柚月裕子『検事の信義』(2019年4月20日KADOKAWA発行)を読んだ。
KADOKAWAの宣伝文句は以下。
累計40万部突破の「佐方貞人」シリーズ、6年ぶり最新刊!
作家デビュー10周年記念作品
映画化『孤狼の血』本屋大賞第2位『盤上の向日葵』の次は、これだ。
孤高の検事の男気と執念を描いた、心ふるわすリーガル・ミステリー!
任官5年目の検事・佐方貞人は、認知症だった母親を殺害して逮捕された息子・昌平の裁判を担当することになった。昌平は介護疲れから犯行に及んだと自供、事件は解決するかに見えた。しかし佐方は、遺体発見から逮捕まで「空白の2時間」があることに疑問を抱く。独自に聞き取りを進めると、やがて見えてきたのは昌平の意外な素顔だった……。(「信義を守る」)
検事(その後弁護士)・佐方貞人シリーズ。今回は佐方検事の事務官・増田を語り手とする『裁きを望む』、『恨みを刻む』、『正義を質す』、『信義を守る』の短編4作。
いずれの事件も、検察の立場からは不名誉となる判決結果になるが、それでも佐方は「罪をまっとうに裁かせる」という信念に基づいて事件を解決する。
佐方貞人(さかた・さだと):米崎地検・検事。任官4年目の若手刑事。筒井と共に刑事部から公判部に異動。しわがよったスーツ、手櫛の髪。ヘビースモーカー。父は弁護士の陽世だが、業務上横領罪で獄中死。母・小百合は3歳で病没し祖父母に育てられる。
増田陽二:佐方検事の事務官
筒井義雄:米崎地検・公判部・副部長、佐方の直接上司で理解者
本橋武夫:米崎地検・次席検事、筒井の上司
南場輝久:米崎東署・署長。出世を諦めたので是々非々。以前の事件で佐方の信頼が厚い。
秋霜烈日(しゅうそうれつじつ):秋の冷たい霜や夏の日差しのような気候の厳しさ。検事が胸に着けるバッジ。
「裁きを望む」
芳賀渉(わたる):故・郷古(ごうこ)勝一郎の時計を盗んだとして逮捕・起訴され法廷へ。勝一郎の隠し子。
郷古麻恵:勝一郎の妻。芳賀渉の認知に反対した。
吉田高子:郷古家の家政婦
井原智之:県下最大の法律事務所の代表弁護士。郷古家の顧問弁護士。
一事不再理:「憲法39条。何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない」
「恨みを刻む」
最後にちょっとだけ、警察内部での争いというひねりがある。
室田公彦:旅館従業員。34歳。覚せい剤所持で逮捕。再犯。
武宮美貴:スナック経営。幼馴染の室田を、覚せい剤所持と警察に密告。
鴻城伸明:米崎西署・生活安全課主任。悪徳刑事。
「正義を質す」
スキャンダル雑誌「噂の真実」に「現職検事が裏金の内幕を暴露!」の記事が出た。
木浦亨:佐方と司法修習生の同期。広島地検勤務。
上杉義徳:広島高検の次席。
八百坂一志:広島高検公安部長。なにかと問題のある刑事。
溝口明:広島県最大暴力団・仁正会理事長。恐喝容疑で公判にかかり、担当は佐方。
日岡秀一:広島北署暴力団係の巡査。
「信義を守る」
道塚昌平:55歳。無職で母の介護。須恵の遺体発見2時間後、5キロ離れた時点で発見された。
道塚須恵:85歳。昌平の母。5年前から認知症。自宅から徒歩10分のところで絞殺死体で発見された。
矢口史郎:米崎地検刑事部検事。任官12年目。本事件の公判引継書では求刑懲役10年。
尾形徹:昌平がかって勤務していた「コウノトリ便」の所長。
堀弓子:須恵が通っていた「深水デイサービス」の所長
昌平が身柄を確保された場所を探しに行った佐方と増田は、そこに「ある象徴」を見つけた。
佐方は筒井から、「そこは、よく調べたと褒めてやろう。だが、お前がやろうとしていることは、今後、お前が検事として生きづらくなるかもしれんことだ。それでもいいのか」と言われる。
佐方は「裁判は私のためにあるのではありません。罪をまっとうに裁くためにあるのです」と答える。
初出:「このミステリーがすごい」「警察アンソロジー 所轄」「小説野性時代」など
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
読みやすく、興味をもって読み進められる。しかし、読み終わって、特別に面白かったとは言い難い。
弁護士になってからの佐方のしたたかで人生を知った対応に興味がある。この本での若手検事の佐方は、真面目で熱心なのは良いのだが、硬直ぎみの堅物すぎて、面白味に欠ける。「正義を質す」の対応が限界だったらしい。
いずれにしても、この件で結局検事をやめて弁護士になったのだろう。
『虎狼の血』の呉原署・日岡がちょっとだけ登場する。あまり意味のない場面なので、シリーズファンへのサービスなのだろう。