今野敏著『半夏生(はんげしょう) 東京湾臨海署安積班』(ハルキ文庫こ3-25、角川春樹事務所2009年2月28日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
東京お台場のビルの狭間で、アラブ系と思われる外国人男性が倒れているのが発見された。事件性の疑いはないと考えられたが、男性は原因不明の高熱を発し、間もなく死亡。それを機に、東京湾臨海署の安積班にただならぬ空気が流れはじめる——本庁公安部が動きだしたのだ。海外からウイルスを持ち込んだバイオテロなのか? 地域・道路封鎖に奔走する安積たちの不安をよそに、事態はさらに悪化の気配を見せはじめた! 大好評長篇警察小説、待望の文庫化。 (解説・関口苑生)
舞台は灰色で無味乾燥な人口の島・お台場。円形広場でアラブ系の男が倒れた。地味な背広にポロシャツの中年男・原田が白バイ隊員に手を振っている。隊員が男に状況確認しようとしたが、姿を消していた。東京湾臨海署に電話し、村雨が受け、「事件性があるのか?」と問い、アラブ系と聞いて、ともかく行ってみるかと呟いた。
須田が黒木と行ってみると申し出た。アラブ系の男は所持品を持っていなかった。
安積警部補:主役。45歳。部下には絶対の信頼があり、上司には言うべきことははっきりと言う。決して信念を曲げない。仕事に熱心で離婚。娘との関係は良好で、元の妻とは微妙。
速水警部補:安積と同期。交通課で飄々働く白バイ野郎。事件を斜め上から眺めるなどして、視界が狭まりがちな安積に有効なアドバイスを送る。
村雨巡査部長:安積の下で仕事を回し、部下を厳しく指導する。捜査は基本に忠実。嫌われ役だが、組織には必要な人物。
桜井:村雨に指導されている。安積班で一番若い。
須田巡査部長:村雨と対照的で、ぽっちゃり体型で機敏でなく、簡単に他人に同情してしまう。しかし、勘は人一倍鋭い。本人は勘の根拠が乏しく自信がないが、捜査が行き詰った時には頼りになる。
黒木:須田と組む。常にキビキビと動き、整理整頓している。
榊原刑事課長:苦労人。
岸辺:本庁公安部外事三課、内閣情報調査室出向。NBCテロ(核・生物・化学テロ)を疑っている。
原田:キャリア。47歳で会社をリストラされ、仕事は見つからず、家は針のむしろ状態で、家を出て、ほとんどホームレス状態で、自殺を考えていた。
半夏生(はんげしょう):夏至から数えて11日目にあたる日。また、花の近くの葉の一部が白く半化粧のようになる植物。
本書は、2004年8月に角川春樹事務所から単行本として刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
内容はそんなに濃くないし、展開にスピード感がない。
しかし、特に優れた能力もないごく普通の刑事たち(須田以外)が、それぞれに特徴を発揮して、地道な捜査で徐々に真相に迫っていく。けしてべったりではない彼ら・安積班が、群像として犯罪者に立ち向かっていく。このシリーズの魅力だ。
無機質な街、お台場の情景と相まって、不安をはらむ。