hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

角田光代『おまえじゃなきゃだめなんだ』を読む

2015年02月26日 | 読書2

 

角田光代著『おまえじゃなきゃだめなんだ』(文春文庫か32-11、2015年1月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

「約束のジュエリー(第1話〜第5話)」、「あの宿へ(4編)」、「さいごに咲く花」、「最後のキス」、「幼い恋」、「おまえじゃなきゃだめなんだ」、「それぞれのウィーン」、「すれ違う人」、「不完全なわたしたち(8編)」、「消えない光」 の24編の恋愛短編集。

 

本の話 WEB」 に、この本に関する角田へのインタビューが載っている。

 

最初の「約束のジュエリー(第1話~第5話)」はティファニーからの依頼で書かれた作品。

「第1話 今日を刻む」は、

男の子にジュエリーをねだるような女にはならないと、鈴花は思っていた。

と始まり、

「ううん、びっくりするよ。そのプレゼントを見るたび、今日の偶然を思い出してびっくりする」

そうか。そうだよな。亨介はひとりうなずく。消えていくものを消さない方法も、あるんだな。

と終わる。

 

 

「おまえじゃなきゃだめなんだ」

歌の文句のようなタイトルだが(「桜坂」では「きみじゃなきゃだめなのに」)、おまえと言うのは実は・・・。

 

バブルの時代、二十代前半の私はモテにモテた。そして人を好きになるという気持ちを知らなかった。デートで男性が連れていく店はフランス料理かイタリア料理、懐石料理だった。そんなとき、知り合った芦川さんはランチの時、なんと山田うどんに私を連れてきたのだ。そして彼は言った。

「やっぱり山田じゃなきゃだめなんだよなあ」

三十代に突入して数年経ち、交際が数か月しか続かないのではいけないと思った。そんなとき、誠実でやさしい宗岡辰平にあった。

交際が二年も過ぎると、私はひとりの人と「向き合う」ことに慣れた。そして、・・・

・・・

うどんをすする。うどんが。こんなうどんが、「おまえじゃなきゃだめだ」と言われているのに、私は。私ときたら。

 

初出:雑誌など各種媒体2,002年~2014年

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

相変わらず上手な話しぶりで、スイスイ楽しく読める。しかし、喰い応えがなく、物足りない。角田さんならもう少し、引き込まれるような話を展開できると思うのだが。

といっても、連作となっているのもあるが、10ページ程度の掌編が続くので、食い足りないところがあるのも仕方ないのだろう。各メディアに書いた、書き散らかした?、作品を集めたのだから。

 

一つ一つをじっくり読んでいくと、角田さんの相変わらず見事に心の揺れをくみ取った恋愛模様が並んでいるとも思う。しかし、角田さんも年を経て、その瞬間の恋だけではなく、人生の長い波の中での恋愛を掬い上げるのがうまくなったと思う。要するに、若い時を振り返る話が多くなった。私に言わせれば、「まだまだこれからでっせ」だ。

 

 

角田光代(かくた・みつよ)
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
90年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞を受賞しデビュー。
96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、
98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、
「キッドナップ・ツアー」で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、
2000年路傍の石文学賞
2003年「空中庭園」で婦人公論文芸賞
2005年「対岸の彼女」で第132回直木。
2006年「ロック母」で川端康成文学賞
2007年「八日目の蝉」で中央公論文芸賞

2011年「ツリーハウス」で伊藤整文学賞

2012年「 紙の月 」で柴田錬三郎賞、「かなたの子」で泉鏡花賞

2014年「私のなかの彼女」で河合隼雄物語賞

をいずれも受賞


2009年ミュージシャン河野丈洋と再婚。習い事は英会話とボクシング。趣味は旅行で30ヶ国以上に行った。

 

その他、「水曜日の神さま」「森に眠る魚」「何も持たず存在するということ」「マザコン」「予定日はジミーペイジ」「恋をしよう夢をみよう。旅にでよう。 」「私たちには物語がある」「 愛がなんだ 」「 ひそやかな花園 」「 よなかの散歩」「 さがしもの 」「 彼女のこんだて帖 」「 かなたの子 」「 幾千の夜、昨日の月 」「 曽根崎心中 」「 それもまたちいさな光 」「空の拳」「私のなかの彼女 
その他、共著「 口紅のとき」「 異性 」「西荻窪キネマ銀光座

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溝口敦『詐欺の帝王』を読む

2015年02月21日 | 読書2

 

溝口敦著『詐欺の帝王』(文春新書961、2014年6月20日文藝春秋発行)を読んだ。

 

極道取材の第一人者溝口敦氏が、かつて「オレオレ詐欺の帝王」と呼ばれ詐欺世界の頂点を極めた男・本藤彰(仮名)に取材し、個人詐欺でなく、ヤミ金などのようなシステム詐欺の手口、実状を明らかにした。

 

本藤は30代後半、暴力臭はまったくない。3年前に特殊詐欺からいっさい手を引き、現在はカタギだ。

大学時代にはイベントサークル界の黒幕として君臨し、裏社会との繋がりを持った。大手広告代理店へ就職するが、早大のイベンサー「スーパーフリー」が起こした集団レイプ事件への関与を疑われ関連会社へ左遷。退職し、ヤミ金業を始めた。

 

組長が逮捕され弱体化していた山口組系のヤミ金組織・五菱会を吸収し、急激に組織を大きくしていく。

そして、本藤が乗っ取った五菱会のヤミ金がオレオレ詐欺に変わっていく。

 

オレオレ詐欺の草創期に荒稼ぎし、店舗数は300以上あり、従業員1300人を抱えていた。
給与月額はヒラの「店員」が40万円からで、その上の「番頭」は200~300万円、「店長」になると700~800万円、その上の「統括」は月給1000万円が基本で割り増しが付く。その上の「総括」は月給が5000万円で、その上の「社長」が月給1億5000万円~2億円、その上が3人からなる側近の「幹部」で月給2~3億円。最後に本藤の月給は最低でも2~3億円だった。

 

処置にこまるほど金が流れ込んできた。出所を知られたくないので銀行に預けられず、土地も株も債権も買えない。1億円というとみかん箱一つくらいだ。それが何百と積み重なって、金置き部屋を3か所借りた。

 

「騙されるヤツは何度でも騙される。それまでの損を取り戻したいという気持ちがよけい詐欺にはまりやすくさせる。おまけにこういう人間はカネをもっている。300万円振り込んだということは、3000万円貯金を持っているということだ。・・・」

(ギャンブルにはまったどことかの御曹司を思い出す)

 

 

彼が率いるグループの業務は、ヤミ金、オレオレ詐欺だけではなく、ワンクリック詐欺、未公開株詐欺、社債詐欺、そしてイラク・ディナール詐欺と、〝詐欺のデパート〟といっていいほど多岐だった。

 

溝口敦(みぞぐち あつし)

1942年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。

ノンフィクション作家、ジャーナリスト。組織犯罪問題の第一人者。

 

主な著書

2011年、『暴力団』

2003年、『食肉の帝王』は講談社ノンフィクション賞受賞。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

個人詐欺ではなく、ヤミ金のようにシステム化された詐欺集団の内情を暴いているので面白く、★★★★(四つ星:お勧め)にしても良いのだが、知りたかったオレオレ詐欺にはざっと触れているだけなので、★★★(三つ星)。

 

 

報道を見ていると、オレオレ詐欺の手口は、警察などの対応に応じて進化?してきている。初めて登場したときの形態や、その後の発展の様子を知りたかったが、本書ではヤミ金の現場で自然発生的に始まったとしか書いていない。

    

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平 安寿子『レッツゴーばーさん!』を読む

2015年02月15日 | 読書2

 

平 安寿子著『レッツゴーばーさん!』(2014年12月10日筑摩書房発行)を読んだ。

 

宣伝には、

準備はいい?女子必読!身につまされながらも思わず笑っちゃう連作短篇を10篇収録。

とあるが、小説というより、実際は、主人公を自分や仲間たちに代えたエッセイだ。

「ばーさんになっていくと、どんな変化(老化)が起こるか、どう対処するか」について、60代に入ったプレばーさんの文子が、先輩たちの様子を聞きながら、自分の身に引きつけて考え、悩む。

 

年を取ると、「あ、しまった」「なんだっけ」みたいなことは、もう、日常になる。・・・

 それが、普通。年を取ったら、みんなそうなる。自分だけがダメになっていくのではない。

 それがわかると、「ま、いか」「仕方ない」になる。それどころか、開き直る。

 人の名前や買物メモなんか、忘れてもどうってことない。そんなどうでもいいことを、脳がもうもはや相手にしなくなったのだ。・・・それもまた、脳の整理能力だ、なんてね。

(確かに、日常会話でも、代名詞が増えました。「ほら、あれ、あれだよ」「ほら、名前が出てこないけど、あの人。お父さんが作家で・・・」など、こんな調子でも、相方も名前を思い出せなくとも、夫婦なら会話が成り立ちます)

 

六十過ぎると・・・そこらじゅうに抜け毛が散らばる。

その一本一本がいかにも、「力尽きて枯れ落ちた」風に細く、色も薄く、はかなげなのである。

本体より先に、わたしたち、あの世に参ります。さようなら、お元気でね・・・・・・。合掌。

(私の髪も、赤ん坊のように「ひよひよ」になり、髪が一足お先にと、赤ん坊がえりしています)

 

患者の家族であったとき、「様子を見る」と言い張って病院行きを嫌がった老親にイライラしたプレばーさんたちは、医者が精密検査を勧めれば即座に大病院へ走る。

(私も60代前半のとき、老親の頑固さには困ったことが多かった。年取ったら、自分の考えに固執せず、若い者の言う通りにして、迷惑かけないようにしたいと思ったものでした)

 

「わたし、お迎え近くなったら、ヤブでも若くて可愛い医者に診てもらいたい。毎日、手を握ってもらって、ぐーっと顔を接近させて、まだ息してるか確かめられたりして、ときめきながら死ぬって、いいじゃない」

(私の場合は、とくに若くなくても良いが、とびきりの美人の女性医師が、顔を近づけてきて・・・。いいかも!)

 

 

初出:「webちくま」2013年9月~2014年5月連載に書き下ろし1篇を加え、加筆訂正した。

 

 

平安寿子(たいら・あすこ)
1953年広島市生まれ。

アン・タイラーに触発されて小説を書き始める。

1999年に『素晴らしい一日』でオール讀物新人賞を受賞し、作家デビュー。

著書『くうねるところすむところ』『ぬるい男と浮いてる女』『おじさんとおばさん』『グッドラックららばい』『神様のすること』『恋愛嫌い

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

確かに年寄りの基本的なところは抑えていて異論はない。しかし、そこいらじゅうで言い古されていることが要領良く並べてあり、ユーモアもあるのだが、それだけと言えば言える。

 

そもそも、平さんはまだ62歳。年寄りになると、どうのこうのと言うのは、10年早い。70歳を過ぎた私に言わせてもらえれば、62歳なんて、まだ元気の盛り。加齢の変化だの、老後の不安などと言うのは10年早い。

 

 

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有川浩『キャロリング』を読む

2015年02月12日 | 読書2

 

有川浩著『キャロリング』(2014年10月幻冬舎発行)を読んだ。

 

有川さんの作品は、温かくユーモラスなものが多いのだが、この本はハードボイルド風に始まった。

こちらを向いた銃口にはまるで現実感がなかった。・・・

それでも男の恫喝にハイ分かりましたと従いたくなかった。もしかすると自分は引っ込みがつかなくなって死ぬタイプかもしれない。

 

あらすじは以下だ。

子供服メーカー「エンジェル・メーカー」の営業の32歳の大和俊介は同僚のデザイナー折原柊子とは1年前に別れた。西山英代が亡夫に代わり経営して「エンジェル・メーカー」は12月25日で「クリスマス倒産」することとなった。

「エンジェル・メーカー」は学童保育も運営していて、ただ1人最後の日まで世話になる小6の田所航平は、別居している両親をなんとかもとに戻そうと考えている。航平は折原柊子と共に父親の祐二の勤める横浜の整骨院へ向かう。そこでは闇金が院長の坂本冬美を脅していた。

 

 

この作品は、演劇集団「キャラメルボックス」で舞台化する前提で作られ、座付き作家と原案段階から相談し、有川さんは役者全員と面談をしてキャラクターを作り上げていったという。なお、NHKプレミアムでテレビドラマ化もされている。

 

初出:「別冊文藝春秋」2012年9月号、11月号

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

心温まる面白い作品を期待したが、後半は誘拐事件中心の緊迫場面が続き、当てが外れた。犯人たちもドジで悪者になり切れないキャラクターで始まったのに、ぱったりと凶悪そのものに変わってしまう。それにも拘わらず、後半の誘拐事件の緊迫場面でも、乗り切れない私には、急に「なんちゃって!」と悪人が善人に替わるような気がして読み進んでしまった。

大和の生い立ちの秘密も、最近よくあるパターンで、さめて見てしまう。

 

 

ウィキペディアより

大和俊介:エンジェル・メーカーの営業。32歳。一年前に柊子と別れた。両親とは疎遠。

折原柊子:エンジェル・メーカーのデザイナー。32歳。子供好き。

田所航平:学童保育で預けられている小学6年生。両親別居で、母親の圭子の元に居る。何とかして両親を仲直りさせようとする。

西山英代:亡き夫を引き継ぎ、エンジェル・メーカーを経営。経営不振からいさぎよく倒産を決意。50代後半。大和の母親の友人で、大和とは物心付く前からの知人。大和の事を自分の子供の様に思っている。商工ローンに手を出すぐらいならばと、会エンジェル・メーカー社を畳む事を決意した。

朝倉恵那: 33歳。エンジェル・メーカー社員。優秀で美人だが空気が読めず、新顔なのに、態度がデカい。

佐々木勉:39歳。エンジェル・メーカーの古株のデザイナー。ヒラヒラの服を作るのが好きな肥満体。

田所圭子:航平の母親。キャリアウーマン。年明けから、ハワイに栄転する事が決まっている。

田所祐二:航平の父親。圭子と別居し、会社を辞め、浮気相手と別れ、「坂本整骨院」で見習い。頼りない。

坂本冬美:「坂本整骨院」の院長。先代である祖父の借金の取立てにあっている。

大嶽正寛:坂本整骨院に通う老人。冬美に思い入れが強い。

赤木守:闇金「赤木ファイナンス」社長。30歳過ぎ。落ちこぼれの糸山・石田・レイを引き取る。

レイ:赤木ファイナンスの事務員。元ホステス。

糸山光太:赤木ファイナンスの取立て屋。鋭利なデザインフレームの眼鏡をかけている。

石田猛:赤木ファイナンスの取立て屋。四角い顔。

 

有川浩(ありかわ・ひろ)の略歴と既読本リスト

 

 

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『村上春樹全作品集1979~1989 5 短編集Ⅱ』を読む

2015年02月02日 | 読書2

 

村上春樹著『村上春樹全作品集1979~1989 5 短編集Ⅱ』(1991年1月21日講談社発行)を読んだ。

 

「カンガルー日和」18編、「回転木馬のデッド・ヒート」9編の2つの連作短編、「その他の断片」4編と、1編の書下ろしからなる短編集。

 

四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うこと

・・・正直言ってそれほど綺麗な女の子ではない。目立つところがあるわけでもない。・・・しかし100パーセントの女の子をタイプファイすることなんて誰にもできない。彼女の鼻がどんな格好をしていたかなんて、僕には絶対に思い出せない。・・・(その時はただすれ違っただけなのだが、)もちろん今では、その時彼女に向ってどんな風に話しかけるべきであったのか、僕にはちゃんとわかっている。・・・とにかくその科白は「昔々」で始まり、「悲しい話だと思いませんか」で終わる。

そして、昔昔と、100パーセントの女の子と100パーセントの男の子が出会い、別れ、再会し、すれ違う話が始まる。

 

 

五月の海岸線

昔の友人から送られてきた一通の手紙、結婚式への招待状が僕を古い街へと引き戻すことになる。・・・十二年前、僕は「街」に恋人を持っていた。

・・・僕らは昔よく通ったレストランの小さなテーブルをはさんで、もう一度語り合うことになるかもしれない。・・・テーブルには・・・が敷かれ、窓際には・・・置いてあるだろう。窓からは・・・に違いない。もしその店が昔通りに存在しているんなら。

 

 

レーダーホーゼン

独身でエレクトーン教師の妻の友人が語る。

大学二年生のときに両親が離婚・・・。「母が父親を捨てたのよ」とある日彼女は僕に教えてくれた。「半ズボンのことが原因でね」・・・「正確にはレーダーホーゼン。レーダーホーゼンって知ってる?」「ドイツ人がよくはいている半ズボンのことだろう? 上に吊り紐がついたやつ」と僕は言った。「そう。父親がそれをおみやげにほしがったの。・・・」

母は評判の店に行くが、本人が居なければ寸法が取れないので売れないと言われる。そっくりの体型の人に頼んで寸法取りをしたが、その30分の間に彼女は離婚を決意したという。父親とそっくりな体型の男を見ているうちに・・・。

 

 

プールサイド

35歳になった春、彼は自分が既に人生の折り返し点を曲がってしまったことを確認した。いや、これは正確な表現ではない、正確に言うなら、35歳の春にして彼は人生の折り返し点を曲がろうと決意した(傍点付)、ということになるだろう。

脱衣室の等身大の鏡の前で自分の身体を詳細にチェックして、「俺は老いているのだ。」と実感する。そして・・・。

 

 

初出は、「トレフル」(伊勢丹デパートが主催するサークル誌)1981年5月号~1983年3月号に連載された『カンガルー日和』所収、「IN・POCKET」1983年10月号~1984年12月号に連載の『回転木馬のデッド・ヒート』所収。その他の媒体4編。「沈黙」だけが書下ろし。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

短編というより小説の素材に近いものも含まれているが、何か、村上さんの小説を作る過程が解るようで、私には面白かった。いわゆる小説を期待する人には数編しか面白いものはないだろう。後述するように、村上さん自身で、これらの作品は、何だと言われるとこまるが、小説ではなく、小説風のスケッチだと言っている。

 

村上さんは、日本では講演会、サイン会など開かず、対談も少なく、メディアにも登場しないが、小説の書き方伝授(『若い読者のための短編小説案内』)や、読者との対話(「村上さんのところ」)にも力を入れている。この作品集もこの流れのような気がする。

 

 

私は、村上さんの長編は、体力、集中力がなくなったので、あまり読んでいないが、小説より、村上さんの生き方に共感を覚える。といっても、平凡なサラリーマンの私とはあまりにも境遇が違い過ぎるのだが、理想形のひとつとして。

 

 

あとがきに当たるような「『自作を語る』補足する物語群」の中で、村上さんは、

これらは正確な意味における小説ではない。・・・その違いはあるいは些細なものであるのかもしれないが、それでもその両者のあいだの差異は僕にとってはかなり本質的な種類のものなのである。

 

のようにリアリズムの手法を試した・・・、五月の海岸線彼女の町と、彼女の緬羊は『羊をめぐる冒険』の原形となった。・・・。四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについては、僕がこの作品集の中で個人的にいちばん気に入っている作品である。僕が満員の山手線の車中である広告ポスター・・・のモデルになっていた女の子に、僕は理不尽なくらい激しく惹かれた。

 

僕自身はこの作品集の中ではレーダーホーゼンという話がいちばんよく書けているんじゃないかと思う。しかしいちばんよく話題にのぼるのはプールサイドである。いろいろな人が僕のところにきて、あの話には実感があったと言った。人生の折り返し点ということがあるいは人に何かを考えさせるのかもしれない。僕自身はそんなことを考えたことは一度もないけれど。

 

 

村上春樹は、1949年京都市生まれ、まもなく西宮市へ。
1968年早稲田大学第一文学部入学
1971年高橋陽子と学生結婚
1974年喫茶で夜はバーの「ピーター・キャット」を開店。
1979年 「風の歌を聴け」で群像新人文学賞
1982年「羊をめぐる冒険」で野間文芸新人賞
1985年「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」で谷崎潤一郎賞
1986年約3年間ヨーロッパ滞在
1991年米国のプリンストン大学客員研究員、客員講師
1993年タフツ大学
1996年「ねじまき鳥クロニクル」で読売文学賞
1999年「約束された場所で―underground 2」で桑原武夫学芸賞
2006年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、世界幻想文学大賞
2007年朝日賞、早稲田大学坪内逍遥大賞受賞
2008年プリンストン大学より名誉博士号(文学)、カリフォルニア大学バークレー校よりバークレー日本賞
2009年エルサレム賞、毎日出版文化賞を受賞。スペインゲイジュツ文学勲章受勲。

その他、『蛍・納屋を焼く・その他の短編』、『若い読者のための短編小説案内』、『めくらやなぎと眠る女』、『走ることについて語るときに僕の語ること

    

翻訳、『さよなら愛しい人』、『必要になったら電話をかけて』、『リトル・シスター』、『恋しくて

     

エッセイ他、『走ることについて語るときに僕の語ること』、『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2009』、『日出る国の工場』、『おおきなかぶ、むずかしいアボカド 村上ラヂオ2

      

 

村上さんのところ」 をご存じでしょうか? 読者からの質問メール(2週間で3万通以上)を村上さんが全部読んで、一部に答えるという企画で、以前にも何回か実施されていた。

 

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