hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

橘玲『タックスヘイブン』を読む

2016年09月30日 | 読書2

 

 橘玲(たちばな・あきら)著『タックスヘイブン』(幻冬舎文庫た20-7、2016年4月15日発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

東南アジアでもっとも成功した金融マネージャー北川が、シンガポールのホテルで転落死した。自殺か他殺か。同時に名門スイス銀行の山之辺が失踪、1000億円が消えた。金融洗浄(マネーロンダリング)、ODA、原発輸出、仕手株集団、暗躍する政治家とヤクザ・・・。名門銀行が絶対に知られたくない秘密、そしてすべてを操る男の存在とは? 国際金融情報小説の傑作!

 

 

 牧島は13年ぶりに高校の同級生紫帆からの電話を受ける。夫がシンガポールのホテルから墜落死したので一緒に行って欲しいという。二人の共通の友人である紫帆の夫がシンガポールの高層ホテルから墜落死したので一緒にシンガポールへ行って欲しいという。

 

 現地に着くと、北川には現地妻と男の子がいると警察から知らされた。さらに、スイス系銀行の役員が訪ねてきて、政治家や会社社長などの脱税目的のファンドマネージャーだった北川には1000万米ドルの負債があるという。しかし、銀行側にも瑕疵があるので、この場で書類にサインすれば、銀行は債権を放棄すると提案した。迷った牧島は、同じく高校の同級生で金融コンサルタントをしている古波蔵佑(こばくら・たすく)へ10年ぶりの電話をした。古波蔵は、手持ちの5億円をマネーロンダリングして税務署から隠したい堀山を対馬経由で韓国に密入国させ、その帰り道だった。

 

 かって日本の首領と呼ばれた男が仕組んだ陰謀は、タックスヘイヴン(=租税回避地)にファンドを設立し、プライベートバンクを通じてブラジルへの原発輸出に巨額投資を集めるというものだった。しかし、福島の原発事故で計画は破綻し巨額の負債が残り、大物フィクサー、謎の仕手グループ、大物政治家秘書などが暗躍し、殺人も起こる。古波蔵たちはこの事件に巻き込まれたのだった。

 

 

橘玲(たちばな・あきら)
1959年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。

2002年、小説『マネーロンダリング』でデビュー

2006年、『永遠の旅行者』が山本周五郎賞候補作

他に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』など。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 物語の展開が面白く、登場人物も個性的で一気に読み進めた。題名はタックスヘイブンだが、どちらかというとマネーロンダリングなのだが、仕組みの解説も解りやすく、私には及びもつかない金持ちの悩みに、ほくそ笑んでしまった。

 

 なにか裏がありそうな怪しげで魅力的な紫帆の実際が、それほどでもという物足りなさがあり、怪物フィクサーの怖さがいま一つなど多少の不満もあるがが、間違いなく楽しめる。

 

 各国、とくに米国の強引なタックス・ヘイブン対策、パナマ文書暴露などが進んで、本書の租税回避状況と現状はかなり違っていると思うが、一般人には、金持ちが困るおもろい話であることは間違いない。

 

 

登場人物

 

古波蔵佑(こばくら・たすく):主人公。牧島・紫帆と高校の同級生。外資系銀行のプライベートバンキング部門を6年で止めてフリーに。

牧島慧(まきしま・さとる):古波蔵・紫帆と高校の同級生。

紫帆(しほ):現姓北川、旧姓桐衣。派手な美人。古波蔵・牧島と高校の同級生。3歳の真琴の母親。源氏名花梨。

 

北川康志:紫帆の夫。一人で金融コンサルタントをしている。

ジジ:本名李燕(リー・イエン)。北川の現地妻。

山野辺貴(やまのべ・たかし):スイスSG銀行のプライベートバンカー。北川と組んでいた。

アイリス・ウォン:シンガポール犯罪捜査課の刑事。小柄でボーイッシュで美人。

榊原明彦:東京地検特捜部検事

 

堀井健二:大阪ミナミで風俗店を手広く経営。

村井兼蔵:民平グループの創業者。飲食業界の風雲児。

柳正成(リュ・ジョンソン):崔民秀の配下で、裏社会の情報屋。

崔民秀(チェ・ミンス):在日韓国人、大物フィクサー

大神辰夫:元民自党幹事長。元は日本の首領(ドン)と呼ばれたが、現在は小政党の代表。

猪野忠和:大和政治研究会代表。大神の金庫番。

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辻村深月『島はぼくらと』を読む

2016年09月26日 | 読書2

 

辻村深月著『島はぼくらと』(講談社文庫つ28-18、2016年7月15日発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

瀬戸内海に浮かぶ島、冴島。朱里、衣花。源樹、新の四人の島は島の唯一の同級生。フェリーで本土の高校に通う彼らは卒業と同時に島を出る。ある日、四人は冴島に「幻の脚本」を探しにきたという見知らぬ青年に声をかけられる。淡い恋と友情、大人たちの覚悟。旅立ちの日はもうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。

 

 地方都市の閉塞感を描いてきた辻村深月の直木賞受賞第一作(単行本)は、課題に立ち向かう離島を舞台にした若者たちの青春小説だ。地方の嫌なところも出てくるが、Iターン、Uターン、シングルマザーに優しいコミュニティー作りなど基本は地方を肯定的に描いている。いずれ離れ離れになる若者たちものびやかだ。

 

初出:2013年4月刊行

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

なにしろ青春小説だ。私にとって、気分を60年ほどさかのぼらせるのは難しい。全体として美し過ぎる話で、大人の狡さは一部描かれるが、若者のいやらしさや惨めさはほとんで現れない。

 

作者はミステリー作家でもあるが、ちょっと読むと、4人の行く末は必然的に想像がついてしまう。私には、「幻の脚本」の謎は最後まで分からなかったが。それにしても、約10年後の衣花と朱里が登場する最後の5ページは蛇足では?

 

辻村深月(つじむら・みづき)の略歴と既読本リスト

 

人口3千人ほどの瀬戸内海の小島・冴島に住み、フェリーで渡る本土の高校の同級生4人が主人公。

池上朱里(あかり):母と祖母の女三代で暮らす伸びやかな少女
榧野衣花(かやの・きぬか):美人・オシャレ・気が強く、どこか醒めている網元の一人娘
青柳源樹(げんき):2歳の時に父親と共に島に来た。ホテル青屋の息子
矢野新(あらた):真面目で誠実、鈍感。なかなか練習に参加できないが熱心な演劇部員

多葉田蕗子(ふきこ):元背泳ぎの銀メダリスト、シングルマザー、保育園児・未菜(みな)の母

本木真斗(まさと):ウェブデザイナー、元民宿に住む

池上明実:朱里の母、食料加工品会社「さえじま」で働く

矢野:冴島保育園の園長、大阪に住む端乃と新・真砂の母

大矢:村長、元大学教授、40代で島にUターン

 

ヨシノ:コミュニティーデザイナー

霧先ハイジ:島に幻の脚本を探しに来た作家?、本名富戸野

赤羽環(あかばね・たまき):著名な脚本家

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穂村弘『鳥肌が』を読む

2016年09月25日 | 読書2

 

穂村弘著『鳥肌が』(2016年7月14日PHP研究所発行)を読んだ。

 

宣伝文句

小さな子供と大きな犬が遊んでいるのを見るのがこわい。自分以外の全員は実は……という状況がこわい。「よそんち」の不思議なルールがこわい。赤ちゃんを手渡されると、何をするかわからない自分がこわい……。

 日常の中でふと覚える違和感、現実の中に時折そっと顔を覗かせる「ズレ」、隣にいる人のちょっと笑える言動。それをつきつめていくと、思わぬ答えが導き出されていく。こわいから惹かれる、こわいからつい見てしまう。ただ、その裏にあるものを知った時、もう今まで通りではいられない!?

 ユーモア満載で可笑しいのに、笑った後でその可笑しさの意味に気がついたとき、ふと背筋が寒くなる。そんな42の瞬間を集めた、笑いと恐怖が紙一重で同居するエッセイ集。

 カバーの触感、スピンなど、祖父江慎氏による、さらに「違和感」を増幅させる、一風変わった装丁にも注目!

 

本のしおり代わりの紐(栞紐、スピン)、普通は編んだ一本の紐だが、細く3本に分かれている。しかも、なんだか怪しいほど鮮やかなピンク色。便利なようで、慣れないので実用性はないと思う。

 

 

京都生まれの京都育ちのTさんに、京都でのNGワードを聞くと、『大文字焼き』だという。

ほ「どうして禁句なの? 僕、云っちゃったことあるかも」

T「あれは『五山送り火』です」

ほ「え、『大文字焼き』じゃないの?」

T「そんなもん、あらしまへん。どっか別の京都とおまちがえやないですか?(にっこり)」

 

友人(女)の話

弟の部屋で大量のエロ本とエロDVDを発見してしまった。最初は、しょうがないなあ、と思っただけだったが、よく見たら、そのすべてが「姉弟モノ」で鳥肌が立った。

 

初出:『PHPスペシャル』2012年1月号~2015年12月号連載の「鳥肌と涙目」他

 

 

私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

 

 微妙に怖い話が多く、著者のおどおどし、鋭敏な感性になるほどと思った。ところどころに本当に怖い話がはさまっているが、この種の話はいろいろなところにあり、穂村さんから聞かなくても良い。

そして、この文を書くためにパラパラと再読すると、微妙に怖い話の面白さは二度目では半減していた。

 

 

穂村弘(ほむら・ひろし)
1962年5月北海道生れ、名古屋育ち。北大入学し、すぐ退学し、上智大学入学。
卒業後、SEとして就職。
1990年歌集『シンジケート』でデビュー
2002年初エッセイ『世界音痴
2005年『現実入門
2008年結婚、短歌評論『短歌の友人』で伊藤整文学賞受賞
2009年『 整形前夜

2012年『異性

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久しぶりの生落語

2016年09月24日 | 行楽

 

 図書館で落語が聴けるとあって「三遊亭鳳志独演会」に行った。

 

 生落語は「三遊亭小圓朝落語会を聴く」以来5年ぶりだ。その前が2010年の「初笑い武蔵野寄席を聞く」と、2009年の「歌丸、昇太の武蔵野寄席を聴く」だったから、寄席にはしばらく行っていない。

 

 演者の三遊亭鳳志(さんゆうてい・ほうし、1976年12月 - 、「三遊亭鳳志ぶろぐ」)は、円楽一門会所属の真打。自己紹介で「師匠は円楽だが、今の6代目でなく、先代の円楽だ」とわざわざ断っていた(いろいろありそう)。先代円楽は身長が180cm以上の大男だったが、ほとんどが顔だったと笑わせた。

 

 最初に落語について、いくつか解説。

 

出囃子(でばやし)

 落語家が高座に上がる際にかかる音楽で、三味線は専門の演奏家だが、笛と太鼓は前座の落語家が演奏する。

 落語家ごとに使われる曲目は異なり、たとえば「野崎」の出囃子がかかると、東京では「黒門町!」と桂文楽の住む町の声が掛かったという。

 

マクラ

 本題に入る前に、世間話をしたり、軽い小咄を披露したりして雰囲気をほぐし、集まった人を見て、受けそうな話、話し方を探るという。鳳志さんが、幼稚園で話したとき(本当??)、簡単な小咄がいいだろうと、

「パンツが破れてるよ」「またかい」と語ったら、

「パンツ」のところで、どっと笑ったが、「またかい」のところではシ~ンとしてしまったという。

 

 その他、扇子と手拭いの使い方や、落語家の説明(前座→二つ目→真打→大看板→人間国宝→お陀仏)などの説明があった。

 

 ご相伴にあずかろうと赤ん坊を褒めようとする「こほめ」や、

貧乏な荻生徂徠が出世払いの豆腐ばかりで何とか暮らしていたという人情噺「徂徠豆腐」を楽しんだ。

 昔「こほめ」で、しわくちゃな新生児を見て、「ひどい顔だね!今のうちに絞めてやるのが、親の情けというもんだぜ」と親を怒らせるところがあったが、最近はカットしているようだ。

 

 テレビの落語も、ラジオの落語も良いものだが、「いや、落語は生に限りますね!」 また、ただの落語があったら、聴きに行こう!

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内田樹・高橋源一郎『嘘みたいな本当の話みどり』を読む

2016年09月23日 | 読書2

 

内田樹・高橋源一郎選『嘘みたいな本当の話みどり』(文春文庫う-19-22、2016年7月10日発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

あらゆる場所の、あらゆる年齢の、あらゆる職業の語り手による、信じられないほどに多様な「作り話のように聞こえる」実話――。市井の人々から寄せられた話をより選った日本版『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』第二弾は、応募作145篇と、横尾忠則、立川談春、田原総一郎らの「嘘みたいな本当の話」8篇を収録。

 

『嘘みたいな本当の話』の第二巻であり、元となる情報は、「Webメディア・マトグロッソ ナショナル・ストーリー・プロジェクト<日本版>」で公開されている。

 

本家の「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」は作家のポール・オースターが、アメリカの普通の人たちからいろいろな実話を集めてラジオで朗読したもの。4000ほど集まったという。

 

「まえがき」で内田樹が、採択の基準として、カテゴライズしにくい「奇妙な後味」と、「そういうことって、あるよね」感があることをあげている。

「奇妙な後味」の例として、古典的ショートショート

「地球最後の男が、地球最後に残ったシェルターで、いま死を迎えようとしていた。すると、ドアをノックする音がした。」

を挙げている。《女じゃないの??》

もう一つ、

猫と並んで昼寝をしていたら、猫が人間の言葉で寝言を言ったので(・・・)、がばっと起き上がって、「いま、寝言言ったの、おまえ?」と猫に問いかけたら、猫が「しまった」という顔をしたという話を村上春樹さんがエッセイに書いていますけれど、こうゆうのが「そういうことって、あるよね」文の代表例です。

 

 

この人です

私は小さな歯科医院を経営する歯医者。医院の慰安旅行の前日の夜、猛烈な歯の痛み。早朝友人の歯科医に神経を抜いてもらい、空港で職員と落ち合う。上空へ行くと気圧が変わり、猛烈な痛みが襲い、座席で悶絶。

「お客様、どうされましたか、お客様」

「歯が、歯が」

そのとき、機内にアナウンスが響き渡った。

「お客様の中に歯医者様はいらっしゃいませんか。お客様の中に歯医者様はいらっしゃいませんか」

涙でにじむ視界の向こうから爆笑する職員たちが私を指さしている。

「この人です」

                   ペンシルベニア州 しんしん (内田)

 

十七時にはあがります

今日が自分の誕生日だったと気がついた友人が近くのケーキ屋へ電話をかけた。店員が電話にでる。

「今日、何時までですかね?」

女の子は一、二秒沈黙して、

「・・・えっ、あたしですか?」

と言った。

                   神奈川県 吉田敬普  (内田) 

 

うっそ~

お向かいのロビンは、とても賢い。

夕方、帰宅する私の足音を聞いて、いつも喜んでくれる。

ある日、履き慣れないハイヒールで帰ってくると、そのロビンが吠えた、足音が違うから、しょうがないかな、と思いながら近づいてゆくと、ロビンが一瞬吠えるのをやめた。

あ、きがついた。

が、次の瞬間、今度は脇の電信柱に向って、吠え始めた。

ねーさん、あっしはこの電信柱が前から怪しいと睨んでたんでさ。

賢い犬はウソもつく。

                        東京都 ふう (内田)

 

三十六年ぶりに

 8歳の時に両親の離婚で別れた母親と14年ぶりに再会した。

その時の最初の会話。

「寂しかった?」

「いや、別に」

「良かった。私も」

その後いつのまにか連絡も途絶え、36年ぶりに83歳の母親と会った。ガンで入院中だった。

その時の最初の会話。

「あら。老けたわねぇ」

「そっちこそ」

「あんたの父親はもっとハンサムだったけどねぇ」

私の性格は母親譲りだとあらためて思った。

              東京都 忙中有閑  (内田・高橋)

 

初出:2012年7月イースト・プレス

 


私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 第一巻に続き同様な話が続くので、私の壺にはまる話は1/5くらい。それでも寝転んで読み、楽しめた。この感想文書くためにパラパラと読み返すと、まだ笑ってしまう話は、1/20くらいか?

この種の話はそれで良いと思う。また、何年後かに読むと、違ったところで笑ってしまうのだろう。

 

 

内田樹(うちだ・たつる)

1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒、東京都立大学博士課程中退、神戸女子学院大学文学部名誉教授。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。

著書に、『ためらいの倫理学』『「おじさん」的思考』『下流志向』

『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、伊丹十三賞受賞。

 

高橋源一郎
1951年広島生まれ。小説家、明治学院大学教授。横浜国立大学除籍。

1981年『さようなら、ギャングたち』で群像新人長編小説賞優秀賞
1988年『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞
2002年『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞を受賞。
一億三千万人のための小説教室
小説の読み方、書き方、訳し方』(柴田元幸と共著)
山田詠美と共著『顰蹙(ひんしゅく)文学カフェ

訳書に、ジェイ・マキナニーの『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』
5回結婚し、57歳当時、35歳の長女を頭に、1歳と3歳の子供がいた。

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内田樹・高橋源一郎『嘘みたいな本当の話』を読む

2016年09月21日 | 読書2

 

内田樹・高橋源一郎選『嘘みたいな本当の話』(文春文庫う-19-18、2015年3月10日発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

あらゆる場所の、あらゆる年齢の、あらゆる職業の語り手による、信じられないほど多様な実話――それは「嘘みたいな」本当に起こった話だ。応募総数1500通近くの中から、知の泰斗ふたりが選りすぐった149のリアルストーリー。いわばポール・オースターの「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」の日本版、奇跡の試みがついに始動!

 

元となる情報は、「Webメディア・マトグロッソ ナショナル・ストーリー・プロジェクト<日本版>」で公開されている。

 

本家の「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」は作家のポール・オースターが、アメリカの普通の人たちからいろいろな実話を集めてラジオで朗読したもの。4000ほど集まったという。

 

「まえがき」で内田樹氏が「アメリカ版」と「日本版」とを比較している。アメリカ版では、投稿者がいる場所の地域性が感じられるのに対し、日本版では地域性、投稿者の年齢、性差、職業の違いが文体に現れておらず、本当に均質な社会なんだと改めて驚いている。また、アメリカ人は「細部」と「具体」を求め、日本人は「定型」と「教訓」を好むという。 

 

いちばん短いものは1行で、長くて2ページ程度の短い実話が、「戻ってくるはずがないのに、戻ってきたものの話」「犬と猫の話」「あとからぞっとした話」「そっくりな人の話」「ばったり会った話」などのタイプ別に分けられ、ずらっと並んでいる。

 

柴田元幸×内田樹の{巻末対談}28ページほどが巻末にある。 

 

出戻りベッド

彼女と別れるときにベッドをあげた。1年後、新しい彼女の部屋に行ったら、そのベッドがあった。寿退社した会社の先輩にもらったという。彼女は変わったが、ベッドだけは変わらなかった。

                           東京都 伊達直斗  (高橋)

 

さかさまな世界

和室トイレは初めての私。身体をひねって後ろに手を伸ばしてもなかなか届かない。バイト先の女性たちにこぼすと、

「あの・・・トイレットペーパーなら、後方ではなく前方にあるはずなんですが・・・」

                           東京都 サトゲン  (高橋) 

 

死者からの年賀状

祖父が年末に老衰で他界した。葬式では遺言通り旧制高校の校歌が流された。初七日が終わった頃、親友のAさんが年末に亡くなり同じ日に葬式があったと連絡があった。数日後、Aさんが年末に書いた年賀状が届いた。

「毎年、会おう会おうと言ってずいぶん経ってしまったナ。今年こそは会える気がするョ。再会したら、我ら母校の校歌を歌い、杯を交わそうゼ・・・」

                        京都府 しかたさとる (高橋)

 

男って

 彼氏とけんかした。

 少し言い過ぎたかな、と反省して、携帯を手にごめんねメールと打ち始めたところ、彼からもメールが。

「来週の合コン、かわいいこ頼むで」

「?」と思い電話すると、「えっ、俺、おまえに送った!?」

と動揺する彼。黙って電話を切りました。

                  神奈川県 めぐみ (内田)

 

初出:2011年6月イースト・プレス

 


私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 私の壺にはまる話は1/3くらい。偶然が重なった奇跡的な話などは、他人にとってはただ「あ~そう」で終わってしまう。それでも寝転んで読むには最適。

 

 選択した話の最後にどちらの編者が選んだのかマークが付いている。内田さんの選択した話が多いが、私の好みは高橋さんの選択が多い。「巻末対談」や、「文庫版のためのあとがき」で、内田さんは自説に固執してしゃべりすぎ。

 

 

「変な機械の話」の中に、見かけだけのコードも配管もないエアコンを研究室に造った「桐生ヶ峰」という話があったが、私も大学も文化祭で当時珍しかった自動ドアをただ一人で自作した。マットを敷いて、足で踏むスイッチの位置を工夫し、ドアが動きやすいように上から吊るすようにして、初日の前日に試運転にこぎつけた。ドアに前に立つと、見事にドアはゆっくり開いた。
 しかし、開いたまま閉じなかった。閉じる仕組みを作り忘れていたのだ。モーターは過熱し、煙を上げ、プロジェクト?は中止に追い込まれた。

 

 

内田樹(うちだ・たつる)

1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒、東京都立大学博士課程中退、神戸女子学院大学文学部名誉教授。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。

著書に、『ためらいの倫理学』『「おじさん」的思考』『下流志向』

『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、伊丹十三賞受賞。

 

高橋源一郎
1951年広島生まれ。小説家、明治学院大学教授。横浜国立大学除籍。

1981年『さようなら、ギャングたち』で群像新人長編小説賞優秀賞
1988年『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞
2002年『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞を受賞。
一億三千万人のための小説教室
小説の読み方、書き方、訳し方』(柴田元幸と共著)
山田詠美と共著『顰蹙(ひんしゅく)文学カフェ

訳書に、ジェイ・マキナニーの『ブライト・ライツ、ビッグ・シティ』
5回結婚し、57歳当時、35歳の長女を頭に、1歳と3歳の子供がいた。

 

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坂爪真吾『性風俗のいびつな現場』を読む

2016年09月19日 | 読書2

 

坂爪真吾『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書1162、2016年1月10日筑摩書房発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

わずか数千円で遊べる激安店、妊婦や母乳を売りにする店、四〇から五〇代の熟女をそろえた店など、店舗型風俗が衰退して以降、風俗はより生々しく、過激な世界へとシフトしている。さらに参入するハードルが下がり、多くの女性が働けるようになった反面、大半の現場では、必ずしも高収入にはならない仕事になっているのが実態だ。それでは、これから風俗はどこへ向かっていくのだろうか。様々な現場での取材・分析を通して、表面的なルポルタージュを超えて、風俗に画期的な意味を見出した一冊。

 

 

 2004年、警察による繁華街の浄化作戦により、無届営業の都内の店舗型風俗店が壊滅した。結果としてインターネット上で広告宣伝を行う無店舗型に移行し、表社会から見えなくなった。ラブホテルや自宅に女性を派遣し性行類似行為をするデリヘル(デリバリーヘルス)と呼ばれる形態に変化した。店を持たないため女性さえ集めれば、容易に参入できるという。

 

 妊婦・母乳専門店は(そんなニーズがあるのが信じられないが)、妊娠したり、新生児を抱えたりした女性が男性にサービス(?)する。週2回、2時間程度の、無料託児所付き勤務で月10~30万円稼げる仕事は他にない。ただし、面接採用率は1~2割。美人のみ採用で、ほとんどが風俗経験者。

 

自閉症の子供を抱え、スリーサイズすべてが110cmを超え、知的障害療育手帳を持ち、生活保護を受給する女性は、実質管理売春の激安デリヘル店で働くほかない。

 

地雷専門店とは、「デブ・ブス・ババア」を集めたレベルの低さ日本一の激安店。身分証さえあれば即採用という店に面接にやってくる女性は「今までよく生きてきたな」と思わせるような困難を抱えている女性が大半。この種の店は支配と搾取の境界にあり、実態は限りなくソーシャルワークに近い風俗、もしくは限りなく風俗にちかいソーシャルワークだ。

 

 都内のある婦人保護施設では利用者の約70%が軽度の知的障害と精神疾患を抱えている。しかし、東京都療育手帳を取得した全員が、最軽度の4度で、障害者向け区営住宅に申し込めず、特別児童扶養手当も受けられない。

 

熟女店グループ経営者が語る。

「風俗はどう考えても今の社会に必要なんですよ。空いた時間に来られる、シフトも自分で決められる、お金も現金当日払いでもらえる。そんな職場はほぼ無いですよね。仮に風俗が日本から消えたとしても、死ぬほど困る男はいない。でも生活に困窮している女性にとっては死活問題です。・・・その恩返しとして死ぬまで熟女に関わる仕事がしたい。熟女の受け皿として、・・・、日本で一番の店をつくるつもりでやっています。・・・」

 

 

坂爪真吾(さかつめ・しんご)

1981年新潟市生まれ。東京大学文学部卒。一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。

新しい「性の公共」をつくる、という理念の下、重度身体障害者に対する射精介助サービス、バリアフリーのヌードデッサン会の開催、性風俗産業の社会化を目指す「セックスワーク・サミット」の主宰など、新しい切り口で、社会の性問題の解決に挑戦している。

著書『男子の貞操』『はじめての不倫学』『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』。

 

著者が上野千鶴子氏のゼミで風俗研究の発表をして院生と教授に無残に血祭にあげられてから12年。本書の原稿をドヤ顔で発表しギャフンと言わせたいとあとがきに書いている。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)

 

一般的にすばらしい本だとは言えないかもしれない。現在のさまざまな種類の風俗の現場が良くわかり、働く女性の実態が明快に伝わる。

さらに風俗店経営者の本音が、多少きれいごとに聞こえるが、驚くことに、彼らは意外に真面目で、基本的に女の子たちを助けたいという思いもあるらしい。まあ、そうゆう経営者のみ取材に応じたのだろうが。

 

著者の視点は一貫している。風俗業の女性は、とくにレベルが低いところには知的障害者が集まり、受け皿としての風俗店の存在は無視できない。こうした点から著者は風俗業と福祉政策とのシナジーを模索する。

著者は語る。

風俗の世界に今一番必要なのは、道徳感情に基づいた是非論や否定論、あるいはフェミニズムや社会学の理論に基づく分析や批評でもなく、ソーシャルワークとの連携ではないだろうか・・・。

 

最終章では、風俗の待機部屋に、弁護士やソーシャルワーカーの方から出向き、働いている女性の相談会(風テラス)が開催され、貧困、育児、DV、詐欺など彼女たちが長年抱える問題に、プロにより、解決の方向が示される。

 

目次

 

第一章 地方都市における、ある障害者のデリヘル起業体験記 
第二章 妊婦・母乳専門は「魔法の職場」
 ◆証言 「kaku-butsu SOD覆面調査団 風俗ランキング」の野望
第三章 「風俗の墓場」激安店が成り立つカラクリ
 ◆証言  売春以上恋人未満の「会員制高級交際クラブ」
第四章 「地雷専門店」という仮面
 ◆証言 歌舞伎町とまちづくり
第五章 熟女の・熟女による・熟女のためのお店とは?
 ◆証言 風俗に役に立つデザインとは?
第六章 ドキュメント 待機部屋での生活相談
第七章 つながる風俗

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老人ホーム見学とセミナー受講

2016年09月14日 | 老後

先日、近くの介護付有料老人ホームを見学し、「老後の住まい方」などのセミナーを受講した。

ホームは、

一時金2500万円ほど、月々21万円+介護保険料の一割負担と我が家には高額過ぎる。

幸い、定員27名が現在満室で入居できないとのこと。

こじんまりした施設なのは良いが、会社の寮を改造した建物で、金がかかる割には、とくに素晴らしくはない。

詳細を書くと、場所が特定できてしまうので、省略。


セミナーは、

第一部の概要のみご報告。第二部は宣伝なので省略。


社会保障制度は、公助から、共助、互助、自助へ向かう。

・健康寿命の延伸

・未病市場促進事業

・地域包括ケアシステム

・新総合事業(住民参加)

・日本版CCR事業(まちおこしコミュニティ)

・ロボット事業・三世代同郷施策


地域包括ケアシステムの現実は、施設に全員の枠はない。

2025年、介護難民は全国43万人、東京圏13万人


そこで、国が目指す「健康寿命の延伸」の柱は、「フレイル」(frail 虚弱)

フレイルは、3つの側面で問題を捉える。

身体的(ロコモ、サルコペニア)+社会的(孤立、閉じこもり)+精神・心理的(うつ病、認知症)



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日本写真家協会『SNS時代の写真ルールとマナー』を読む

2016年09月09日 | 読書2

 

公益社団法人日本写真家協会編『SNS時代の写真ルールとマナー』(朝日新書572、2016年7月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。

 

スマートフォンが普及して、誰でもがカメラマンとなり、SNSが流行って、誰でもが写真を広く公開する環境になった。写真撮影や公開に伴うトラブルを避けるルール・マナーや、肖像権・著作権を犯さないようにする注意点を、実例とともにQ&A形式で解説している。

 

 FacebookなどのSNSの規約には、「写真の著作権を放棄する」との文言が入っている場合が多い。自分の写真が他人に無断使用されても抗議さえできなくなる。

 

 町の風景の写真の背景のポスターなどに有名人が写り込んでいても、写る割合にもよるが、広告媒体なので問題なく公開もできる(著作権法第30条の2で新たに規定)。販売などは不可。ミッキーが写り込んでいてもOKだが、写し込みはだめ。

 

スマホで撮影した写真には「位置情報」が画像に埋め込まれている。カメラのGPSは軍事衛星の電波だけだが、スマホは基地局の電波も使っているので正確。家の中のどの部屋かもわかる場合がある。行った場所が地図上にマッピングされたり、ストーカー行為に使われたり、旅行中の留守宅に泥棒に入られたりする。スマホの設定でGPS機能をOFFにすべき。

 

 

私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

 

Q&A方式で解りやすいが、もともとルール・マナー集なので、内容は常識の範囲。

 

私はこのブログにも写真を載せているが、注意しているのは、

・顔が写っていたらマスクを掛ける。群衆を撮る場合は、スマホを高く掲げて、特定の人でなく全体を撮っているとわかりやすくする。

・レストランなど店内は撮影しない。撮る場合は許可を得る。

・他人が撮影した写真はブログ・SNSへアップしない。

その他、ルール、マナーに配慮する。例えば、三脚は使わないし、撮影可能な美術館でもフラッシュは点灯しないなど。

 

私の失敗例は、

・海外で収穫したブルーベリーの写真を無断で撮ったら、厳しく怒られた。倉庫の中で、断らず、確かにルール違反だったし、撮られる方の事情もあったのだろう。

・幼稚園児が並んで座り込み、犬を眺めているのがあまりにも可愛くて、パチリと撮ったら、先生に注意され、謝ってすぐ削除した。子供の写真を悪用する輩がいるらしい。

・レストランで料理の写真を無断で撮って、ブログにアップすることがる。確かにマナー違反だろう。

 

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久しぶりの墓参り

2016年09月01日 | 日記

最近の記憶は怪しいのだが、多分昨年、今年と墓参りはご無沙汰してしまった。このブログで検索すると、2014年の墓参りのブログが見当たらないが、

2013/9,2012/9,2012/3,2011/9,2010/7,2009/9,2007/1

と墓参りしているらしい。

台風一過、からりと晴れ上がった31日、麻布十番駅で地上に出ると、こんな像が。

変わった像だなと思ったら、「父と子の像」で、アフリカのジンバブエ共和国の現代アフリカの偉大な彫刻家バーナード・マテメラの作品だという。

麻布十番通りをぶらぶら歩く。この通りには周辺各国大使館の協力を得て「ほほえみ」テーマにした国を代表する彫刻家の作品がいくつかならんでいる。

麻布十番は競争が激しいのだろういくつかの店が変わっているようだが、ちっとも覚えられない。

パティオ十番で「赤い靴の女の子 きみちゃんの像」を眺める。

お寺に着き、ジリジリする炎天下、墓の茂った木を刈る。懐かしいカマキリの巣があった。

いつも混んでいて入れない麻布十番通りの西端近く「総本家 更科堀井」で昼飯とした。

店の宣伝には「伝統の更科そばを今に伝える直系八代目堀井太兵衛の「総本家 更科堀井」」とあり、一度絶えたのを戦後再興したらしい。

頼んだのは「太打ちそば」¥930。

おまけに、汗だくで木を刈ったご褒美に、「季節野菜の三点盛り」¥670.

蓮根と九条ネギのペペロンチーノ風、若とうもろこしの天ぷら、野菜の湯葉巻きたたき梅(ちょっと違ったかも)

定番の「豆源」でお土産を買ってご帰宅。

 

 

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