hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

小川糸『ライオンのおやつ』を読む

2020年02月28日 | 読書2

 

小川糸著『ライオンのおやつ』(2019年10月7日ポプラ社発行)を読んだ。

 

ポプラ社の本書の特設サイト

ものがたり。

男手ひとつで育ててくれた父のもとを離れ、ひとりで暮らしていた雫は病と闘っていたが、ある日医師から余命を告げられる。最後の日々を過ごす場所として、瀬戸内の島にあるホスピスを選んだ雫は、穏やかな島の景色の中で本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫は選べずにいた。

著者からのメッセージ

母に癌が見つかったことで、わたしは数年ぶりに母と電話で話しました。電話口で、「死ぬのが怖い」と怯える母に、わたしはこう言い放ちました。「誰でも死ぬんだよ」けれど、世の中には、母のように、死を得体の知れない恐怖と感じている人の方が、圧倒的に多いのかもしれません。母の死には間に合いませんでしたが、読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい、と思い『ライオンのおやつ』を執筆しました。 おなかにも心にもとびきり優しい、お粥みたいな物語になっていたら嬉しいです。

 

雫さんはライオンの家に入って思う。(p36)

なんでも受け入れて、好きになる必要なんてない。

もっとわがままになっていいのだと、梅が、風が、私にそう囁きかける。

……

最後くらい、心の枷(かせ)を外しなさいと、神さまは私に優しく口づけしながら、そうおっしゃっている。

 

このホスピスの名前は「ライオンの家」

ライオンは? 動物界の百獣の王。(p136)

「そうです、その通りです。つまり、ライオンはもう、敵に襲われる心配がないのです。安心して、食べたり、寝たり、すればいいってことです」

「そっか、だからここはライオンの家なんですね」

 

おいしいコーヒーをいれるマスター、おやつに豆花をリクエストしたタケオさん、なれなれしいオヤジの粟鳥洲さん、人気作詞家のでエバリンボの先生たちはお先に失礼する。そして、…。

 

あの世の先生が言う。(p212)

「この間、女房に言われた。人の幸せっていうのは、どれだけ周りの人を笑顔にできたかだと思う、と」

 

 生きることは。誰かの光になること。

 自分自身の命をすり減らすことで、他の誰かの光になる。そうやって、互いにお互いを照らしあっているのですね。(p249)

 

海野雫(うみのしずく)幼い頃に両親を亡くし、叔父に引き取られて育った。33歳でステージⅣの癌を宣告され、レモン島と呼ばれる瀬戸内の島(大三島?)のホスピスで残された人生を過ごす。12月末入所で桜開花前までの命。

マドンナ:「ライオンの家」の代表。メイドの服装をして髪をおさげにし、真っ赤なエナメルのストラップシューズ、二つに分けて編んだお下げの7割は白髪の老婦人。

六花:(雪の異称)。雫の友。だいぶ前に先立った鈴木夏子が飼ってした犬。

狩野姉妹:シマ(姉)はご飯、(妹)はおやつ担当。「かのう」でなくて「かの」姉妹。シマ、マイで姉妹。

田陽地(タヒチ):葡萄畑でワインを作る

カモメちゃん:音楽セラピーのボランティア・スタッフ

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

ホスピスで次々を亡くなっていき、主人公も徐々に弱っていき、やがて……、という話を暗くならず、静かに、まったりと、明るささえ感じられるように描く。著者の醸し出す雰囲気、筆力には感心する。

 

死んだ人が戻ってくる話は、私ははっきり妄想風に語った方が良かったと思う。雫さん死後の家族の団らんの項もカットした方が良かったと思う。

 

最近、評価が自分でも厳しめだと思う。正直、3日に一冊は、本の読み過ぎで、読書に飽きている。読み始めは、どれどれと興味が湧き読む進めるのだが、途中からいつもの話だなと、ハイハイハイと批判的に斜め読みする。この本でも、感動することはないのは、私の方に問題がありそうだ。

 

 

小川糸(おがわ・いと)

1973年生れ。山形市出身。
2008年、『 食堂かたつむり』イタリアのバンカレッラ賞、フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞受賞
2009年『喋々喃々(ちょうちょうなんなん)』
2009年『ファミリーツリー』
2010年『つるかめ助産院
2016年『ツバキ文具店

その他、『あつあるを召し上がれ』『さよなら、私』、『にじいろガーデン』『サーカスの夜に』

エッセイ『ペンギンと暮らす』『こんな夜は』『たそがれビール』『今日の空の色』『これだけで、幸せ 小川糸の少なく暮らす29か条』

絵本『ちょうちょう』
fairlifeという音楽集団で、作詞を担当。編曲はご主人のミュージシャン水谷公生。
ホームページは「糸通信」。

 

 

メモ

 

お姫様座り、女の子座り:膝から下を左右に少し広げてお尻を床につける座り方

 

「牛より乳を出し、乳より酪を出し、酪より生蘇(しょうそ)を出し、生蘇より塾蘇を出し、塾蘇より醍醐を出す、醍醐は最上なり」 

酪はヨーグルト、生蘇は生クリーム、塾蘇はバター。醍醐は乳から得られる最上級のおいしいもの。醍醐味。

 

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篠綾子『岐山の蝶』を読む

2020年02月26日 | 読書2

 

篠綾子著『岐山(きざん)の蝶』(集英社文庫し69-1、2019年12月25日発行)を読む

 

裏表紙にはこうある。

「美濃の蝮」の異名で恐れられた斎藤道三の娘・帰蝶は、密かに従兄・明智光秀に好意を寄せていた。しかし、隣国である尾張との衝突を避けるため、織田信長との縁談が進められることに。故郷に心を残しつつ嫁いだ帰蝶、信長、そして光秀……それぞれの運命は複雑に絡みあい、「本能寺の変」へと繫がっていく──。史実を大胆に換骨奪胎し、強く、そして美しく生き抜いた女性を鮮やかに描く時代小説。

 

 

帰蝶:斎藤道三の娘で稲葉山城で生れ育つ。政略結婚で信長に嫁ぐ(正室)。美濃から来たので濃姫と呼ばれた。鼓の名手。母・小見の方は明智家出身で、明智光秀は従妹。史実では結婚後の経歴は不明。NHKドラマ「麒麟がくる」では川口春奈が演じる。

斎藤道三:美濃守護・土岐頼芸(ときよしなり)を追放。蝮(マムシ)の異名を持つ。

小見(おみ)の方:結婚前占い師に、娘を産めば自分を求めて二人の男が争い、決められず生田川に身投げした「菟名日少女(うないおとめ)の宿世を歩む」と告げられる。

深芳野:土岐頼芸から道三に譲られの側室となる。道三の長男・跡継ぎの義竜を生む。

おつや:帰蝶に付いて美濃から尾張へ来た侍女。

きよ:信長より3歳年上の帰蝶似の女性。娘を育てながら、京都で商いで成功。

土田御前:信長の実母だが、信長を嫌い、弟の信行を織田家の跡取りにしようとする。

生駒吉乃:信長の側室。3人の子は、奇妙丸(信長の嫡男・信忠)、茶筅丸(信雄)徳姫(徳川家康の嫡男・信康の正室)。

岐山:信長が金華山を岐山、城下町・井口を岐阜(岐山と、孔子の故郷「阜」)と名付けた。岐山は使用されず。

 

本書は文庫のための書き下ろし。

 

篠綾子(しの・あやこ)
1971年埼玉県生まれ。東京学芸大学卒。

2000年『春の夜の夢のごとく 新平家公達草紙』で第4回健友館文学賞を受賞し、デビュー。

2005年「虚空の花」で第12回九州さが大衆文学賞佳作。

2017年「更紗屋おりん雛形帖」で第6回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞受賞。

2019年『青山に在り』で第1回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。

「代筆屋おいちシリーズ」「藤原定家・謎合秘帖シリーズ」などシリーズ作品も多数。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

歴史の概略が頭にあるので、話のおおよそは解り易く、読みやすい。

 

テーマは簡単に言うと女性の自立であるが、男がもっとも荒々しかったこの時代にふさわしいテーマだろうか。

 

帰蝶、きよ、明智光秀、信長が都合よく出会い、再会する偶然は出来過ぎ。よく知られた歴史の中に作者に都合の良い偶然を埋め込むのは違和感がある。

母に受け入れられなかったことを引きずっていたという信長の心の内についての記述にも、すっきりはしない。

 

 

メモ

信長が好んだ幸若舞という芸能にある『敦盛』の言葉(能「敦盛」にはない)

「人生五十年。下天(げてん)のうちに比ぶれば

夢幻のごとくなり

ひとたびこの世に生を得て滅せぬもののあるべきか」

 

換骨奪胎:かんこつだったい。「冷斎夜話」による。(骨を取り換え、胎児を取って使う意)

 古人の詩文の発想・形式などを踏襲しながら、独自の作品を作り上げること。また、他人の作品の焼き直しの意味にも用いる。

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宮部みゆき『昨日がなければ明日もない』を読む

2020年02月24日 | 読書2

 

宮部みゆき著『昨日がなければ明日もない』(2018年11月30日文藝春秋発行)を読んだ。

 

文藝春秋の本書紹介は以下。

『希望荘』以来2年ぶりの杉村三郎シリーズ第5弾となります。中篇3本を収録する本書のテーマは、「杉村vs.〝ちょっと困った〟女たち」。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザーを相手に、杉村が奮闘します。

収録作品――あらすじ――

「絶対零度」……杉村探偵事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの品のいいご婦人だった。一昨年結婚した27歳の娘・優美が、自殺未遂をして入院ししてしまい、1ヵ月以上も面会ができないままで、メールも繋がらないのだという。杉村は、陰惨な事件が起きていたことを突き止めるが……。

「華燭」……杉村は近所に住む小崎さんから、姪の結婚式に出席してほしいと頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席するため、中学2年生の娘・加奈に付き添ってほしいというわけだ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する……。

「昨日がなければ明日もない」……事務所兼自宅の大家である竹中家の関係で、29歳の朽田美姫からの相談を受けることになった。「子供の命がかかっている」問題だという。美姫は16歳で最初の子(女の子)を産み、別の男性との間に6歳の男の子がいて、しかも今は、別の〝彼〟と一緒に暮らしているという奔放な女性であった……。

 

杉村三郎シリーズは、第一弾『誰か Somebody』、第二弾『名もなき毒』、第3弾『ペテロの葬列』。その他、短編集『希望荘』が第4弾。本書は第5弾。

 

 

 

杉村三郎:杉村探偵事務所の主、兼調査会社<オフィス蛎殻>調査員。大家は竹中家。元妻は今多コンツェルン会長嘉親の娘(非摘出子)の今多菜穂子で、娘は小4の桃子。

木田光彦:<オフィス蛎殻>非常勤調査員。ネットに強い。

竹中家:三男二女の母は松子。長女夫婦は子供二人、長男夫婦(嫁1号・順子)は長女・中2の有紗と子供二人、次男夫婦(嫁2号:彩子)は子供は一人、独身の三男・冬馬(とうま、トニー)が住む。次女は独立。

筥崎(はこざき)静子:主婦。自殺未遂後音信不通の娘・佐々優美(ゆうび)の調査を依頼。弟は毅(たけし)。

佐々知貴:二年前に優美と結婚。26歳。広告代理店勤務。チーム・トリニティのメンバー。

高根沢輝征(てるゆき):ホッケーのチーム・トリニティの代表。33歳。妻は毬江

田巻康司:チーム・トリニティのメンバー。妻が死亡。

 

小崎佐貴子:竹中夫人(松子)の友人。50歳。一人娘は中2の加奈。

宮前佐江子:小崎佐貴子の妹。45歳。静香の母。姉と仲たがいしている。

宮前静香:24歳。加奈の従姉。結婚予定。

菅野みずき静香と同じフロア―で結婚式の予定。

 

朽田(くちだ)美姫:16歳で長女(さざなみ)を産み、別の男性との間に6歳の長男・竜聖がいる。29歳。

朽田三恵美姫とそっくりな年子の妹。

鵜野一哉:美姫の前の夫。竜聖は息子かも。

串本憲章:ケンショウ。トラック運転手。美姫の現在の相手。

 

 

初出:「オール読物」(「絶対零度」: 2017年11月号、「華燭」:2018年3月号、「昨日がなければ明日もない」:2018年11月号)

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

キャラが立っていないほんわか私立探偵が生活の中のいざこざ、犯罪を解決するというシリーズで、気楽に読めるのだが、あまたある本の中から限りある時間――言わせてください――の中で、特に選んで読む本かどうか。

 

話の中では、心打たれる人情もとくになく、生活の辛さがにじみ出るものでもない。ただ、本当に根性が腐った嫌なヤツはでてきて、イライラする。著者はのんびりした人の好い普通の人がなった探偵を生活の中で活躍というか、活動させたかったのだろうと思う。それを読者はどう思うだろうか?

 

宮部みゆき 概歴と既読本リスト

 

 

お言葉

「お酒さえ飲まなければ、ギャンブルさえしなければ、浮気さえしなければいい人ってのは、それをやるから駄目な人なんだ」

 

「どれほど辛い過去だろうと、それはあなたの歴史です。昨日のあなたがあってこそ今のあなたがあり、あなたの明日があるのです。受け入れて前向きに進まなければ、幸福な未来への道は開けません。」

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酒井順子『家族終了』を読む

2020年02月22日 | 読書2

 

酒井順子著『家族終了』(2019年3月31日集英社発行)を読む

 

集英社の「よみタイ」にはこうある。

が好きですか? 自分の子供をかわいいと思いますか? 夫婦で同じお墓に入りたいですか? 一緒に暮らしたいのは誰ですか――?

「日本の家族」の象徴である天皇家が抱える諸々、50歳時に未婚の割合を示す「生涯未婚率」(45〜49歳の未婚率と50~54歳の未婚率の平均)の上昇、事実婚、シングル家庭、同性婚……近年の家族をめぐる状況は多様化しました。
『負け犬の遠吠え』『子無しの人生』『おばさん未満』『男尊女子』『百年の女』など、話題作を発表し続ける酒井順子氏。未入籍のパートナーと暮らし、両親、実兄をすでに見送ったからこそ見えてくる家族の諸問題とは。日本の家族観の変遷を辿りながら、現在を考察、未来予測まで言及します。

 

酒井さんは、両親と兄、祖母という3世代5人家族で生まれ育った。祖母、父、母と亡くし、一昨年兄も他界。籍を入れていない「同居人」、兄が残した姪以外、子どももなく、53歳の酒井さん「私にとっての『家族は終了」した。

 

 

草津白根山噴火のニュースで見た光景に酒井さんはびっくり。ゴンドラの中で救助を待つ男性が父親に電話し、「ありがとう」でなく、「パパ、愛してるよ!」と言った!(「パパ、愛してる」)。

 

男の子のママからはたまに、ドキッとする話を聞くものです。

「将来、私から離れられなくなるように育ててるのよ」(「パパ、愛してる」)

 

……今時の親や祖父母は、子や孫に迷惑をかけることをよしとしないのですから。……

子や孫にかけた愛や心配がこの先、自分に戻ってはこないかもしれないけれど、それでも思いを寄せずにはいられない。経済の原理からは離れた感情のやりとりがなされる場こそが、家族というものなのでしょう。(「心配されたくて」)

 

加齢と共に胃弱となり、冷え性の酒井さん、

母親が今も生きていたなら、

「お母さんも、色々大変だったのネ!」

と、互いにしかわからぬ「体調あるある」を話し合ってみたいものよ、と思います。(「毒親からの超克」)

 

 

初出:集英社学芸部サイト「学芸・インフィクション」2018年1月~9月

   集英社ノンフィクション編集部サイト「よみタイ」2018年10月~2019年2月

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

密着した母と息子、友達の父と息子など最近の家族の動向についてはその通りだと思う。読まなくてもそう思うのだが、引用される例が適切、驚きで面白い。

 

その他、酒井さんのあくまで女だった母親などユニークな過去の家族の話や、酒井さんが結婚しない同居人の話は、どれどれと下世話な気持ちで読んでしまった。私が愛読している酒井さんだから読んだだけで、一般的に面白いとは言えない。

 

 

酒井順子の経歴と既読本リスト

 

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恩田陸『祝祭と予感』を読む

2020年02月20日 | 読書2

 

恩田陸著『祝祭と予感』(2019年10月1日幻冬舎発行)を読む

 

幻冬舎の宣伝は以下。 

また彼らに、
会える。

待望の『蜜蜂と遠雷』スピンオフ短編小説集!!
【内容】
大好きな仲間たちの、知らなかった秘密。
入賞者ツアーのはざまで亜夜とマサルとなぜか塵が二人のピアノ恩師・綿貫先生の墓参りをする「祝祭と掃苔」。
芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員ナサニエルと三枝子の若き日の衝撃的な出会いとその後を描いた「獅子と芍薬」。
作曲家・菱沼忠明が課題曲「春と修羅」を作るきっかけとなった忘れ得ぬ一人の教え子の追憶「袈裟と鞦韆」。
ジュリアード音楽院に留学したマサルの意外な一面「竪琴と葦笛」。
楽器選びに悩むヴィオラ奏者・奏に天啓を伝える「鈴蘭と階段」。
ピアノの巨匠ホフマンが幼い塵と初めて出会った永遠のような瞬間「伝説と予感」。
全6編。

 

恩田陸の略歴と既読本リスト

 

参考までに、恩田陸著『蜜蜂と遠雷』の私のブログでの本編に関連する人物紹介を載せておく。

 

栄伝亜夜(えいでん・あや):天才少女ピアニストだったが、13歳で母を亡くし、引退。

 マサル・カルロス・アナトール:出場者。ジュリアードの王子様。ペルーの日系三世。188cm

風間塵(じん):ホフマンが推薦状を遺し、音楽の神様の愛されていると称される。父が養蜂家で「蜜蜂王子」とあだ名される。

嵯峨三枝子:芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員。8歳年下の作曲家と暮らす。ナサニエルは元夫。

ナサニエル・シルヴァーバーグ:ジュリアード音楽院教授。三枝子の元夫。数少ないホフマンの弟子の一人。

 ユウジ・フォン・ホフマン:伝説的巨匠ピアニスト。

菱沼忠明:作曲家。大文豪と大政治家が祖父。

浜崎奏(かなで):有名私立音大の学長の次女。ヴァイオリン(ヴィオラ)。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

個々の話は面白く読めるのだが、前作『蜜蜂と遠雷』を思い出さないと背景がわからず深く楽しめない。

 

前作での登場の人物の、昔と将来の出来事を書いているので、記憶力の優れた人ならいざしらず、『蜜蜂と遠雷』を読み返さないと面白味が半減する。おまけに、話の時代が前後するので、巨匠が新人になったりして、よけいに混乱する。

 

 

メモ

掃苔(そうたい):墓参り。確かにたまに墓参りするとコケを掃除する。

芍薬:シャクヤク

鞦韆:ブランコ、ふらここ、しゅうせん

 

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奥山景布子『葵の残葉』を読む

2020年02月18日 | 読書2

 

奥山景布子著『葵の残葉(ざんよう)』(文春文庫お63-2、2019年12月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

兄弟の誰か一人でも欠けていれば、幕末の歴史は変わった――。石高わずか三万石の尾張高須の家に生まれた四兄弟は、縁ある家の養子となる。それぞれ尾張藩慶勝、会津藩容保、桑名藩定敬、そして慶勝の後を継いだ茂栄。幕末の激動期、官軍・幕府に別れて戦う運命に。埋もれた歴史を活写する傑作長篇小説!

 

新田次郎文学賞、本屋が選ぶ時代小説大賞受賞

 

巻頭にある家系図

徳川治紀(はるとし)水戸藩7代藩主
∟徳川斉昭(なりあき)水戸藩9代藩主 将軍継嗣争いで井伊直弼に敗れ永蟄居、そのまま死去
  ∟徳川慶篤
  ∟徳川慶喜(よしのぶ)一橋徳川家9代当主→15代将軍
∟規姫(のりひめ)徳川治紀(はるとし、水戸藩7代藩主)の五女
  ❘
 松平義建(よしたつ)尾張徳川家の分家・高須藩10代藩主
   ∟徳川慶勝(よしかつ)尾張藩14代、17代藩主、松平慶恕(よしくみ)→義勝
     ∟徳川義宜(よしのり)尾張藩16代(最後の)藩主
   ∟徳川茂栄(もちはる)高須藩11代藩主→尾張藩15代藩主(徳川茂徳)→一橋徳川家10代当主
     ∟義端(よしまさ)高須12代藩主、3歳で夭折
   ∟松平容保(かたもり)会津藩9代藩主・京都守護職
   ∟松平定敬(さだあき)桑名藩藩主・京都所司代
     ❘
    初姫
   ∟松平義勇(よしたけ)高須藩13代藩主

冒頭は明治11年に高須四兄弟(松平定敬、松平容保、徳川茂徳、慶勝)がそろって写真を撮るシーンで始まる。このとき撮影されたの写真が巻末に載っている。同じ写真は例えば、「ウィキペディアの徳川慶勝」の項にある。

 

タイトルの「葵の残葉」とは、4兄弟の父・松平義建が「余も、そなたたちも、…、まごうことない、葵も末葉だ」と語り、55歳になった義勝が「末葉というより。我らはさしずめ、残葉だ。」と呟いたことから。

 

幕末の政治は確かに大混乱だった。井伊直弼が争いに勝ち徳川慶福(家茂)を将軍とし、安政の大獄を起こし、桜田門外の変で暗殺された。もめた末公武合体が行われ、禁門の変で長州藩が朝敵になり、処罰がもめ、将軍慶喜が大政奉還し、……。

 

主人公ともいえる尾張藩主の徳川慶勝が、藩内も混乱し火種を抱えるなか、強大な外敵が迫る中、いかに内戦せずに長州征伐を収めるかなど苦心する。一方では、強硬派の会津藩主で京都守護職の弟・松平容保はまとまりかけた体制をぶち壊してしまう。桑名藩主の弟・松平定敬も慶勝を疑う。尾張藩内の勢力争いでは下の弟・定敬とも溝が深い。さらに結局、新政府軍に抵抗し敗れた容保、定敬をなんとか助けようと努力する。

  

単行本:2017年12月文藝春秋刊

  

奥山景布子(おくやま・けいこ)
1966年愛知県生まれ。2007年「平家蟹異聞」(『源平六花撰』所収)でオール讀物新人賞受賞

名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。高校教諭、大学専任講師などを経て創作を始める。

2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞。

2009年、受賞作を含む『源平六花撰』で単行本デビュー。

2018年、本書『葵の残葉』で新田次郎文学賞、本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

左右に大きく揺れる時代の中、立場の異なる4人を書きわかるのは至難の業だ。4人名前がコロコロ変わることもあり、話が複雑すぎ、結局、歴史の概説風になってしまっている。事件を絞って、より詳細に書き込んでほしかった。

 

それでも、登場する殿様たちの個性が、実際がどうかは別にして、はっきり描き分けられていた。例えば、慶喜の、優秀であることは間違いないのだろうが、言っていたことをあっさり覆す、他人がどう思うかをまったく考えないなど変人ぶりがはっきり分かる。

 

名前が頻繁にかわるので、ややこしい。おまけに養子で他家に移る場合も多く、ややこしいことこの上ない。名前だけでも、例えば、慶永(春嶽)などと良く知られた名前を( )内に書き足して欲しかった。

 

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小川哲『ユートロニカのこちら側』を読む

2020年02月16日 | 読書2

 

小川哲著『ユートロニカのこちら側』(2015年11月25日早川書房発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

アガスティアリゾート――マイン社が運営する、サンフランシスコ沖合の特別提携地区。
そこでは住民が自らの個人情報――視覚や聴覚、位置情報などのすべて――への無制限アクセスを許可する代わりに、基礎保険によって生活全般が高水準で保証されている。
しかし、大多数の個人情報が自発的に共有された理想の街での幸福な暮らしには、光と影があった。
リゾート内で幻覚に悩む若い夫婦、潜在的犯罪性向により強制退去させられる男、都市へのテロルを試みる日本人留学生
――SF新世代の俊英が、圧倒的リアルさで抉り出した6つの物語。
そして高度情報管理社会に現れる"永遠の静寂"(ユートロニカ)とは。
第3回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。

 

舞台は米国で、登場人物も多くは米国人。その人の見た光景などの映像、その他すべての個人情報を提供する代わりに、アガスティアリゾートでは働く必要がなく、セキュリティは万全。こんな理想郷でも、影があり、そとの社会との歪がある。

 

アガスティアリゾート

すべての個人情報からその人が犯罪を起こす確率を求める。「アガスティアリゾートの犯罪予測は犯罪者を裁くためのものではなく、起こる必要のない事件を回避することで、被害者と加害者の未来を救うシステムなのです。」その結果、リゾートでは犯罪はほとんど起こらず、殺人は未だ起こっていない。

 

タイトル「ユートロニカのこちら側」

「ユートロニカ」とはユートピアとエレクトロニカからの著者の造語。「リアリズムで書く」ことに徹したので「こちら側」とした。

 

第一章「リップ・ヴァン・ウィンクル」

アガスティア・リゾートがどのような場所かを説明している。


第二章「バック・イン・ザ・デイズ」

すべての過去情報から過去の完全な体験ができる技術が登場。

 

第三章「死者の記念日」

刑事の感か、AI(オートメーション化)かが問題。

 

第四章「理屈湖の畔で」

犯罪予防テクノロジーが社会に適応されまでを描く。

 

第五章「ブリンカー」

 ブリンカーは「注意力の散漫な競走馬が、視界を狭めるために被るマスク」

 

第六章「最後の息子の父親」

登場した宗教者が自由意志をめぐり対話する。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

話の背景の組立は新鮮で面白い。話の内容は、時に哲学的で難解だ(著者は哲学の研究中)。

起こる事柄や人物の泥臭さがないので、頭で考えた絵空事感があり、現場感に欠けるところがある。

二十代の若者が書いたとは思えないほど洗練され読みやすい文章で、難解な話もわかったような気にされてしまう。

「第3回SFコンテスト受賞者インタビュウ」を見ると、著者の経歴、本作品の意図などがよくわかる。

 

小川哲の略歴と既読本リスト

 

小川哲(おがわ・さとし)
1986年千葉県千葉市出身。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。コンピューターの父・英国の科学者・哲学者アラン・チューリングを研究。
2015年本書『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト“大賞”受賞し、デビュー。
2017年発表の第2長篇『ゲームの王国』が第39回吉川英治文学新人賞最終候補、その後、第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞
2019年『嘘と正典』が直木賞候補

 

 

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頂いた可愛いチョコ

2020年02月14日 | 食べ物

 

知人女性から頂いたチョコ2つ。

 

昨年もご紹介したピエール・ルドン

 

 

冷凍は一切せずにベルギーからの直接空輸で、日本で箱詰されているという。

さすが、ベルギーの有名ショコラティエ。

 

もう一つは、エルマン・ヴァンデンダー。こちらもベルギー王室御用達の巨匠ショコラティエ。

1店舗経営にこだわり、日本には直営店舗はなく、バレンタインの時の期間限定で販売だそうだ。

 

 

どちらがどうなどととても言えません。

玉手箱のような外観、まさにお菓子の宝石。

さわやかなのにしっくりきて、シアワセを呼ぶ味。

 


もうおひとかたから頂いたロイズの生チョコ

 

 

 

東急の8Fでご購入したものだろう。

 

 

 

 

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伊岡瞬『悪寒』を読む

2020年02月12日 | 読書2

 

伊岡瞬著『悪寒』(2017年7月10日集英社発行)を読んだ。

 

悪寒 伊岡瞬 集英社 WEB文芸 RENZABURO」にはこうある。

 

大手製薬会社「誠南メディシン」に勤める藤井賢一は、会社の不祥事の責任を一方的に取らされ、東京から山形の片田舎にある関連会社「東誠薬品」に飛ばされた。それから八か月ほど経ったある夜、東京で娘・母と暮らす妻の倫子から、不可解なメールを受け取る。
<家の中でトラブルがありました>
すぐさま倫子に電話をするが、繫がらない。その数時間後、賢一の元に警察から電話が入る。「藤井倫子を傷害致死の容疑で逮捕しました」。妻が殺した相手は、賢一にとっては雲の上の存在、「誠南メディシン」の常務、南田隆司だった――。賢一の単身赴任中に、一体何が起きていたのか。その背景には、壮絶な真相があった。

 

単身赴任中に、妻や娘と話が通じない状態となり、そして突然、メールが飛び込む。

「家の中でトラブルがありました。途中まで洗濯はしたのですが、妹に相談したら警察が来るまで掃除をしないほうがいいと言うので、床はそのままにしてあります。申し訳ありませんがラグにシミが残るかもしれません。こちらはなんとかなりますので、お仕事を優先あせてください」

賢一はともかく東京へ急ぐ。

 

藤井賢一:大手製薬会社「誠南メディシン」から山形酒田市の関連会社「東誠薬品」に左遷。

松田支社長:「東誠薬品」での賢一のいじわるな上司。45歳。

高森久美:「東誠薬品」・営業課。賢一の部下。

南田隆司:「誠南メディシン」常務。会長の次男。

南田信一郎:「誠南メディシン」専務から海外子会社へ左遷。会長の長男。

 

藤井倫子(のりこ):賢一の妻。40歳。結婚前に「誠南メディシン」勤務。旧姓滝本。

藤井香純:賢一・倫子の一人娘。賢一に反発。

藤井智代:賢一の同居している母。認知症。

滝本優子:倫子の妹。独身。

滝本正浩:倫子と裕子の父。71歳。

 

真壁:警視庁捜査一課。三十代半ば。無表情。

白石真琴:優子の弁護士

 

 

伊岡瞬の略歴と既読本リスト

 

 

私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの?)(最大は五つ星)

 

全体として、読みやすい。前半は、いきなりの謎に、何だ、何があったのだと、ついつい読み進めてしまう。しかし、最後の謎解きの部分がバタバタで、ミステリーとしては肝心な点で失敗だと思う。

 

上司たちの罪を被り、派閥争いに巻き込まれて左遷された主人公・賢一が、単身赴任先で上司から嫌がらせを受けて苦労する話が続き、うんざりする。こんな話を延々と書いてどうするのか。あっさり退社はできなくても、心の中ではこの野郎と思わないのだろうか。ウジウジする賢一にイライラする。

 

謎解きの部分も、二転三転する結果に、「おいおいま、たかよ!」と乗れなくなってしまった。こんな方法では誰だって犯人にすることができるじゃん!

 

 

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「おむすび権兵衛」でランチ

2020年02月10日 | 食べ物

 

おむすび権兵衛」の京王吉祥寺店(キラリナ1F)でランチした。

 

持ち帰り、家で広げて食べるのも面倒なので、注文し、テーブルで食べた。

 

食べるところは壁際の数席。ほとんどの人が持ち帰る。

狭いテーブル席に座っていても、横のカウンターであれこれ注文する声がうるさい。

 

私は、「梅ひじき玄米」、「ピリ辛豚ミソ玄米」のおにぎりと、「五目ひじき煮」、「みそ汁」。

 

                    

相方は、「五目いなり」と、「ジャコとネギの厚焼」、「みそ汁」

 

写真では、「五目いなり」と「梅ひじき玄米」が入れ替わっている。

 

合計で千円と少々。コスパは良い。

変わったおにぎりがいろいろあって、良いのだが、選ぶのが面倒。

店内で食べるのは、落ち着かない。

 

 

 

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ドトールでランチ

2020年02月08日 | 食べ物

 

相方の免許返納に付き合い、そのまま吉祥寺へ出て、街をブラブラ。

マスクや手指消毒用スプレーでも見てみようと、何店かドラッグストアを巡ったが、どこも棚は空っぽで、張り紙がぶら下がるのみ。

来る客、来る客が店員さんに「マスクは? いつ入りますか?」と訊ねるので、店員さんも「ほとんど入荷しません」とうんざりと答えている。

 

まだ早いが軽く食べようと、ドトール元町通り店に入る。

若い人はほとんど見かけない。次々と入って来て、回転も速い。

ドトールは業界一の店舗数で1000店を超えるらしい。

 

私は、ホットサンドの「カルツォーネ 彩り野菜とチキンのマルゲリータ」とSサイズのブレンドコーヒー。

相方は、「ヒトクチミックスサンド」とSサイズのカフェラテ。

 

 

それにしても、最近のメニューには形容詞など飾り言葉が多い。「カルツォーネ 彩り野菜とチキンのマルゲリータ」とは!(写真の右下) レシートには「カルツォーネ チキン」とだけあった。

 

ドトールは手軽で安く、簡単にランチするには便利だ。

 

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角田光代『希望という名のアナログ日記』を読む

2020年02月06日 | 読書2

 

角田光代著『希望という名のアナログ日記』(2019年11月6日小学館発行)を読んだ。

 

各種媒体へ書いたエッセイを集めた。一篇だけエッセイ風の短編小説がある。カバーは佐野洋子の絵。

 

小学館の宣伝文。 

作文の得意な少女は作家への夢を追いかけた

第一章「<希望>を書く」…小学生時代の作文修業から作家デビュー、幾度の挫折を経て直木賞受賞までを描く半生の記に始まり、追いかけるアイドルではなく目指すべき表現者であった忌野清志郎論など全21篇。
第二章「旅の時間、走るよろこび」…<旅のエッセイ>と見せかけて実はフィクションという見事な短篇小説「それぞれのウィーン」で幕を開け、「永遠、という美」と題したシャネルN。5のドキュメントがつづく。そして台湾、韓国、パリ、スペインへの旅、さらには那覇マラソンと西表島マラソンの鮮やかな記憶を綴る。
第三章「まちの記憶・暮らしのカケラ」…住んでいる町の素顔から東日本大震災で失われた町、そして日々の暮らしを生き生きと描いたエッセイ17篇。

 

Ⅰ <希望>を書く

充実しきった日々を夢中で過ごして、そうすることで、ずっと遠くに、ずっと高いところにいくことが以前の私は幸福だと思っていた。でも、そうではない、と思うようになった。今日一日を、昨日と同じようにくり返せること、フルの力じゃなくていい、高くも遠くもいかなくていい、掘った穴を埋めるような一日が過ごせること――そのほうが、ずっと幸福だと思うようになった。

その理由は、猫と暮らすようになったことと、年齢のせいだろう。

 

Ⅱ 旅の時間・走るよろこび

スペイン・サンティアゴ近郊のリオハ地区、蛇口が二つ並んでいて、右から水が、左からは赤ワインが出る。巡礼者に敬意を払うためだ。

 

那覇マラソンは日本一完走率が低いマラソンだ。沿道からたくさんの食べ物や、飲物、中には口がパサパサになるサーターアンダギーや、泡盛もある。

 

東日本大震災の2年後、三陸へ旅した。雪の積もった空き地に手書きの看板が立っていた。「ご支援ありがとうごさいます。いつかかならずご恩返しいたします。気をつけてお帰りください」

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

一つ一つのエッセイは読みやすく、明快な文章で、内容も納得できるものなのだが、さまざまな媒体向けに書いたエッセイの集合体なので、全体としては内容が広がり過ぎている。角田さんには、細かな依頼は断って、まとまったテーマでエッセイを書いてもらい、などと思ったりして。

 

一時期マラソン――ハーフだが――を走っていた者として、走る話は面白かった。ひとけのない田舎道を走っていて、沿道に応援の人がいると、気を引きしめてきちんと走る。応援は本当に力になる、少なくともその箇所だけはしっかり走れる。

 

若いときと考え方が違ってきたとの記述が散見する。角田さんも52歳。「まだまだ思いもかけないように変わりますよ」とお伝えしたい。

 

 

角田光代の略歴と既読本リスト

 

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20年1月の花

2020年02月04日 | リタイヤ生活

1月10日に届いた花

翌日

翌々日にはほぼ満開


1月25日の花


3日後



 

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黒川伊保子『定年夫婦のトリセツ』を読む

2020年02月02日 | 読書2

 

黒川伊保子著『定年夫婦のトリセツ』(SB新書473、2019年4月15日SBクリエイティブ発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

永遠の夫婦の命題に脳科学が答えをくれる

夫はなぜ朝食を食べながら「今日の昼メシなに?」と聞いて妻をイライラさせるのか?

妻はなぜ「どこに行くんだ?」「何をするんだ?」「何時に帰るんだ?」と聞くとキレるのか?

定年前は我慢できたあんなこと、こんなことも、24時間一緒に過ごすとイライラが止まらない。

その原因は「脳」にある。定年が見えたら読んでおきたい夫婦のための夫婦のトリセツ。

 

夫はなにより共感力を身につけよ

「なんだか腰が痛くて」には、まず「腰か、それは辛いなぁ」と応える。「医者に行ったのか」は否。

男は正義の味方で、妻がちょっとしたことで間違っていると、正して白黒つけたがる。間違っていることをわざわざ妻に伝えるメリットがあるだろうか?

 

買物袋を両手に下げた妻が玄関に戻ってきたら、夫は「500m下げて歩いて来たんだから、あと3m運んであげても意味ない」と考えては否。女はこの3mで絶望する。

 

男は家事の大部分である細かな作業のマルチタスクが苦手。あらかじめ作業の流れと手順を脳に描いて集中して作業する家具の組立などは得意。

 

夫は朝食を食べながら「今日の昼メシなに?」と聞く。これは男性脳がゴール指向でゴールから前倒しして計画を立てるから。女性は臨機応変に段取りする能力が高いのであらかじめ計画など立てない。

 

武骨で、気が利かず、優しいひとことも言えない。威張り屋で、余計な正論を振りかざしてくる。無関心のくせに、文句だけは言う。そんなふうに見える男性脳だが、彼らなりに繊細で優しいのである。

 

 

目次

はじめに 夫婦のツケは定年後に払うことになる
第1章 夫婦はなぜムカつきあうのか ~夫源病、妻源病の正体
第2章 定年夫婦のための「準備」と「心構え」 ~定年までに準備するもの・こと・心構え
第3章 「夫の禁則」7ヵ条 ~これからの30年をダイヤモンドにする方法
第4章 「妻の禁則」7ヵ条 ~これまでの30年をダイヤモンドにする方法
おわりに

 

 

私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

書いてあることにとくに異論はないのだが、同様の本が4冊目となるとさすがに飽きが来る。「なら何故読むのか?」「読まされているからです!」

この著者のこの種のものを初めて読む人には会話の具体例が多く、「そうそう」と共感を呼ぶかも。

 

数書くうちに、男性に味方する記述が増えてきたのは喜ばしい。

 

男性脳、女性脳の話は本当かな?そんな単純なものではないのでは?と思う。しかし、この部分は後付けと無視して読めば支障ない。

著者の家族が理想的に書いているのも気味悪いが、のろけと思って読み飛ばせばよい。

 

 

黒川伊保子(くろかわ・いほこ) 
1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテーター、感性アナリスト、随筆家。

奈良女子大学理学部物理学科卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリにて、人工知能(AI)の研究開発に従事。

2003年(株)感性リサーチを設立、同社代表取締役に就任。

著書『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』  、『恋愛脳』、『夫婦脳』、『家族脳』、『日本語はなぜ美しいのか』、『「ぐずぐず脳」をきっぱり治す! 』、『キレる女 懲りない男――男と女の脳科学』、『英雄の書』、『女の機嫌の直し方』、『妻のトリセツ』、『夫のトリセツ』、本書『定年夫婦のトリセツ』など。

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小川哲『嘘と正典』を読む

2020年02月01日 | 読書2

 

小川哲著『嘘と正典』(2019年9月20日早川書房発行)を読んだ。

 

零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」
名馬・スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる「ひとすじの光」
東フランクの王を永遠に呪縛する「時の扉」
音楽を通貨とする小さな島の伝説を探る「ムジカ・ムンダーナ」
ファッションとカルチャーが絶え果てた未来に残された「最後の不良」
CIA工作員が共産主義の消滅を企む「嘘と正典」(書き下ろし)     

以上全6篇を収録

 

第162回直木賞候補作品

舞台はばらばらだが、いずれも時の流れを逆流するタイムトラベル技術にからむ話。

 

「魔術師」

マジシャン・竹村理道はテレビ出演をきっかけに売れっ子になるが、自分の魔術団を作り、映画制作に失敗し、姿を消す。しかし、10年以上経過後、突如カムバック公演を開き、舞台上では信じがたいことが起きる。

語り手は長男で、マジシャンになっており、父のトリックを見破ろうとしている姉とこの公演を見ている。

 

「ひとすじの光」

書けなくなった作家の、疎遠になっていた父親が亡くなる。彼は完璧に遺産整理を終えていたが、何故かただ一つ、競走馬・テンペストだけが遺されていた。テンペストは地方競馬で12回出走して未勝利。父はなぜこの馬を持ち、遺したのか。主人公は一度だけ、父と競馬を観にいった。京都大賞典でスペシャルウィークが惨敗した日だった。
彼は名馬・スペシャルウィークの血統をたどり、歴史を遡っていく。そして、怖いだけだった父のこと、自分との関係を知ることになる。

 

「嘘と正典」

CIA工作員が共産主義がもともとなかったようにするための工作を企てる。

ストークスはうなずいた。

四年前から準備はできていた。《アンカー》として《正典》を守るために、そして世界の《計算量》を減らすための準備だ。あの日、《正典の守護者》の《中継者》からメッセージを受取って以来、‥‥この日をもって、六百年にわたって活動してきた《正典の守護者》が、ついに《歴史戦争》を終結させるのだ。

エンゲルスは金を渡してマルクスを支えてきた。そのエンゲルスはある事件で有罪になりオーストラリアに流されるはずだったが、ある男の証言で無罪になった。証言がなかったら、共産主義は生まれなかった。

表紙の写真はマルクスだと思う。

 

 

初出:「魔術師」「ひとすじの光」「時の扉」「ムジカ・ムンダーナ」:SFマガジン2018年4月号~2019年6月号、「最後の不良」:Pen2017年11月1日号、「嘘と正典」:書き下ろし

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

切れ味があって、新しいSFの匂いがする。著者の才気も感じられる。しかし、タイムトラベルものは、話がややこしく、パラパラと読み返さないと混乱しがちだ。

 

「魔術師」は頭が混乱するが、それが楽しくもある。

夢がある競馬ものの「ひとすじの光」と、スリルあるスパイもの「嘘と正典」は楽しく読めた。

音楽が取引材料になる話は面白いが、音楽のことは無知な私には「ムジカ・ムンダーナ」は今一つ乗り切れなかった。

ややこしく、しつこく、おもろない「時の扉」には閉口し、飛ばし読みした。

 

タイトルの「噓」と言う字は環境依存で「?」に化ける場合がある。表紙などはデザイン上の都合もあるかもしれないが、書名登録などには普通の「嘘」を使用して欲しかった。

 

 

小川哲の略歴と既読本リスト

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