hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

篠田節子『冬の光』を読む

2022年08月31日 | 読書2

 

篠田節子著『冬の光』(文春文庫、し32-12、2019年3月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父。高度成長期の企業戦士として、専業主婦の妻に守られた家庭人として、幸せなはずの人生だった。死の間際に想ったのは愛した女なのか、それとも――四国で父の足跡を辿った次女の碧は、ある事実を知る。家族、男女関係の先に横たわる人間存在の危うさを炙り出した傑作長編。 解説・八重樫克彦

 

次女の碧(みどり)は10日間の休みを利用して、父・康宏が船室内に残した手帳のメモをたどって四国を巡り始める。

なぜか、康宏は巡礼9日目の朝に装束、用具一式を捨て、残り六十数カ所を回っていた。そして東京へ帰る途中のフェリーから姿を消した。常に女性の陰がつきまとう父の秘密を碧は探して旅する。

 

富岡康宏:卒業後、学生運動から足を洗って重工業メーカーに勤め企業戦士になった。55歳で子会社へ出向し、」実父が倒れ定年前に退職して5年の介護の後、東日本大震災のボランティアへ。その後、四国札所八十八カ所を4カ月以上かけて回り終えて結願(けちがん)し、フェリーで東京に向かう途中姿を消し、巡視艇が遺体を発見し、警察は自殺と判断した。
学生運動の中で知り合った紘子とは恋人だった時期もあるが、気になる存在のまま長い時間が過ぎていた。20年の一見平和な結婚生活の中で、康宏は何度か妻を裏切っていた。

笹岡紘子:外交官の娘。硬質な美貌。大学に留まり自身の正義感から闘争を続け、孤高の人となる。処世術も世間一般の常識は通用せず、寛容さが足りずに高貴な非常識さを身に着けたままだった。

美枝子:康宏の妻。小山市の長女・敦子のところに手伝いに行くことが多い。

敦子:康宏の長女。双子の娘の下に男子が産まれた。

碧:康宏の次女。未婚。メーカーの研究所勤務。

秋宮梨緒(りお):康宏が巡礼を途中で助けた白い装束の女性。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

面白く読んだのだが、康宏のフラフラする考え方になじめないのと、紘子との話が長すぎるので三つ星にした。それに矮小化すればしょせん不倫小説だし。

 

紘子は学生闘争時代のままその後も突っ張って生きていて、孤高の高貴さが個性的でキャラが立っている。

 

謎は、(1)紘子と康宏の関係がどんなもので、どうなるのか? (2)なぜ康宏は、装束・道具を捨てて巡礼を続けたのか? (3)なぜ康宏は自殺したのか? だが、(1)は長すぎてダレル。(2)も納得しかねるし、(3)は最後に肩透かし。

 

 

篠田節子の略歴と既読本リスト

 

 

若い住職の言葉:「どんな経緯にあったにせよ、どんな亡くなり方をなさるか、などということは、最後の、最後の、ほんのささいな分かれ道に過ぎないのですよ。ご安心ください。お父様はちゃんと成仏なさっています」(p64)

 

孫の相手を一日して見送ったその夜は、疲労とともにとてつもない虚無感に襲われる。幸福の後ろに、感触も温度も音も何もない深い穴が空いていた。(p288)

 

康宏が連れて来た女性を診た医師は碧に言う。「…お父さんは終着駅を見つけたんです。お父さんは俗世の生活のすべてを捨てた後、身一つになって帰るべきところを探していたんですよ。それで波の間にそんな場所を見つけ、一人で帰っていった。そういうことです」(p314)

 

 

補陀落渡海(ふだらくとかい):那智の補陀洛山寺の住職は60歳ごろになると、小さな「補陀洛渡海船」に乗って帰らぬ旅へと船出した。目指したのは南方海上の観音浄土。

同行二人(どうぎょうににん):太師様に守られて二人で巡拝するという意味。「どうこうふたり」ではない

無財七施(しちせ)の修業:お金が無くてもすぐできる施し。優しいまなざし、手を差しのべる身施(しんせ)。

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安田知代『井の頭公園 まるごとガイドブック改訂版』を読む(二回目)

2022年08月29日 | 散歩

 

安田知代著『井の頭公園 まるごとガイドブック改訂版』(2008年5月30日ぶんしん出版発行)を読んだ。

このブログを全部書き上げてから、我がブログで検索してみたら、2012年12月13日にこの本の紹介を既にしていた。どうりで「安田知代」という名に聞いたような気がしたのだが、と負け惜しみ。

悔しいから、そのままアップしてしまう。

 

大正6(1917)年に開園した井の頭公園は2017年に百周年を迎えた。吉祥寺駅、繁華街から10分足らずで行けるこの公園は、池、川、緑、桜の名所で、都市空間の中で自然豊かな緑の孤島になっている。

 

この本は過去、現在の公園を写真とともに紹介し、130頁ほどだが要領良いガイドブックであるとともに、隠れて気づかないいくつかのポイントを紹介し、井の頭公園を楽しめる本になっている。

 

公園全体は、井の頭池を中心とするにぎやかな地域と、井の頭公園駅の東側の子どもたちが遊ぶ「三角広場」と、自然豊かで「三鷹の森ジブリ美術館」やグランドなどがある「西園」と、「井の頭文化園」がある地域がある。

 

井の頭池は、井(水の出る所)がいくつもあることから「七井の池」と呼ばれていた。

池の中央にある橋は北側が「七井橋」で、ボート乗り場や「井の頭文化園・水生公園」のある「中之島」から南が「狛江橋」だ。

池は3つに分かれ、東の一番大きな池が「ボート池」、七井橋で分断され北西にあるのが「お茶の水池」、南西にあり「狛江橋」で分かれているのが「弁天池」だ。

 

戦争前、井の頭池の周りは桜の木でなく、杉の林だった。昭和19年、空襲で亡くなった多くの人のお棺を作るために約4ヘクタールの杉林が伐採された。

 

かって豊かな水量を誇った井の頭池も周辺がアスファルト化して湧水の水量が減り、水質が悪化した。ところが平成16(2004)年の秋の台風の大雨で水が急増し、池の水が澄み渡り、自転車30台など投棄物が発見された。地下水脈が枯れてないことが分かり、百周年の2017年までに「かいぼり」など澄んだ池の復活が始まった。

 

その他、この本には、「井の頭自然文化園」や「三鷹の森ジブリ美術館」、「神田川、三角広場」、「御殿山・西園」についても詳しく紹介されている。井の頭公園が登場する文学、DVDなども紹介されている。

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

井の頭公園を散歩コースにする人、桜の季節だけ訪れる人、めったに訪れなくなってしまったが思い出のある人、一度あの人を誘ってみたいと願っている人など、多くの人に読んで、「へぇ~、そうなんだ」、「ああ、なるほどね」とより深く井の頭公園を好きになって欲しい。

 

ガイド本としては極めて要領よく、簡潔に説明されている。挿入されている写真、イラストも控えめだがポイントのところが示されている。かなり優秀な編集者だと思う。

 

安田知代(やすだ ともよ)
1964年生まれ。月刊誌、絵本などの企画・編集・執筆。
地域の本として『みたか再発見の旅』、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』を編集・執筆。生態系と人間の営みが調和する社会をめざす「合同会社++」共同代表。

 

メモ

水生物園の池の周りに高々と空に伸びているのは、湿地に強く成長の早いラクウショウの並木で昭和11(1936)年の植樹。

 

井の頭池には希少種も含む10数種のつがいの渡りのカモが見られる。渡り鳥がやってくる時期以外に見かけるのは定住しているカルガモとオシドリ(本来漂鳥だが、自然文化園が放鳥した)。

カモ以外にも、ゴイサギ、カイツブリ、カワセミ、バン、コサギ、ユリカモメなどがいる。

 

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酒井順子『世渡り作法術』を読む

2022年08月27日 | 読書2

 

酒井順子著『世渡り作法術』(集英社文庫さ21-4,2001年5月25日集英社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

たとえばこんな時――女友達と海外旅行に行きますか? デートのとき携帯電話の電源を切りますか? 友達の子供がブサイクだったらどうしますか? またはこんな場で――エコノミークラスで隣の人と会話しますか? オープンカフェではどこに座りますか? 車の助手席で眠れますか?

今さら聞けない、誰も教えてくれない、イマドキの微妙なお作法を教授する、思わずニヤリの新・マナーブック。

 

はじめに

子供の時にはマナー教育を受けるが、大人同士の関係の中では他人のマナー違反を指摘することはほとんどなくなる。

この本は、“ありがちな割には、どのようなマナーで臨めばよいか、未だ解明されていない“という状況・場面を選び、極私的なマナー解説をしてみたものです。

 

世渡り作法<その一>シチュエーション篇

女友達と海外旅行に行きますか?

旅先で女友達と喧嘩になる「不一致感」:食欲の不一致/体力の不一致/物欲の不一致/語学能力の不一致/生活感の不一致/マナーの不一致

以下略。

 

世渡り作法<その二>エリア篇

深夜のコンビニに立ち寄りますか?

正月に夫の実家に行きますか?

 

 

この作品は1998年8月、集英社より刊行された。

 

 

私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの?  最大は五つ星)

 

身近な社会現象を扱うのに巧みな著者も、時代の流れの速さには負けて、ずれが目立つ。なにしろ2001年発行の本なのだ。携帯電話は既に使われていたが、使い方は大分違い、したがって著者の語る当時のマナーは今とは大きく異なっている。このあたりのことは、「あとがき」で著者自身が書いている。

 

それにしても、いろいろ心遣いを要求される女性は、とくに「嫁」は大変だと思う。姑に比べ嫁の立場が強くなってきた昨今だが、強気にはねつけても、やはりストレスは溜まるだろう。夫としては……??
酒井さんの提案する対策案も妙案があるわけなく、常識の範囲に止まっている。

 

酒井順子の経歴と既読本リスト

 

 

静かなフランス映画を見ながら食べられる音がしない食べ物として両口屋是清の落雁、「二人静」が紹介されているが(p157)、振り仮名が「ふたりしずか」になっている。正解は「ににんしずか」。

 

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酒井順子『うまれることば、しぬことば』を読む

2022年08月25日 | 読書2

 

酒井順子著『うまれることば、しぬことば』(2022年2月28日集英社発行)を読んだ。

 

集英社の内容紹介

陰キャ、根暗、映え、生きづらさ、「気づき」をもらった……あの言葉と言い方はなぜ生まれ、なぜ消えていったのか。「ことば」にまつわるモヤモヤの原因に迫る、ポリコレ時代の日本語論。古典や近代の日本女性の歩みなどに精通した著者が、言葉の変遷をたどり、日本人の意識、社会的背景を掘り下げるエッセイ。

以下、章題。
・Jの盛衰 ・「活動」の功と罪など 23が並ぶ。

 

はじめに

今「ゲーム」といえばオンラインゲームのこと。人生ゲームがじゃないし、ましてやダイヤモンドゲーム⦅古っ! あった、あった!⦆なんて言ったら、「それ何?」って言われますよ。普通の「電話」は、「固定電話」や「家電(いえでん)」と言わなきゃ通じない。とほほ。

言葉の新旧交代劇が激しい原因は、世のデジタル化と、人権意識(ポリティカル・コレクトネス)の高まり、新型コロナウィルスの流行だとおしゃっている。

 

・「活動」の功と罪

「婚活」「妊活」「終活」など「〇活」は、昔はさほど苦労はせずとも、皆がしてきた/できたことが、今やわざわざ「活動」しなくてはならなくなったということ。

 

・ 「自分らしさ」に疲弊して

今、若者が「自分らしく生きることができない」と感じているわけは、大人から何にも強制されていないためではないか。昔は、枠を破壊する行為が、生きていると実感させていたのだ。

 

・「『気づき』をもらいました」

若者が「色々気づきをもらった。感動をありがとう」とSNSに書く。「色々気づいて、感動しました」では、自分が気づいて、自分が感動したので、相手への「おかげさま思想」が気薄になるからなのだろう。

 

・「黒人の人」と「白人」と

黒人、朝鮮人という表現は差別、偏見を感じさせる。著者は、それを避けるためにごまかしだが、黒人の人(?)、朝鮮の人と柔らかく表現している。歴史ある関西では、店名(酒屋さん)、物品(お豆さん)、挨拶(おはようさん)にまで敬称をつけて表現する。ただし、敬称は「臭いものにフタ」の機能もあるので危険。

今、日本では八百屋、魚屋といった「〇〇屋」は放送禁止用語的で、青果店、鮮魚店と言い換えられるという(しらなかった)。会話でも、「ちわーっ、八百屋でーす」に「あっ、八百屋が来た!」ではまずく「八百屋さんが来た!」となる。

 

・「陰キャ」と「根暗」の違い

「リア充」とはネット住人がリアル人生を謳歌する人々を表現した自嘲と、同時に揶揄も含む言葉。

 

・「You」に胸キュン

1980年代の男性歌手(沢田研二、サザンオールスターズ、田原俊彦など)は、現在ではありえないことに、歌の中で女性のことを「おまえ」と呼んでいた。当時はかなりな数の女性が「おまえ」と呼ばれたがっていた。一方で、お洒落で都会的なシティポップ系歌手(山下達郎、稲垣淳一など)は「君」と呼んでいた。しかし、会話の中では「おまえ」はもちろん、「君」「あなた」もえらそうな雰囲気があるので呼びにくい。日本語には、誰にでも使える二人称「You」に相当する言葉がないのだ。

 

・「だよ」、「のよ」、「です」

女言葉がないはずの英語で話す外国人女性の言葉が日本語の吹き替えや翻訳では、女言葉にされることが多い。だからといって、女性の言葉なのに「…するんだよ」と表記されると違和感がある。

最近のビリー・アイリッシュのインタビュー映像では、「…だよね」「…なんだ」と言った語尾で、男言葉が使用され、敬語も使われていなかった。一方で、ゲイのマツコ・デラックスは女言葉を使っている。いったい将来どうなるのか? もし敬語禁止令が出て、酒井さんが「酒井です」でなく、「酒井だよ」と自己紹介しなくてはならなくなったとしたら、悶え苦しむという。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

あらたに登場した言葉、消えて行った言葉、それらの言葉が、なぜ人々に受け入れられたか、消えていくことになったか、その言葉が持つ背景や変遷について考察されている。といっても難しい理論ではなく、生活や男女の関係の変化など、言葉の使われ方へのするどい観察力にもとづく、説得力あるわかりやすい説明が続く。

 

著者は研究者ではないが、言葉への感覚が鋭く、かつ時代の空気を読み取る力は優れている。今までの一連のエッセイと同等と言えば言えるが、いつもながら、感心してしまう。

 

プラスの面があると同時に、逆にこんな面もあるなど、けっこうややこしい話もあるのに、難しい言葉を使わずにわかりやすく、「確かにそうかもな」と読者を納得させてしまう。たいした文章力だ。

 

ただ流されがちな最近の流行語について、たまには改めて考えてみたいと思った。

 

 

酒井順子の経歴と既読本リスト

 

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堂場瞬一『鷹の系譜』を読む

2022年08月23日 | 読書2

 

堂場瞬一著『鷹の系譜』(2022年6月10日講談社発行)を読んだ。

 

講談社による内容紹介

警察小説の旗手による大河シリーズ「日本の警察」平成編。

「公安は常に同じ相手の仕事だ。だが捜査一課の仕事は毎回、違う相手なんだ」
「捜査一課は目先の事件を追う。公安は、未来を見据えて仕事をしている」

捜査一課と公安一課。同じ警察でありながら相容れない二つの組織に身を置き、昭和を駆け抜けた二人の刑事。
その息子たちは、父と同じ道を歩んでいる。
昭和天皇が崩御し、60年余にわたる昭和の時代が終わりを告げた日に起きた殺人事件。高級マンションに住みポルシェを乗り回す被害者に見え隠れする、極左の過去。
バブル景気の拝金主義に浮かれる世で、思想活動は衰退の一途をたどる。その交錯点で起きた事件を、二人の刑事が追う。

刑事は地べたを這いずる仕事だ。だが、空から全体を見る鷹の目を持て。
父の道を継ぎ鷹となった息子たちの物語が、いま幕を開ける!

 

1989年、バブルのはしりであると同時に、内ゲバと共に過激派の活動がしぼみつつあった時代。昭和天皇が崩御し、昭和から平成へと移るその日、都内で30代の男の遺体が発見された。鉄パイプでめった打ちという一見、内ゲバと見られたが、公安、そして所轄は路上強盗と判断。特捜本部が立ち、捜査一課の刑事・高峰は所轄から上がってきたばかりの村田とともに捜査を開始する。一方、公安では、天皇崩御を機にしたゲリラ事件を警戒し、一課の刑事・海老沢利光は泊まり込んでいた。

 

1970年までの昭和の警察を舞台に描いた『焦土の刑事』からの3部作の主人公が捜査一課の高峰靖夫と、公安一課の海老沢六郎。今作の高峰と海老沢の父親だ。息子の高峰は海老沢に語る。(p239)

親父は、僕が警察官になる時に言ってたよ。刑事は地べたを歩き回る仕事だけれど、実際は空から全体を見る視点を持たなければいけない。鷹になれってさ。そういうノウハウを、系譜として引き継ぐべきだ……。

 

本作は「日刊ゲンダイ」2021年4月6日~10月1日号連載を加筆修正したもの。

 

 

高峰拓男:警視庁捜査一課刑事。35歳。部下は村田。管理官は小田。隣席の刑事は嶋田祥子。72歳の父・靖夫は元捜査一課刑事。妻は淑惠、妹は弁護士の佳恵

海老沢利光:公安一課の刑事。高峰と大学・警察学校の同期。

 

三澤隆司:海老沢の大学の同級生。過激派を多く弁護する弁護士。海老沢の極秘の情報源「S」。

新藤和己:3人に鉄パイプで殺害された。東総不動産開発社員。35歳。革連協の前身の革学同の元メンバー。千代田タウン開発でも働き、ポルシェを乗り回す。

前田拓也:革連協政治局のエリート。新藤と大学同期。公安一課・西村の「S」。

市村晴雄:NSソフト社員。父は市村書店の店主だったが、心筋梗塞と地上げ圧力で自殺。

神田の西野:長年革連協のトップだった謎の人物。宮永とも。最後の目撃は20年前。最近動きが見えない。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

時代は70年代。バブルが始まり、冷酷な地上げが頻発し、過激派は追い込まれて平成への変わり目で一斉蜂起の噂が流れる。そんな時代の中で、殺人などを扱く捜査一課とは、不干渉な過激派対策などの公安一課の二人の刑事が恐る恐る協力して、鉄パイプ殺人事件に迫る。

時代と警察内部の事情は良く描けていて、興味をそそられる。

 

犯人捜査、犯行理由の追及は右往左往し、被疑者もあれやこれやでなかなか絞られず、じれったくなる。最後に至っても爽快さがないのがマイナス。

 

 

堂場瞬一の略歴と既読本リスト

 

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凪良ゆうの略歴と既読本リスト

2022年08月22日 | 読書2

 

凪良ゆう(なぎら・ゆう)

滋賀県生まれ。京都市在住。1973年1月生まれとの未確認情報あり。

2006年《小説花丸》に中編「恋するエゴイスト」が掲載
2007年長編『花嫁はマリッジブルー』で本格的デビュー。
以降、各社でBL(ボーイズラブ)作品を精力的に刊行
2017年デビュー10周年を迎え初の非BL作品『神さまのビオトープ』を発表、作風を広げた。
2020年『流浪の月』が本屋大賞グランプリ。
2022年『汝、星のごとく』が2023年本屋大賞第一位、直木賞候補。

 

その他、『未完成』『真夜中クロニクル』『365+1』『美しい彼』『ここで待ってる』『愛しのニコール』『薔薇色じゃない』『セキュリティ・ブランケット』『わたしの美しい庭』『滅びの前のシャングリラ』『星を編む』。

 

P+D MAGAZINEの著者インタビュー」、「Web版 有隣堂の第571号の人と作品」、「Real Sound」(わたしの美しい庭)に著者の写真と簡単なインタビューがある。

 

 

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凪良ゆう『わたしの美しい庭』を読む

2022年08月21日 | 読書2

 

凪良ゆう著『わたしの美しい庭』(ポプラ文庫な-16-1、2021年12月5日ポプラ社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

小学生の百音と統理はふたり暮らし。朝になると同じマンションに住む路有が遊びにきて、三人でご飯を食べる。百音と統理は血がつながっていない。その生活を“変わっている”という人もいるけれど、日々楽しく過ごしている。三人が住むマンションの屋上。そこには小さな神社があり、統理が管理をしている。地元の人からは『屋上神社』とか『縁切りさん』と気安く呼ばれていて、断ち物の神さまが祀られている。悪癖、気鬱となる悪いご縁、すべてを断ち切ってくれるといい、“いろんなもの”が心に絡んでしまった人がやってくるが――

 

6編の連作短編集。

父・統理と血が繋がっていない小学生・百音の二人暮らししているマンションの屋上の良く手入れされた庭園の奥に「縁切り神社」がある。不器用で心の重たいものを抱え、もがきながら生きている人たちが救いを求めて訪れる。統理:屋上庭園の奥に「縁切り神社」のあるマンションの大家兼宮司。

統理と百音と統理の親友・路有を軸に展開する「個」と「繋がり」を問う。

 

 

屋上神社・縁切り神社ご神体が刀で、病気、酒・煙草・賭け事などの悪癖、気鬱となる悪い縁、すべてを断ち切る神さまで、夫婦や恋人たちはお参りしてはいけないと言われている。

形代(かたしろ):人形(ひとがた)ともいう。人の形に切り抜いた紙に、氏名・年齢を書いて宮に納めると、神職が祓(はらい)をして流し、災いを避ける。子供の頃、よく名前、歳を書いて息を吹きかけさせられた。

 

登場人物

国見統理(とうり):屋上庭園の奥に「縁切り神社」のあるマンションの大家で、宮司で、翻訳家。

百音(もね):亡くなった統理の元妻・茉莉と再婚相手の娘。5歳の時両親を事故で亡くした。おしゃれな10歳。

井上路有(ろう):統理の親友。第2話の語り手。バンの屋台バーで商売。元カレ・藤森忠志は女性と結婚した。

高田桃子:総合病院で医療事務として10年の39歳独身。母と暮らす。高校で付き合っていた人気者の坂口(はじめ)は交通事故で突然亡くなった。22年前だが……。

坂口(もとい):創の6歳下の弟。全国ベストエイトのラグビー部主将を経て、ゼネコンでパワハラの中、猛烈に働き10年で壊れて33歳で実家に戻った。東京に突き合って3年、30歳の真由がいる。

 

 

茨木のり子の詩集から(p109)

けれど歳月だけではないでしょう
たった一日っきりの
稲妻のような真実を
抱きしめて生き抜いている人もいますもの

 

路有が思わずゲイであることを友人たちに知られてしまう。これからも「心の中では友達だと思ってる」と言う彼らに、統理が淡々と話す。「理解できないならできないでしかたがない。だったら黙って通りすぎればいいんだ。なのにわざわざ声かけて、言い訳して、路有に許されることで自分たちが安心したいんだろう。けど良心の呵責はおまえらの荷物だよ。人を傷つけるなら、それくらいは自分で持て」。(p137)

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

生きづらさを抱えた人たちの話だが、苦しみよりも爽やかさを感じる。葛藤はあるのだが、善き人ばかりが登場するせいだろうか? 何かと言うと訪れるマンション屋上の縁切り神社の前の手入れされた花園も爽やかさの演出に一役かっている。

 

辛さを抱えた人に対して、なんとか思いやりを示せないかと思うのだが、何かできることはないかと思い、何を言っても逆効果のような気がしてしまう。同じ地平に居ない限り無理なのだろう。複雑なことは解らない小学生の百音のありていな言葉が正解になっている。

 

もともと漫画家志望であった凪良ゆうは10年ほどBL小説を書いている。それにしてもBL(ボーイズラブ)って何なの? ようするにゲイ小説、ゲイ漫画でしょ? なんで女性が書き、女性が読むの? 三浦しをんや、有川浩はBL好きを公言しているが何故?

 

 

凪良(なぎら)ゆうの略歴と既読本リスト

 

「全国のマイナー神社の多くは祈願料やお賽銭だけでは生計を立てていくことはできず、宮司さんは他に仕事を持っていたり、退職後は年金で生活を支えている人が多いそうだ。『神主は食わんぬし』なんていう悲しい言葉がある……(p15)」

 

「みんな桃子さんのことを心配してるんじゃないですか?」
「そうなのよ。わたしのことを寂しいと死ぬうさぎみたいに思ってるみたい」(p226)

 

 

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岡本かの子『河明り』を読む

2022年08月19日 | 読書2

 

岡本かの子著『河明り』(昭和14年6月22日創元社発行)を読んだ。

 

この本もまた、棚の奥深くから出て来た昭和14年の初版本で、「河明り」は青空文庫で全文、ルビ付きで読めるのに、わざわざ所々シミがある薄黄色い紙の本で読んだのである。ただし、この本には「河明り」(154p)のほか、小品の「或る日の幻想」(12p)と、「雛妓(すうぎ)」(85p)が載っている。

 

「河明り」

語り手である小説家の「私」が仕事に行き詰まり、気分を変えるために仕事場を日本橋亀島河岸で水運業を営む堺屋の一室に移す。堺屋の娘は素晴らしい美人で、健康に問題ある父親に代わって若い者への指図などもこなしていた。たまたま訪れてきた舞妓から娘には木下という婚約者がいるが、彼の態度がはっきりしなく悩んでいるのだと聞く。

具合が悪いという娘の部屋に「私」が行くと、3年前に揃えたという嫁入りに持って行く豪華な衣装などを見せられた。「私」は堺屋の一人娘の相談相手にされ、結局、新嘉坡(シンガポール)まで娘とともに婚約者である船員の木下に会いに行くことになる。木下の懸念していることは……。

 

「或る日の幻想」

都留子と都留子の分身による演劇の脚本。

 

「雛妓(すうぎ/おしゃく)」青空文庫で全文読める

歌人のかの子は画家の逸作と一人息子の一郎と暮らしている(モデル:岡本かの子、一平、太郎)。父親の死を見届けて帰宅したかの子は落ち込んで、くたびれ切っていた。逸作が見かねて不忍池の中ノ島にある料亭・蓮中庵に二人で出かける。そこで「かの子」と呼ばれる雛妓(=まだ一人前でない芸妓、半玉)が居ることをしって、座敷に呼んだ。まだ16歳と若く、一見無邪気に見える雛妓の「かの子」に慰められた。帰宅する二人は、「奥さまのかの子さーん」、「お雛妓のかの子さーん」と呼び合った。

 

かの子は葬儀を終えても塞ぎがちだったが、「雛妓のかの子」が近くの園遊会の帰りに訪ねてきて、かの子の気も少し晴れた。さらにかの子の方から逸作を誘って蓮中庵へ行き……

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

女性味たっぷりなかの子の表現は、特に料理や着物の詳しい記述、豊かな表現にはなるほどと思わされた。

 

豪商の娘としての誇りと苦労、茶屋遊びの様子など良くも悪くも時代を感じた。

 

実際のかの子は、夫の一平の放蕩にさんざ悩まされたが、やがて一平は改心したという。この小説では、放蕩の過去にも記述があり、そして今は思いやり深くかの子を支えている一平(逸作)がいる。こののち、世間を騒がせた男2+女の3人同居の生活などは感じられない。

一人息子の一郎として登場する岡本太郎がなかなかの孝行息子として出てくるのが、母親からの偏った目を思わせて可笑しい。今頃銀座でピカソの議論でもしているのだろうとの父親(逸作)の話も出てくる。

 

なんとなくは読めるのだが、いくつかの漢字が旧字で書かれていて読みにくい。「靉靆」(あいたい=陰気なさま)など目がチカチカする。昔の知識人はすごい!

「雛妓」も辞書には(すうぎ=まだ一人前にならぬ芸妓。半玉)と出ているのだが、青空文庫では「雛妓」(おしゃく)とルビが付いている。

また、見慣れない漢字で植物や動物の名前が書かれていて、いちいち調べる気になれない。新嘉坡(シンガポール)、馬来半島(マーレ―半島)など土地の名前にも苦労する。

 

 

岡本かの子

1889年~1939年。大正、昭和の歌人、仏教研究家、小説家。

漫画家の岡本一平と結婚し、芸術家・岡本太郎を産んだ。

耽美妖艶の作風を特徴とする。かの子は夫の一平の放蕩に悩むが、やがて、夫婦と、かの子の崇拝者である学生と3人による同居生活するなど奔放な生活を送った。

 

 

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永井荷風『問はずがたり』を読む

2022年08月17日 | 読書2

 

永井荷風著『問はずがたり(初版)』(昭和21(1946)年扶桑書房発行)を読んだ。

 

断捨離というか、終活の一貫で棚の整理をして、この本が出て来た。

「表紙 川端龍子」とある。あの川端龍子が!

 

 

「扉 永井荷風」とある。

 

「口繪寫眞」には「昭和21年3月27日菅野にて」とある。私の覚えている永井荷風はもっともっとおじいさんなのだが。 

 

 

永井荷風(ながい・かふう)

1879(明治12)年東京市生。1959(昭和34)年79歳で没。小説家・翻訳家。1952年文化勲章受章。

代表作:『あめりか物語』『ふらんす物語』『墨東奇譚』

ウィキペディアには、主題として反骨、フランス文学、江戸情緒、遊蕩が挙げられている。

 

私が中学生の頃、新聞での知識だと思うが、永井荷風は有名な文学者で、フランス帰りのお洒落な人だが、浅草の踊子たちに囲まれ、女癖が悪く、偏屈で、全財産をカバンに入れて持ち歩く変人のえらく年寄との記憶がある。医者にかかるのを断固拒否して孤独死したのだが、亡くなったときは79歳だという。「えっ、俺、今、79歳だけど!」

 

 

奥付には、(初版)とあり、「定價 拾參圓、書留送費 貳圓」とある。多分、母が買ったものだろう。

 

中はシミが目立ち、旧字が出てくるが、読めないことはない。ところどころにフランス帰りのひけらかしが見える。長椅子に「デワン」のルビがふってあるが、フランス語 “divan” のことだろう。

 

 

最初に、「「小説不問語」(とはずがたり)は、昭和19年秋に書き始め、年の暮れに終わったが、後半を改訂、増補した」とある。

 

 

米国と戦争になって2,3年。主人公の画家・太田はほとんど仕事できないでいる。20年近く一緒にくらした辰子と、20歳になるその娘・雪江と東京・駒場で暮らしている。

 

太田が美術学校の学生だった頃、田嶋と佐藤と小石川で暮らしていた。隣りの、何人かの男の世話なっている30歳の姉・滿枝と18歳の妹・辰子と知り合った。佐藤は辰子と恋仲になり、太田は滿枝に誘われ普通ではなくなった。

5年後、太田は偶然消息を知った辰子を訪ね、強引に関係し、やがて同棲することになった。彼女が人に預けていた娘が雪江で、その後手元に引取った。

 

太田が40を超し、辰子は34歳、雪江は13歳で女学校。太田は雪江の姿、動作に刺激される一方で、女中の松子の肖像を描いてやろうと誘って……。

 

 

私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの?  最大は五つ星)

 

身近な女性に次々手を出す放縦さを誇るような話しぶりにはうんざり。それも戦争による絶望のせいではなくその前から変わっていないのだと言う。戦争中の生活にも節を曲げなかったという文化人の生きざまのつもりなのだろうか。

 

「(絶望、哀傷、倦怠は)二十年前日本に帰ってから此の方、世の変遷につれ、年と共に取除かれぬものとなったのだ。ぼくは其の時々の慰安を、追憶と諦念との二ッに求める道を覚え、ひたすらこれを命のかぎりと頼んだ。」

とか、何と言おうと、結局

「僕が醜悪な人頭獣軆の怪物に化する日は忽ちにして到来したのである。」

となったのだから、単に「すけべ親父」ということでしょう。

 

登場する女性はなぜか皆、放縦なのだ。この小説は私小説ではないだろうけど、田山花袋の『蒲団』とあまり変わらない。谷崎潤一郎の『痴人の愛』の方には美しさがあるのに。

 

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8月(1)の散歩

2022年08月15日 | 散歩

最近はやたら暑いのでめったに散歩しない。夜に散歩することはあるが、暗くて写真は撮れない。したがって、これが久しぶりの散歩ブログ。

 

 

南アフリカ原産で、今は交配などにより300以上の園芸品種があるというアガパンサス。植えっぱなしでほとんど手がかからないので、公園などの花壇やコンテナの植え込みに利用されるとあった。そういえば昔の我家の庭で幅をきかせていたのを思い出した。下は7月中ほどの写真。

 

こちらはオシロイバナ。夏から秋の夕方から翌朝10時ごろまで咲く。写真は9:40とギリギリ? 道端でよく見かけ、失礼ながら雑草の一種に思える。

 

柏に似た形の5~7つに深く裂けた葉、円錐形の花房のカシワバアジサイ。茶色になってもまだまだいいじゃない。(7月22日)

 

こちらはまだ白いカシワバアジサイ。塀を突き抜ける勢い。(8月5日)

 

大きなムクゲの木。名前を思い出せない時のヒントは「ムダ毛」。

 

花が似ているハイビスカスなどと同じフヨウ属。よく見るとはかなげな花。

 

昔々の我家の庭には、ダリア、ボタンとカンナが咲いていて、ダリアは豪華な花の代表だった。最近では派手な各種園芸品種に隠れて目立たない。

 

近寄ってよく見ると、ゲイジュツ。

 

花びらが細い、白色もいいじゃない!

 

久しぶりのお出かけで、あちこち手早く用事を済ませて、簡単にランチと、吉祥寺東急、南側の昭和通りを入ってすぐの「CAFFÉ VELOCE」(ベローチェ)に入った。

 

玉子ハムサンド、チキン南蛮サンド、バジルチキンサンド、ブレンドコーヒー、アイスストレートティー。

しめて、¥1,200円とは極安。 安さにびっくりして味がどうだったか覚えていない。

 

ユニクロ吉祥寺店の一階にお神輿が置いてあった。傍らの看板には、「この吉祥寺中道通り・御神輿は、商店会の会員の手作りです。昭和54年9月に完成し、大切に保存されています。」とあった。

そう言われて、見ると、カワイイけど、チョット ショボいかな?

 

 

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ドライフラワー

2022年08月13日 | リタイヤ生活

 

バラを頂く」で頂いたハーブ、「5月(1)の花」にあった黄色い玉っころ・ゴールドスティックに、「6月(1)の花」の千日紅を加えて、さかさまに吊り下げてドライフラワーにしてみた。

 

 

おまけ

 

 

 

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話すために歌う

2022年08月11日 | 個人的記録

 

私は生来の無口だ。たいして意味のない会話はしない。かといって、たまのしゃべりが含蓄ある内容と言う訳ではない。若い頃は挨拶も意味が解らないとしなかった。TⅤのニュースで犯人の近所の人が、「よく挨拶するいい人ですよ」などと話していることが多い。「ほらな、ニコニコと挨拶する奴にろくな奴はいないんだよ」と今でも偏見を持って呟いている。

 

新婚の頃、妻の実家に行った時、3姉妹の家族団らんの場には加わらず、傍で寝転んで数学の本を読んでいた。2,3回続くと、着くと居間に座布団と毛布が用意されているようになった。最近はすっかり角が取れてしまって話に加わることが多い。つい混ぜっ返したり、嫌味なジョークを言ったりして、相方に「あっちで寝てれば」と言われてしまうのだが。
それでもごくたまにだが、本人は面白いと思い込んでいるくだらない事をあれこれ話続けることがある。しかし、こんなことは珍しく、十年に一度くらいのことだ。つい先日こんな事が起こった。きっと次に長話するのは十年後、いや歳から言って、最後のしゃべくりだったのだろう。

 

近年とみに声がでない。つうかあで通じるはずの相方からもよく「何言ってるか、分からなかった」などと言われるしまつだ。さらにむせることも多く、近い将来の誤嚥性肺炎を避けるために、バカバカしい「パタカラ体操」などはできぬので、歌を歌って喉を鍛えることにしている。

 

若い頃好きだったビートルズは歌いにくいので、ユーチューブで懐かしの日本のポップスを聞いて井上陽水の「少年時代」や、財津和夫の「サボテンの花」などを必死で覚えた。最近では喉の限界に挑戦し、サザンの「真夏の果実」や、高橋真利子の「ごめんね」を歌っている。

メロディーは適当でも気にしないのだが、歌詞が覚えられない。学生時代の丸暗記を思い出しながら、最初から何回も繰り返し、覚えていく。時間だけはたっぷりあるので、頭の体操も兼ねて必死で暗記し、ゆっくり歌ってみる。途中で、パカッと歌詞が抜け、思い出せなくなる。毎回違う所で抜け落ちる。話の筋道が続いているところは良いのだが、そうでない所は、認知症はかくやと思うほど、まったく思い出せない空白となる。そのたびにスマホに歌詞を表示させて、なんだ、そうだったか、となる。

 

音痴の呼び声高い傘寿の私が、白髪を振り乱し、SST(シミ、シワ、たるみ)の顔を歪めて熱唱する姿はお見せするわけにはいかない。トイレが長いとの苦情をものともせず、3曲歌い終わるまで出ないことにしている。 

 

 

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上野千鶴子『最期まで在宅おひとりさまで機嫌よく』を読む

2022年08月09日 | 読書2

 

上野千鶴子『最期まで在宅おひとりさまで機嫌よく』(2022年6月10日中央公論新社発行)を読んだ。

 

中央公論新社の内容紹介

女性学の第一人者であり、「おひとりさま」を貫く生き方のロールモデルとしても知られる社会学者・上野千鶴子。本書は、上野氏が過去10年間で「おひとりさまの生き方」について語り合った女性10人との対談を1冊にまとめたもの。各記事の後に、上野さんが当時を振り返って心境を綴った「うえのの目」を収録。終章では上野氏が人生100年時代を迎えた今の時代に叶える「在宅ひとり死」を徹底研究。これから人生後半を迎える女性たちに勇気を与えてくれる1冊です。

 

 

まえがき

ある調査によると、高齢になってからの生活満足度が一番高いのは、慣れ親しんだ家で、信頼のおける友人などとつきあいながら独居を続けている人でした。施設暮らしは味気ないし、管理されている感じがする。子ども家族と同居すると、何かと気を遣う。高齢夫婦二人暮らしの場合、夫は満足度が高いけれど、妻は低いという結果も。…

 

ある週刊誌で組まれた「妻・夫を喪った後に間違える人が続出…」という特集の「してはいけない」の項目を見て、思わず笑ってしまいました。

自宅を手放す/子どもと同居する/投資に手を出す/マンションに引っ越す/息子や娘に財産を渡す/再婚する/老人ホームに入る

 

対談相手は、澤地久枝/橋田壽賀子/下重暁子/桐島洋子/村崎芙蓉子/若竹千佐子/稲垣えみ子/香山リカ/柴田久美子/荻原博子。

 

第1章 人生100年時代、先輩方の覚悟

澤地久枝(1930年生)、橋田壽賀子(1925年)、下重暁子(1936年)はこれまで一人でやってきて、今後も国や他人の世話にはなりたくないという気持が強い。

桐島洋子(1937年)は、国や他人の世話になるより子供に世話になりたいと言う。

 

第2章 節目を超えて、さらに輝く

朝日新聞の論説委員を辞めて退社した稲垣えみ子さんは、電気を使わず冷蔵庫も持たず、毎日、玄米と野菜を食べ、東京の昭和密着型地域コミュニティーで禅僧のような生活をしている。

 

第3章 老後は怖い? 怖くない?

高齢で健康でなくなっても、介護保険により支援を受けて、日々機嫌よく生きていくことは可能になった。

「老後」は自分の親が死んだ時に始まる。死と自分の間にある衝立が親だ。

 

医療的行為が必要なくなったターミナル(終末期)に入ったら、平均1ヵ月、食べられなくなってから亡くなるまでは2週間ほど。今の保険制度では看護師と介護士は最大で4時間しか見守りできない。そこで「看取士」が必要になる。

 

終章 最後まで自宅での暮らしを全うする「在宅ひとり死」徹底研究

訪問医療・訪問看護・訪問介護の3点セットがあれば(NPO法人を調べ、委任しておく)、最後までおひとりさまで過ごすことは可能。自己負担は月10万円~15万円程度で、個室の特別養護老人ホームは月額15万円程度で同等。

合鍵を誰かに預けておくこと、第一発見者は119番や110番に電話しないことが必要。

 

あとがきに代えて

介護保険が改悪されようとしている。制度と権利は闘い続けなければ守れない。

 

 

本書は「婦人公論」「女性セブン」「女性自身」に掲載の対談に加筆修正したものに、各対談後の「うえのの目」、および終章を書き下ろしで追記したもの。

対談の初出は、2013年~2021年。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

10名との対談は興味深いが、世代の差や、対談年も違っていて、「在宅ひとり死」に対する考えも様々。

 

上野さんの在宅ひとり死可能の論拠は明快だが、誰もが、上野さんのように友人などのサポートが十分得られるとは限らないだろう。

普通の人が認知症の親を看取るまで自宅で面倒みるのは、私の経験から言っても、一般には困難ではないだろうか。
私自身は、引越しを繰り返し、自宅への未練もないし、地域へのつながりも強くないので、あっさりした病院での死を望む。

 

上野千鶴子の略歴と既読本リスト

 

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筧裕介『認知症の歩き方』を読む

2022年08月07日 | 読書2

 

筧裕介著『認知症の歩き方』(2021年9月21日ライツ社発行)を読んだ。

 

ライツ社による内容紹介

なかなか理解してもらえずに困っていた「認知症のある方が実際に見ている世界」が
スケッチと旅行記の形式で、すごーくわかる!

 

まるで「ご本人の頭の中を覗いているような感覚」で、認知症のことを楽しみながら学べる一冊です。

ーーー

ここは、認知症世界。
認知症とともに生きる世界では、だれもがいろいろなハプニングを体験することになります。

・乗るとだんだん記憶をなくす「ミステリーバス」
→自分のしたことを忘れてしまうのは、なぜ?

・だれもがタイムスリップしてしまう住宅街「アルキタイヒルズ」
→あてもなく街を歩き回ってしまうのは、なぜ?

・イケメンも美女も、見た目が関係ない社会「顔無し族の村」
→人の顔がわからなくなるのは、なぜ?

・熱湯、ヌルッ、冷水、ビリリ。入浴するたび変わるお湯「七変化温泉」
→大好きだったお風呂を嫌がるのは、なぜ?

・時計の針が一定のリズムでは刻まれない「トキシラズ宮殿」
→コンロの火を消し忘れてしまうのは、なぜ?

・一本道なのになかなか出口にたどり着かない「服ノ袖トンネル」
→同じ服ばかり着たがるのは、なぜ?

・ヒソヒソ話が全部聞こえて疲れてしまう「カクテルバーDANBO」
人の話を集中して聞けないのは、なぜ? etc...

あなたは認知症世界を旅する旅人。
この物語に登場するのは、架空の主人公でも、知らないだれかでもなく、
「少し先の未来のあなた」や「あなたの大切な家族」です。

認知症世界の旅、はじまり、はじまり。

 

認知症のある約100人へのインタビューし、生活の中での困り事を洗い出し、本人から見た世界がどのようにみえるのかを描いた「認知症の世界を旅行するガイドブック」だ。

 

当事者視点の欠落が認知症に関する知識やイメージの偏りを生み、本人と周囲の生きづらさにつながっている。「困っていることがあるのにうまく説明できない」という認知症当事者と、「本人に何が起きているのかわからないから、どうすればいいのかわからない」という周囲の人とのすれ違いを少しでもなくし、「認知症との付き合い方」、「周りの環境」を変えることが、本書の目的である。

 

いくつか例を列挙する。

トイレットペーパーを何度も買ってしまう理由

  • 自分で買ったことを忘れてしまう。
  • 買うことが昔からの習慣になっている。
  • 目の前に見えない物は存在しないものになってしまう。棚に入れて扉を閉めて見えなくなると、瞬時に記憶から消えて、見えない物は存在しない物になってしまう

 

「冷蔵庫の扉を閉めた途端に中身がわからなくなる」←「目に見えないものを頭の中で想像できない」

 

「トイレの便器、床のどこに座ってよいのかわからない」←「両方白いと細かい色の差異を識別できない」

 

認知症人は入浴を嫌がることが多い。原因は人それぞれで、その背景にある理由によって対応の仕方は異なる。

・温度感覚が狂っていてお湯が極度に熱く感じる

・空間認識が悪くて服の着脱が困難。

・時間認識のトラブルで入浴したばかりだと思いこむ。

 

服の脱ぎ着が難しくなる理由

・自分の身体地図がわからなくなり、手足の位置や動かし方がわからない。

・自分の手の位置、服の袖、襟などの位置といった空間を認識する能力が落ちる。

・動作の順番がわからなくなる。服を掴む。形を把握する。裾を持ち、頭を入れる……など。

 

人の話を集中して聞けなくなる理由

脳は、五感から入ってくる大量の情報の中から、注意するもの、注意しないものを選択・切替えている。例えば、かなり高度の処理だが、大きな音への注意を抑制してでも、注目すべき小さな音に注意できる(カクテルパーティー効果)。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

認知症の人が困っている事が多く列挙してあって、なるほどとは思う。しかし、認知症の種類、病状の程度などによって実際には異なるさまざまな問題が起こるのだろう。

 

参考にはなるが、この本を読んだからと言って、認知症の人が理解できるわけではない。本人はいろいろ苦労していて、不安だろうと思いやるようになるだけだ。具体的問題に対処法がわかるわけではない。

 

認知症の人はなんでこんな当たり前で簡単なことが分からないで、できないのだろうと、つい不思議に思ってしまう。しかし、もともと人間はかなり高度なことをなにげなくあっさり処理しているのだ。

例えば、ロボットに服を自分で着るようにプログラムすることを考えると、気が遠くなる。

まず、服全体の形を把握し、袖を見つけ、手を通す穴と自分の手の距離と方向をはかり、手を袖の先まで動かすなど、ロボットにかなり高度な認識力、微細な運動能力が必要となる。

人間だって、これらの機能の何か一つでもおかしくなると、自分自身で混乱し、誤魔化して辻褄を合わせようとする。介護する息子、娘も、まさかあのしっかり者の親がと思い、なんでもない事と思い込みたい気持ちもあって、曖昧のままにしてしまう。

 

 

筧裕介(かけい・ゆうすけ)

1975年生。一橋大学社会学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。慶應義塾大学大学院特任教授。特定非営利活動法人イシュープラスデザイン 代表

2008年ソーシャルデザインプロジェクトissue+design を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。

2017年より認知症未来共創ハブの設立メンバーとして、認知症のある方が暮らしやすい社会づくりの活動に取り組む。

日本計画行政学会、学会奨励賞、グッドデザイン賞、D&AD(英)他受賞多数。

著書に『地域を変えるデザイン』、『ソーシャルデザイン実践ガイド』、『人口減少×デザイン』、『持続可能な地域のつくりかた』『認知症世界の歩き方』など。

 

 

以下、メモ

 

体内時計(24時間周期のリズム)がずれる理由

人間の脳、臓器、皮膚など細胞一つ一つにそれぞれ時計があり、互いに作用しながらリズムを刻んでいて、それを以下、(1)、(2)などにより調整される。

(1)脳の視交叉上核で、太陽の光を検知して外界との時間のずれ調整し、すべての体内時計を一斉に整える。朝の一斉リセット。

(2)身体のさまざまな感覚器官から入ってくる知覚情報で調整する。例えば、朝ごはんで「朝」と認識する。

 

 

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知念実希人『死神と天使の円舞曲』を読む

2022年08月05日 | 読書2

 

知念実希人著『死神と天使の円舞曲(ワルツ)』(2022年5月30日光文社発行)を読んだ。

 

光文社特設サイトのあらすじ

『我が主(あるじ)様』の命により、動物の姿を借りて地上に降り立ったレオとクロ。
2匹が地上に暮らし始めてから、はや数年が経過した。レオはホスピスの看板犬として、クロは若きレディのシェアメイト(?)として、和やかな日常を送っている。
……しかし最近、にわかに街が騒がしい。
山中で「人魂」を目撃したという噂が飛び交い、不審火事件が相次いでいるのだ。
この街で何が起きているのか。すべての謎が一つに繋がったとき、シリーズ最大のピンチが2匹に迫っていた――。

 

優しい死神の飼い方』が死神レオの話で、続編『黒猫の小夜曲(セレナーデ)』が死神クロの話だった。本編はその続き。

 

死神、本人曰く高貴な霊的存在であるレオは、死者を『我が主(あるじ)様』の天国へと導く道案内の仕事をしていた。しかし、人は未練を残して死ぬと「地縛霊」となって地上に留まってしまう。そこで、死神レオは、人の未練を解消すべく、上司によって人間界に犬の姿(ゴールデンレトリバー)となって左遷されてしまった。彼はホスピス『丘の上病院』で「レオ」と名付けられて飼われることになった。

 

死神クロも同様に黒猫の体を借りて地上に降り、白木家の飼い猫クロとなった。

 

 

第一章 黒猫と薔薇(ばら)の折り紙

クロはある日、自殺しようとしている料理人・平間大河に出会う。彼は婚約者・柏木美穂に拒絶され、夫・真柴直人と娘・穂乃花もいると分かってしまう。さらに彼女に自殺されてしまった。クロは彼の記憶を覗いてみると……。

 

第二章 黄金の犬と天使の声

レオが暮らすホスピス「丘の上病院」に、末期がんの患者・柏木美穂がやって来た。まるで“抜け殻”のような様子で、さっそくレオは彼女の「未練」を探りはじめる。虐待された様子の穂乃花は……。

第三章 死神たちのダンス

再会したレオとクロは、互いに激しく舌戦を展開するが、謎の存在に対し激しい共闘を繰り広げる。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

人間より優れた霊的存在である死神が、人間のペットである犬や猫の形になってしまい、「しゅーくりーむ」や「おしゃしみ」を与えられると、つい悔しいことに、よだれを垂らしたり、人間におもねってしまう。そして、残酷で卑怯なくせに、ときにやさしい思いやりを見せ、高潔な存在となる人間を、死神は好きになってしまう。このあたりの基本的流れはこのシリーズの微笑ましく、素晴らしい所だ。

 

しかし、各章の厳しい状況をなんとか潜り抜けて結末に至る涙をさそう話の筋は平凡だ。

 

 

知念実希人(ちねん・みきと)の略歴と既読本リスト

 

 

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