篠田節子著『田舎のポルシェ』(2021年4月15日文藝春秋発行)を読んだ。
旅のスリルと人生の滋味がたっぷり詰まったロードノベル作品集
★篠田節子の魅力全開! 心躍るロードノベル3篇
実家の農家を飛び出した女性
リタイヤした元企業戦士
夫に先立たれた介護士――
それぞれ秘めた思いを抱いて
トラブル連発のロングドライブへ
「田舎のポルシェ」
増島翠は岐阜市内の資料館に勤めている。東京八王子の実家で収穫した米150キロを引き取るため、岐阜市内まで運んでくる話が持ち上がった。同僚の紹介で運んでくれることになった瀬沼剛は、全身紫色のツナギ、喉元から金の鎖がのぞく丸刈りの大男だった。実家の酒屋がつぶれ、目下職探し中だという。大型台風が迫る中、往復約千キロ、ヤンキーの運転する排気量660ccの軽トラの助手席で東京を目指すことになってしまった。
さっそく、高速でからまれたスポーツカーのアンちゃんを脅し返す瀬沼。次々と波乱が起こる30代半ばの男女の道中。
「ボルボ」
定年間際で大手印刷会社が倒産し、退職金もないまま無職になった斎藤は、大手出版社の役員間近と言われる一回り年下の妻・いずみに、不本意ながら養われる形になった。
伊能は61歳で再雇用の道を選ばすメーカーを退職した。伊能のサラリーマン人生で得た唯一のトロフィーがボルボ・ステーションワゴンなのに、妻・広美は廃車寸前になった今、「次は“軽”だね」と言う。
大企業勤務の肩書を失った二人はボロボロのボルボで北海道を旅行するが――。
「ロケバスアリア」
「憧れの歌手が歌った音楽ホールで自分も歌いたい」という還暦の春江の願いを叶えるため、孫の大輝は、ドレス、DVD作成のプロ・神宮寺を手配し、勤め先のロケバスを借り出してホールを目指す。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
3編とも面白くスイスイ読めるが、特に「田舎のポルシェ」が面白い。
米150キロを引き取るために、こわもてヤンキーを運転手に雇い、軽トラで東京に向かう道中記だが、坊主頭、金の鎖ジャラジャラの大男、瀬沼のキャラが良い。翠は最初助手席で恐れていたが、いろいろあって「バカだけどいい奴」という同僚の紹介に納得し、徐々に気を許し、とんでもないことを一緒に乗り越えていくうちに、まっすぐな人なんだと自然に共感するようになっていく変化がごく自然に描かれている。