森浩美著『家族の言い訳』(双葉文庫も-12-01、2008年12月14日双葉社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
家族に悩まされ、家族に助けられる。誰の人生だってたくさん痛み、苦しみ、そして喜びに溢れている――。作詞家・森浩美がその筆才を小説に振るい、リアルな設定の上に「大人の純粋さ」を浮かび上がらせた。「ホタルの熱」「おかあちゃんの口紅」はラジオドラマや入試問題にもなった出色の感動作。あなたの中の「いい人」にきっと出会える、まっすぐな人生小説をお届けします。
8編の短編集。
「ホタルの熱」
夫が失踪し、お金もなく、追い詰められた和香子と6歳の息子・駿。体が弱い駿は、この日も旅の途中で発熱してしまう。困る親の姿を見続けた駿は「ママ、ごめんね」と繰り返す。覚悟を決めて電車に乗ったはずなのに、……どうせもっと“遠い場所”へ連れて行ってしまうつもりだったのに……。
親切な民宿の女将さんに助けられ、布団に寝かされた駿は和香子にしがみついた。
「乾いた声でも」
桐原由季子の夫は、家庭を顧みない会社人間だったが、社内紛争に巻き込まれ、リストラ役の辛い仕事に異動させられ、遅くまで仕事中の会社で倒れた。一緒に働いていた部下の藤崎が病院で夫を看取ったのだ。由季子が20代後半の美人の藤崎に会うと、彼女は「あの、奥様……私のこと疑っていらっしゃいますね」という。
夫の先輩の武井が言った。「よく夫婦を戦友に例える人がいるでしょう。僕はちょっと違う意見なんだな。妻は一緒に戦ってくれなくてもいいんです、戦いは僕がしますから。だからその代わりにせめて味方でいてほしいんですよ」
「星空への寄り道」
会社を潰し後始末に苦労する島本は、深夜ようやく捕まえたタクシーの運転手から、女子高生だった娘・有美子が友達の家でタバコを吸って火事を出し、幼い子供が死んでしまい、自殺した。葬儀の晩、妻が「お父さん、有美子は星になったんですよね」と星空を見上げながらおいおい泣き通した。
「カレーの匂い」
檜山舞子は休刊が危ぶまれる30代独身女性向けの雑誌の副編集長。部下に厳しく、小さなミスを一つでも見つけると、そこを集中的に突くということで、“キツツキ”と陰口を叩かれている。母は「本当に賢い女は負けてあげられる余裕を持っているの」という。舞子は田辺と不倫しているが……。
「柿の代わり」
女子高の教師が結婚1年半の妻から離婚したいと言われ、万引き先から助け出した生徒には舐められる。
「おかあちゃんの口紅」
貴志は田舎の母の検査結果を聞きに久しぶりに妻・靖子と帰郷する。母の病気は……。金銭的に余裕ができた貴志が母に何をあげてももったいないと使わずにしまい込むだけで、イライラさせられていた。子供の頃、瓶集めで貯めたお金で、授業参観に来る母に口紅を買ったことがあった。
「イブのクレヨン」
正洋は5歳の誕生日でクリスマスに母・冨美子にクレヨンを買ってもらい、母の似顔絵ばかり毎日描いていた。祖父母の家に行って、朝、目が覚めると母はいなくなっていて、大切なクレヨンも行方不明になった。母はそれ以来音信不通だ。今はイラストライターをしながら、妻・里香子の連れ子のエリカと仲良く暮らしている。今年のイブのプレゼントはクレヨンだった。包装紙の中からクレヨンの箱が現れた瞬間、手だけでなく身体からすべての動きが失われた。……。
「粉雪のキャッチボール」
10年前、北軽井沢のホテルの支配人になった父は一人で赴任した。65歳の誕生日に退職し、息子の私に頼みがあるとの手紙が届いた。ホテルの従業員の中村は「父は子煩悩で、キャッチボールは親子の基本だとか言い張って……」と云い、私も「あるよ、一度だけ」と答えた。
この作品は2006年3月双葉社より刊行。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)
ともかく泣ける。お母さんはもちろん、涙もろくなったお爺さんも。どうせ読むのなら、手練れの作者の仕掛けに乗って、そうだったのかと驚いて、泣いて、楽しみましょう。
母子心中しようとした身体の弱い子供に、「ボクさ、……今度……生まれてくるときは元気な子に生まれてくるから……そうしたらまた……ママがボクを産んでくれる?」と言われたら貴女は………。
「おかあちゃんの口紅」も、「イブのクレヨン」も、良い、できた奥さんですね。まるで……。