裏表紙にはこうある。
マロイの一途な愛は成就するのか? 村上春樹の新訳で贈る、チャンドラーの傑作長編。『さらば愛しき女よ』改題。
村上春樹の「訳者あとがき」から引用する。だいぶ長くなるが、これでこの本の素晴らしさの紹介は充分だろう。
もうひとつ、人物の描き方の鮮やかさも、この小説の魅力のひとつである。とくに脇役がいい。・・・
(風景も、臭いも、音も)直接感知できそうなありありとした描写である。・・・
チャンドラーくらい訳していて楽しい作家はいない。ひとつひとつの家屋や、ひとつひとつの敷石が意味を持った街路を歩いていくようなもので、何度往復しても興趣が尽きることはない。・・・
チャンドラーの小説のある人生と、チャンドラーの小説のない人生とでは、確実にいろんなものごとが変わってくるはずだ。そう思いませんか?
本書は早川書房から2009年に単行本として刊行された作品を文庫化したものだ。
レイモンド・チャンドラー Raymond Chandler
1888年シカゴ生れ。
1933年短編「ゆすり屋は撃たない」で作家デビュー
1939年『おおいなる眠り』
1953年『長いお別れ(ロング・グッドバイ)』でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長編賞
1959年70歳で没
私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)
ハードボイルドのファンはもちろん、ハードボイルドはちょっとと言う人も必読だ。私も数年前と数十年前に、以前の翻訳で読んだが、多分翻訳の違いだろう、今回が一番情景が詳細な点まで浮かび上がったと思う。
村上春樹の訳はさすがに読みやすい。チャンドラーは風景などかなり細かく描写するので煩わしくなることもあるのだが、さらりと読めて、くっきりイメージできる。もともとのチャンドラーの良さを増幅してさえいるように思える。もっとも私は原文で読めるわけではないのだが。
ハードボイルド特有の皮肉でしゃれた会話はもちろん、個性的な人物、この時代のハリウッドや、サンタモニカがくっきりと浮かび上がる。意外などんでん返しも良くできていて、例え3回目でも「うむ、そうだった」と、驚かされる(これは単に記憶力の問題かも)。
村上春樹は、1949年京都市生まれ、まもなく西宮市へ。
1968年早稲田大学第一文学部入学
1971年高橋陽子と学生結婚
1974年喫茶で夜はバーの「ピーター・キャット」を開店。
1975年早稲田大学卒業
1979年『風の歌を聴け』で群像新人文学賞受賞、芥川賞候補
1980年『1973年のピンボール』、芥川賞候補
1981年店を譲り専業作家となる。
1982年翻訳集『マイロストシティー フィッツジェラルド作品集』、『羊をめぐる冒険』で野間文芸新人賞
1985年『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で谷崎潤一郎賞
1986年約3年間ヨーロッパ滞在
1987年『ノルウェイの森』
1988年『ダンス・ダンス・ダンス』
1991年米国のプリンストン大学客員研究員、客員講師、1993年タフツ大学へ
1992年『国境の南、太陽の西』
1996年『ねじまき鳥クロニクル』で読売文学賞
1997年『アンダーグラウンド』
1998年『約束された場所で―underground 2』で桑原武夫学芸賞
1999年『スプートニクの恋人』
2000年『神の子どもたちはみな踊る』
2002年『海辺のカフカ』
2004年『アフターダーク』
2006年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、世界幻想文学大賞
2007年朝日賞、早稲田大学坪内逍遥大賞受賞
2009年エルサレム賞、毎日出版文化賞を受賞。スペインゲイジュツ文学勲章受勲。
2009年-2010年『IQ84 BOOK1-3』
その他、『蛍・納屋を焼く・その他の短編』、『若い読者のための短編小説案内』『めくらやなぎと眠る女』
『走ることについて語るときに僕の語ること 』
『夢をみるために毎朝僕は目覚めるのです』
訳書も多数あり、レイモンド・チャンドラーの翻訳としては、
2007年『ロング・グッドバイ』、2009年本書『さよなら、愛しい人』、2010年『リトル・シスター』