マイクル・コナリー著、古沢嘉通訳『ナイトホークス(上)(下)』(扶桑社海外文庫コ7-1&2,1992年10月30日発行)を読んだ。
上巻裏表紙にはこうある。
ブラック・エコー。地下に張り巡るトンネルの暗闇の中、湿った空虚さの中にこだまする自分の息を兵士たちはこう呼んだ…。パイプの中で死体で発見された、かつての戦友メドーズ。未だヴェトナム戦争の悪夢に悩まされ、眠れぬ夜を過ごす刑事ボッシュにとっては、20年前の悪夢が蘇る。事故死の処理に割り切れなさを感じ捜査を強行したボッシュ。だが、意外にもFBIが介入。メドーズは、未解決の銀行強盗事件の有力容疑者だった。孤独でタフな刑事の孤立無援の捜査と、哀しく意外な真相をクールに描く長編ハードボイルド。
下巻裏表紙にはこうある。
ボッシュは身内であるロス市警の監視に邪摩されながらもFBIの女捜査官エレノアとの捜査を継続。なんとかメドーズの仲間らしき人物を特定するが、片や事件の目撃者の少年は何者かに殺されてしまう。同時に銀行強盗事件の洗い直しで不審なヴェトナム人を発見、男に会いに行こうとした矢先、ボッシュらは謎の車に殺されかける。やはり内通者が…。ボッシュの疑念が増す中、事件は新たな局面へ。ヴェトナムを生き抜いた一匹狼の刑事が迷い込む、迷路のようなLAの悪夢を描き切る、期待の新鋭の力作。 <解説・穂井田直美>
「ナイトホークス(Nighthawks)」とは、深夜の小さな食堂にいる男女と、離れて座る孤独そうな男とバーテンを描いたエドワード・ホッパーの絵画で、「夜ふかしする人々」とも呼ばれる(ウィキペディアで絵が見られる)。
原題は “THE BLACK ECHO”。「ブラック・エコー」はヴェトナム戦争でべトコンが掘った地下トンネルに響くこだま。潜った米軍兵士達(トンネル・ネズミ達)の戦争の傷痕の象徴で。ボッシュの夢の中にも繰り返し現れる。
5月20日(日)から28日(月)の9日間が上下巻の9章という構成。
主人公のハリー・ボッシュは、ベトナム戦争で迷路のような地下トンネル内のベトコンを掃討するベテラン兵士の一人だった。戦後、ボッシュはロサンジェルス市警察・強盗殺人課の花形刑事になったが、「ドールメーカー」の連続殺人で武器を持っていなかった犯人を射殺したため、ロス市警の下水と呼ばれるハリウッド署の殺人課に左遷された。
かっての戦友(トンネル・ネズミ達)・メドウズの死体が発見され、ボッシュは殺人だと考えて捜査意欲を燃やす。また、トンネルを掘って地下から銀行の貸金庫室へ侵入した事件はFBIとロサンジェルス市警察が捜査を開始する。
ボッシュは内務監査課のしつこい監視を受ける中、FBI捜査官のエレノア・ウィッシュと協力して、両事件の捜査に邁進する。
ハリー(ヒエロムニス)・ボッシュ:ハリウッド署刑事。優秀で成果を上げたが、一匹狼で憎まれ、はめられ左遷。
ジェリー・エドガー:ハリウッド署刑事。ボッシュのパートナー。兼業の不動産業の方が儲かっている。
ハーヴェイ・パウンズ:ハリウッド署の警部補。ボッシュの上司
エレノア・ウィッシュ:FBI特別捜査官。女性。ボッシュとパートナーになる。
ジョン・ローク:FBI特別捜査官。ウィッシュの上司
アーヴィン・アーヴィング:ロス市警・副警視正。内務監査課担当。部下はピアス・ルイスとドン・クラーク。
ウィリアム・メドーズ:ボッシュのヴェトナムでの戦友。麻薬中毒者。
シャーキー:家出少年。メドーズの死体遺棄を目撃。
ブレマー:ロスアンジェルス・タイムズの記者。かってボッシュの記事で人気に。
ジーン・デルガド、アート・フランクリン:ヴェトナムでの米軍兵士(トンネル・ネズミ達)
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
いくつかの謎が幾重にも重なり、少しずつはがれていく。
ヴェトナム戦争のトラウマを抱え、一匹狼で、強引な捜査で問題を起こすボッシュ。こう書くと、ハードボイルドの主人公ではお決まりの主人公なのだが、細部の肉付けが素晴らしいから魅力的に描けている。
身内の署内からもボロを出さないか監視される中で、パートナーのウィッシュも完全に味方なのか不明のまま、ボッシュの困難な捜査が進む。
マイクル・コナリー Michael Connelly
1956年生まれ。フロリダ大学卒業。ロサンジェルス・タイムス紙で十年以上記者として活躍し、ピュリッツァー賞の最終選考まで残った経歴を持つ。
1993年、処女作の『ナイトホークス』でMWA賞最優秀新人賞を受賞。
その後も、〈ボッシュ〉シリーズを中心にハードボイルド・ミステリーを精力的に発表している。
古沢嘉通(ふるさわ・よしみち)
1958年生れ。大阪外国語大学デンマーク語科卒。
訳書、コナリー『ナイトホークス』『ラスト・コヨーテ』、プリースト『魔法』、バクスター『天の筏』など