木原音瀬(このはら・なりせ)著『箱の中』(講談社文庫2012年9月14日発行)を読んだ。
ノベルス版『箱の中』とノベルス版『檻の外』をまとめて文庫化。
「箱の中」
堂野崇文は電車内で痴漢と間違われて逮捕されるが、冤罪を訴え最高裁まで争ったため、実刑判決を受け刑務所に入れられる。
殺人犯、詐欺犯など癖の強い男たちと一緒で、ふさぎ込んでしまった堂野は、「自分も冤罪だ」という三橋に心を開くが、あっけなく裏切られる。あまりにも厳しい雑居房での生活の中で精神的に追い詰められてしまった草野は、同室の寡黙な男・喜多川圭の献身的な世話に心を許し始める。だが、子供のように純真な喜多川と距離を置くことができず、そのあからさまで強すぎる好意に堂野はとまどう。
喜多川に数か月先んじて、連絡先を伝えないまま、堂野は先に出所する。
「脆弱な詐欺師」(書き下ろし)
「箱の中」から出た喜多川は、探偵事務所に勤めるさえない探偵大江に、手掛かりがほとんどない人探しの依頼をする。大江は成果が出ないだろう依頼を一度は断るのだが、喜多川は決して諦めず、ただひたすら探してくれと縋ってくる。喜多川は大江に払う費用を捻出するため、食うや食わずの生活をしていた。
事務所を通さず直接金だけ受け取って、いい加減な調査をしていた大江は、痴漢冤罪を扱ったHPを見て糸口を発見する。
「檻の外」
堂野と喜多川は6年ぶりに再会する。しかしすでに堂野には妻・麻理子も、娘・穂花(ほのか)もいた。堂野は、時間が止まったままの喜多川にも真っ当な人生を歩んでほしいと願うが、喜多川の執着は相変わらずだった。すぐ近所に越してきた喜多川を放っておくことができず堂野は自宅に誘う。
喜多川は度々家を訪れるようになり、娘の穂花と仲良くなる。そこで事件が起こる。
本書は、2006年3月刊行のノベルス版『箱の中』と同年5月刊行のノベルス版『檻の外』をまとめた。
木原音瀬(このはら・なりせ)
不器用でもどかしい恋愛心情を生々しく鮮やかに描き、BL(ボーイズラブ)の世界で不動の人気を持つ。
高知県の海沿い出身。
1995年『眠る兎』でデビュー。
代表作『美しいこと』
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
BLファンで知られる「三浦しをん」の解説によれば、「BL」とは「主に女性作者が、主に女性の読者に向けて書いた、男性同士の恋愛物語」だそうだ。
木原さんは、本作品が一般文庫への初めての登場となるようだが、私も本作品がBL初体験だ
体験前、私は、「何で、ゲイの話を女性が書いて、一部とはいえ女性が喜んで読むのか」違和感があった。
体験後、やはり理解できない。
無理に考えてみれば、いまや、恋愛をより純粋な形で読めるのがBLということになるのだろうか。
BLの世界は幅広いそうだから、一作品だけで結論づけてはいけないが、昔は恋愛の超えるべきバリアーが、家柄、親の反対などいろいろあったが、今は同性愛しか強烈な世間の壁はないから、より純粋に見えるという面はあるのだろう。
それにしても、同じく世間の壁が高いレズについての小説は、女性に人気とは聞かない。アナロジーで言えば、「男性作者が男性読者に向けて書いた、女性同士の恋愛物語」は男性に人気となるかのように思うが、無理! そもそも、男性は純粋恋愛に興味を持たない。
小説としての感想を言えば、今一つ。
文章は読みやすいものの、登場人物のキャラクターも特に興味深く描かれていないし、分厚い割にはドラマチックな展開もない。喜多川の、その育ちからくる純粋、無知な性格も、珍しい設定ではあるが、私にとって興味ある存在ではない。
確かに、普通の(?)人が無償の純粋の愛を受けて、BLに陥る(目覚める)所は自然で良く書けているのだが、小説としての幅も深味もない。やはり、「BL小説」なのだ。
罪、あるいは冤罪については、主テーマではないものの、触れることが少なく、そんなものなのかと疑問が残る。特に、堂野は冤罪であり、その恨みは一生を支配しかねないと思うのだが。前科を持ったものに対する世間の冷たい目も全く感じられない。
また、最後の事件に対する心への打撃もするりと抜けてしまっているように見える。
BLがすべての小説なのだろう。
(禁断の領域、BLに踏み込んで、年甲斐もなく熱くなってしまった。なにかおかしい!!??)