橘玲(たちばな・あきら)著『タックスヘイブン』(幻冬舎文庫た20-7、2016年4月15日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
東南アジアでもっとも成功した金融マネージャー北川が、シンガポールのホテルで転落死した。自殺か他殺か。同時に名門スイス銀行の山之辺が失踪、1000億円が消えた。金融洗浄(マネーロンダリング)、ODA、原発輸出、仕手株集団、暗躍する政治家とヤクザ・・・。名門銀行が絶対に知られたくない秘密、そしてすべてを操る男の存在とは? 国際金融情報小説の傑作!
牧島は13年ぶりに高校の同級生紫帆からの電話を受ける。夫がシンガポールのホテルから墜落死したので一緒に行って欲しいという。二人の共通の友人である紫帆の夫がシンガポールの高層ホテルから墜落死したので一緒にシンガポールへ行って欲しいという。
現地に着くと、北川には現地妻と男の子がいると警察から知らされた。さらに、スイス系銀行の役員が訪ねてきて、政治家や会社社長などの脱税目的のファンドマネージャーだった北川には1000万米ドルの負債があるという。しかし、銀行側にも瑕疵があるので、この場で書類にサインすれば、銀行は債権を放棄すると提案した。迷った牧島は、同じく高校の同級生で金融コンサルタントをしている古波蔵佑(こばくら・たすく)へ10年ぶりの電話をした。古波蔵は、手持ちの5億円をマネーロンダリングして税務署から隠したい堀山を対馬経由で韓国に密入国させ、その帰り道だった。
かって日本の首領と呼ばれた男が仕組んだ陰謀は、タックスヘイヴン(=租税回避地)にファンドを設立し、プライベートバンクを通じてブラジルへの原発輸出に巨額投資を集めるというものだった。しかし、福島の原発事故で計画は破綻し巨額の負債が残り、大物フィクサー、謎の仕手グループ、大物政治家秘書などが暗躍し、殺人も起こる。古波蔵たちはこの事件に巻き込まれたのだった。
橘玲(たちばな・あきら)
1959年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。
2002年、小説『マネーロンダリング』でデビュー
2006年、『永遠の旅行者』が山本周五郎賞候補作
他に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』など。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
物語の展開が面白く、登場人物も個性的で一気に読み進めた。題名はタックスヘイブンだが、どちらかというとマネーロンダリングなのだが、仕組みの解説も解りやすく、私には及びもつかない金持ちの悩みに、ほくそ笑んでしまった。
なにか裏がありそうな怪しげで魅力的な紫帆の実際が、それほどでもという物足りなさがあり、怪物フィクサーの怖さがいま一つなど多少の不満もあるがが、間違いなく楽しめる。
各国、とくに米国の強引なタックス・ヘイブン対策、パナマ文書暴露などが進んで、本書の租税回避状況と現状はかなり違っていると思うが、一般人には、金持ちが困るおもろい話であることは間違いない。
登場人物
古波蔵佑(こばくら・たすく):主人公。牧島・紫帆と高校の同級生。外資系銀行のプライベートバンキング部門を6年で止めてフリーに。
牧島慧(まきしま・さとる):古波蔵・紫帆と高校の同級生。
紫帆(しほ):現姓北川、旧姓桐衣。派手な美人。古波蔵・牧島と高校の同級生。3歳の真琴の母親。源氏名花梨。
北川康志:紫帆の夫。一人で金融コンサルタントをしている。
ジジ:本名李燕(リー・イエン)。北川の現地妻。
山野辺貴(やまのべ・たかし):スイスSG銀行のプライベートバンカー。北川と組んでいた。
アイリス・ウォン:シンガポール犯罪捜査課の刑事。小柄でボーイッシュで美人。
榊原明彦:東京地検特捜部検事
堀井健二:大阪ミナミで風俗店を手広く経営。
村井兼蔵:民平グループの創業者。飲食業界の風雲児。
柳正成(リュ・ジョンソン):崔民秀の配下で、裏社会の情報屋。
崔民秀(チェ・ミンス):在日韓国人、大物フィクサー
大神辰夫:元民自党幹事長。元は日本の首領(ドン)と呼ばれたが、現在は小政党の代表。
猪野忠和:大和政治研究会代表。大神の金庫番。