hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

西村賢太『暗渠の宿』を読む

2011年05月29日 | 読書2
西村賢太著『暗渠の宿』2006年12月新潮社発行、を読んだ。

2編の短編よりなる。

暗渠の宿
貧困の中、酒に溺れ、やっと得た恋人に嫉妬のあまり暴力をふるう。一方では、大正期の破滅型作家藤澤清造に傾倒し、全集を出すための金を本屋に預け、清造の祥月命日に七尾市まで駆けつける。

けがれなき酒のへど
ありきたりの恋人を切望しながら、風俗に入り浸り、トラブルを起こし、いいように扱われて金を巻き上げられる。

著者の小説はいまや死語の私小説なので、主人公はいつも同じだ。そして、自分のことをこんな風に語っている。
「根が小心者にできているだけ」
「根が下卑てる私は」
「根が忘恩の徒にできてる私は」
「しかし当然、まだこの段階では彼女に私の激しやすい本性を知られるわけにはゆかないので、その衝動をじっとこらえて何とかねじ伏せたが、・・・」
「先天的にも後天的にもほとりの女を得るに足る、人格、容姿、財力、学歴、趣味教養が、いずれも無惨なまでに不備・・・」

恋人を求める心は必死で、耐えに耐えるのだが、いったん自分の女にした後は、本性を抑えきれない。嫉妬や劣等感から大したことをしていない彼女に、瞬間的に怒りを爆発させ、暴言を吐き、暴力を振る。一方では、昔の小説を良く読み、藤澤清造の墓碑に高額なケースを作るなどの面もある。こんな小説家は今時珍しい。



西村賢太
1967年7月、東京都江戸川区生まれ。町田市立中学卒。
2006年『どうせ死ぬ身の一踊り』で芥川賞候補、三島由紀夫書候補、『一夜』で川端康成文学賞候補
2007年『暗渠の宿』で野間文芸新人賞
2008年『小銭をかぞえる』で芥川賞候補
2011年『苦役列車』で芥川賞受賞
その他、『二度はゆけぬ町の地図』、『瘡瘢旅行

著者の父親が強盗強姦事件を起こしたことも事実だし、自堕落な生活ぶりや、逮捕歴も本当だ。一方では、藤澤清造の没後弟子を自称し、全集を個人で出してもいるし、七尾市の清造の菩提寺に祥月命日に墓参を欠かさない。このあたりも作品にそのまま登場する。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

近年では珍しい破滅型の私小説で、私小説なのでしかたない面もあるが、すでに読んだ『瘡瘢旅行』と同じ話がそこかしこに出てくる。これほどのダメ男とは付き合いがないので、その心の動きには興味があるが、同じテーマでは2冊読めば充分だ。しかし、本当に事実を書いているとすると、こんな荒れた心で、自己を冷静に見つめる小説が書けるのが不思議だ。



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森於菟『耄碌寸前』を読む

2011年05月27日 | 読書2
森於菟(もり・おと)著、池内紀(おさむ)解説『耄碌寸前』2010年10月みすず書房発行、を読んだ。

森鴎外の長男である於菟の生母は一年余りで離縁され、於菟は祖母に育てられる。13歳のとき鴎外一家と同居をはじめが、父の若い再婚相手と祖母との不仲に巻きこまれ、父鴎外との接触を禁じられるなど苦労する。
「父の名をはずかしめたくないので、己の能力の限界を知った私は文学よりもむしろ基礎医学の研究生活を選んだ」と解剖医学の第一人者となった。40代後半、遠く離れた台湾の教授となってから徐々にエッセイを書き始め、家族に優しい父鴎外が家庭の不和に苦労する話などを紹介した。

本書は、自らの生い立ちと観潮楼の盛衰を重ね合わせた「観潮楼始末記」。周囲に病名を明かさず黙々と仕事していたが、父の死因は肺結核であったことを明かす「鴎外の健康と死」など、日本の解剖学史のエピソード、シェパード犬飼育の苦労など、自制と諧謔にとんだエッセイ21編よりなる。

72歳のとき書かれた冒頭の表題作「耄碌寸前」。
私は自分でも自分が耄碌しかかっていることがよくわかる。記憶力はとみにおとろえ、人名を忘れるどころか老人の特権とされる叡智ですらもあやしいものである。・・・私は・・・青年たちに人生教訓をさずけようとも思わない。ただ人生を茫漠たる一場の夢と観じて死にたいのだ。そして人生を模糊たる霞の中にぼかし去るには耄碌状態が一番よい。

つらつら思うに人生はただ形象のたわむれにすぎない。人生は形象と形象とが重なりあい、時には図案のような意味を偶然に作り出しては次の瞬間には水泡のようにきえてゆく白中夢である。・・・私は自分がようやく握れた死の手綱を放して二度と苦しむことがないように老耄の薄明に身をよこたえたいと思う。


老妻の小言におそれをなし、大学の研究室へ出てもまだボーとしている於菟教授は、死体置き場の扉を開け、首なし死体などの挨拶をうけると、たちまち元気になるという。
日本での解剖学の創始時期、教材用死体を集めるのに苦労する話がすさまじい。警察から検死を頼まれた死体の骨格を抜き取り(盗みとり)、詰め物をして包帯でグルグル巻きにして警察に返したという。塩漬け死体の首だけが無くなる怪事件などホラーで、笑える話が一杯だ。



森於菟(もり・おと)
1890年(明治23年)東京生まれ。父は森鴎外、母は鴎外の先妻・赤松登志子。
1913年東大医学部卒業。1918年東大理学部卒業。
台湾・台北大学医学部長を経て、1967年死去。
著書に『父親としての森鴎外』など。



池内紀
いけうち・おさむ
1940年、兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト。
1966~96年、神戸大、都立大、東大でドイツ語、ドイツ文学の教師。その後は文筆業。
1978年『諷刺の文学』亀井勝一郎賞
1994年『海山のあいだ』マガジンハウス・角川文庫・講談社エッセイ賞
1999年訳書、ゲーテ『ファウスト』毎日出版文化賞
2001年『ゲーテさん こんばんは』桑原武夫学芸賞
2000/2002年訳書『カフカ小説全集』日本翻訳文化賞など



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

30年ほど前の著書を元本として編集したものなので、現代とはずれたところがあるのは仕方ない。著者の過剰とも思える謙遜もいやみではなく、品があって、粋で、話ぶりは洒脱だ。鴎外に関する話は、『父親としての森鴎外』の方が詳しいが、解剖学、シェパードの話など鴎外を離れたエピソードも面白い。

時代に置き忘れ去られ、いかにも地味で古く、売れない本を編集しなおして出版したみすず書房に感謝する。しか
し、しかたないだろうと思ってはいるが、やはり184ページで2600円は高い。図書館で借りて読んだ私が言うことでもないのだが。

エッセイの書き出しが巧い。「私は自分でも自分が耄碌しかかっていることがわかる」(耄碌寸前)、「拝啓。お嬢さん、わたしは死体屋です」(死体置場への招待)、「大戦の末期、昭和19年の夏も終わるころである。台北帝国大学医学部長室の椅子に私は防空服の腰を下ろしてモンペ姿の老婦人と対座していた。」(全終会)。いずれも、「何々」と興味を惹かれる書き出しだ。




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ベリンダ・バウアー『ブラックランズ』を読む

2011年05月24日 | 読書2
ベリンダ・バウアー著、杉本葉子訳『ブラックランズ』小学館文庫、2010年10月小学館発行、を読んだ。

12歳の少年スティーヴンは、今日も子供の時に死んだ叔父ビリーの遺体を捜して、広大なヒースの茂る荒野(ブラックランズ)をあてもなく掘る。19年前に起きた連続児童殺人事件以来、ビリーの母である祖母は窓から息子の帰りを待ち続けるばかりだ。母の愛を失ったスティーヴンの母も、弟ビリーの年代となったスティーヴンにつらく当たっては罪悪感に苛まれる。
スティーヴンは家族をもとに戻すためには、ビリーの遺体を発見し、祖母が息子の死を受け入れ、事件を完全に終わらせるしかないと、あてもなく荒野を掘り続ける。やがて事件の犯人である獄中のエイヴリーと手紙のやりとりを始め、・・・。
ベリンダ・バウアー(女性)は、この処女作でゴールドダガー賞を受賞。

刑務所の殺人犯からの暗号のような手紙を母に見つかって追求された少年は、女の子からのものだとごまかして、「もてる男はつらいよね」と言う。
母の怒りを買いかねない一か八かの軽口が珍しく受けて、母は彼の腰に腕を回し頬へキスをする。彼は嫌がるふりをして体をよじる。後ろを向いた祖母の頬も緩んでいた。彼はつかの間の幸せに浸りながら、自分が何のために穴を掘り続けてきたかを思い出した。
このためだ。こういう瞬間のためなんだ。

本書は2010年1月に英国で刊行された“BLACKLANDS” を本邦初訳したもの。



ベリンダ・バウアー Belinda Bauer
英国生まれ、南アフリカ共和国育ち。女性。現在、英国ウェールズ在住。
ジャーナリスト、脚本家としてキャリアを積み、本書で作家デビューし、英国推理作家協会賞の2010年度ゴールド・ダガー賞(最優秀長編賞)を受賞。

杉本葉子
大阪府生まれ。国際基督教大学教養学部語学科卒。訳書に『うまくいく子の考え方』
松本果蓮の名でハーレクイン社からも翻訳書を出している。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

本来はやさしい祖母と母の心を癒し、温かい家庭を取り戻そうと、家族に明かすことなくビリーの死体を掘り出そうとする。子供であるがための多くの制約の中、さまざまな知恵を働かせ、意地悪をする祖母、弟だけを可愛がる母に心挫けそうになりながら、歪んでしまった家族を再生させるためにと、必死に努力する少年の心の動きがよく書けている。さすが、女性脚本家だ。

後半には頭の良い連続少年猟奇殺人犯の心の動き、殺人方法などの記述も多く、不気味なほどの書きっぷりだ。

殺人犯がちょっとした幸運に恵まれる。
エイヴリー(殺人犯)は短絡的ではないから、神は自分の味方だとは思わなかった。むしろ、神は人間のことなどどうでもいいんだなと思った。


訳者あとがきの中で、原著の著者のあとがきを紹介している。
本書で描いたような犯罪によって、大切な人を奪われた遺族が、何年、何十年、ときには世代をまたいで背負うことになる衝撃や痛み、そこに思いを致し、“もし私が、我が子を殺された女性の孫だったなら、そのことは私にどんな影響をあたえるだろう、私はどんな人生を送るだろう”と想像した瞬間、他の何よりも、家族の崩壊という悲しみに圧倒されました。その時点ですでに十二歳の少年のなかに入り込んでいた私が思ったことはただひとつです。すなわち、“どうすればその状況をかえられるか”


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滝川クリステル『生き物たちへのラブレター』を読む

2011年05月20日 | 読書2
文:滝川クリステル、撮影:藤田修平『生き物たちへのラブレター 生物多様性の星に生まれて』2010年10月、小学館発行、を読んだ。

滝川クリステルがモデルのように登場する100ページ足らずの写真主体の本だ。宣伝では彼女の初の写真集&対談集となっている。内容は、彼女がボルネオ熱帯雨林の生き物を訪ねた写真とちょっとしたツイッター程度の文が半分。残りは、無農薬リンゴ農家、さかなクン、生物多様性活動家などとの対談集だ。



滝川クリステル Christel Takigawa
1977年フランス生まれ。青山学院大学文学部仏文科卒。
フジテレビ「Mr.サンデー」の司会、J-WAVE「SAUDE! SAUDE…」のパーソナリティーなどメディアで活躍。
COP10の広報組織「地球いきもの応援団」のメンバー。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

内容はまじめなもので、ボルネオ熱帯雨林のすばらしさ、そして危機的状況が写真で伝わってくる。もちろん、滝川ファンには垂涎なのだろう。

キナバタンガン川沿いぎりぎりまで迫るアブラヤシの畑の写真は衝撃的だ。これではオランウータンも、象も、さまざまな動物、昆虫、植物などの生態系が変わってしまう。そして、もとの姿には戻れない。アブラヤシからしぼられるパーム油を私は知らなかったが、日本人はマレーシアから大量に輸入し、フライドポテト、ドーナッツやカップ麺の揚げ油、コーヒー用ミルク、マーガリンなどの植物油として大量に消費しているという。
しかし一方では、生物多様性を守るための、「パーム油の持続可能(サスティナブル)な利用のための認証制度CSPO」、川沿いに保護区、保護林を設ける「緑の回廊」などの活動も始まっている。



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東野圭吾『白銀ジャック』を読む

2011年05月17日 | 読書2

東野圭吾著『白銀ジャック』2010年10月実業之日本社発行、を読んだ。

裏表紙にはこうある。

「我々は、いつ、どこからでも爆破できる」。年の瀬のスキー場に脅迫状が届いた。警察に通報できない状況を嘲笑うかのように繰り返される、山中でのトリッキーな身代金奪取。雪上を乗っ取った犯人の動機は金目当てか、それとも復讐か。すべての鍵は、一年前に血に染まった禁断のゲレンデにあり。今、犯人との命を賭けたレースが始まる。圧倒的な疾走感で読者を翻弄する、痛快サスペンス。



初出:月刊ジェイ・ノベル2008年10月号-2010年9月号
単行本にせずにいきなり文庫本で発刊され、一か月余りで100万部を突破した。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

スキー場爆破で脅迫するというのは面白い設定だが、複数の犯人候補が入れ替わり立ち代わりする展開はどこにでもある話だ。ひねりがなく、途中で犯人が推測できてしまう。東野さんの作品を多く読んでいるわけではないが、東野作品の中では「下」に位置するだろう。筆が荒れている??



東野圭吾の履歴&既読本リスト


真面目に登場人物のメモをつくりながら読んだ。
登場人物
新月高原ホテルアンドリゾート(株):広池観光(株)の子会社でスキー場経営
筧純一郎:新月高原(株)社長
松宮:索道事業本部長
中垣:ホテル事業本部長
宮内:ホテル総務部長
佐竹:ホテル営業部長
倉田玲司:索道技術管理者
津野雅夫:索道部主任
辰巳豊:ゲレンデ整備主任
根津昇平:パトロール員
藤崎絵留:パトロール員
桐林祐介:パトロール員
上村:パトロール員


瀬利千晶:スノーボーダー
快人:スノーボーダー
幸太:スノーボーダー
入江:妻を事故で亡くした男性
入江達樹:母の事故を受け入れられない小学生
山スキー上手の老夫婦

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桐島洋子『50歳からのこだわらない生き方』を読む

2011年05月15日 | 読書2
桐島洋子著『50歳からのこだわらない生き方 自由な心とからだで「本物の人生」を楽しむ』2011年2月大和書房発行を読んだ。

まえがきにはこんな主旨のことが書いてある。
後半生に生き方を、「もういいよ、面倒くさい、ただ自然に老いさればえていけばいいさ」と考える消極派、「新しく生まれ直したつもりで精いっぱい頑張ろう」との積極派もいる。著者自身は風まかせの自然派で基本的には前者だが、気分、体調で重心を移す風見鶏だという。

本書は2003年4月大和書房発行の『いつでも今日が人生の始まり!』を改題し、新編集したものだ。
ニューヨークの友人アリスは、一人暮らしなのに、
毎日お洒落をして、家中を綺麗に磨き、花を生け、美味しい料理を作り、食器やテーブルマットの取り合わせを考えるまめまめしい暮らしぶりだった。・・・彼女が毎朝窓のよろい戸を開けながら、歌うともなく呟くともなく口にしている言葉がある。・・・「今日は私の残りの人生の最初の日」


意外と有名人ネタも多い。
加藤和彦と再婚した安井かずみは二人のファッションや旅や食卓は隅から隅までさりげなく完璧で、本物の贅沢に徹していた。著者がひさしぶりに再会したとき、妖精のようにスリムな彼女が1ミリでも気にするほど体型の管理に神経質になっていて、かって大好きだったパスタをまったく食べなかった。「だってこれがはけなくなったら大変だもの、ミラノで彼とお揃いで買ったのよ」とおそろしく細身もジーンズを叩いた。
シワとか見せちゃったら可哀相だから寝顔はみせないとか、絶対に彼に一人寂しく食事させないとか語ったという。そして彼女は癌で病み疲れた姿を彼に看取らせることになる。
その他、森瑤子、宮本美智子、斎藤澪奈子についてあからさまに書いている。

池田満寿夫第一夫人は30年前に家を飛び出した夫が、富岡多恵子、リラン、佐藤陽子と「結婚」を繰り返すのを尻目に、法的な妻の座を守った。
三船敏郎夫人も、離婚裁判で夫から罵詈雑言を浴びせられて気の毒で、それでも別れない気がしれなかったが、やがて老いさらばえて病気なり長年寵愛した愛人に去られた三船氏を最後まで面倒を見たのは奥さんだった。
桐島さんは言う。「それくらいの覚悟はあってしかるべきだと思う。」しかし、「別れは女を磨く最高のレッスンなのだ、死ぬほど辛い別れを知らずして愛を語るなかれとさえ言いたい」



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

何事も割りきって自然体で、しかも人生を楽しもうという桐島さんの考え方がよく出ている。
最近の本ではひらがなで出てくる言葉が漢字になっているが、文章は読みやすく、わかりやすい。ただし、桐島さんのエッセイを何冊か読んだ人には繰り返しが多くなる。

桐島洋子
1937年東京生まれ。作家。
1972年『淋しいアメリカ人』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
以来著作・テレビ・講演などで活躍しながら、かれん(モデル)、ノエル(エッセイスト)、ローランド(カメラマン)の3児を育て上げる。
50代で子育てを了えてからは、“林住期”を宣言。仕事を絞り、年の数カ月はカナダで人生の成熟の秋を穏やかに愉しむ。
70代からは日本で、マスコミよりミニコミを選び、東京の自宅にオトナの寺子屋「森羅塾」を主催している(桐島洋子の森羅塾へ)。
その他、『マザー・グースと三匹の子豚たち』『ガールイエスタデイ -わたしはこんな少女だった-』(絶版)『わたしが家族について語るなら』『バンクーバーに恋する林住期ノート』、『刻(とき)のしずく 続・林住期ノート』と、『林住期を愉しむ 水のように風のように』
林住期が始まる』『聡明な女たちへ




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井形慶子『突撃! ロンドンに家を買う』を読む

2011年05月11日 | 読書2
井形慶子著『突撃! ロンドンに家を買う』2010年12月講談社発行、を読んだ。

世界一住宅が高いロンドン、その中でも屈指の高級住宅街ハムステッドに、著者の生涯の夢である家を買うまでのノンフィクション。

日本と違う英国での不動産事情が面白い。

●家は数百年持つ、持たせる。古いほうが価値がます。(英国には地震がない)

●土地柄に価値がある。中はいくらでもお化粧直しで変わるが、ロケーションは動かせない。
(ロケーションのグレードが重要。英国はいまだに歴然とした階級社会だ)

●家屋調査のプロ(サーベイヤー)が中古家屋の価値を査定し、細かい問題点を指摘する。最終的契約は互いの弁護士間で行う。100年も150年も使える家はこうでないと。
(不動産取引に伴う不明瞭なところが少なく、業界が成熟している)

土地の所有形態に二つある。
●フリーホールド:土地や建物の権利は永続的に所有者にある。増改築が自由にできる。
●リースホールド:土地や建物の権利はオーナー(個人、会社)が所有。
内装、外装の修復もオーナーの許可が必要。
リースホールド(借地権)期間は数10年から999年で、90年以下だと銀行融資も困難。
 (999年とは! 90年以下(!)だと将来の売却が困難になる)



英国では初対面の人もバックグラウンドを5分で見分ける方法がある。
一つは英語のアクセント。そしてもう一つがどこに住んでいるかを尋ねることだ。

ブランド物で着飾ってもだめ。

英国の住宅の形態は主なものだけで8種類。例えば、コンバージョンフラットは、大きな家(例えば築100年以上のヴィクトリア朝屋敷)を階ごとに区切り、玄関や階段は共有で、各階住居にドアを付けフラットに分ける。

米のボストンコンサルティンググループによると、世界的傾向として経済格差、富の集中はますます進行しているという。金融資産100万ドル以上を持つ富裕層を最も多く抱えているのは、アメリカがトップで471万世帯、2位は日本、3位は中国、4位はイギリス。



井形慶子
長崎県生まれ。19歳の時、旅したことがきっかけでイギリスに魅了される。
大学を中退後、出版社に勤務。28歳で出版社を立ち上げ、英国の生活をテーマにした情報誌『ミスター・パートナー』を発刊。
『古くて豊かなイギリスの家 便利で貧しい日本の家』『老朽マンションの奇跡』など、イギリス関係の著書や家のリフォーム、インテリア関係などの著書多数。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

日本にいて、あの物件、この物件とインターネットで検索し、現地に行き様々な物件を飛び回り、一喜一憂する。延々とこの話が続くなかに、関連した形で英国の不動産事情、社会の仕組みの解説が挟まる。

英国、とくにロンドンの階級社会の実情が分かるが、家さがしを何回も経験した私には物件に裏切られ続ける物語の部分は新鮮味がなかった。
こんな話で本一冊かく著者はすごい。


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畑野智美『国道沿いのファミレス』を読む

2011年05月09日 | 読書2
畑野智美著『国道沿いのファミレス』2011年2月集英社発行、を読んだ。

佐藤善幸25歳は ファミレス・チェリーガーデン社員。ネットでのデマが原因で6年半ぶりの故郷の町のさびれた店舗に左遷されて戻った。
幼馴染のシンゴは相変わらず男同士なのに、べたべたとまとわりついてくるし、遊び人の父親との関係も頭が痛い。
職場でも、すぐサボる大学生、アニメオタクのフリーター、上昇志向が強く厳しい女社員、温和なだけの店長。それぞれ一筋縄ではいかない関係があり、社員とアルバイトの壁もある。本社に戻るまでの辛抱と淡々と働き、できるだけ職場の人間とは壁を作ろうとしながらも、徐々に巻き込まれていく。
そんななか、新しい恋人と順調に進む交際に衝撃の事実が発覚。さらに・・・。

第23回小説すばる新人賞受賞作



畑野智美
1979年東京都生、東京女学館短期大学国際文化学科卒。高校時代のファミレスでのバイトをはじめ、新聞社、映画館、出版社等でアルバイトを続けながら小説家を目指す。2010年本書で第23回小説すばる新人賞を受賞。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

いかにも素人の書いた小説だ。主人公のキャラが今ひとつさだまらない。周辺の人物も現実感がない。
ただ、ファミレスという職場での仕事ぶりはよく書けていて、バイトしたことない私には面白かった。また、職場の同僚や恋人、家族など主要な登場人物15人がそれぞれそれなりに書き分けられている。さらに、新人にしては、衝撃の事実などの記述ぶりは淡々としていて、余裕や、かすかなユーモアも感じられる。
まあ、今後に期待といったところか。


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伊藤計劃『虐殺器官』を読む

2011年05月06日 | 読書
伊藤計劃著『虐殺器官』ハヤカワ文庫JA、2010年2月早川書房発行、を読んだ。

“テロとの戦い”は激化し、サラエボが手製の核爆弾によって消滅する。先進資本主義諸国はこれを機に、個人情報認証による厳格な管理体制を構築、社会からテロを一掃する。
一方、後進諸国では内戦や民族虐殺が激増する。その背後には謎の米国人ジョン・ポールがいる。アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード大尉は、チェコ、インド、アフリカに、その影を追う。ジョン・ポールの目的は何か? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは何か?

本書は2007年6月に早川書房より単行本として刊行された作品の文庫化だ。



伊藤計劃(いとう けいかく)1974年10月 - 2009年3月
1974年、東京都生まれ。武蔵野美術大学美術学部映像科卒。
Webディレクターのかたわら、執筆活動を続ける。
2007年本書『虐殺器官』
2008年『METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS』(新作ゲームの小説化)
2008年『ハーモニー』で、2010年星雲賞日本長編部門、日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞受賞
2007年に、34歳、作家デビューしてからわずか2年ほどでガンのため早逝。
http://d.hatena.ne.jp/Projectitoh/

本書の著者インタビューで、ペンネームの由来について語っている。
ペンネームのローマ字表記は Project Itohで、伊藤計画(本名は伊藤聡)なのだが、
はてなダイアリーのblogを書き始める前からWEBサイトをやっていたのですが、そのときにつけたハンドルです。自分自身を計画する、というか、若かったので、なんかやってやろう、という野望の反映だったのでしょう。「劃」の字が古いのは、香港映画とかでそう書かれているのが印象的だったからです。ジャッキー・チェンの『A計劃(プロジェクトA)』とか。




私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

欠点は多いが、骨太ですさまじいエネルギーだ。
2005年ガンで入院、抗癌剤の副作用から解放されると、会社勤めのかたわら、『虐殺器官』をわずか10日で書き上げた。転移がみつかり、病院でゲラ刷りを読み、入退院を繰り返す。次作『ハーモニー』は病院で一日30枚書いたというから、生き急いだのだろう。

ただし、大量虐殺死体の描写や子供の兵士を撃ち殺す場面など残酷シーンが続出するので万人向きではない。ただし、記述は、さらりとして漫画的でおどろおどろしいものではない。

平易な言葉で深い内容を書いた小説もあるのだから、雑学ともいえる知識は小説の本質ではないのだろう。しかし、管理社会、言語学、心理学、脳科学、ゲーム理論、グローバリズム等々知識がそこかしこで示される。深みのある知識ではないのだが、小説に深みを増していることは事実だ。漫画によくある手法だ。

戦いに参加する前に兵士はカウンセリングを受け、戦闘に適した感情状態に調整される。個人の選択の余地は残されているので洗脳とは違うと言うのだが、最後にカウンセラーは穏やかに言う。「どうですか、今なら子供を殺せそうですか」
そして、戦場では麻薬で恐怖や痛みを麻痺させられた敵の少年兵と対峙する。双方、ある意味同じ状態での戦いになっている。



欠点を以下、羅列する。
母親の死のセンチメンタルな回顧シーンがやたら出てくるのが、他の場面のクールさとバランスが悪い。

「虐殺器官」が何を指すのかという謎は一応理解できた。言語というのはコミュニケーションのツール、というより「器官」だと彼女は言い、そして最後の方で、謎の男ジョン・ポールにより、「虐殺」の方法、意義が語られる。しかし、これでは、なるほどとは思っても、誰もを完全に納得されることは難しいだろう。

特殊作戦コマンド(SOCOM)、濡れ仕事屋(ウェットワークス)などアルファベットやカタカナのルビがやたら出てきて読みにくくしている。

彼女との哲学的?論争が数ページでてくるが、深みはないし、小説の流れの中で必要とは思えない。
「良心それ自体はな。良心のディテールは社会的産物よ。ミームとして世代から世代に伝えられ、あるディテールは淘汰され、あるディテールは生き残る、それが文化ということよ」「じゃあ、ぼくらはミームに支配されている、っていうこと・・・」


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ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』を読む

2011年05月03日 | 読書2
ジェイムズ・P・ホーガン著、池 央耿訳『星を継ぐもの』』(Inherit the Stars)1980年5月東京創元社発行、を読んだ。

時は2020年、月面で真紅の宇宙服をまとった明らかに人間である死体が発見される。調査の結果、人類と同じ遺伝子情報を持つ死体は死後5万年が経過していることがわかる。果たして現代の人類との関係は? さらに木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された。
J・P・ホーガンがデビュー作で一気に現代ハードSFの巨星となった傑作。

SFの中でも、科学的論理に重きをおいた「ハードSF」の代表作とされる。1977年に発表され、1980年に邦訳が刊行されると爆発的なヒットとなり、翌年の星雲賞海外長編部門を受賞。以来読み継がれ、2009年には創元SF文庫を代表する一冊に選ばれた。

続編も2冊ある。



ジェイムズ・パトリック・ホーガン(James Patrick Hogan、1941年 - 2010年)
イギリス、ロンドン生まれ。
本作「星を継ぐもの(Inherit the Stars)」、続編「ガニメデの優しい巨人たち(The Gentle Giants of Ganymede)」、完結編「巨人たちの星」。
「造物主の掟(Code of the Lifemaker)」「造物主の選択(The Immortality Option)」などの「ライフメーカー」シリーズなどハードSFの巨匠。
1983年に「断絶への航海(Voyage from Yesteryear)」、1993年に「マルチプレックス・マン(The Multiplex Man)」でプロメテウス賞を受賞。日本でもSF作品を対象に送られる星雲賞を(1981年「星を継ぐもの」、1982年「創世紀機械(The Genesis Machine)」、1994年「内なる宇宙(Entoverse)」)と3度受賞。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

全世界から集められた生物学、言語学、数学や機械工学などの学者が、それぞれさまざまな仮説を立て論争し、検証を重ね、徐々に真実があきらかになっていく。科学者たちのディスカッションなどその過程がかなりな部分を占め、さまざまな科学的知見が披露される。最初の100ページ弱は専門用語のオンパレードだが、リアリティある論理、論争は現実感があり、わかりやすい。

本書は30年以上前に執筆されており、科学技術に関する記述が多少古いのはいたしかたない。宇宙物理に関してはそれほど古さを感じないが、IT関係は時代がかっている。著者は長年コンピュータのセールスマンだったようで、作中DECのミニコンやIBMの大型コンピュータが出てくるが、この分野の進歩は早いので、今昔の感がある。



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『美しい恋の物語』を読む

2011年05月01日 | 読書2
安野光雅、森毅、井上ひさし、池内紀編『美しい恋の物語<ちくま文学の森1>』1998年2月筑摩書房発行、を読んだ。

初恋(島崎藤村):序文がわりの詩。「いまあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき」。
(最後まで覚えていました。若い頃覚えたことは忘れませんね。今朝の朝食は何だったか思い出せませんが。でもまだ、食べたこと自体は覚えていますよ。)

燃ゆる頬(堀辰雄):男同士の愛。微妙で透明感はあるが、現代では衝撃はない。

初恋(尾崎翠):一部で熱狂的支持のある「第七官界彷徨」の作家の30歳頃の作品。祭りの夜に、踊りの輪の中の男装の麗人に惹かれる。後姿を追って着いた家は何と・・・。2時間で終わった初恋。

柳の木の下で(アンデルセン):職人は多くの親方の元で修行して育っていく。その間一途な愛は結局・・・。

ラテン語学校生(ヘッセ):学生が美しい他家の女中に惚れ、あの残酷な言葉「友達でいましょうよ」と言われ、やがて育って行く話。

隣の嫁(伊藤左千夫):隣りの農家の嫁との恋。
(農村でしかもはるか昔の話なのでついていくのが難しい。)

未亡人(モーパッサン):女のために死ぬ家系の少年。老嬢は言う「結局、婚約を解消し、13歳の少年のために後家を通したのです」

エミリーの薔薇(フォークナー):数ある青年を追い払った父親が死に、孤独な老嬢は・・・。アメリカ南部の濃い雰囲気が一杯。

ポルトガル文(リルケ):ポルトガルの修道院の尼僧が愛する男に出した5通の手紙。本物の手紙をリルケが訳したものらしい。

肖像画(ハックスリー):客に絵にまつわる物語を語るために成金男が家に飾る絵を求める。画商は画家とモデルの伯爵夫人との恋愛のもつれを語る。抜け目なく専門用語を交えて相手の弱みにつけこむ画商、えげつなくしかし単純な成金。仮面とマントのヴェネチアの謝肉祭の夜、画家と夫人の恋は・・・。
(ハックスリーの皮肉な語り口が冴える)

藤十郎の恋(菊池寛):江戸で色事師を演じては当第一とうたわれる坂田藤十郎が、近松の不義の恋を描いた新作を演ずるため、人妻に言い寄り、人妻が長年守った貞淑さを脱がされてしまう様を見て、そのまま去る。そして、彼女は縊死し、彼は、彼女の葛藤と彼の罪の深さにおののきながら演技に開眼する。
(前に読んだことあるはずですが、あらためて菊池寛、かっこ良いですね。いかにも頭で考えた筋だが、手練手管、彼女の反応を描く文章はさすが)

ほれぐすり(スタンダール):駐屯中の中尉が、亭主を捨てサーカスの曲馬師のもとに走ったが、結局騙されて逃げてきた女を助ける。
(ドラマチックだが、短編ではあわただしすぎる)

ことづけ(バルザック):馬車に敷かれて死ぬ間際の男が不倫相手の人妻への手紙を託す。

なよたけ(加藤道夫):「竹取物語」はこうして生まれたという現実と空想が交錯する戯曲。110ページと長い。加藤道夫は26歳で完成させたこの「なよたけ」で演劇界に新風を吹き込んだが、34歳で自殺。妻は俳優の加藤治子。

ホテル・ヴェリエール 解説にかえて(安野光雅)



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

東西の名作家の作品を比較しながら読める。ただ、時代が古すぎて乗りきれない。



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