今野敏著『清明(せいめい) 隠蔽捜査8』(2020年1月20日新潮社発行)を読んだ。
神奈川県警刑事部長に着任した異色の警察官僚・竜崎伸也。着任早々、県境で死体遺棄事件が発生、警視庁の面々と再会するが、どこかやりにくさを感じる。さらに被害者は中国人と判明、公安と中国という巨大な壁が立ちはだかる。一方、妻の冴子が交通事故を起こしたという一報が入り……。リスタートで益々スケールアップの第八弾!
死体が発見されたのは東京都だが、神奈川県と入り組んだところだった。警視庁に神奈川県警が協力する形で合同捜査本部が立つ。竜崎は捜査第一と考えるのだが、何かと下に見る警視庁への神奈川県警の反感は強い。
さらに秘密主義の公安が絡んできて、警察組織の内部の軋轢は厳しいが、竜崎は毅然として立ち向かう。
神奈川県警
竜崎伸也:神奈川県警刑事部長。キャリア。妻は冴子、長男は邦彦、長女は美紀。
佐藤実:神奈川県警本部長。竜崎の二期上。
阿久津参事官、板橋捜査一課長、
吉村公安部長、公安外事二課の神山と相葉
警視庁
伊丹刑事部長:竜崎の同期で幼馴染
田端捜査一課長
滝口:教習所所長、県警OB
山東喜一:手配師
楊宇軒(よううけん/ヤンユシェン):殺人被害者。36歳。本名は張浩然(ちょうこうぜん)
黄梓豪(おうしごう):通訳
呉博文:中華街の老舗店主
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
警察というのは外部の目が届かない巨大な官僚組織で、内部摩擦が大きく、ひどく非効率な組織だということがはっきりと再認識できる。事件解決は本書の副テーマになり下がり、主テーマは警察の内部抗争、アナクロな仕事ぶりにあり、警察内部の闇を描くミステリーとも言える。
神奈川県警対警視庁、刑事部対公安、キャリア対ノンキャリの組織&個人間の確執・競争が具体例で繰り返し語られる。
その保守的な警察機構の中で、首を覚悟して筋を通し、上司、同僚、部下たちから変人扱いされる竜崎がかっこよく、あまりにも単純にかっこよすぎるほどに描かれる。楽しく読むにはラクチンなのだが、それ以上ではない。
華僑は中国籍あるいは中華民国籍をもったまま日本に住んでいる。帰化して日本国籍をもっていると華人。
晩唐の詩人の杜牧の詩(p207)
清明時節雨紛紛 清明(春)の季節、雨がしとしと降っていて、
路上行人欲斷魂 道行く私はひどく落ち込んできた
借問酒家何處有 どこか酒が飲めるところはないかと尋ねる。
牧童遙指杏花村 牛飼いの牧童に。彼ははるか向こうの杏の咲く村を指さす。