hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

山田詠美『タイニーストーリーズ』を読む

2012年12月30日 | 読書2
山田詠美著『タイニーストーリーズ』(2010年10月文藝春秋発行)を読んだ。

文藝春秋の担当の丹羽健介さんの言葉
短篇小説の名手である山田詠美さんがこの新作について語ったのは、「一滴落とすと水の色がぶわっと変わるような凝縮した言葉で書きたい」ということ。その言葉通り、400字詰め原稿用紙で20枚程度の「小さな話」が21篇も入ったこの本には、恋愛小説、性愛小説、家族小説、戦争小説、喜劇、悲劇とあらゆる小説のエッセンスがぎっしり詰まっています。ぜひあなたの心の1篇を見つけてください。


第一話:母の遺品整理で見つかったメモには「パパの銃で撃たれて死んでしまいたい」とあった。このパパとは誰か? 泣くばかりの父、葬式を取り仕切る叔母、家族があれこれ邪推する。

第二話:犬におしっこをかけられ続ける電信柱が足元に生えてきたさくら草に恋する。花言葉は無言の愛。

第三話:精神病院のアルコール病棟に入った夫にお弁当を作って通う妻。

第四話:GIと遊んだ話(一)。 これは(五)まである。

初出:「文學界」2010年1月号~9月号、「オール読物」2006年2月号、2007年2月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

確かに上手いと思う。しかし、どうしても短編は技巧が見えてしまうところがある。
あとがきで山田さんは言っている。
短編小説とはスタートの反射神経を研ぎ澄ますべきものであり、逆に長編小説はゴールへの想像力を駆使すべきもののような気がします。どちらも、独特の走りを会得するまではトレーニングをおこたれません。

短編は一気に書きあげて、いくつかの中に良い物が少しあるということなのだろうか。

なんといってもやはり、「GIと遊んだ話」がいい。私の知ることができない世界を垣間見られる。
(五)で、白人のくせにつねに黒人たちと行動を共にし、“Yo! man”と黒人特有のあいさつをし、上半身を揺すりながら歩く奴が、影では「なりたがりっ子(ワナビー)」と呼ばれて笑われていた。詠美さんも、人種差別の議論になって、「ミカ、おまえだって、所詮、あのワナビーと一緒だろ!? 」と言われる。



山田 詠美
1959年 東京生まれ。明治大学文学部中退。
1985年「ベッドタイムアイズ」(文藝賞受賞)で衝撃的デビュー。
1987年 『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞
1989年 『風葬の教室』で平林たい子賞
1991年 『トラッシュ』で女流文学賞
1996年 『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞
2001年 『A2Z』で読売文学賞
2005年 『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞を受賞
その他、『学問

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多和田葉子『エクソフォニー』を読む

2012年12月28日 | 読書2

多和田葉子著『エクソフォニー ?母語の外に出る旅』(2003年8月岩波書店発行)を読んだ。

「エクソフォニー」とは、母語の外に出た状態を指す。ドイツ在住で日本語とドイツ語で小説や詩を発表する多和田さんは、「エクソフォニーとは、新しいシンフォニーに耳を傾けること」という。

第一部は書き下ろしで、世界の20の街々への旅で、母語と外国語で思索・創作するということの差異、利点について考えたエッセーだ。
第二部はNHK「テレビ ドイツ語会話」のテキストの連作エッセイを加筆修正したもので、ドイツ語の興味深い単語や表現について独自の視点から分析したもの。 



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

詩人でもある多和田さん、言葉に関して極めて敏感だ。そして、日本語と外国語の狭間から日本語を見ると、新たなものが見えて、新鮮に感じる。

しかし、第二部はもともとが、会話番組のテキストの購入者という読者を対象にしているので、ドイツ語に多少なりとも知識がないと興味を持つことは出来ないだろう。



多和田 葉子
1960年東京生まれ。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業。
入社後の研修で行ったドイツに惚れ込み、ハンブルク大学修士へ進み、移住。
1991年「かかとを失くして」で群像新人文学賞
1993年「犬婿入り」で芥川賞
2000年『ヒナギクのお茶の場合』で泉鏡花文学賞
2002年『球形時間』でBunkamuraドゥマゴ文学賞
2003年『容疑者の夜行列車』で伊藤整文学賞、谷崎潤一郎賞
2005年ゲーテ・メダル賞
2009年早稲田大学坪内逍遥大賞
2011年『尼僧とキューピッドの弓』で紫式部文学賞、『雪の練習生』で野間文芸賞を受賞。
他の作品に『海に落とした名前』『アメリカ 非道の大陸』、詩集『傘の死体とわたしの妻』『溶ける街 透ける路』など。また、ドイツ語で10冊以上の本を出している。


以下、私のメモ。

旧フランスの植民地のセネガルの作家は最近までフランス語で書いていた。土地の言葉は文字化されていなかったからだ。

外国語で創作するうえで難しいのは、言葉そのものよりも、偏見を戦うことだろう。外国語とのつきあいは、「上手」「下手」という基準で計るものだと思っている人がドイツにも日本にもたくさんいる。日本語で芸術表現している人間に対して、「日本語がお上手ですね」などと言うのは、ゴッホに向かって「ひまわりの描き方がとてもお上手ですね」と言うようなものでとても変なのだが、まじめな顔をしてそういうことを言う人が結構いる。


英語が達者なのにドイツ語でしか書かない作家が、「なぜ英語で書かないのですか?」と聞かれた。答えは、「ドイツ語という言語そのものの中に自分たちの背負っているドイツの歴史が刻み込まれている」だった。

頭の中にある2つの言語が互いに邪魔しあって、何もしないでいると、日本語が歪み、ドイツ語がほつれてくる危機感を絶えず感じながら生きている。・・・その代わり、毎日両方の言語を意識的かつ情熱的に耕していると、相互刺激のおかげで、どちらの言語も、単言語時代とは比較にならない精密さと表現力を獲得していくことが分かった。


日常の中で演技することへの反発は一般にドイツのほうが日本よりずっと強い。「アメリカや日本ではお店の人がいやに親切で、本心なのか芝居なのか分からないから不愉快だ」というドイツ人がよくいる。・・・ハンブルグでは、・・・その日機嫌が悪かったら、いかにも機嫌が悪そうな顔をしているのが正直ということである。


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川上弘美『精選女性随筆集9須賀敦子』を読む

2012年12月26日 | 読書2


川上弘美選『精選女性随筆集 第9巻 須賀敦子』(2012年10月文藝春秋発行)を読んだ。

61歳で『ミラノ霧の風景』で驚きのデビューを飾って、69歳で亡くなるまで一挙に名エッセイを残した文学者、文章家の精選集。
川上弘美さんが、『須賀敦子全集』から選んだ17編のエッセイと夫ペッピーノへの愛と茶目っ気があふれる書簡からなる。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

ほとんどのエッセイは読んだことがあるものだが、十分楽しめた。自分がイタリアのその場にいるように感じ、いかにも素朴だが存在感ある人々が目の前にいるように感じる。

川上弘美さんが「幸福」(まえがき)で書いているように、

書かれている景色が、時間が、人たちが、須賀敦子の心の中で、何回も繰り返し吟味され、また吟味され、また思い回され続けてきた・・・


須賀さんが日本へ戻り、60歳を過ぎてからイタリアの景色、友人、その多くは既に亡くなっている、を思い出しながら書いているからだろう、最初から哀愁を帯びていて、読む私達もなにか懐かしいような気がしてくる。

『ミラノ霧の風景』
「遠い霧の匂い」「マリア・ボットーニの長い旅」がしみじみとして良い。霧の匂いが浮かんでくるし、自然体のマリアの仕草が見えるようだ。

『ヴェネツィアの宿』
「オリエント・エクスプレス」:わがままで贅沢な父に反発しながらも、若き日のヨーロッパ旅行を思い出す彼のために、オリエント・エクスプレスのコーヒー・カップを持ち病院へ直行し、父と娘の気持ちがかすかに交わる。娘としての須賀さんがいとおしい。

『トリエステの坂道』
「電車道」:イタリア語が流暢になるまえに母国語を忘れたという年とった病院付き司祭、日曜日には誰のでもないお墓に行くロシア移民のおばあさん、鉄道を巡る貧しい人々の話は哀愁が漂う。

「マリアの結婚」「重い山仕事のあとみたいに」は、北イタリアの田舎の素朴だが癖のある人たちが、冷静に、しかし愛情を持って描かれている。

『ユルスナールの靴』
「死んだ子供の肖像」の、ユルスナールの小説『黒の過程』の文学論、神学論は難しくて私はついていけない。



須賀敦子の略歴と既読本リスト


川上弘美の略歴と既読本リスト

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山田詠美『学問』を読む

2012年12月24日 | 読書2

山田詠美著『学問』(2009年6月新潮社発行)を読んだ。

宣伝文句は、
東京から引っ越してきた仁美、リーダー格で人気者の心太、食いしん坊な無量、眠るのが生き甲斐の千穂。4人は友情とも恋愛ともつかない、特別な絆で結ばれていた。一歩一歩、大人の世界に近づく彼らの毎日を彩る生と性の輝き。そして訪れる、それぞれの人生の終わり。高度成長期の海辺の街を舞台に4人が過ごしたかけがえのない時間を、この上なく官能的な言葉で紡ぐ、渾身の長編。


性欲の仁美、支配欲の心太、食欲の無量、睡眠欲の千穂、病院息子の無量を惹きつけておくためには何でもするさかしまな素子、人間の欲望を代表する5人の子供。

1章の冒頭は仁美、2章は無量、3章は千穂、4章は素子の「死亡記事」から始まり、最後は心太の「死亡記事」で終わる。

初出:「新潮」2008年9月号、11月号、2009年1月号、4月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

各章の冒頭は主人公たちの「死亡記事」で始まり、その行き先が死であることが頭の隅に残りながら、話の中の若々しい青春の出来事を読むことになる。なんにしても、死に向かって行く途中での青春であり、であるからして、精一杯の若さなのだと思わされる。

子供から少年少女へ変わって行く中での5人の仲良しの関係、気持ちが良く書けている。やがてそれぞれが若者になって、根っこではつながりを持つが、詮ないことに独立しバラバラになっていく。

一人の少女が性の目覚めていく過程が、ゆっくり明るく描かれている。
「学問」というタイトルは、学校や書物で教えてもらう「性」ではなく、生きてゆくなかで、身体で学んでいくことも「学問」だといいたいのだろうか。



山田 詠美
1959年 東京生まれ。明治大学文学部中退。
1985年「ベッドタイムアイズ」(文藝賞受賞)で衝撃的デビュー。
1987年 『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞
1989年 『風葬の教室』で平林たい子賞
1991年 『トラッシュ』で女流文学賞
1996年 『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞
2001年 『A2Z』で読売文学賞
2005年 『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞を受賞


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東直己『旧友は春に帰る』を読む

2012年12月22日 | 読書2

東直己『ススキノ探偵シリーズ 旧友は春に帰る』(ハヤカワ文庫JA1042、2011年8月早川書房発行)を読んだ。

裏表紙にはこうある。
「・・・ただ、お願い。助けて」突然送られてきたモンローからのメッセージは、<俺>の眠気を覚ますのに充分なものだった。どうしても事情を話そうとしない彼女を夕張のホテルから助け出し、無事に本州へと逃がしてやった直後から、<俺>の周りを怪しげな輩がうろつき始める。正体不明のトラブルに巻き込まれ、地元やくざに追われるはめになった<俺>は、ひとり調査を開始するが・・・旧友との再会、そして別れが哀切を誘う感動作。


ススキノ探偵シリーズの第10作。初出:2009年11月単行本で刊行

久しぶりに読んだハードボイルド。お定まりの文句にやはり「いいな!」を付ける。

「車は運転しない。ケータイは持たない。クレジットカードは持たない。どんどん世界が狭くなるわね」
と言われてしまう<俺>


モンローを置いて逃げたほうがよいとアンジェラに勧められて、
「わかってるが、今は、それはナシだ」
「長生きするわね。・・・長生きできないわよ」
「別に、長生きするために、生きているわけじゃない」


モンローが捨てていく服を選んでいて
これ以上の選択は「とても、不可能。ゴーンさんだって、無理」



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

10作も続くシリーズものなので、久しぶりに登場する人もいるようで、続けて読んでいる人は懐かしく、より楽しめるだろう。私はこの著者の本ははじめて読んだのだが、支障なく楽しめた。
手練ぎみだが登場人物が魅力あり、次々展開していく話に引き込まれる。ただし、文庫本569頁は長く、最後の20頁であっさり決着がつき、納得はするが、意外なあっさり感が。



東直己(あすま・なおみ)
1956年札幌生まれ。北海道大学文学部哲学科中退。
北の歓楽街ススキノでその日暮らしの一方、家庭教師、土木作業員、ポスター貼り、カラオケ外勤、タウン誌編集者などの職業を経て、
1992年『探偵はバーにいる』で作家デビュー
2001年には『残光』で日本推理作家協会賞の“長編および短編集部門”賞を受賞



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アヴィドル・ダガン『宮廷の道化師たち』を読む

2012年12月20日 | 読書2
アヴィドル・ダガン著、千野栄一・姫野悦子訳『宮廷の道化師たち』を読んだ。

ナチ強制収容所の司令官コールの「宮廷」で、道化師を演じることによって処刑を免れた4人のユダヤ人たち、語り手の「背骨が曲がった」私、小人、占星術師、曲芸師(ジャグラー)の4人の物語である。
毛髪の不自由な私は、「せ◯し」という言葉を避けさせていただきました)

曲芸師ヴァーンは、自分の妻を殺した男を見つけ出して殺すために生きのびて、アルゼンチンにたどり着き、・・・。
なにより非人道的残忍さについて証言をしたいとなんとか生き抜いた私は戦後イスラエルに行き、占星術師マックに再会する。
さらに、腕に刺青された番号からヴァーンにも再会するが、そのとき彼は・・・。

果たして、我々は皆、この地上で宮廷道化師に過ぎず、我々の生死を司る全能者によって単にその慰みのために生かされているだけなのだろか? その疑問を取り除くことはできませんでした。
ちょうど権力を握る司令官コールが我々を生かしつづけたように?

本の最後の方で、家の裏庭を眺めていた私はふと気がつく。

けれども私にはこの瞬間、一つのことがはっきりしたのです。こんなにも多くの、えも言われぬ美しさが、目的もなく創られているわけがないということを。こうしたあらゆる美に驚嘆し、見とれて立ち尽くすことが許されている者たちが、それを創造した者の気晴らしのためだけに創られたとは考えられません。




私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

きちんと書かれており、哲学的テーマも筋が通っている。しかし、変なところに引っかかる私の思いがあって、ズレタまま終わってしまった。

前半はいかにユダヤ人がナチスから残忍な仕打ちを受けたかが述べられる。既にこの部分で私はウンザリしてしまう。私はこの種の話に距離を置きたい。なぜなら、今イスラエルがパレスチナをゲット-化し、領土を犯し続けているからだ。被迫害者がいまや防衛の名のもとに迫害者になっている。ヴァーンがアラブ人のテロによって負傷する場面がもっともらしく描かれるのにも反発するだけだ。



以下の著者の経歴は、ナチスの迫害からは早めに逃れているのだが、波乱に満ちている。
アヴィグドル・ダガン Avidor Dagan
1912年チェコのユダヤ人の家に生まれる。
1933年フィシェルの名で詩人として活動を始める。
1938年プラハのカレル大学法学博士。
1939年イギリスに亡命、チェコ亡命政権で働く。
戦後、プラハの外務省報道担当官となる。
1948年共産党クーデターで独裁政権となり、1949年イスラエルに出国。
チェコでは著作は発禁となる。
イスラエル国籍をとり、アヴィグドル・ダガンの名となる。
1955年以後はイスラエルの外交官として、日本でも臨時大使を務める。
1977年退職し作家活動に専念。
1982年本書のヘブライ語訳が出版(チェコ語の原書はビロード革命の翌年1990年出版)
1990年に発表された本書は今、チェコで最も読まれている。


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綿矢りさ『ひらいて』を読む

2012年12月17日 | 読書2

綿矢りさ著『ひらいて』(2012年7月新潮社発行)を読んだ。

華やかで高慢な女子高生の”愛”が、”たとえ”という変な名の寡黙で地味な男子を好きになる。彼は前から同じ中学の美雪と付き合っていることがわかる。愛は間を裂こうと美雪に近づくが、・・・。傷つけて、傷ついて、あらぬ方向に進んでいく。

中ほどまでは、高校生の片思いで、内面の微妙な心理が巧みに描かれ、文章も練られている。綿矢さん、変わってないなと思ったら、なんと、・・・
従来の軽やかなタッチの作品にくらべ、途中からは愛憎渦巻き、暴走する。それでも、最後は、心をひらくことこそ、生きているあかしなのだと終わる。

初出:「新潮」2012年5月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

新しい綿矢さんのはじまりか?
綿矢さんの良い所は、若者の微妙な心理描写、丁寧に紡いだ文章だと思うが、今回は従来のちょっとした意地悪に加えて、暴力的な荒々しいストーリー(綿矢さんにしては)が加わった。美人に甘いおじいさんの評価でした。

丁寧に文を紡いでいく綿矢さんらしい出だし。
彼の瞳。
凝縮された哀しみが、目の奥で結晶化されて、微笑むときでさえ宿っている。本人は気づいていない。光の散る笑み、静かに降る雨、庇の薄暗い影。


素直なお嬢様と思っていたが、やはり作家。こんな記述があった。
番組のアナウンサーたちは、日本中からかき集めてきた異常犯罪を息せき切って、うれしげに報道する。コメンテーターは一方的に意見を述べ、わずか数秒で審判を下す。・・・この国はどんどんおかしくなりつつあると首をふる。・・・続報はあるようでまったくない、その場かぎりの採点システム。はい、では次のニュース。


ベッドシーンがなかった綿矢さんだが、ついに登場したと思ったら、なんと・・・で、びっくり。でも、お嬢様作家と思っていた村山由佳が、やたらと濃厚なベッドシーン連続の『ダブルファンタジー』で急展開したのに比べると、おじいさんは救われた。



綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える
2010年、『 勝手にふるえてろ
2012年『 かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞。



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渡辺淳一『老いかたレッスン』を読む

2012年12月15日 | 読書2
渡辺淳一著『老いかたレッスン』(2012年10月新潮社発行)を読んだ。

定年後、老後を積極的に生きるための渡辺淳一の主張。 居場所、行き先がない定年後、体力が衰える老後を、前向きに生きる。そのため、「自分史を書いてみる」「恋をする」「選り好みしないで、まず彼女をつくる」など、新鮮な老後を自ら活動して創り出そうと呼びかける。

「第一部 定年後はどこへ」
医者でもある渡辺さんも、転んで初めて意識と身体のずれを実感した。
それにしても、人間とは面白い生きものである。この世に生まれ、成長し、体力を増し、強くなる過程が二十五年なのに対して、力が衰え、弱くなる過程がその倍以上あるとは。


「第二部 F君の退職」
F君の退職後を具体的に描く。やることがなくなる、行くところがない、年賀状・お歳暮が激減するなど。いまや退職者はだれでもあらかじめ覚悟しているだろう。

「第三部 新鮮な老後を」
「ちょっとお茶でも飲もうか」など付き合ってくれる程度の彼女が必要。具体的おすすめは、女性が多い華道、茶道を習うこと。
自分のために、自分史を書くのも良い。本にするためでなく、書きたいようにただ書けば良いのだ。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

書いてあることは今や世の常識で、皆に苦笑されていることだ。渡辺さんらしいのは、「70歳を超えて明るく前向きに生きていくには、恋をすることだ。自由で軽薄なおじさまになり、邪念で若返り、元気になるのだ」という話ぐらいだろう。

とくに、「第二部 F君の退職」の92頁分は退屈だし、嫌なことをわざわざ読みたくない。退職者の無聊、寂しさは、経験者ならだれでもわかりすぎている。
私の場合は、このブログもそうだが、時間つぶしや趣味はいろいろできるのだが、社会とのつながりを感じられないのが物足りない。もはやボランティアもルーチンワーク化しているし。



渡辺淳一
1933年北海道生れ。札幌医科大学医学部卒後、母校の整形外科講師のかたわら小説執筆。
1970年『光と影』で直木賞
1980年『遠き落日』『長崎ロシア遊女館』で吉川英治文学書
その他、『失楽園』『あとの祭り 親友はいますか』『鈍感力』『熟年革命』など。






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安田知代『井の頭公園まるごとガイドブック』を読む

2012年12月13日 | 読書2
安田知代著『井の頭公園まるごとガイドブック』(2008年5月ぶんしん出版発行)を読んだ。

今日も手近な井の頭公園ネタですんまへん。

吉祥寺駅から数分にあり、西園など東京ドームの8倍の広さがあり、意外と奥深い井の頭公園を紹介する本だ。2011年に百周年を迎える井の頭公園を、歴史、戦前の写真、知られざる過去、豆知識などで幅広く、深く井の頭公園の魅力を伝える。

安田知代(やすだ ともよ)
1964年生まれ。月刊誌、絵本などの企画・編集・執筆。
地域の本として『みたか再発見の旅』、『懐かしの吉祥寺 昭和29・40年』を編集・執筆。生態系と人間の営みが調和する社会をめざす「合同会社++」共同代表。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

井の頭公園へときどき、あるいはしょっちゅう行く人にはお勧め。細かい点で再発見がある。散歩する方はいつもよりいま一歩足を伸ばしたらいかが。

井の頭自然文化園や三鷹の森ジブリ美術館は入ったことありますか?
神田川の源流、三角広場、御殿山、西園まで足を伸ばしたことありますか?
江戸時代の公園の歴史、今も残る石碑、戦前の公園の写真などご覧になったことありますか?

いのけん」受験には必須な本だと思います。


<目次>

井の頭公園マップ
いろんな道から行ってみよう

井の頭池・弁財天

(井の頭池・周辺 井の頭池マップ 公園内にあるお店 歴史散歩*井の頭池 井の頭弁財天 弁財天マップ 歴史散歩*弁財天)

井の頭池周辺 神田川・御殿山・西園

(神田川・三角広場 神田川・三角広場マップ 歴史散歩*神田川 御殿山・西園 御殿山・西園マップ)

井の頭自然文化園 本園・彫刻園・分園

(井の頭自然文化園・本園 本園マップ あちこち見てみよう! 井の頭自然文化園・彫刻園 井の頭自然文化園・分園 分園マップ 歴史散歩*自然文化園)

三鷹の森ジブリ美術館

(三鷹の森ジブリ美術館 三鷹の森ジブリ美術館マップ マンマユート*グッズ)

井の頭公園*四季のみどころ
井の頭 年表
参考文献

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ジャージ・コジンスキー『庭師 ただそこにいるだけの人』を読む

2012年12月10日 | 読書2
ジャージ・コジンスキー著、高橋啓訳『庭師 ただそこにいるだけの人』(2005年1月飛鳥新社発行)を読んだ。

原題は“BEING THERE”。1979年タイトル「チャンス」で映画化され主演のピーター・セラーズはオスカーをとり、作者は年間最優秀脚本賞を受賞した。本書は『預言者』というタイトルで1977年に角川から出版された。

孤児となったチャンスは大金持ちのオールドマン氏の家で育てられる。知能が低いと思われ、学校にも行かず、読み書きできない。オールドマン家の庭仕事と、あとはひたすらテレビを見ていて、外へは出なかった。

オールドマンが死んで、家から追い出され、外に出たところで車に挟まれる事故に遭う。助けられ、連れて行かれた家は、大統領と親交のある経済界の第一人者ランド氏だった。
自己の利益や頑なな主義を持つ政治家たちに、チャンスは唯一の知識である庭木について語るが、これが絶妙のたとえ話ととらえられて、評判となる。やがて、極めて有能な人物として、TV出演し、世界的に有名になる。各国情報機関もチャンスの素性を調べるが白紙透明で何も出てこない。

チャンスは、外見が整い、オールドマンの上等な服を着ていて、物怖じしない態度だったので(チャンスの話しぶりは、いつも見ていたTV司会者や解説者に似てしまった)、単に庭の話が寓意的な表現であると信じられてしまったのだ。



私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

大人のための童話?と思っても、あまりにもご都合主義の展開には鼻白む。
ランド夫人やランド氏が素性のわからない男を自宅に滞在させるだろうか? 米大統領や各国大使が過去のない男を信用するだろうか? 抽象的なたとえ話しかしない男の話がそんなに評判になるだろうか? 否定的にとれば、とてもついていけない話だ。

しかし、以下の著者の経歴を見ると、著者自身に寓話が実在するような気もしてくる。

ジャージ・コジンスキー Jerzy Kosinski
1933年ポーランド生れ。第2次大戦勃発時、ナチスのポーランド侵攻によって、亡命ユダヤ人の両親と別れ浮浪児となる。このときのトラウマによって、5年間、口がきけなくなった。戦後、両親と再会し、ポーランド科学アカデミー助教授となる。
1957年無一文で米国に亡命。いくつものアルバイトをしながら、辞書と格闘しながら英米文学古典を読み、一日に4本の映画を見て猛勉強。
1960年にコロンビア大学在学中に作家デビュー。
1962年ナショナル・スティール創立者の未亡人と結婚し、上流社会へ。
1965年『The Painted Bird』(『異端の鳥』『ペインティド・バード』)
1969年『Steps』(『異境』)で全米図書賞・小説部門
1971年本書『Being There』(『預言者』『庭師 ただそこにいるだけの人』)
1991年、57歳で、自宅で自殺。
CIAとの関係、多くの作品がゴーストライターによるものなどと報じられた。
「訳者あとがき」にあるように、口がきけない、米国で英語が喋れないという経験が本書の「そこにいるだけ」に反映されているのだろう。

高橋啓
1953年北海道生れ。早稲田大学文学部卒後、出版社勤務。
1980年アルジェリアでプラント建設の通訳者兼コーディネーター。
ビジネス文書翻訳をしながら、仏文翻訳活動。近年英文翻訳も。


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スティーグ・ラーソン『ミレニアム 1 上下』を読む

2012年12月07日 | 読書2

著者:スティーグ・ラーソン、訳者:ヘレンハルメ美穂、岩澤雅利 『ミレニアム 1 ドラゴン・タトゥーの女 上下 』ハヤカワ・ミステリー文庫HM381-1、-2、2011年9月早川書房発行、を読んだ。

好きな作家の本だけ読んでいるとどんどん範囲が狭くなってしまう。常に手を広げるようにしていて、従来あまり読まないミステリーも少しずつ読もうと思っている。
「最近のミステリーの本場はスウェーデンで、なかでもミレニアムは最高だ」という評を読んで飛びついたのがこの本だ。
「ドラゴン・タトゥーの女」「火と戯れる女」「眠れる女と狂卓の騎士」の三部作で全世界で6千万部の大ベストセラー。

ジャーナリストであったラーソンがパートナーの女性エヴァ・ガブリエルソンと執筆した処女小説で、彼は出版前に亡くなった。



実業家・ヴェンネルストレムの不正を報道した、雑誌『ミレニアム』の発行責任者のミカエル・ブルムクヴィスト。だが、名誉毀損の有罪判決を下され、一旦『ミレニアム』から離れることを決める。それでもミカエルは、ヴェンネルストレムの違法行為を確信していた。

時を同じくして、大企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルが、弁護士フルーデを通じて、ミカエルの身元調査を依頼していた。調査を担当したのは、背中にドラゴンのタトゥーを入れた、少年と見紛うような小柄な女性、リスベット・サランデル。

リスベットの調査から、ミカエルを信用に足る人物だと判断したヘンリックは、ミカエルにある仕事を依頼する。それは、36年前に一族が住む島から忽然と姿を消した少女ハリエット・ヴァンゲルの失踪事件の調査だった。ヘンリックは36年経った今も尚この事件に頭を悩まされ続け、一族の誰かがハリエットを殺したのだと信じきっていた。法外な報酬と、事件の謎を解決すれば、ヴェンネルストレムを破滅させることもできる証拠を与えるという条件から、ミカエルは、この如何にも難解そうな依頼を引き受ける。


訳者あとがきより
著者は、第三部を書き上げ、第四部の執筆を開始したところで、第一部の発売を待つことなく心筋梗塞で死去した。パソコンには第四部の原稿が200頁ほど残っていたという。

初出:原著は2005年発行、日本では2008年12月に単行本として刊行された。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

第一部は、文庫本上下で850頁と大作。しかし、誠実なジャーナリストと、大実業家や、狂信的、個性的な金持ち一族の人々とのせめぎあいに引きこまれ、一気に読んだ。

何と言っても魅力的なのがドラゴン・タトゥーの女リスベット・サランデルだ。
髪は極端に短く、鼻と眉にピアスをつけ、拒食症かとおもうほどにやせた青白い肌で身長150cmほどの娘。首、二の腕、足首のまわりにタツゥー、さらに肩甲骨に大きなドラゴンのタツゥーを入れている。生い立ちのためだろうか、権威をまったく信用しない。一瞬見ただけで複雑な文、画像、仕組みを理解し覚えてしまい、優れたハッカーで、調査能力は天才的だ。

もちろん、欠点もある。謎自体は結局それほどのものでもない。名前がわかりにくい。上下巻で50名ほどの人が登場する。そして、その名前がミカエル・ブルムクヴィストやハンス=エリック・ヴェンネルストレムなどというのだから苦労する。

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11月末の井の頭公園を歩く

2012年12月05日 | 日記

野外ステージの前に「顔面紙芝居」の小屋が。



いつもの井の頭池。



西側の御茶ノ水池。



弁天池



今日も黒門へ。



傍らに、行儀よく3本揃えて並んだ煙突。



黒門と書いたプランタンが。



三鷹市指定文化財
 「道しるべ」
種別   重宝
年代   延享2年(1745)・天明4年(1784)改建
指定年月 昭和53年(1978)5月8日
所在地  三鷹市井の頭4-21-1
「井の頭池の水の恵みを受けた江戸町民の厚い信仰によって弁天信仰は盛んとなり、参詣人の絶えることがなかった。そのため石の道標が各所に建てられた。江戸の人々はそれを頼りに甲州街道から高井戸、久我山を通って井の頭弁財天に参詣した、この道しるべは、神田上水配水区域の人々の寄進による。台石には芝居、浄瑠璃等の関係者の名前も刻まれており、当時の演劇界の華やかさがうかがえる。
平成5年(1993)年10月31日    三鷹市教育委員会」



井の頭公園通りを突っ切って、住宅街の細道を行くと、第二公園がある。



ただの雑木林の中の小さな公園だが、のんびりできる。



第二公園の出口で看板地図の写真をパチリ。



玉川上水を幸橋で渡る。



すぐ右に折れて、玉川上水べりを北へ行き、小鳥の森の覗き口へ。



塀の窓からキョロキョロしたが、小鳥の影も、声もなし。それでも望遠鏡にカメラをセットしてラジオを聞きながら頑張るおじいさんが一人。



西園のアスレチックには腰を伸ばすおじいさんが数人。



陸上競技場ではサッカーが。



西園を出て吉祥寺通りを駅へ。井の頭通りに近づいたところで「八十八夜」という店でランチ。



それほど人通りの多いところでなく、2階なのに、店内には20名を超える人が。何故か黒2点。スタッフ数名も全員女性。「天然オーク家具とモダンデザイン」「野菜カフェ&レストラン」「からだにやさしい」という謳い文句に女性はひかれるのだろう。
奥様が注文したランチプレートはこちらで



私めは肉が少々あるこちら



いずれもご飯の量が少なく若い男性には物足りないだろう。
帰宅したらよく出来ました! 11,000歩!
しかし、331kcalでホットドッグ1個で、ランチでお釣りが来た。


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『すずちゃんの鎌倉散歩』を読む

2012年12月03日 | 読書2

吉田秋生監修、海街オクトパス著『すずちゃんの鎌倉散歩』(2008年10月小学館発行)を読んだ。

吉田秋生の漫画『海街diary』と『ラヴァーズ・キス』の舞台となった鎌倉のガイドブック。両作品に登場する舞台が、写真と漫画、簡単な文で説明され、有名ショップの紹介などもある。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

鎌倉の名所は一応紹介されているので、ガイドブックとしても使えるが、各々の場所の詳しい説明まではない。『ラヴァーズ・キス』より、やはり何と言っても『海街diary』ファンに人には喜ばれるだろう。

鎌倉にはおそらく10回以上行っている私は、『海街diary』を読んでいてたいていの場所が目に浮かんだが、御霊神社など知らないところがあるのも分かった。
また、例えば、裕也をめぐってすずと美帆が話し合う桜橋の写真とまったく同一の漫画の絵が並んで載っているのはフムフムと思える。ほとんどの漫画の風景は、実写そのものだとわかる。



吉田秋生(よしだ・あきみ)
1956年東京生れ。武蔵野美術大学卒。
1977年『ちょっと不思議な下宿人』でデビュー
1983年『河よりも長くゆるやかに』及び「吉祥天女」で小学館漫画賞受賞
2001年『YASHA-夜叉-』で小学館漫画賞受賞
2007年『海街diary
現在東京在住で、たびたび鎌倉を訪れているが、幼少期を鎌倉で過ごしたという。

海街オクトパス
『海街diary』大好きチーム(10名)


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吉田秋生『海街diary 1~4 』を読む

2012年12月02日 | 読書2
吉田秋生著『海街diary1 ?時雨やむ頃、2 真昼の月、3 陽のあたる坂道、4 帰れないふたり』(2007年5月、2008年10月、2010年10月、2011年8月、小学館発行)を読んだ。

このブログ初(?)の漫画だ。

香田三姉妹の父は、幼い頃に愛人が出来て鎌倉の家を出て行く。散々泣いていた母もやがて三姉妹を置いて男と出ていった。成人し3人で暮らす彼女らに出て行ったままの父の訃報が届く。15年以上会っていない父の死を特に何とも思えない次女・佳乃や、三女・千佳は、長女・幸の頼みで葬式に出るため山形へ行き、駅で年の割にしっかりした中学生の異母妹、浅野すずに出会う。既に母も亡くしていたすずは父の再々婚相手の家族と暮らしていた。
長女幸は夜勤明けだったが、葬式に出席し、その帰り、実情を見ぬいた幸は、すずに亡父の世話をしてくれたことに感謝する。すずは感情を抑えきれず、号泣する。幸はそんなすずに一緒に暮らそうと言い出し、すずはその場で承諾する。

こうして、幸、佳乃、千佳とすずの鎌倉の古い一軒家での生活が始まり、それぞれの恋が・・・。

文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。

『月刊flowers』(小学館)に不定期に連載されている。もうそろそろ第5巻が出ると思うのだが。
同じ鎌倉を舞台にした、本作品の前編に対応する同じ著者の作品に『ラヴァーズ・キス』がある。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

普段漫画はどうもと言う人にもお勧め。ギャグはほとんどなく、ストーリー性の強い漫画だ。キャラも立っていて、姉妹の絡みも決まっている。1巻、2巻と読めば、どうしても続きが読みたくなる。

男勝りのたくましい坂下美帆の、断られるの必至の告白も良いが、風太のドキドキでガチガチになったすずへのちょっとした対応も微笑ましい。



吉田秋生(よしだ・あきみ)
1956年東京生れ。武蔵野美術大学卒。
1977年「ちょっと不思議な下宿人」でデビュー
1983年「河よりも長くゆるやかに」及び「吉祥天女」で小学館漫画賞受賞
2001年「YASHA-夜叉-」で小学館漫画賞受賞
『無敵のライセンス 青春サバイバル・マニュアル Comic pass』に著者写真が載っていたが・・・。



長女 幸:看護師で、母親がわりで妹達のしつけにもうるさく、怖がられている。時々爆発する。しっかりものの幸の恋は・・・。
次女 佳乃:地元信金勤務。大酒飲みで、恋の狩人。長姉の幸としょっちゅう衝突する。
三女 千佳:スポーツ用品店勤務。浜田店長と同じアフロヘアー。
四女 浅野すず:継母のもとで自分をしっかり抑えていた。サッカーの名手。
尾崎風太:すずと同じサッカーチームで主将。家は酒店で大家族。
多田裕也:サッカーチームのエースだったが、右足の膝から下を切断し、義足。
坂下美帆:サッカーチームのゴールキーパー。腰越漁港の漁師の家の4人兄妹の末っ子。
藤井朋章:高校生で佳乃の恋人。別本の『ラヴァーズ・キス』の主人公の一人。
井上泰之:市民病院のリハビリ科の理学療法士。サッカーチームの監督で通称ヤス。
尾崎光良:尾崎酒店の3代目店主。妹は尾崎美樹(『ラヴァーズ・キス』)、弟は尾崎風太。職業柄、藤井家に出入りがある関係で藤井朋章とも個人的に親しい。尾崎酒店のサイトで椎名和也:市民病院の小児科医。多田裕也の主治医。精神を病んだ妻と別居中。



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