌジャンやエデシュ、それに今回の博士もそうですが、世間から見ると、彼らが数学者の典型のように思われかねません。小川さんは・・・。(菅原)
・・・数学者の学会というものに初めて参加しましたけれど、やはり、ちょっと見た風景が、自分がいままでに出席したどんな集まりにもない風景でした。何とも言えず・・・・・・。(小川)
初出:2006年1月大阪教育大での「数理科学フォーラム」で行われ、「数学文化」第6号に掲載された。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
小説家と数学者という組み合わせはそれなりに面白いのだが、互いの遠慮からか、インパクトはない。挟まれる22本のコラムの数学者のエピソードもどこかで読んだ話ばかりで、数学そのものの話も大部分は初歩的すぎるし、そうでないのはとても面倒で、読解する気になれない(私には)。
小川洋子(おがわ・ようこ)
1962年岡山市生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。1984年倉敷市で勤務後、1986年結婚、退社。
1988年『揚羽蝶が壊れる時』で海燕新人文学賞受賞
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞受賞
2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞受賞、映画化、第1回日本数学会出版賞を受賞、藤原正彦氏との対談『世にも美しい数学入門』、
『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞
2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞
その他、『カラーひよことコーヒー豆』、『原稿零枚日記』『妄想気分』『人質の朗読会 』『 とにかく散歩いたしましょう 』など。
海外で翻訳された作品も多く、『薬指の標本』はフランスで映画化。
2009年現在、芥川賞、太宰治賞、三島由紀夫賞選考委員。
岡部恒治(おかべ・つねはる)
1946年札幌市生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学大学院修士課程修了。現在、埼玉大学経済学部教授。専門は位相幾何学(トポロジー)
著書は『マンガ微積分入門』、『考える力をつける数学の本』、『数学脳』など。共編『分数ができない大学生』で日本数学会出版賞を受賞。
菅原邦雄(すがはら・くにお)
1948年豊中市生まれ。京都大学理学部卒業、同大学大学院修士課程修了。現在、大阪教育大学教育学部教養学科数理科学講座教授。専門は微分幾何学。
宇野勝博(うの・かつひろ)
1958年神戸市生まれ。大阪大学理学部卒業、イリノイ大学大学院博士課程修了。現在、大阪教育大学教育学部教養学科数理科学講座教授。専門は表現論。
食べたのは、これの兄弟?
頼んだのは、多分、てっちりのコース。10月末のことで、記憶もあやふや。
まず、出てきたのは、紙を乗せたかごの中に穴のあいた鉄板を入れ、HIヒーターの上に乗せる。
電源を入れると、まもなく泡が出てきて、お湯が沸く。
自家製ポン酢が運ばれる。
かごに積まれたふぐや野菜などを入れる。
皮は軽くしゃぶしゃぶしていただく。
最後にご飯と卵を入れる。このとき、卵を溶く店員のお嬢さんの手並みの鮮やかなこと。
どんぶりにとって、海苔やおしんこと共にいただきました。
期間限定のお得コースで一人1200円。十分美味しくいただきましたが、命をかけるほどの美味しさではありませんでした。もっとも、この値段でそんなことも言えませんが。
ふぐというと想い出すのは、ラジオDJの高島さん(?)の、松坂慶子についてのインチキくさい話だ。近眼の松坂慶子がふぐ料理を食べて、透き通るほど薄く切ったふぐが並んだ皿には最後まで手を付けなかったという。そして、最後に、「あそこには、なんでお皿だけ置いてあったのかしら」と言ったという話だ。
百田正樹著『海賊とよばれた男 上下』(2012年7月講談社発行)を読んだ。
上巻の宣伝文句は以下。
出光興産は、タイムカードなし、出勤簿なし、馘首なし、定年なし、大家族主義で、株式上場をしなかった。また、西欧の巨大石油会社、銀行、官庁からの役員を受け入れず、プロパーの石油プロ集団の会社だった。
下巻は6割近くを日章丸事件の話が占める。イランは英国資本の油田を一方的に国有化した。これを断固認めない英国は、海軍を派遣してイランから石油を運ぶタンカーを拿捕する。出光の日章丸は英国海軍の包囲網を突破して、イランから日本へ石油を持ち帰る。
登場人物相関図
なお、九州でガソリンスタンドを経営する新出光の会長の出光芳秀は佐三の甥で、その妻が推理作家の夏樹静子。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
読みやすいことは読みやすい。しかし、あまりにも単純、一本調子。どんなに困難な状況にあっても、ただただ、国家のため、従業員のために利益を捨てる。こんな経営者が厳しい時代に生存できる? 社員も劣悪な環境のもので猛烈に働くが、さしずめ今ならブラック企業だ。
良く調べてあるのには感心するのだが、ゴーストライターが書いた成功した経営者の自伝みたいで、あきる。
確かに、とてつもない人がいた時代ではあった。日田重太郎は京都の別宅を売った8千円のうち6千円を国岡鐵造の志にあげた。返済は無用という。当時、鐵造の月給は20円だった。卑小な私には及びもつかない。
2013年の本屋大賞第一位なのに、何が気に食わないかというと、余裕、ユーモアがない。単に力技で、強引さで押し切る。
とばっちりで言えば、大阪の橋下さん、みんなの党の渡辺さんなど、強引な人に期待が集まる現状が気に食わない。さらに言えば、安倍さんのお友達の百田さんがNHKのなんたら委員になったことも気に食わない。
百田尚樹(ひゃくた・なおき)
1956年大阪市生まれ。放送作家・小説家
同志社大学法学部5年目で中退。
放送作家となり、『探偵!ナイトスクープ』のチーフ構成作家。
2006年『永遠の0』で小説家としてデビュー。2012年100万部を突破。
2013年本書『海賊とよばれた男』で本屋大賞を受賞。
その他、『ボックス』『風の中のマリア』『モンスター』『リング』『影法師』『錨を上げよ』
700頁を越すこの本を百田さんは半年で書いたという。細かい事実の調査も含めて、驚異的集中力ではある。
1953(昭和28)年、国際石油メジャーと大英帝国を敵に回して戦った「日章丸」を1956年生まれの百田さんは初めて知って、驚いてこの本を書いたという。日章丸が帰国したときは、派手なニュースになり、10歳ほどの私も印象に残っている。1951年にサンフランシスコ講和条約が署名され、敗戦で打ちひしがれた気持ちが愛国へ盛り上がる時期だったと思う。そんなときの話が、今の日本にぴったり合ったのだろう。
私も読んでいないのだが、高杉良のデビュー作「虚構の城」は、大家族主義を掲げる大手石油会社(出光興産)に勤めるエンジニアが、世界初の公害防止技術の開発に成功したが、喝采の嵐のなかで、些細な事件が原因で一転、左遷され、陰湿な嫌がらせを受ける身になる。組織社会の旧弊と矛盾に直面しながらも、自らの信念を貫く男の闘いを描いているという。
「題名のない音楽会」の番組スポンサーを出光興産がおこなっているが、番組途中でCMが入らない。出光佐三の「芸術に中断は無い」という考えに基づくためだという。
佐藤多佳子著『神様がくれた指』(2000年9月新潮社発行)を読んだ。
スリの現行犯で逮捕され、1年2ヵ月の刑務所暮らしを終えて出所した辻牧夫、マッキィーは、出迎えに来た育ての親の早田(そうだ)のお母ちゃんと早田家へ帰るため西武線に乗る。車内で、男女4人組の若者スリ集団に早田のお母ちゃんが財布をすられる。辻は、財布を受け取った若い男を追うが、投げ飛ばされ、利き腕の肩を脱臼してしまう。
タロット占い師「赤坂の姫」マルチュラこと昼間薫(ひるま・かおる)は、商売上、女装しているが実は小柄な男性。美人で優秀な弁護士の姉がいて、かつては自分も司法試験の最後の口頭試験まで行ったが、道を踏み外して占い師となった。滞納した宿代を払うため、心を折って姉に50万円借りたが、その金をギャンブルですってしまう。帰り道、肩を脱臼して倒れている辻を昼間が助け、ツイてないアウトローな二人は都会の片隅で出会い、昼間の赤坂の借家壊れそうな洋館で奇妙な共同生活を始める。
辻牧夫は、ギャンブル狂いの父親が亡くなってからは父の友人だった早田一家に、実の子どものように育てられた。ところが、名人スリの早田のおじいちゃんに幼い頃からスリの腕を鍛え上げられ、電車内専門の箱師となる。
そして、辻は自分に怪我をさせた少年少女のスリグループを探し回るが、次々と危険が襲い掛かる。
不器用なまでに古風な考え方の持ち主で、自分の仕事にプライドと美意識を持ち、ボヘミアン的自由にこだわるマッキー(辻)とマルチュラ(昼間)は、互いにひきつけあうようになる。マッキーには、いざという時に助けてくれる友、仲間や、命をかけてくれる彼女もいて、何度も陥る危機を逃れることができる。
一方、マッキーが追いかけている若いスリグループは、リーダーであるハルをはじめ、ゲーム感覚でスリルを楽しみ、暴力を振るうことも躊躇しない。そんな彼らだから、絶対的リーダーのハルでも「マジでヤバくなった時に頼れる奴なんていないんだよ」と言う。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
面白いエンタテイメント小説だ。登場人物のキャラクターが立っていて魅力的だし、タロット占い、スリの詳細なシーンもきっちり描かれている。
佐藤多佳子という作家を私は知らなかったが、筆力十分な作家であることがわかる。なるべく幅広く、多くの本を読むように心がけているが、世の中には書ける作家はあまりにも多い。
私に、馴染みの地名が頻発し、ちょっと嬉しくなる。赤坂、吉祥寺、中目黒・・・。
佐藤多佳子(さとう・たかこ)
1962(昭和37)年、東京生れ。青山学院大学文学部史学科卒業。
1年間の会社勤め後、
1989年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞受賞しデビュー。
1994年『ハンサム・ガール』で産経児童出版文化賞・ニッポン放送賞受賞
1998年『しゃべれどもしゃべれども』吉川英治文学新人賞候補・山本周五郎賞候補
1999年『イグアナくんのおじゃまな毎日』で日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞を受賞。
2002年『黄色い目の魚』 で第16回山本周五郎賞候補。
2006年『一瞬の風になれ』が本屋大賞、吉川英治文学新人賞を受賞。直木賞候補。
2011年、『聖夜』で小学館児童出版文化賞受賞。
他に、『夏から夏へ』、本書『神様がくれた指』など。
現実に直面するのが苦手と姉に言われた昼間は、辻に「ピストルを頭に突きつけられても、そろそろ雨が降りますよ、とか言いそうだな」と言われる。
早田咲は美しく喘息もちの女性。
辻「なんで、ほかの、もっとマトモな男じゃいけないの?」・・・「俺はあいつを殺してしまうよ」「心配させて、心配させて、きっと、ひどい発作で殺しちまう」
・・・
咲の手には出刃包丁が握られていた。いや、両手で包丁の柄に必死でしがみついていると言った方がいいかもしれない。咲の肩は波打ち、咳を懸命にこらえている様子だった。
ライターの「僕」は、2人の女性を無残に殺害して一審で死刑判決を受けた木原坂雄大、元カメラマン35歳、に会いに拘置所へ行く。出版社から依頼され彼の本を書くためにやってきたライターに、彼はまっすぐ顔を見ながら「覚悟は、・・・ある?」と問う。
「でも、木原坂雄大は、あれほど写真に執着し、女性を二人殺すほど彼女達を」
「ええ、確かに彼は激しい。でもその激しさと、欲望とは別なのです。彼の内面には何も存在しないのですよ。あなたは彼を勘違いしている」
君は誰だ?
被告は海外からも高く評価されカメラマン。しかし、被写体への異常なまでの執着が乗り移ったかのような彼の写真は、見る物の心をざわつかせる。彼は2度にわたってモデルの女性を殺害、さらに現場に火を放った。彼はなぜそんな事件を起こしてしまったのか?それは本当に殺人だったのか?
何かを隠し続ける被告、近づく男の人生を破滅に導いてしまう被告の姉、大切な誰かを失くした人たちが群がる人形師。
だが、何かがおかしい。調べを進めるほど、事件への違和感は強まる。事件の真相に分け入った時に見えてきたもの、それは――?
幻冬舎創立20周年記念特別書下ろし。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
はじまりは素晴らしい。深い闇を思わせるカメラマンの態度。何かありそうなライターのつぶやき。さすが芥川賞作家。
ただ謎を深めるための複雑な構成や、謎めいた登場人物の心の中に入り込むことなく、人物の心理描写がほとんどない。ただ、淡々とストーリーが進められる。
ミステリーはあまり読まない私は、人物のトリックにはすっかり騙されたが、すっきり納得したわけではない。思わせぶりも多い。冒頭からのK2のメンバーとは、結局・・・。
中村文則(なかむら・ふみのり)
1977年愛知県東海市生れ。福島大学行政社会学部卒。作家になるまでフリーター。
2002年『銃』で新潮新人賞、(芥川賞候補)
2004年『光』で野間文芸新人賞、
2005年『土の中の子供』で芥川賞、
2010年『掏摸』で大江健三郎賞を受賞。
その他、『最後の命』、『悪意の手記』、『何もかも憂鬱な夜に』、『世界の果て』、本書『去年の冬、君と別れ』
百田尚樹著『影法師』(講談社文庫2012年6月発行)を読んだ。
下士の家に生まれ、幼い日に目の前で父親を切り捨てられ、遺骸を前にして泣く勘一(後の名倉彰蔵)。中士の家の次男、磯貝彦四郎は、勘一に「武士の子なら泣くなっ」と怒鳴る。その後、下士の勘一は上士のための藩校に敢えて入り壮絶ないじめにあう。そこで、彦四郎と再会し、剣術道場へも通うようにもなる。2人は14歳のとき、刀を合わせて刎頚の契りを交わす。しかし、後に、国家老にまで上り詰めた名倉彰蔵は、剣も才も人並み外れて優れていた彦四郎の不遇の死を知り、その死の真相を追う。
おまえに何が起きた。おまえは何をした。おれに何ができたのか。
百田尚樹の初めての時代小説。
武士の中でも、上士と下士の差は歴然としている。また、嫡男以外は婿入りか、養子縁組することができなければ、妻帯もできず一生部屋住みの厄介叔父で終わる。そのため、下士や嫡男以外は武術、学問に必死で取り組む。
黙々と城下へ向かう5千人の百姓一揆の群れ。町奉行の成田は城門を開く。城代家老に直訴状はわたり、年貢は軽減された。そして、一揆の首謀者の万作たちは5歳児までの家族が磔になり、成田は覚悟の切腹をする。
この時、勘一と彦四郎は刎頚の契りを交わし、勘一は藩のために不可能と言われた大坊潟の干拓のために命を懸ける覚悟をし、彦四郎へ告げる。
単行本未収録の「もう一つの結末」が巻末袋とじに。
初出:2010年5月単行本刊行(講談社)
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
少年時代、文武に抜きん出て輝いていた者が、技や学問が自分より下だが心が強いものの影になり表舞台で活躍させる。下級武士たちの苦悩、強い決意とその美学。
あまりにも出来すぎで、すべてが計算済みという思いがあるが、感動の歴史小説だ。
百田尚樹(ひゃくた・なおき)
1956年大阪市生まれ。同志社大学法学部5年目で中退。
放送作家となり、『探偵!ナイトスクープ』のチーフ構成作家。
2006年『永遠の0』で小説家としてデビュー。2012年100万部を突破。
2013年本書『海賊とよばれた男』で本屋大賞を受賞。
その他、『ボックス!』『風の中のマリア』『錨を上げよ』『プリズム』
佐藤多佳子著『しゃべれどもしゃべれども』(新潮文庫2000年6月発行)を読んだ。
主人公は、今昔亭三つ葉(こんじゃくてい)、本名外山達也(とやま)、26歳。前座の上の二ッ目の落語家。派手さのない時代遅れの古典落語にこだわる頑固者、すぐ手が出る気短者。女性に対してはやけにうぶ。その彼に落語指南を頼んできた者たちがいるが、いずれも問題児。
吃音で指導できないテニスコーチの従兄の綾丸良、関西から転校してきた生意気ないじめられっ子小学生村林優、不愛想でぶっきらぼうな美人十河五月(とかわさつき)。これに、話下手で解説者をクビになったごつい元プロ野球選手湯河原太一も加わる。
個性が突出し、大きな問題を抱える5人が、いづれも不器用な優しさを持ち、さまざまな出来事を経て、互いに思いやるようになる。
勝田文により同名で漫画化、ラジオドラマ化、国分太一主演で映画化されている。
「本の雑誌が選ぶ年間ベストテン」第一位に輝いた
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
楽しく読め、ちょっと心が温まる。この作者、なかなか筆力がある。
いじめられながら強気の小学生村林がともかくおもろい。
あえて言えば、不愛想な十河は面白そうなのでもう少し書き込んでもらいたかった。強面なのに気が弱そうな湯河原は中途半端で、人が好いだけの綾丸はカットしても良かったかも。
三つ葉の実家が吉祥寺の井の頭公園近くで、おなじみの場所が次々出てくるのがうれしい。例えば、「公園を出て、ほたる橋を渡り、旧玉川上水の脇道を」。
村林が家出して、三つ葉が育てられたばあさんに聞く。
「毛糸の腹巻をしてるかどうかだね」
・・・ばあさんは、今でも俺に腹巻をさせたいのだ。・・・
急に、それほど、たいしたことは起こっていないという気になった。村林はどこかの児童公園で一人寂しくブランコをこいでいるのだ。よくドラマにそういうシーンがある。なぜか必ずブランコだ。すべり台では陽気すぎるし、砂場では陰気すぎる。
いまだに腹巻が離せない私にはキツイ話だ。ブランコでもこぐか。
佐藤多佳子(さとう・たかこ)
1962(昭和37)年、東京生れ。青山学院大学文学部史学科卒業。
1年間の会社勤め後、
1989年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞受賞しデビュー。
1994年『ハンサム・ガール』で産経児童出版文化賞・ニッポン放送賞受賞
1998年「しゃべれどもしゃべれども」吉川英治文学新人賞候補・山本周五郎賞候補、
1999年『イグアナくんのおじゃまな毎日』で日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞を受賞。
2002年『黄色い目の魚』 で第16回山本周五郎賞候補。
2006年『一瞬の風になれ』が本屋大賞、吉川英治文学新人賞を受賞。直木賞候補。
2011年、『聖夜』で小学館児童出版文化賞受賞。
他に、『夏から夏へ』、『神様がくれた指』など。
編:毎日新聞夕刊編集部、画:須飼秀和『私だけのふるさと 作家たちの原風景』(2013年3月岩波書店発行)を読んだ。
初出:2008年4月から2012年5月にかけて毎日新聞夕刊に掲載された「帰りたい 私だけのふるさと」。
全205の中から、岩波書店ゆかりの人や、新鮮な顔ぶれを選び、さらに幅広い年齢層で、ふるさとが全国各地に散らばるよう40をピックアップ。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
私に馴染みのある場所がほとんどなく、今一つ乗り切れない。ランダムに選べば、東京が多くなるだろうに、道尾さんたった一人、横浜が角田、柳の二人だけ。田舎が多いので、私自身の懐かしさとはすれ違う。
室生犀星は「ふるさとは遠きにありて思うもの そして悲しくうたふもの」と詠った。何人かの人も、もうあの子供時代には戻れないので、実際に故郷へ帰るよりも、ただ思っている方が良いと書いている。狭い町、村だけが世界のすべてだった、あの子供時代を。
須飼秀和さんの挿絵が、静かだが抒情がただよい、作家の回想を深めている。
目次
穂村弘(北海道札幌市)/馳星周(北海道浦河町)/室井佑月(青森県八戸市)/佐高信(山形県酒田市)/西木正明(秋田県西木村(現・仙北市))/古川日出男(福島県郡山市)/阿刀田高(新潟県長岡市)/井波律子(富山県高岡市)/本谷有希子(石川県松任市(現・白山市))/薄井ゆうじ(茨城県土浦市/道尾秀介(東京都北区)/海堂尊(千葉県千葉市)/角田光代(神奈川県横浜市)/柳美里(神奈川県横浜市)/夢枕獏(神奈川県小田原市)/林真理子(山梨県山梨市)/梓林太郎(長野県上郷村(現・飯田市))/池井戸潤(岐阜県八百津町)/堀江敏幸(岐阜県多治見市)/中村文則(愛知県東海市)/宮沢章夫(静岡県掛川市)/黒川創(京都府京都市)/池内紀(兵庫県姫路市)/辻原登(和歌山県印南町)/岩井志麻子(岡山県和気町)/田渕久美子(島根県益田市)/津原泰水(広島県広島市)/船戸与一(山口県下関市)/瀬戸内寂聴(徳島県徳島市)/鴻上尚史(愛媛県新居浜市)/山本一力(高知県高知市)/有川浩(高知県高知市)/北方謙三(佐賀県唐津市佐志)/安部龍太郎(福岡県黒木町(現・八女市))/内田麟太郎(福岡県大牟田市)/吉田修一(長崎県長崎市)/小山薫堂(熊本県天草市)/河野裕子(熊本県御船町)/楊逸(中国・ハルビン市)/西加奈子(エジプト・カイロ市)
須飼秀和(すがい・ひでかず)
1977年8月、兵庫県明石市生まれ。画家。2004年3月、京都造形芸術大学芸術学部美術・工芸学科洋画コース卒業
いつものように、七井橋からパチリ。
黄色いボートがある。乗場を見ると、様々な色が。こんなだったっけ?
西側は相変わらず。
池の西側、「お茶の水」から見ると、いっそう木が茂ったように見える。
池の西側でも、「アートマーケッツ」をやっていた。小型の琴の演奏だ。
駅の北側へ出て、「PIZZA SALVATORE」でランチ。ここは多少高めだが、油っぽくなくて美味しい。
頼んだのは、プロシュート&ルーコラのSで2000円と、
田舎風サラダ 680円なり。
これを二人でシェアーするのだから安い。
帰って記録を見ると4000歩。おかしい、倍は歩いているはず。