畑にバナナ?と思ったら、カボチャでした。(7月28日)
花嫁のウエディングドレスの、長く引きずるベールのような花?(8月3日)
塀から頭を出して覗いてるのはハイビスカス(8月3日)
塀の足元で一輪だけ咲いている貴女はムクゲさん?(8月7日)
こちらはお友達一杯のムクゲ(8月10日)
天高くサルスベリ(8月20日)
クレーンの下から覗く、遥かなる富士。わかるかな? わかんないだろうな?(8月20日)
網戸で一休みのアブラゼミ(8月21日)
畑にバナナ?と思ったら、カボチャでした。(7月28日)
花嫁のウエディングドレスの、長く引きずるベールのような花?(8月3日)
塀から頭を出して覗いてるのはハイビスカス(8月3日)
塀の足元で一輪だけ咲いている貴女はムクゲさん?(8月7日)
こちらはお友達一杯のムクゲ(8月10日)
天高くサルスベリ(8月20日)
クレーンの下から覗く、遥かなる富士。わかるかな? わかんないだろうな?(8月20日)
網戸で一休みのアブラゼミ(8月21日)
東野圭吾著『白鳥とコウモリ』(2021年4月5日幻冬舎発行)を読んだ。
幻冬舎の特設サイトにはこうある。
二〇一七年十一月一日。
港区海岸に止められた車の中で腹を刺された男性の遺体が発見された。
被害者は白石健介。正義感が強くて評判のいい弁護士だった。
捜査の一環で、白石の生前、弁護士事務所に電話をかけてきた男、
倉木達郎を愛知県三河安城に訪ねる刑事、五代。
驚くべきことにその倉木がある日突然、自供をし始める――が。
二〇一七年東京、一九八四年愛知を繋ぐ〝告白〟が、
人々を新たな迷宮へと誘う——.
弁護士・白石健介が遺体が東京竹芝桟橋近くの車の後部座席で発見された。倉木達郎が容疑者となり、まもなく自分の犯行だと自供した。彼は、『「30年前に容疑者死亡で処理された殺人事件の犯人は自分で、自殺した容疑者は冤罪だった。 贖罪のため、自分の遺産をその家族へ相続する相談がしたい」と白石弁護士に話を持ち掛けた。 白石弁護士からは「自分が真犯人であることをその家族に告白すべきだ」と、家族に告げようとしたので、阻止するために殺害した。』と警察に語った。警察は倉木達郎を犯人と断定し、検察も起訴する方針を固めていた。
しかし、倉木容疑者の息子の倉木和真と被害者白石健介の娘の白石美令はこの自供内容に疑問を感じる、それぞれ 和真は弁護側に、美令は検察側に疑問点を指摘したが、双方とも聞く耳持たなかった
事件現場で偶然出会った二人・容疑者の息子と被害者の娘は、互いに協力して真相を突き止めようとする。そして、倉木の自供の矛盾点を次々と明らかにしていったが、殺人の罪を被る動機がはっきりしなかった。
事件の真相に納得していない被害者側遺族と加害者側家族が協力して情報交換しているのは普通じゃない。
「光と影、昼と夜、まるで白鳥とコウモリが一緒に空を飛ぼうって話だ」(中町p391)
「東岡駅前金融業者殺害事件」:1984年5月15日、名鉄東岡崎駅近くの事務所で金融業を営む灰谷昭造51歳が刺殺された事件。3日後に福間44歳が逮捕され、留置場で自殺した。1999年5月に公訴時効。
白石健介:弁護士。55歳。アシスタントは長井節子。妻は綾子。娘は27歳で元CAの美令(みれい)。
倉本達郎:元自動車メーカーの子会社社員。66歳。安城市在。息子は和真(かずま)。
堀部:倉本の弁護士。佐久間梓は白石美令・綾子の被害者参加制度の弁護士。公判担当検察官は今橋。
浅羽洋子:小料理店「あすなら」経営。旧姓福間。娘・織恵の元夫は安西弘毅、二人の間の息子は中学生の友希。
五代:警視庁捜査一課刑事。相棒は所轄の28歳の中町。上司は桜川係長。捜査を仕切るのは筒井。
本書は、「小説幻冬」(2017年2月号~2021年2月号)の7作品をもとに加筆し、長編としてまとめたもの。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
東野さんの作品は、出だしから一気に引き込まれてしまうものが多いのだが、この作品はしずかに始まり、徐々にやめられなくなる。522ページという大部のための作戦だろうか。
80ページで犯人が自供し、事件が解決してしまうのだ。残り400ぺージ以上、どうするの東野さん!と思う。当然、この自供は「ウソピー!」と私にも分かってしまうが、誰のために、なぜ罪をかぶるのかが分からないまま一気に突っ込んで読んでしまい、最後の方で犯人が二転三転するのを、昼間やることもないくせに、夜中2時を過ぎてしまい、ただただ眠たくボーッとした頭で読み続けるだけ。そして、最後の最後で、それって、東野さん!
「この世の女は全員名女優、というのは五代がこれまでの刑事経験から得た教訓だ。」(p48)
知念実希人著『優しい死神の飼い方』(光文社文庫、ち-5-1、2016年5月20日光文社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
犬の姿を借り、地上のホスピスに左遷……もとい派遣された死神のレオ。戦時中の悲恋。洋館で起きた殺人事件。色彩を失った画家。死に直面する人間を未練から救うため、患者たちの過去の謎を解き明かしていくレオ。しかし、彼の行動は、現在のホスピスに思わぬ危機を引き起こしていた――。天然キャラの死神の奮闘と人間との交流に、心温まるハートフルミステリー。
本作品は、7章よりなる連作短編集だが、全体として一つの長編にもなっているので、最初から順を追って最後まで読んだ方が良い。
なお、本作品に続く作品が『黒猫の小夜曲』だ。
人は未練を残して死ぬと「地縛霊」となってしまう。
そんな世界のホスピスに死神の「レオ」はやってきました。犬の姿で。
彼の目的は、人々の未練を解消し地縛霊になるのを阻止するためです。
そして死神のレオは、死に直面する人々の未練を解消するために様々な謎を解明していく、というミステリー作品です。
プロローグ
本作品の主人公の死神、本人曰く高貴な霊的存在は、死者を『我が主(あるじ)様』の天国へと導く道案内の仕事をしていた。未練を残して死に、そのまま地上に留まる「地縛霊」が多くなり、彼の成績が悪くなっていた。上司にその言い訳を『彼らが生きているうちから接触でもしないかぎり、成績を上げることは困難なのです』と口走ってしまったゆえに、人間界に犬の姿となって左遷されてしまった。
彼はホスピス『丘の上病院』近くの雪の中で美人の看護師・朝比奈菜穂に助けられ、「レオ」と名付けられ、病院で飼われることになった。
さて、それでは改めて自己紹介するとしよう。
私は犬の姿をした天使である。
名前はレオという。
かってこの病院に住んでいた美しく、心優しい娘から授かった大切な名だ。
本作品は2013年11月光文社より単行本刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
全体として、想定の範囲内のお定まりの展開で通俗的すぎるが、楽しく読める。ホスピスの患者はまもなく亡くなるのは想定できるので、暗い話になりがちだが、怨念を晴らすということで、辛くなり過ぎずに話を進めていく。
死神の、最後の方で天使と言い換えるが、レオはかっては冷静に仕事を成し遂げるだけで人間について余計な興味も感情も持たなかった。人間は、感情に動かされ、論理的判断ができない愚かものだと思っていた。そのレオが人間社会の中に犬の形で生活するように追いやられて、人間の愚かさを実感するとともに、自分の利益を差し置いて他人を思いやる暖かい心を持つことに、心を打たれるようになる。この過程が「いいじゃない!」。
高貴な霊的存在であることに誇りを持つレオも、犬に乗り移っているために、シュークリームを与えられたり、頭を撫でられたりすると、意に反してよだれが出てしまったり、しっぽを振ってしまったりするところが、ほほえましい。
貫井徳郎著『さよならの代わりに』(幻冬舎文庫、ぬ1-2、2007年8月10日幻冬舎発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
「私、未来から来たの」。劇団「うさぎの眼」に所属する駆け出しの役者・和希の前に一人の美少女が現れた。彼女は劇団内で起きた殺人事件の容疑者を救うため、27年の時を超えて来たというのだ! 彼女と容疑者との関係は? 和希に近づく目的は? 何より未来から来たという言葉の真意は? 錯綜する謎を軽妙なタッチで描く青春ミステリ。
プロローグ――二年後
主人公の白井和希(かずき)は、片思いのクールでモデル並みの美人の智美(さとみ)さんとカフェで近況報告している。和希は下っ端の劇団員。《うさぎの眼》は有名な俳優で主催者の新條雅哉を尊敬する20人弱の者が集まる劇団。
2年前。和希は劇団の前で落としたコンタクトを探している可愛らしい萩村祐里と出会う。新城の大ファンで、プレゼントを渡したいと言われる。その後、さらに祐里は、楽日に劇団ナンバー2の佳織の控え室に人が入らないように見張っていてほしいという変な頼みをし、理由は話せないという。結局、和希はその通りにしたのだが、自分の出番の時だけは同期の剣崎に頼んだ。
そして最終日。無事講演が終わった直後、圭織が控室で殺されていた。空白の時間は剣崎がトイレに行っていた3分間だけだったのだが。
最後にタイトルが登場。(p509)
祐里はさよならの代わりに「またね」と言った。そうだ祐里、また会おう。ぼくは運命を変えられると信じている。 キミにもう一度会えると、ぼくは信じている。
劇団《うさぎの眼》
和希:入団2年目。身長は高く、顔もまあまあだが、智美さんに完全に片思い。バイトでしのぐ貧乏暮らし。
新條:劇団主催。TVにもでる有名俳優。43歳の既婚者だが不倫も多い。
圭織:和希と入団同期だが、看板女優でNo.2。新條と恋仲との噂。公演楽日に刺殺される。
名倉:新條の付き人。モデル並みの体と顔。劇団員には不愛想。
荒木:舞台監督
剣崎:和希と同い年で入団年もほぼ同じ。親しい友人。猿顔だがすぐに女性と仲良くなる。
小春:和希より下で小柄でまあ可愛い子。剣崎と付き合っていたが、今は中堅どころで面倒見がよい橋本と。
映子:中学生のような童顔だが21歳。和希の後輩の川辺と恋仲。
萩村祐里:清楚で可愛いく、都内の女子大の3年生だという。
玉井:刑事。相棒は若い生田。
この作品は2004年3月幻冬舎より単行本として、2006年1月幻冬舎ノベルスとして刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
劇団主催者の唯一の有名俳優であり、指導力もある新條を崇拝し、貧乏暮らしをものともせず、なにかというと飲み会になる若い劇団員たちの群像がよく描かれている。
謎:清楚かと思うと、度胸があり、祐里の本当の姿が最後まではっきりせず、謎をひっぱっていく。圭織を殺した犯人も最後の最後まで謎のまま。なぜ殺したのかの説明は十分ではないのだが。
未来から来た人の話は、ターミネーターなど数多くある。具体的に現代社会へまったく一人で放り出さラたらお金、泊る所、習慣など困ることは数多くあるだろう。この本は、そんな未来人の生活の困難さも実感させてくれた。
過去を変えられないというタイムスリップの原則に挑戦しようとする祐里の無謀さに驚く。
何回もタイムスリップを繰り返すという話はややこしい。タイムスリップする度に、より数か月前はタイムスリップするのだという。その間の記憶は残っているので、数か月後のことが分かっているという話だ。
虚仮(こけ)の一念:愚かな者がひとつの事にひたむきに打ち込むこと
碓井広義編『少しぐらいの嘘は大目に 向田邦子の言葉』(新潮文庫 む-3-21、2021年4月1日新潮社発行)を読んだ。
今なお愛される著者の全ドラマ・エッセイ・小説作品から名言をセレクト。没後40年記念。
『阿修羅のごとく』『あ・うん』『寺内貫太郎一家』……傑作ドラマの脚本家として知られ、名エッセイスト、直木賞受賞作家でもあった向田邦子。突然の飛行機事故から40年が経つにもかかわらず、今なお読み継がれ、愛されるのはなぜなのか。日本のテレビドラマ史を語らせれば右に出る者のない編者が彼女の全作品から名言・名セリフをセレクト。いつでも向田作品の世界に没入できる座右の一冊。
以下、たまたま私の目に留まった部分のうちいくつかを挙げる。全体がわかる目次を最後に示す。
パックをしている時だけは、女は鏡を見ない。その代わりに、心の目を開き、わが心の中のうぬぼれ鏡を見ているのである。 「パックの心理学」『眠る盃』
貫太郎「まわりもまわりだけどな、本人も本人だ! そんなに行きたかったら、親だろうが何だろうが押しのけて行ったらいいだろう! それくらいの度胸がなくて」
静江「(静かに)お父さん」
貫太郎「………」
静江「本当に好きなら……行かなくたって……こうしてたって、しあわせなのよ」 『寺内貫太郎一家』
久米「そこいくと、昔の人間は教養があったねえ。『忘れねばこそ思い出さず候』なんて、すばらしいじゃないの」 ……
久米「紺屋高尾という、遊女の書いたラブレターですよ」
土岡「遊女、ですか」
久米「…仙台の伊達の殿様の恋人だったんだけどね、『忘れねばこそ思い出さず候』わたしはあなた様を思い出すなんて、そんなことはございません。なぜなら、片時もあなた様を忘れたことがないからでございます」
謙造「うちってのは、出た方が負けなんだよ。角力(すもう)と同じだ」 『家族熱』
兄弟げんかも、夫婦げんかも、母と祖母のちょっとした気まずさも、台風の夜だけは、休戦になった。一家をあげて固まっていた。そこが、なんだかひどく嬉しかった。父も母も、みな生き生きしていた。 「傷だらけの茄子」『霊長類ヒト科動物図鑑』
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
向田さんのすべての小説、エッセイ、脚本から選んだ名言、名セリフを並べてあるのだが、一つ一つをじっくり味わって読みたいが、全部で370以上となると、さすがに根気が続かない。気が向いた時にパラっと開いて読んで、フムフムと味わって、閉じるという読み方が良いかもしれない。
男と女の駆け引きや、本音に関する記述も多いが、私にはなんだかわざとらしく思えて、どうも。歳のせいだと思いますが。
こんなのもあった。
離婚した友人(女性)が言っていた。主人のサンダルの汚れを見てたら「吐き気がしてきたって――、そうなったら、もう、ダメね」 『家族熱』
女性ってのは、一度生理的に受け付けなくなったら、もうダメ。絶対にダメで、ひっくりかえることはない。怖いですね!!
碓井広義
1955(昭和30)年、長野県生まれ。メディア文化評論家。2020(令和2)年3月まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。慶應義塾大学法学部政治学科卒。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。
1981年、テレビマンユニオンに参加、以後20年間ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。
代表作に『人間ドキュメント 夏目雅子物語』など。
著書に『テレビの教科書』、『ドラマへの遺言』(倉本聰との共著)など、編著に『倉本聰の言葉――ドラマの中の名言』がある。
目次
はじめに
第一章 男と女の風景――見栄はらないような女は、女じゃないよ
1 女のはなしには省略がない――女というもの
2 男は、どんなしぐさをしても、男なのだ――男というもの
3 それじゃ、しあわせ、掴めないよ――男と女
4 恋をすると、人は正気でなくなります――恋愛とは
5 あんな声で呼ばれたこと、一度もなかった――道ならぬ恋
第二章 家族の風景――どこのうちだって、ヤブ突きゃヘビの一匹や二匹
1 結婚てのは七年じゃ駄目なのね――結婚
2 世の中、そんな綺麗ごとじゃないんだよ――夫婦
3 お父さん、謝ってるつもりなのよ――親と子
4 ヨメにゆくと姉妹は他人のはじまりか――姉と妹(弟)
5 完全な家庭というものもあるはずない――家族
第三章 生きるということ――七転八倒して迷いなさい
1 判らないところがいいんじゃないの――人間と人生と
2 物がおいしい間は、死んじゃつまりませんよ――老いと死と
3 昔の女は、忙しかったものねえ――むかしの人と暮し
4 事件の方が、人間を選ぶのである――日常という冒険
第四章 自身を語る――私を極めて現実的な欲望の強い人間です
1 それが父の詫び状であった――父と母のこと
2 昔のセーラー服は、いつも衿が光っていた――少女時代のこと
3 私は「清貧」ということばが嫌いです――「わたし」のこと
4 私の勝負服は地味である――わたしの暮し
第五章 向田邦子の「仕事」――嘘をお楽しみになりませんか?
1 楽しんでいないと、顔つきがけわしくなる――仕事とわたし
2 どれだけその人間になりきることができるか――ドラマを書く
第六章 食と猫と旅と――好きなものは好きなのだから仕方がない
1 「う」は、うまいものの略である――食
2 甘えあって暮しながら、油断は出来ない――猫
3 帰り道は旅のお釣りである――旅
おわりに
主要ドラマ一覧
資料書籍一覧
知念実希人著『神のダイスを見上げて』(2018年12月20日光文社発行)を読んだ。
光文社の宣伝文句
地球に向けて、巨大小惑星ダイスが接近中。
人類は、あと5日で終わりを迎える。
人々はその瞬間、『裁きの刻』をどう迎えるのか――
高校生の漆原亮の姉、圭子が殺された。コスモスの咲き乱れる花壇で、全裸で胸にナイフを突き刺された姿で発見された姉は、亮にとって唯一の家族、”世界そのもの”だった。恋人のこともそっちのけで、亮はとにかく犯人を見つけ出し、自分の手で復讐したいと暴走。そして”あるもの”を手に入れるため、クラスの“禁忌”と呼ばれる異端児・四元美咲に接触する。
優しく、美しかった圭子を殺したのは、圭子の恋人だったのでは? しかしそれが誰なのかわからない。犯人を追い求めて、亮は圭子が入っていた天文学同好会、そしてダイスを崇拝するカルト集団『賽の目』に踏み込んでいく……。
人類滅亡まであと幾日もない中で、なぜ圭子は殺されなければならなかったのか――
ヒット作連発中の著者が、エンターテインメントの力で永遠のテーマに挑む!!
巨大小惑星ダイスが地球に衝突し、人類が滅亡する10月20日の「裁きの刻(とき)」までに、漆原亮(りょう)が姉の圭子を殺した犯人を見つけ出し、殺そうとする6日間の物語だ。ダイスは落ちてこないというのが政府の公式見解。信じる人も、信じないひともいる。
漆原亮:父は家を出て、母は病死。姉・圭子と二人暮らし。
漆原圭子:亮の姉で、母で親友で同志で恋人
四元美咲:亮の同級生。クラスの禁忌(きんき)。父親不明で母と二人暮らし
鳥谷正人:亮の親友
日下部雪乃:亮の恋人。
岩田千秋:立川署の刑事。30歳前後の女性。串崎は相棒の刑事。
宮本小百合:圭子の親友。大学の天文学同好会。
魚住健二、東雲香澄:大学の天文学同好会の1年先輩
小田桐教授:哲学科教授。60歳前後。
本作品は書き下ろし
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
地球最後の日に一緒に居たいのが絶対姉弟でなければというのもなんだか完全に納得しがたいが、最後の日の前に是非自分手で犯人を殺したいというのがそんなに強い意欲を沸かせるものかにも、素直にうなづけない。
犯人捜しの最後の土壇場の二転三転もなっとくできるものではない。
岩田刑事が亮に奇妙に妥協的なのもすっきりしない。
以上のように納得しがたい点ははたまたあるが、全体としては最後の時に向けて、その人にとって何が最も大切なのかをいや応なしに考えさせ、選択させるという流れは「いいじゃない!」。
津村記久子著『つまらない住宅地のすべての家』(2021年3月21日双葉社発行)を読んだ。
とある町の、路地を挟んで十軒の家が立ち並ぶ住宅地。そこに、女性受刑者が刑務所から脱走したとのニュースが入る。自治会長の提案で、住民は交代で見張りをはじめるが……。住宅地で暮らす人間それぞれの生活と心の中を描く長編小説
生気のない淀んだ住宅地を変えたのは、刑務所から脱走して女性受刑者だった‥‥? それぞれの家庭の事情とその変化を飄々と描く町内劇誕生!
どこか地方の小さな町の路地に面した10軒の家の物語。
東の列の北側から
笠原家:妻・えつ子(75)と夫・武則(80)の二人暮らし
大柳家:上司の関口にいじめられ 鬱屈 を抱える一人暮らしの望(25)は女児誘拐を企てる。母は家を出て、父は老人保険施設に入る。アイドルのポスターをえつ子に見られてしまうが、手放しに褒められる。
山崎家:母を看取り、実家に戻り、スーパーのパートで働く独身女性・正美(58)。
丸川家:母が家出して父・明と中学3年の亮太と二人暮らし。父は自治会長。
松山家: 基夫(もとお)。正美が働くスーパーの警備員。
西の列の北側から
長谷川家:祖母・小夜が支配。妻・静美、婿夫・弘、大学4年麻耶、次女・中学生千里、次男・小学生翔倫。
真下家:都会での恋愛に失敗し疲れて帰ってきた息子・耕市(36)とその母親
矢島家:母が家にいつかないし、祖母は世話しないので小学4年のみずきが妹・ゆかりの世話をする。
相原/小山家:大学講師の相原貴弘と、学生に振り回される同じく講師・小山篤子の42歳の同い年夫婦
三橋家:育てにくく体が大きい12歳の息子・博喜を閉じ込めようとしている朗喜(あきよし)、博子夫婦
日置昭子:会社の金を10年で一千万円横領し刑務所から脱走。36歳女性。真下耕市と中学まで同級生。
野島恵一:ノジマ。亮太と中学の同級生。父母が居ないので伯母と住む。ゲームで「ヒロピー」と「ウインナー」とトリオを組む。昭子の従姉弟。
梨木由歌:学業は優秀だが、講師の小山篤子を振り回す女子学生。恋人は育斗。
初出:「小説推理」2019年10月号~2020年5月号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
読みにくいのを我慢して読めば、ジワジワと面白さが湧いてくる。
それぞれに問題を抱えていながら平凡に真面目に生きている10家族。読み進めるうちになじみが出来て、応援したくなっている自分に気がつく。
読みにくいのは登場人物が多すぎるため。10家族、20人以上も多いのだが、そう上、本文中には名字がかかれておらず名前だけ。「隣の家の」記述から名字(家名)を想像するしかない。私は、読みながらパソコンで上記した登場人物表を作りながら読んだ。
しかも、始めに登場するところで名前を書くのが常套なのに、例えば、長谷川家の祖母の名が小夜であることは、必然性なく突然と、p228(全部でp238)で知らされる。丸川家の家出した妻の名前が苑子であることもp231で初めて明かされる。これって、意地悪??
なんという題名だ! 「つまらない‥‥すべての」とは!
津村記久子(つむら・きくこ)
1978年大阪府生まれ。小説家。大谷大学文学部国際文化学科卒業。
会社勤め→失業→会社勤めを経て、
2005年『マンイーター』(改題『君は永遠にそいつらより若い』)で太宰治賞
2008年『ミュージック・プレス・ユー!!』で野間文芸新人賞
2009年『ポトスライムの舟』で芥川賞
2011年『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞
2013年『給水塔と亀』で川端康成文学賞
2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞
2017年『浮遊霊ブラジル』で紫式部賞
2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞
2020年翻訳「給水塔と亀」でPEN/ロバート・J・ダウ新人作家短編小説賞 を受賞。
他、『エブリシング・フロウズ』、『サキの忘れ物』、津村紀久子・深澤真紀著『ダメをみがく “女子”の呪いを解く方法』
煌々(こうこう)と灯る
今村夏子著『木になった亜紗』(2020年4月5日文藝春秋発行)を読んだ。
文藝春秋の内容紹介は以下。
誰かに食べさせたい。願いがかなって杉の木に転生した亜沙は、わりばしになって若者と出会う(「木になった亜沙」)。どんぐりも、ドッジボールも、なぜだか七未には当たらない。「ナナちゃんがんばれ、あたればおわる」と、みなは応援してくれるのだが(「的になった七未」)。夜の商店街で出会った男が連れていってくれたのは、お母さんの家だった。でも、どうやら「本当のお母さん」ではないようで…(「ある夜の思い出」)。『むらさきのスカートの女』で芥川賞を受賞した気鋭の作家による、奇妙で不穏で純粋な三つの愛の物語。
芥川賞作家・今村夏子さんの6冊目の本書は、3編の短篇集。いずれも「特殊な能力」を持つ女の子の話。
「木になった亜紗」
自分の手からの食べ物は何ひとつ食べてもらえない亜紗。保育園で仲良しのるいちゃんに「いらん!」といってヒマワリの種をどうしても食べてもらえなかった。作ったクッキーも山崎シュンくんに突き返された。金魚にも、盛り付けた給食も食べてもらえなかった。中学で不良になり、入った厚生施設でも亜紗は食べてもらえなかった。やがて亜紗は割りばしへと転生し、‥‥。
通常の日常の中でスタートした話は、徐々に曲がって極端な方向へ進み、やがて現実の世界を外して奇想の世界になってしまったことに気づく。しかしそれでも日常の中で暮らしている感じは失われておらず、奇妙な感覚になってしまう。
「的になった七未」
通っていた保育園の園長先生は、飼っていたやぎにどんぐりをぶつけた男の木に怒って「わかったか!」といってどんぐりを投げつけた。次々と子供たちに投げつけたが、七未(なみ)にはどうしても当たらなかった(どんぐり事件)。
小学校で六年生が周りの子に水風船を投げつけたが、七未にはどうしても当たらなかった(水風船事件)。ドッジボール事件、空き缶事件でも七未には当たらなかった。心を入れ替えた七未は自ら当たろうとするようになったが、‥‥。だんだん話はハチャメチャになっていって、‥‥。
「ある夜の思い出」
学校を卒業してから15年間、無職だった。なるべい立ち上がらずに、いつも腹這いで過ごすことを心掛けていた。(ここのところ、私もほぼ同じ。トホホ!)
父親に追い出されて、男の家に上がり込む。ジャックという男、お母さん、小学生ののぼる君、3人の関係も不明。私はジャックから‥‥されて……。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お勧め、 最大は五つ星)
3冊続けて今村本を読んでしまったので、さすがにちょっと辛めの三つ星。
私の好きな今村ワールドだが、続けて読むと、体内に抗体ができて、それはないんじゃないかとか思ってしまう抵抗感が頭をもたげてくる。
登場する負け組の、ダメ人間がだんだん自分じゃないかと思えて憂鬱になり、そして少しだけ、俺はこれほどひどくないと安心する気持ちも芽生える。このところ、友達や知人に逢えていないのもいけないのだろう。
ここ3冊ほど続けて今村夏子さんの本を読んでいると、だんだん精神に変調をきたしそうな気がしてくる。最初から奇想天外な話ならその気で読むので良いのだが、最初は普通の日常の話で、入れ込んで読み進めると徐々におかしな世界に引き込まれて行くのだ。1冊、2冊なら良いが、3冊目となり、今村ワールドにハマると、危険だ。
今村夏子(いまむら・なつこ)
1980年広島市生まれ。大阪市在住。
2010年「あたらしい娘」で太宰賞受賞(「こちらあみ子」に改題)。
2011年「こちらあみ子」と「ピクニック」を収めた『こちらあみ子』で三島由紀夫賞受賞。2014年には、「チズさん」を併録した『こちらあみ子』文庫化
2016年『あひる』で河合隼雄物語賞受賞、芥川賞候補
2017年「星の子」で芥川賞候補。
2019年本書『むらさきのスカートの女』で芥川賞受賞。2019年度咲くやこの花賞受賞。
他、『木になった亜紗』、「白いセーター」(『文学ムック たべるのがおそい vol.3』)、『父と私の桜尾通り商店街』(「白いセーター」を含む)、
三島賞受賞のときに、これからの抱負を問われ、「そういうのはないです。今後なにが書きたいとか、全然思わないです」と答えた超寡作作家。
2013年に結婚して娘さんもいるらしい。よかった、よかった。
今村夏子著『父と私の桜尾通り商店街』(2019年2月22日KADOKAWA発行)を読んだ。
違和感を抱えて生きるすべての人へ。不器用な「私たち」の物語。
桜尾通り商店街の外れでパン屋を営む父と、娘の「私」。うまく立ち回ることができず、商店街の人々からつまはじきにされていた二人だが、「私」がコッペパンをサンドイッチにして並べはじめたことで予想外の評判を呼んでしまい……。(「父と私の桜尾通り商店街」)
全国大会を目指すチアリーディングチームのなかで、誰よりも高く飛んだなるみ先輩。かつてのトップで、いまは見る影もないなるみ先輩にはある秘密があった。(「ひょうたんの精」)
平凡な日常は二転三転して驚きの結末へ。
『こちらあみ子』『あひる』『星の子』と、作品を発表するたびに読む者の心をざわめかせ続ける著者の、最新作品集!
「白いセーター」(『文学ムック たべるのがおそい vol.3』の再掲)
ゆみ子は、婚約者の伸樹さんから去年のクリスマスにプレゼントされた白いセーターを着て「大好きな伸樹さんと、大好きなお好み焼きを食べにいく」クリスマスイブを楽しみにしていた。
伸樹の姉・ともかから電話があり、その日の昼間に4人の子どもを預かってくれと頼まれた。教会に行く途中で、彼らは「臭いホームレスが来たら叫んで追いだそう」と相談する。そして教会の中で、4歳の陸は誰かに向かって「でていけーっ!」と絶叫する。とっさにゆみ子は陸の口を手で塞ぎ、暴れるので鼻をつまむ。陸は渾身の力を込めてゆみ子の両胸をパンチする。長男の大雅は、ゆみ子が陸を殺そうとしたと、伸樹の姉に訴え、彼女は伸樹にそう告げる。
伸樹は機嫌が悪く、心がざわついたゆみ子は家を出る。結局、「ますだ」で伸樹と一緒になり、帰り道、ゆみ子が「離婚しますか」と聞くと、伸樹さんは「結婚しないと離婚できないよ」といった。
「ルルちゃん」
ヤマネは、人材派遣会社からのクッキー工場で働いていてベトナム人のレティと友達になった。人形のルルを見て誰のと聞く。ルルちゃんはルルちゃんだ。誰のものでもない。
10年前、図書館のラウンジで出会った安田さんの家に居たのだ。
「ひょうたんの精」
なるみ先輩は中学三年のとき、神社の住職(?)に言われてひょうたんの中を覗き込んでみると七福神がいた。私は、ひょうたんのたたりから逃れる手段をネットで探して、ひょうたんの弱点はウリキンウワバという蛾の幼虫とわかった。
「せとのママの誕生日」
「スナックせと」の元手伝いの3人はママの誕生日のお祝いに集まり、昔話に花が咲く。ママは、アリサの悩みの種の巨大な出べそを集客に売り物にしてみせる。
「モグラハウスの扉」
工事現場の作業員に、子ども達からモグラと呼ばれる筋肉モリモリの人がいた。もうすぐ完成するモグラハウスは地下20階でさまざまな娯楽施設もそろっているという。学童の先生のマッチョ好きの松永みっこ先生はマンホールから中に入り込んでしまう。
「父と私の桜尾通り商店街」
父は商店街でパン屋をやっていたが、仕入れた材料がなくなったら店をたたんで老いた祖母の家に帰るつもりだった。私は、店に来たが財布をわすれた女性にコッペパンをあげた。お金を持ってきた女性に、私は味がないからとコッペパンの中にイチゴジャムとマーガリンを挟んで差し出し、半分ずつ食べた。そして、‥‥。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
私の好きな今村夏子さんなので、ちょっと甘めの四つ星。
平凡な日常の中から気がつかないうちに何か落ち着かない、違和感のある世界へ入り込んでしまうのが今村ワールド。しかし、この本の中のいくつかの作品では、最初からそれはないんじゃないかと思ってしまうものもある。
もうひとつ、今村さんの作品で魅力を感じるのは、主人公が今村さんを思わせるような(存じ上げてはいないのだが)純粋な人柄で、いかにもこれではこの世界で過ごすのは大変だろうなと思わせる“ずれ”ぶりであることだ。そして、純粋であることがいけない、駄目なこととなるのは、私が属している世間の方が間違っているのではと思ってしまうことだ。
本書に関するインタビュー(カドブン(元は「本の旅人」2019年3月号))で今村さんは「白いセーターについて」こう語っている。
男のほうは、優しいのか冷たいのかよくわからない性格をしています。女に理解を示しているように見えて、本音や決定的なことは何も言わない、という男の性格が表れる場面にしたくて、最後の二人の会話を考えました。
今村さんは、純粋なだけでなく、小説に仕上げるための冷静な、分析的な目も持っているのだ。当たり前ながら。
司馬遼太郎著『ひとびとの跫音(あしおと)』(2009年8月10日中央公論新社発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
詩人、革命家など大正・昭和期の鮮烈な個性に慕われながら、みずからは無名の市井人として生きた正岡家の養子忠三郎。子規ゆかりのひとびとと淡く透明な交わりを結んだ著者が、共感と哀惜をこめて彼らの境涯をたどりつつ、「人間がうまれて死んでゆくということの情趣」を描き、司馬文学の核心をなす名篇。
523頁の大部。なお、この作品は1981年中央公論社から上下二巻で出版されたものの新装改版である。
そもそも私がこの本を読んだのは、正岡子規を献身的に看病し、生涯を捧げたと思われる妹・律のことが知りたかったためだ。しかし、律について書かれた部分は523ページ中、30ページ程度しかなかった。したがって、ほとんどの部分は飛ばし読みであることをお断りしておく。
全体としては、子規の養子・正岡忠三郎と、その友人で筋金入りの共産党員である西沢隆二の2人、数奇な人生を送ってはいるが、ほぼ無名の2人との司馬遼太郎の交友録的なエッセイだ。
司馬遼太郎は、伊予松山出身の正岡子規と、日露戦争で活躍した秋山好古、真之兄弟を巡る『坂の上の雲』を書いていて、その関係で、子規の養子・忠三郎、さらには西沢隆二と知り合ったのだ。
「忠三郎さん」(本書での表現)は、養父・子規の所見を保管したが、いわゆる一般市民で、阪急に入社し、車掌さんになり、その後梅田の阪急百貨店で婦人服を販売していた。
西沢隆二(本書では「タカジ」と呼んでいる)は、忠三郎さんの高校からの親友で、共産党員として検挙され、戦争が終わるまで12年間獄中にいた。
以下、この本のメインテーマではないが、子規の妹・律について書かれていたことをメモとして羅列してみる。
律は子規の3歳下の妹で、二人兄妹だ。20代から30代にかけて7年間、兄の看病にすべてを捧げた。「捧げたなどという極端な言いようは、この期間の正岡律にこそあてはまる。」と司馬遼太郎は書いている。(p30)
優しかった母親の八重は、戸籍上はリツだが、「リーさん」と呼んだ。子規のことは、通称升(ノボル)だが、「ノボさん」と呼んでいた。
私は、律は子規に尽くしたまま生涯独身だと思っていたが、子規の看病を始める前に既に二度結婚し、二度離婚していた。
献身的に子規を看病していたと思われるが、病人の我がままもあろうが、子規はここまで言うかというほどすさまじく厳しく決めつけている。
律は理屈詰めの女なり 同感同情のなき、木石のごとき女なり 義務的に病人を介抱することはすれども同情的に病人を慰むることなし
土居健子の談話
お母さま(八重)にくらべますと、お律さんのほうが、そのお顔つきからして、きついでしたよ。お律さんはまだ四十代だったと思いますが、昔のことですから随分年よりに見えました。お兄さまのためには自分の一生を投げうって尽くされた方ですが、亡くなられたのちも、家の中はもちろん、庭のどこに何が植わっていたということまでよく憶えておいでで、何一つ置き換えず、子規さんのおられた頃のままにしておられました。ことに子規さんが寝ておられた六畳の間には気をつかい、誰もお入れになりませんでした。
子規が36歳で死んだ翌年(明治36年)、小学校を出ただけだった律は33歳で神田一ツ橋の共立女子職業学校へ入学した。卒業後、母校の事務員となり、後に教員となった。融通のきかないほど厳格で厳しい先生であった。(p86) 晩年はより潔癖症になり、細菌のかたまりのような乳児の孫・浩のたらいも物干しも別にしていた。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの? 最大は五つ星)
正岡律、正岡忠三郎、あるいは西沢隆二のことを知りたい人には貴重な本だが、そんな人はほとんどいないだろうということで二つ星。
この本は、内容が地味過ぎる。無名の二人の足跡が淡々と描かれ、司馬さんが少しずつその生涯を調べていく過程が地味に語られる。驚くこともないではないが、ダイナミックなことは何一つない。
律と宮沢賢治の妹・トシとを私は混同していたかもしれない。トシは優秀で、花巻高等女学校では、1年生から卒業まで主席だった。日本女子大学校のとき、結核となり、25歳で死亡した。亡くなる日、彼女は「あめゆじゆとてちてけんじや(みぞれ混じりの雪を取ってきてちょうだい)。」と看病する賢治に頼む。(賢治の『春と修羅』にある『永訣の朝』)。この印象が強すぎたので、子規を看病した律についても知りたくなったのだ。
司馬遼太郎(しば・りょうたろう)
1923(大正12)年、大阪に生まれる。大阪外国語大学蒙古語科を卒業。
1959(昭和34)年、『梟の城』により第四十二回直木賞を受賞
1967年、『殉死』により第九回毎日芸術賞
1976年、『空海の風景』など一連の歴史小説により第三十二回芸術院恩賜賞
1982年、『ひとびとの跫音』により第三十三回読売文学賞(小説賞)
1983年、「歴史小説の革新」により朝日賞
1984年、『街道をゆく―南蛮のみち1』により第十六回日本文学大賞(学芸部門)
1987年、『ロシアについて』により第三十八回読売文学賞(随筆・紀行賞)
1988年、『韃靼疾風録』により第十五回大佛次郎賞をそれぞれ受賞
1993年、文化勲章受章
1996年、死去
登場人物
正岡子規:正岡常則。母ヤエ、妹
正岡忠三郎:昭和2年京都大学経済学部卒。八重の弟・加藤恒忠(号は拓川)の三男で子規の死後12年後に死後養子に(戸籍上は律の養子に。
あや子:忠三郎夫人
土居健子(けんこ):好古の次女。
西沢隆二:タカジ。筆名ぬやま・ひろし。詩集『編笠』。忠三郎の親友。共産党員で12年間刑務所にいた。
知念実希人著『屋上のテロリスト』(光文社文庫ち5-2、2017年4月20日光文社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
一九四五年八月十五日、ポツダム宣言を受諾しなかった日本はその後、東西に分断された。そして七十数年後の今。「バイトする気ない?」学校の屋上で出会った不思議な少女・沙希の誘いに応え契約を結んだ彰人は、少女の仕組んだ壮大なテロ計画に巻き込まれていく! 鮮やかな展開、待ち受ける衝撃と感動のラスト。世界をひっくり返す、超傑作エンターテインメント!
太平洋戦争後、日本は、東京を首都とする西日本共和国と、仙台を首都とする東日本連邦皇国に分断された。西日本側の群馬、埼玉、東京と、東日本側の福島、栃木、茨城、千葉の間に数百キロにも及ぶコンクリート製の巨大な壁が建設され、その高さは5~20メートルに及んでいた。
終戦直前に新潟に原子爆弾が落とされ、新潟県の国境には壁は築かれず、日本国家友好会館、通称『関所』があった。
酒井彰人(あきと):主人公。西日本の高校生。両親が死んで、たがが外れ、「死」に恋している。校舎の屋上から飛び降りようとするときに、沙希から危険をものともしない人を求めていたと、バイトに誘われる。沙希は仕事が終わったら報酬として私があなたを殺してあげると拳銃を見せた。
佐々木沙希(さき):彰人と同じ高校に通う不登校児。テロリスト。美人。西日本の巨大企業群・四葉グループ会長。執事は佐藤。
西日本共和国:奇跡的経済発展を遂げた。アメリカからの最新装備を持つ。
カリスマ性ある二階堂大統領。狸おやじの国務長官・曽根。真面目な国防長官・郡司。優秀な首席補佐官・岡田。
山辺:東への強硬策を主張するデモを組織するNPO代表
森岡秀昭:母を殺され東側に恨みを抱き、山辺に従う。祖父は花火師の源二。
東日本連邦皇国:社会主義国家となり時代に取り残される。ロシア・中国からの型落ち装備。
最高指導者・芳賀日本社会労働党書記長。陸軍トップ・久保元帥。特殊攻撃部隊(EASAT)隊長・用賀少佐。
本作品は文庫書下ろし。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
ヤングアダルト風で、ともかく面白く読める。
当初から沙希は悪人として描かれていないので、テロリストといっても目的も手段も、少なくとも悪辣なものではないことは想定できてしまう。しかし、彼女は一体具体的にどんな計画を企てているのか? なぜ東側に協力しているのか? 疑問は膨らみ、引き込まれていく。
沙希の困難と思える計画は、次々成功し、心地よいほどの快進撃だ。登場人物も裏もなくわかりやすく、ご都合主義で軽快に進む。あえてノリノリで漫画を読んでいる気分となって、変に疑問を持たなければ、ご機嫌に読める。もちろん、それでも最後はハラハラさせてくれるし、まあまあ面白く気楽に読めた。
蛞蝓(ナメクジ)
知念実希人著『黒猫の小夜曲(セレナーデ)』(光文社文庫ち5-3、2018年1月20日光文社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
黒毛艶やかな猫として、死神クロは地上に降り立った。町に漂う地縛霊(じばくれい)らを救うのだ。記憶喪失の魂、遺した妻に寄り添う夫の魂、殺人犯を追いながら死んだ刑事の魂。クロは地縛霊となった彼らの生前の未練を解消すべく奮闘するが、数々の死の背景に、とある製薬会社が影を落としていることに気づいて――。迷える人間たちを癒し導く、感動のハートフル・ミステリー。
プロローグ
“死神”の僕は、死者の魂を『我が主(あるじ)様』のところまで導く『道案内』だった。しかし突然、上司の命令で、この世に未練を残したままでさまよう地縛した魂の未練を解決してあげて、『道案内』に引き渡すのが仕事となった。まことに不本意ながら、高貴な僕は黒猫の体を借りてダーティーな地上に降りた。
まだ猫の体になり切れないうちにカラスの追いかけられ危ない所を、ソフトボール大の淡く輝く光の塊、地縛霊に助けられた。さっそく未練を解決してあげるという黒猫の僕に、めずらしく流暢に言霊(ことだま)を話すその記憶喪失の魂は、生前のことはまったく覚えていないという。
未練を解決するためには記憶を取り戻させなければならない。僕は、昏睡状態の白木麻矢の体にその魂を入れ、白木家の飼い猫となって、街の魂を救い始める。名前はクロとなった。でも本当はネコの体に宿った高位の霊的存在なのだ。
第一章 桜の季節の遺言
さる家の庭に漂う南郷純太郎の魂を見つけ、クロはその家に住む妻の南郷菊子の記憶に入り込み事情を探る。会社会長の夫、純太郎は車に飛び込んで自殺をしたのだが、その日の夕方の夫からの電話は何か意味深な話ぶりだった。夫は妻を恨んでいたのだろうか?
第二章 ドッペルゲンガーの研究室
クロは、探し出した刑事・千崎の地縛霊に干渉してその記憶に入り込む。千埼は、妻・沙耶香を椿橋から突き落とした容疑者・小泉明良を取調べていたが、本当はシロなのではないかと思っていた。捜査方針に強硬に反対した千埼は刑事を首になり、ガンで死亡する。
ドッペルゲンガーとは、ある人物と同じ姿をした……分身みたいなものが、別の場所で目撃さえる現象。
第3章 呪いのタトゥー
クロより2年前に地上に降りて犬の体を借りて「レオ」になった僕の仲間はホスピスに住み着いて患者たちの未練を解決している。千埼はそのホスピスで亡くなっていて、レオに彼の残した捜査ノートを探し出してもらった。
第4章 魂のペルソナ
心理学者ユングが「人間の外的側面・自分の内面に潜む自分」をペルソナと定義した。マーケティングの分野では、架空のユーザー像・人物モデルという意味で使われる。
エピローグ 略
単行本は2015年7月光文社より刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
クロの嘆き、ボヤキが面白い。猫として主人である人間と、霊的には遥か下の存在である人間との矛盾がおかしみを生む。
高位な霊的存在だと誇り高い僕が、汚れた地上に落とされ、しかも人間の世話になるペットの猫の姿のクロに変わる。最初は馬鹿にしていた人間に、実際に人間の内面に触れることで、みにくい面もあるが、他人を思いやるやさしさもある存在と知ることになる。そして、左遷先の地上からはやく脱出したいと思っていたのが、‥‥。
謎解きは、必ずしも納得できない。記憶の無くした魂の正体にも‥‥。
「この地球上で唯一、自分たちにいつかは「死」が訪れることを知っている生物が、それを知らない生物たちよりも怠惰に生き、死後に『未練』に縛られる。皮肉なことだね。」(p304)
「でも、私(桜井知美)は彼(阿久津一也)を忘れられない‥‥」
「忘れる必要なんてないよ。君はずっとおぼえておくべきなんだ。君を絶望から救い出し、支えてくれた男のことを。そのうえで、前を向いて人生を歩んでいけば、彼は君の胸の中で生き続けることになるんでよ」
僕は自分が口にした気障なセリフで痒みを感じ、後ろ足でがしがしと首筋を掻く。(p294)
香箱座り:猫の前足を体の下にして、箱のようになって座る姿。
伊与原新(いよはら・しん)
1972年、大阪生れ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻。博士課程修了後、2003年より富山大学理学部助教として勤務。
2010年『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞し、デビュー
2019年『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、未来屋小説大賞を受賞
2021年『八月の銀の雪』直木賞候補、山本周五郎賞候補
2024年『藍を継ぐ海』直木賞候補
他の著書に『リケジョ!』(『プチ・プロフェスール』を改題)、『ルカの方舟』、『博物館のファントム』、『磁極反転の日』(『磁極反転』を改題)、『梟のシエスタ』(『フクロウ準教授の午寝』を改題)、『蝶が舞ったら、謎のち晴れ 気象予報士・蝶子の推理』、『ブルーネス』、『コンタミ科学汚染』、『青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏』、『オオルリ流星群』、『宙(そら)わたる教室』、がある。