原田ひ香著『三千円の使いかた』(2018年4月25日中央公論新社発行)を読んだ。
東京・十条に住む御厨家の3代、4人の女性が主役の6編の連作短編集。
20代で独身の妹・美帆、3歳の佐帆を子育て中の5歳上の姉・真帆、50代も折り返しに差し掛かった母・智子、70代の祖母・琴子が当面する「お金の問題」。
タイトルは「三千円の使いかた」だが、単なるケチケチ話ではない。
第1話 三千円の使いかた
「三千円の使いかた」というタイトルは、当時中学生の妹・御厨美帆に祖母の琴子が言った「人は三千円の使い方で人生が決まるよ」という言葉から。「言葉とおりの意味だよ。三千円くらいの少額のお金で買うもの、選ぶもの、三千円ですることが結局、人生を形作っていく、ということ」と説明した。
美帆は祐天寺に一人暮らしてIT関連会社に勤めて1年、それなりに満足していた。丁寧に指導してくれた44歳で優秀な小田街絵さんが首になり、このままで良いのか、疑問が膨らむ。恋人の長谷川大樹に不満を語っても、「そんなもんじゃない」と真剣に考えてくれない。やがて美帆は郊外に中古の一軒家を買うために着実にお金を貯めようと決心する。姉の真帆は、固定費の見直しと小さなお金を貯めていくことが大切だと言った。
第2話 73歳のハローワーク
琴子には一千万円の貯金がある。しかし、あの世に持っていけないから使いましょう、というのと、お金がどれだけあっても不安だから節約しなくちゃ、という相反した言葉が、同じ口から出てくるのが老人というものだ。息子の和彦の嫁の智子からの誘いでおせち料理を教えて、5千円をもらった。それが刺激になって働き口を探し始めた。
第3話 目指せ、貯金一千万
真帆は同い年の消防士の井戸太陽と23歳で結婚し、仕事を辞めたとき、友達は大丈夫と思ったという。
第4話 費用対効果
今年40歳の小森安生は若いれなに迫られているが、安生にはくっついたり離れたりで10年になるライターのきなりがいる。きなりは元証券ウーマンの真帆に会って今後の生活設計で盛り上がる。きなりは安生に「私たちも子供ほしくない?」と……。しかし、……。
第5話 熟年離婚の経済学
家のことは何もしようとしない和彦に、退院してまだ本調子でない智子は不安を募らせ、今後のことを相談にFP(ファイナンシャルプランナー)を訪れる。
第6話 節約家の人々
美帆と結婚する予定の翔平に550万円の奨学金の借金があることが判明した。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
もちろん小説なのであるが、お金を貯めるための実用書の面もある。現実的な状況設定の中で、お金を少しずつ貯めるための考え方に説得力があり、具体的提案になるほどと思う。
特に姉のやりくりは、やりすぎと思うくらいがっちりしていて感心した。迷う妹や、あきらめがある祖母が、ともかく出来ることはやろうという意気込みに「いいじゃない」と思う。
子供と配偶者のいる女性にとってもっとも大切なものは、子供、家の経済とともに自分自身の生きがいであることに納得させられるだろう。